89、流れ流され
よくやくここまでたどり着けました。気付けばブックマークも550を越えており、ビックリしているやら嬉しいやらです^^
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俺はゆっくりと手を離すと、意識が再び覚醒するのを感じた。
神祖のこれまでの生きてきた記憶が鮮明に俺の頭の中に流れ込んできたのだった。
【なんで……なんでお前はそんなことを隠してたんだよ。】
俺は目の前の『脳』に語りかける。
【一時でも同化してたのに……そんな時ですら、俺にその気持ちを隠して――――】
【隠してたからって、何だっていうんだっ!!ちゃんと話したら、僕に同情したのにって!?喜んで身体を差し出して僕を死ねない苦しみから解放してくれたっていうのかっ!?ふざけるなよ?僕の事は誰も理解なんてできないんだよっ!!解るのかい?何千年も死ねずにいる苦しみを!次こそはって、送り出した異世界人が幸せそうに結婚して、子どもを産んで、死んでいくのを見るしかなかった僕の気持ちがっ!!】
神祖の激しい感情が俺にぶつかってくる。
【解らないよ。そんな膨大な時間にお前が晒されていた苦しみなんて……、想像もつかない。でも、同情される事の何がいけないんだ。自分の苦しみが解ってもらえないからって何なんだよ。お前がその気持ちをひた隠しにしてるからだろ。】
それでも、俺は心を鎮めて神祖へと語り掛ける。そして、さらに俺は続ける。
【お前はラクリアに復讐して、それでその後はどうしたかったんだよ。俺に丸投げするつもりだったのか?それとも、お前が俺の身体で苦しみながら神様続けるつもりだったのか?】
【バカ言うなよっ!!僕はこのラクリアを滅茶苦茶にして、全部投げ出すつもりだったよ。君にすべてを擦り付けるつもりだったんだよ。】
【そうか。それでお前が楽になるのなら、それもいいかもな。でも、ラクリアが目茶目茶にされるのは、困る。引き継ぐ者としては後処理が大変そうだからな。】
【何を……言ってる。そ、そうか。神という権威に目が眩んだんだね。あははは!!人間だものね。神の苦しみよりも、そっちの方が魅力的だよね。やっぱり。】
【そうかもな。でも、大変そうだってのもなんとなく解る。でも、お前がこれ以上辛いのなら、俺が変わってもいいくらいには思っている。】
【な、なんだよ……人間の癖に、神様である僕に同情なんかして……】
神祖はそれ以上の言葉は激しい感情の起伏によって聞き取れなくなった。俺は神祖から伸びた糸をそっと手放す。そして、神祖を受け入れる。『脳』は再び輝き出し、俺の胸にスーッと吸い込まれていった。
俺の中に様々な感情が駆け巡る。神祖の想いが手に取るように解った。それだけではない。ここにいるすべての者の感情が俺の中に入って来た。
心配そうに見つめるダイヤたち、ウェルを気遣うタカハシ、魔族であるゼゼルやルシフェル、そして、アイリやサフィーナ、シラユキ、そして、依然倒れたままのクロ子の感情も……
そして、それらは映像として俺の目の前に映される。いや、この場にいる者たちだけではなかった。エルドランのハウザー、エイラムの商人ウリリ、名も知らぬラクリアに生きる人々、動物、魔物、すべてが理解できていた。
これまで靄がかかっていた視界が一気に晴れたような清々しい気分だった。このラクリアの事象すべてが俺に優しく語り掛けてくる。
【どうだい?これが神の視点だよ。そして、神は君が想うほど万能でもない。】
穏やかな声で神祖が語り掛けてくる。どうやらラクリアへの憎悪はなくなったようだ。
【よく解らない。けど、ものすごく興奮してるはずなのに、嫌に冷静なのが違和感を感じるな。】
これが神の視点の弊害?ってことなんだろう。
俺は改めて、周囲を見回す。すると、戦場にいたすべての者が俺を見ていた。その表情は皆、すっきりとした憑き物の落ちたような顔をしている。
気付くと、アイリとサフィーナ、シラユキが俺の側に佇んでいた。シラユキは中型犬ほどの大きさになっていたが……
「ユウマさん、私……今まで何をしてたの?」
「たぶんだけど、よくない事をしてた気がする……」
《我もよく覚えておらぬのだ……》
うん、ちょっと残念な声が上がる。でも、それがどこかホッとさせる。
「大丈夫だ。もうすべて終わったからな。ちなみに、どこまで覚えてるんだ?サフィーナ」
「えと……ユウマが『神になるぞー!うははははー!』ってとこくらいかな。」
「いや、俺はそんな事言った覚えは一切ないが……ま、まぁ、神祖が俺に入り込む前までってことか。」
なら、この状況は混乱するだろう。魔族もいるし、みんな臨戦態勢だしな。
ここは何か俺が言った方がいいのか……でも、こんなの何を言えばいいんだか……
「えーと……皆、俺は大丈夫ですっ!!」
砂と石の荒野に俺の声が響く。
あれ?なんか、皆がノーリアクションだぞ……きちんと伝わってないのか?
「あー……ごほん。戦いは終わりましたっ!!それから、俺、ユウマ・アリムラがこの度、神格を得て、神になりました!!えー……皆さんには色々とご迷惑をお掛けしましたっ!!若輩者ですがっ!!これから神として頑張ってまいりますのでっ!!ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたしますっ!!」
いろいろと問題あるだろうが、言ってやった。言いきってやったぞ。
そして、予想通り、静寂が訪れる。しかし、しばらくすると笑い声が聞こえてきた。
「あははははは!!ひぃっ!ご指導ご鞭撻って!!いっひっひっ!!神に誰が指導するっていうんですかっ!!やっぱり貴方は面白い人だっ!!」
腹を抱えて爆笑していたのは、ルシフェル・ファルファレルロだった。ムッとしてアイリたちに助けを求めるが、アイリたちも苦笑いしている。やっぱり拙かったか。解ってたけどね。俺はアドリブが苦手なんだよ!!
「ファルファレルロ!!うるさい!!ユウマはあれでも天然なんだよ!!」
笑い転げる魔族をクロ子がフォローする。いや、全然フォローできてないし。
「クロ子っ!!俺は天然じゃねぇぞ!!何、久しぶりに口聞いたと思ったら俺をディスってくれてんだよ!!」
「誰がクロ子だよ!!いい加減覚えろ!!僕はクロウだっ!!バカっ!!」
うん、久しぶりのこのやり取りもなんだか安心するな。でも、なんでファルファレルロとクロ子が仲良さげなんだよ……
【ふふふ……クロウの中には僕、邪神アンラがいるからね。君の中に神祖がいるのと同じさ。まぁ、当分はクロウの中で眠るつもりだけどね。】
さいですか。地味に心読まれたよ。邪神に。
「あぁー、笑った笑った。まぁ、いいでしょう。我々魔族は再びラース大陸へと戻りましょうかね。これだけの上位魔族がいれば、色々と問題が起きそうですからね。また、陰で色々と悪巧みでもしておきましょうか。行きますよ!!」
ファルファレルロが声を上げると、魔族たちは一声に北東の空へと飛び立っていった。
魔族たちを見送るようにクロ子は、北東の空を見上げ、しばらく眺めている。そして、ようやくこちらへと視線を向ける。
「お帰り。クロ子。いや、俺の方が先にいなくなったから俺がただいまっていうほうが正しいのか?」
改めてこうして口にするのは気恥ずかしいものがあるな。
「本当だ!突然いなくなってみんなに迷惑かけてたんだからな!!」
うん、正論過ぎて何も言えん。
「でも、まぁ……その……ただいま。」
もじもじしながらクロ子が言う。なんだよ!!クロ子の癖に。見た目美少女だから、なんか変な感じになるじゃねぇか!!もしかして、俺ってそういうのに目覚めたのか?いやいやいや、断じて違う。
「クロウ!!お帰りっ!!」
元気な声とともに俺に背後から飛びついてきたのはサフィーナだった。そして、俺をよじ登り肩車のポジションにつこうとする。いや、お前、大きくなったから無理だからな。衆人環視の中、どんな羞恥プレイだよ!と、いうことでサフィーナを下ろす。ぶーぶー言ってるが知らん。
「クロウくん。良かった。本当に良かったね。」
涙目になったアイリはクロ子をそっと抱きしめている。クロ子は顔が赤くなってやがる。やっぱりアイリのわがままボディはクロ子には早かったんだろう。今日だけ特別に許してやろう。
《クロウ。またこうして皆が揃って嬉しく思うぞ。》
クロ子とアイリの足元に犬のようにシラユキが纏わりついている。元、守護竜の威厳は悲しいまでに消え去ってるな。尻尾でタシタシ地面を叩いて喜んでる姿は中型犬そのものだ。
でも、まぁ……なんかホッとしたな。やっとこの面子が揃ったしな。色々と立場とか種族とか変わった所もあるけど、俺の内面はまったく変わってないな。成長してないとも言えるけど……
振り返ると、皆がこっちを笑顔で見ていた。グランディアさん、ジャスリーンさん夫妻が、ラスタバンが、テトが、ウェルが、タカハシ、ダイヤ、ミソノ、ギル、ブブランが、他の人達も皆笑顔だった。
そして、俺たちも自然と笑顔になっていた。
色んなところからクスクスと笑い声が聞こえる。ぷぷっと吹き出す声も上がっている。
ん?なんか視線が俺だけを見てる気がする。マールなんかは腹を抱えて笑い堪えており、クシルは必至に笑いを堪えているのか凶悪な人相になってプルプルと震えている。
何かおかしい……視線が俺のやや上に……
ま、まさか……俺は神の視点をごく小規模に発動させ、第三者視点で俺たちの様子を俯瞰で眺めてみる。
うそ……だろ!?
俺は右手で自らの後頭部を撫でる。
なんてことだ!?
俺は勇気を持ってその手を自らの頭頂部へと移動させる。
あぁ……やっぱりか……
そう、俺の頭髪は一本も生えていなかった。恐らくファルファレルロもこの姿を見て爆笑していたんだろう……そして、俺の周りでクスクス笑ってる皆も……
髪は死んだ……
†
で、あれからどうやって現在に至るかはよく覚えていない。
いや、薄らと覚えているのは俺を見て笑った奴らに復讐をしようとして、アイリたちに説教を受けたことだろうか。
あ、今、俺の目の前で人間の夫婦が祈りを捧げている。
なになに? 〝子宝に恵まれますように……”
そうだな。期間限定で【精力増強】を与えればいいか。えーと、1カ月で効力が切れればヒットするだろう。
えーと、なんだっけ?あ、そうそう。今、俺がどうなっているかの説明をしておこう。
神祖が破壊したガラハド大森林帯の深奥部跡の砂漠地帯に1つの祠を作ってもらった。手を貸してもらったのはウェルと勇者タカハシだ。小さなもので大丈夫だと言ったのに、出来上がったものを見て唖然とした。それは神社だった。巨大な朱塗りの鳥居が遠くからでも、すごく目立つ。なんで鳥居が高さ30mなんだよ!!と最初は思っていたが、今ではこれもなかなかいいもんだと思っている。
タカハシ曰く、非常時はこの鳥居から地対空ミサイルが発射されるのだとか……。非常時ってなんだよ!完全に、お前の趣味だろうが!!まぁ、非常時を起こさない予定なので問題ないが。
そして、この神社を中心に1つの街が出来上がっている。街の名前は、言いたくない。誰だよ!!こんな名前をつけたのはっ!!完全に嫌がらせだろう。ミムラ辺りが嫌らしい笑みを浮かべているのが見える。うん、後で天罰を与えておこう。なんだよ!!ユウマーランドって!!ばったもんのアミューズメントパークかよっ!!
そうそう。今、俺はこの神社を中心に神様として働いている。もちろん給料なんかはない。でも、わざわざこの神社を訪れてくれる人には色々と力を与えている。【教育者】のスキルがこんな形で役立つとは思わなかったけどな。
あ、またお客さんだ。次は、小さい男の子だ。えーと……〝世界が平和でありますように……”か。
わざわざこんな所まで来て自分の事をお願いしないのも珍しいな。でも、その願いは俺だけじゃ叶えられないんだよな。
《ユウマさん。また、ラース大陸でファルファレルロが動きを見せてるよ。》
【了解、アイリ。この業務が終わったら、ラース大陸にクロ子と一緒に出向くわ。それまで、大変だけどアイリは、監視を続けといてくれ。】
《了解。それじゃ、ユウマもお仕事頑張ってね。》
そう。アイリたちがラクリア中を飛び回って、世界平和を守ってる。やってるのは正義の味方っぽい。ガラハドレンジャーではなく、ラクリアレンジャーってところか。それにメンバーは5人だけじゃないしな。
あ、そうだ。お願いに来た男の子に、加護をあげとこう。彼の周りの平和が守れるくらいの力を。
俺の眷属ってわけじゃないけど、この人は!って思う人にドンドン与えている。その人達が少しでもこの世界をよくしてくれればと思って。
神様視点で、色々な人を見守るのも悪くない。もちろん、嫌な所もいっぱい見える。でも、俺は1人じゃないからな。
【おい!!新入りっ!!今日はお前の歓迎会だからなっ!!終わったらすぐに来いよっ!!】
強面の元邪神、火の神が俺の後ろで仕事を急かしている。他にも、水の神、土の神など大勢の神々が俺の神社の前にある巨大鳥居に腰を掛けている。
【えーと、これからラース大陸に出張しないと……】
【はっ!?新入りが先輩を待たせる気かよっ!!仕方ない奴だな。人の神。ここで歓迎会始めとくからなっ!!】
すでに、火の神が酒を飲み始めている。あー、歓迎会を口実に飲みたいだけみたいだな。他の神々も俺の神社の周りで酒盛りを始めている。
とまぁ、俺は今、流されて神様やってます。
最後までお付き合いいただきましてありがとうございます。
何も考えずに書き始めましたが、改めて文章を書く難しさと面白さを感じることが出来ました。
また次回作を書くつもりですが、少しの間コツコツとネタ集めをしようかと考えております。また、この作品の閑話なども追々書き足していければと思います。
最後にもう一度、ありがとうございました。




