86、終結する力
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虹色に輝く雲、それは可視化された聖領域であった。神祖は聖領域でラクリア全域を覆ったのだ。その中では、激しい戦闘が行われている。何かがぶつかり合うその都度、雷光のような光が聖領域から漏れだしている。
邪神アンラは、神祖、アイリ、サフィーナ、シラユキの猛攻に晒されていた。それぞれが一撃必殺の神気、魔法、斬撃が邪神アンラを襲う。
【やっぱりその3人もそっち側についたのか。いや、操ってるだけって感じだね。洗脳する時間も惜しかったってことか。相当焦っていたんだね。】
しかし、邪神アンラの声には余裕があった。すべての攻撃を神気は吸収し、魔法は逸らし、斬撃は時間を緩やかにし回避した。
【なんだよ。なんで余裕があるんだ。ステータスはこちらが圧倒してるはずだよ。なんでこれを捌けるんだよ。】
一方で、神祖の声には余裕がなかった。アイリ、サフィーナ、シラユキたちをもってしても、邪神アンラになんらダメージを与えることができなかったからだ。
【なんでって……うーん、強いて言うなら、君がこれまで面白半分にこっちの世界に連れてきた異世界人のおかげって奴かな。君は自分の新しい身体欲しさに、色々と手を回したんだろうけど、そろそろツケを払ってもらおうかな。】
邪神アンラは神祖たちの攻撃を捌きながら、楽しそうに神祖の反応を見ていた。
【何を言ってるんだい?君だって、この身体を狙ってるんだろ?そうだよ。異世界人たちを殺して、そのスキルを奪ったのだって、君がその体――クロウだっけ?その持ち主を操ってたってことくらい調べはついてるんだよ。】
神祖は接近戦を挑んでいたシラユキごと、遠距離から神気の塊を邪神アンラにぶつける。しかし、邪神アンラはシラユキの首を抑え込む。巨大な白竜であるシラユキは肉の盾としてその体に神気の塊が貫いていく。
GUAAAAAAAAAAAAA!!!
シラユキの翼の片方が根元から吹き飛び、苦しみの咆哮が聖領域にこだまする。
【あーあー、せっかくの神使に攻撃するなんて、君ってひどい神様だね。あー、ちなみに、クロウの運命を操ったのは認めるけど、異世界人たちは殺してないよ。まぁ、クロウは自分が殺したって思ってるみたいだけどね。実は、スキルを継承した異世界人たちはこっちで保護させてもらっているよ。】
神祖は苦虫を噛み潰したような表情で、一旦攻撃を停止した。それに倣うようにアイリたちも攻撃の手を止める。
【邪神のくせに、優しい事じゃないか。異世界人たちの魂が輪廻に帰ってこないと思ったらそう言う事かい。どうせラース大陸の探れない結界内部にでも匿っているんだろうね。】
【ご名答。さすが神様だね。隠し事なんてできないなぁ。】
イタズラがバレた子供の用にクスクスと笑う邪神。
【邪神アンラ、君の目的はなんだい?どうして僕の邪魔をするの。】
神祖の雰囲気が一変する。そこには先ほどまでの動揺した様子は一切なくなっている。そして、神祖が纏う神気が全く別の次元にまで高まっている。
しかし、それを目の当たりにしても邪神アンラは表情を変えず、神祖に答える。
【目的?そんなの簡単さ。僕は邪神だよ?悪い事をすることが邪神。神祖の邪魔をするのが邪神ってもの――――なーんて言葉じゃ信じてくれないか。神祖って、このラクリアを作り上げた神様じゃないよね?たぶんだけど、君は元は異世界人じゃないのかな?ラクリアは前の神様から受け継いだだけ――――】
邪神アンラの言葉に、神祖は沈黙で答える。
【君がラクリアを引き継いだせいで、他の神格を持った者たちは皆、邪神と呼ばれるようになった。この世界は元々多神教だったからね。いろんな神様がいたんだよね。でも、君にラクリアを譲った神様はそうじゃなかった。一番神気が高い神様だったけど、他の神々のことを疎ましく思ったんだ。所謂ボッチな神様だった。他の神々の神気を奪い、邪神へと堕とし、絶対神となった。その神格を君は譲り受けたんだよ。】
邪神アンラは老人のような達観した表情で話しを続けた。
【でも、邪神に堕ちた神々も自らの眷属、邪仙と呼ばれる存在を使って君に抵抗を始めたんだよ。まぁ、考えてみれば当然の結果だよね。いきなり邪神とか言われて、排除されたんだから。それに邪仙っていっても皆が皆、悪い存在じゃない。まぁ、自暴自棄になった神様の眷属が暴走しちゃうこともあったけど、それは仕方のないことだよね。それで、邪神たちは思うわけだよ。絶対神を神の座から引きずり下ろす。それができなきゃ、ラクリアそのものを消し去ってしまったほうがましだってね――――】
邪神アンラの周りには、先ほど神気を奪われたはずの邪神・悪神たちが再びその靄のような姿を現した。そこには、神祖に対する憎悪や嫉妬などの負の感情が込められていた。
【で、話は最初にもどって、今、神祖がやってる事に関係して来るんだよ。今、君がラクリアでやってることって、この世界の再生?それとも破壊?まぁ、どっちだって構わないけど、作り替えようとしてるのかな?また自分だけが都合のいい世界に。これってチャンスなんだよね。このラクリアを消そうとしてる邪神や悪神たちにとってはね。あ、僕?僕はこの世界を消そうとか考えてないから安心してよ。僕の目的は、君を神の座から引きずり下ろすことだからね。】
邪神アンラの瞳が怪しく輝くと、神祖の身体は黒く輝く鋼鉄のような物質で拘束されていく。首、手首、腰、足首に枷の様な物がガッチリと神祖の身体を抑え込んだ。それを見たアイリたち神使も同時に動こうとするが、同様な拘束具によって捕えられる。
【あぁ、これは神気とは違うベクトルの力だから、吸収なんてできないよ。まぁ、未知の物質とでも思っておいてよ。さぁ、神格を捨ててもらおうか。】
邪神アンラはゆっくりと神祖へと近づいていく。
【ふふふふ……そうだったんだ。それを聞いて何か納得しちゃったよ。ボッチ……そんな風に思われてたんだぁ。】
拘束されたままの神祖が突然、笑い声を上げる。
【だけど、邪神アンラ。君は勘違いしてるね。まぁ、前の神様が勘違いさせるようなことをしたっていうのが本当のところなんだろうけど……でも、僕を神の座から引きずり下ろす……か。ふふふふ……そういう考えになるのか。なかなか面白いね。それに、僕は僕だよ。】
神祖の笑い声に邪神アンラは表情を歪める。
【どういう意味だい?】
邪神アンラが神祖を睨む。しかし、次の瞬間、拘束具がはじけ飛んだ。
【前の神がどうのって話は無意味だよ。僕は僕。神と同化する前の話は関係ないよ。それにボッチなのは当然さ。もともと神は一柱しか存在しなかったんだからね。邪神・悪神たちは僕から生まれたモノなんだから。そう、君もね。邪神アンラ。そして、今、僕の元に帰って来た。つまり、そういうことだろう?】
神祖を中心に白い虚空が出現し、周囲にいた邪神・悪神の黒い靄を吸い込んでいく。身体がある邪神アンラはどうにかそれに抵抗するが、それ以外の神々は白い虚空に吸い込まれていった。
【何っ!?そんなはず……神祖の力はこんなにも強いはずがない……こんな未来は、想定外だっ!!】
邪神アンラは必至に、その場に留まりながら顔色を変える。そして、邪神アンラの周囲を包んでいた神気が奪い取られ、ジリジリと神祖の白い虚空に引き摺られる。
そして、邪神アンラが振り向くと、両腕を背後からアイリとサフィーナに掴まれていた。さらに、シラユキの巨体で背中を押されている。単体の力なら邪神アンラで十分対抗できるものであった。だが、神祖に神気のほとんどを奪われた邪神アンラにはすでに抗う力は残されてはいなかった。
【違う!!こんな未来は認めないぞっ!!僕は……僕は……お前に取り込まれるなんて事……認めないっ!!】
邪神アンラの叫びも虚しく、眼前には白い虚空が迫る。
【大丈夫。元に戻るだけさ。痛みも感じない。すべては一つになるだけさ。何も変わらない。】
神祖は母親の様な慈悲深い笑顔を浮かべると、邪神アンラを迎え入れるように両手を伸ばす。
【嫌だっ!!僕はっ!!僕はお前なんかとっ!!一つにはならないっ!!ならな―――――】
邪神アンラの絶叫が途絶える。そこには、白い虚空と神祖がいるのみで、アイリやサフィーナのみならず、あの巨大なシラユキの姿も虚空の中に消えていった。
【すべては、一つの元に帰るんだよ……】
白い虚空すら消え、聖領域で唯一の存在になった神祖はポツリの呟いた。
†
ラクリアでの異変は急激に収まりを見せた。火山の噴火や地震は止まり、砂漠化や水源の枯渇などといった原因不明の事象も今の所、拡大は止まったようだ。
ただ、天を覆う虹色の雲は未だにラクリアを無常にも見下ろしていた。
皆が不安に顔を曇らせ、虹色の雲を見上げる。ある人は避難中の馬車の中から。見張り台の上から。子どもを抱えながら。野営のテントから。怪我人を治療しながら。
しかし、虹色の雲に変化があった。突如、雲が割れ、強い光の球体が降りてくる。それはあまりに眩く輝いているため、それが何なのか気付いた者はいなかった。
それはユウマ・アリムラと呼ばれていた異世界人だった。そこにかつての面影はない。無邪気な子どもの様な笑顔を浮かべ、エンヴィー大陸の一角に降り立った。
そこはかつて豊かな自然が溢れていた森林であった。ガラハド大森林帯の深奥部。様々な魔物や動植物が生息し、中には竜と呼ばれる強大な支配者がいた場所。しかし、そこには石と砂のみが広がる砂漠。生物の気配もなく、虚無のみが広がっている場所であった。
ユウマ・アリムラの身体が大地に触れると、その場所が歪んでいく。そして、ぽっかりと巨大な孔が形成される。深い闇を湛える孔の奥に光が届くことはなく、どこまで続くかもわからない。
【そろそろ最終段階かな。最後にこの世界を飲みこめば、リセット完了だね。】
ユウマ・アリムラは、神祖は、無邪気に呟くと孔に向かって手を翳す。しかし、ユウマは、神祖は、手を下ろし、ゆっくりと振り向いた。
【やれやれ……どうして最後まで邪魔するかな……】
視線の先には、ハイエルフが、半樹精が、獣人が、竜人が、ドワーフが、そして人間がいた。
それはかつてハイエルフの国の王と王妃であったグランディアとジャスリーンであった。
それはガート村の半樹精のマールであった。
それはハヌマンの族長である獣人クシルとその補佐テトであった。
それはヴァースの族長である竜人ラスタバンとその親衛隊であるガーネットたちであった。
それはタイタスの族長であるドワーフ、ラガイオと絡繰師ウェルであった。
それはシャール王国に呼び出された勇者タカハシとかつて呼び出された勇者たちの子孫であるダイヤ、ブブラン、ギル、ミソノであった。
その他にも多くの人々がいた。ガラハド連合国のエルフたち、獣人たち、ドワーフたち、人間たち。かつてユウマに、アイリーンに、サフィーナに、クロウに救われた人々の姿があった。
クシルとテトは【巨獣化】し、巨大な赤い猿、巨大な白い虎へと変貌する。
ラスタバンとガーネットたちは【竜化】し、赤い鱗を持った竜へと変貌する。
マールは本来の精霊の力を解放し、巨大化する。
ウェルは腰に提げた鍵を使い、巨大な防衛陣地を築き上げる。
勇者タカハシはそこへ、前世の兵器と呼ばれる火砲を並べる。
【なかなかまとまるのが早いね。どんな仕掛けがだろうね……。まぁ、いいや。僕とやる気みたいだね。】
神祖がそう呟いたとき、防衛陣地から轟音が次々に鳴り響いた。
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時間は少しだけ遡る。
最初にそれに気づいたのはガンファだった。
先日亡くなったライカの遺品を整理する時、1冊の日記帳を見つけたのだった。その日記帳は、ライカの遺書が入っていた机で見つかった。それも、巧妙な細工がしてあり、引き出しを開ける順番がそれを取り出すキーとなっていたようだった。それをガンファが見つけたのは偶然か、それともライカの企てた必然なのか、今となっては解らなかった。
ガンファは、その日記帳に目を通した瞬間、戦慄が走った。そして、ガート村に住み着いたアイリの両親であるグランディアとジャズリーンへとそれは手渡され、一気にガラハド連合国内にその内容が広がることになった。
その日記の内容とは以下の様なものだ。
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これの日記帳を見つけて下さった方へ
この日記を読まれているという事は、私がすでに亡くなっているということですね。あら、何だかこんな文章を書くだなんて思わなかったからテンションがあがっちゃうわ。でも、大切な事を書いていますから、読んだ方は、一人でも多くにこの事を伝えて下さることを切に願います。
たぶんだけど、この日記を読んでるのはガンファさんかしら。3つある机の引き出しを上から2回ずつ出し入れするなんて、よく家に掃除をしに来てくれたガンファさんくらいだろうからね。私がこのガート村へ来たときから色々とお世話になってるし、私が死んだあとの事も、色々と迷惑を掛けてるかもしれないわね。そう思うとガンファさんには感謝の言葉もないわね。ガンファさん以外の方が読んでいたら少し恥ずかしいけれど、もし、ガンファさんを知っている方が読んでいたら、この日記をガンファさんへ届けてもらえれば幸いです。
少し前置きが長くなってしまったけれど、本題に入りたいと思います。
ユウマさんが神格を得たことで、ラクリアが崩壊に向かっています。こんな書き方をすれば、ユウマさんがラクリアを破壊するように勘違いさせてしまうかもしれませんが、実際、ユウマさんが破壊してしまうんです。
でも、ユウマさんは神祖という者に操られているの。それに、アイリさん、サフィーナさん、クロウくん、そして、シラユキちゃんも同様に……
止められるのはユウマさんと関わり合いのある人たちだけ。でも、相手は強大で死ぬ者も出てくるかもしれないわ。それでも、ラクリアを崩壊させないためにも、皆でユウマさんを止めてあげて。なんだか壮大すぎて私も実感できない話だけれどね。
空に虹色の雲が覆ったら、それが合図。ガラハド大森林の深奥にそれは雲を割って降りてくる。
なんか予言っぽく言ってみたけど、これは間違いなくやって来る未来よ。どうか……本当にどうかお願いします。これを1人でも多くに人達に知らせて下さい。できるなら、ガラハド連合国だけでなく、他国の方にもこれを知らせてほしいの。よろしくお願いします。
異世界人ライカより
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さらに、この内容はシャール王国の王都シャーロンにも届けられた。これを受けた国王アルジー・ヤマダ・シャーロンは勇者タカハシと英特部隊のガラハド連合国への派遣に踏み切るに至った。実際は、シャール国内でも様々な天変地異によって被害が増加していることで、重要戦力の派遣に反対する勢力もあったが、国王はこれらを抑えつけ、勅命を出すと言う形で強引にこの事態にあたったのだった。
そして、時間を元に戻す。
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防衛陣地から放たれる無数の榴弾が神祖付近に着弾し、凄まじい爆音と破壊をまき散らす。中には神祖を直撃する榴弾もいくつか確認できた。神祖との距離は800mほど離れているが、それでも、ビリビリと大気を震わせる爆音と衝撃が伝わってくる。
高性能な双眼鏡を覗きながら勇者タカハシは防衛陣地からの砲撃を一時中断した。
「直撃確認しました。けど、粉塵で対象をロスト。風で粉塵を飛ばせますか?」
タカハシは後ろに控えていたハイエルフ、グランディアに視線を向ける。グランディアは無言で前方に手を翳す。すると放射状に突風とも言える凄まじい風が巻き上がる粉塵を綺麗に押し流していく。
それを確認したタカハシは再度、双眼鏡を覗きこんだ。
「嘘だろ……直撃したのは『M982 エクスカリバー』ですよ!!何で普通に立ってられ――――ゆ、ユウマさんっ!!」
タカハシが見たのは抉れた砂と石の荒野に立っている人影だった。そして、その人影は先ほどまでの輝きを放つのを止め、その姿を晒していた。それは紛う事なきユウマ・アリムラの姿だったのだ。
《落ち着け勇者。ライカの日記にもあっただろう。バカ婿が神祖に操られていると。俺も天上主とか名乗ってたアイツに騙されていた。チッ……これからが本番だ。全員、覚悟を決めろ!!ユウマを止めるぞ!!》
狼狽えるタカハシを一喝したのは先ほど、風の魔法を使ったグランディアであった。
グランディアの声に呼応するように、遠距離から様々な魔法や兵器が神祖へと降り注ぐ。それと同時に、ラスタバン、テト、マールたちが巨大な身体を生かして、神祖へと進撃を開始した。英特部隊や他の者たちも得物を手にそれに続く。
【本当に僕を飽きさせないように、色々とやってくれるね。おやおや、まだ乱入してくる奴がいるようだね】
神祖の呟きは、その場にいた者全ての頭の中に響き渡る。その声に反応するかのように、北東の空がにわかに黒く染まる。そして、それはジワジワとこちらへその姿を露わにする。
「魔族……しかも、羽持ちってことは、あれ全部、上位魔族ってことだわっ!!」
北東の空を睨んで、勇者の子孫の1人、ダイヤが吐き捨てるように言い放つ。
「へっ!!今更魔族が増えた所で、関係ねぇよ!俺たちはユウマさんを止めることだけやれればそれでいい!!」
勇者の子孫、ギルがダイヤに軽口を叩く。しかし、その声は震え、無理矢理作った笑顔を張り付けたような表情になっている。
「待って!なんか様子が変なのさ!あの魔族たち、僕らの方じゃなくユウマさんの方に向かってるみたいなのさ!」
同じく、勇者の子孫ミソノが声を上げる。魔族の先頭には翼を持たない人影が他の魔族たちよりも圧倒的なスピードで神祖に接近していく。
【ん?なんで君までここに来ちゃったの?それに魔族まで引き連れてさ。君の考えることがイマイチよく解らないんだけど……。】
神祖の目の前に立ちふさがったのは、かつて魔王と呼ばれた邪仙、ルシフェル・ファルファレルロであった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
※次回の更新は11/24を予定しております。




