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84、神の姿

 †



 どうしてこうなった……


 1時間後に、集まったそれぞれの姿を見て俺は天を仰いだ。

 もっと具体的に話をすり合わせれば良かったのか……


 俺は自らで作り出した魔鋼糸で作ったゆったりとした純白のローブと、マントを纏っていた。マント留めや、ベルト、ポーチなども白、一応、神様っぽく白を基調にまとめてみた。そして、エルドランにあった世界樹の枝から作り上げた杖を手に持っている。神様といったら木の杖だろう。我ながら中々神様っぽい恰好を演出できたんじゃないかと思う。


 でもなぁ……うーん……


 集まった俺たちの格好は見事にバラバラで統一感のないものだった。


 アイリは豪奢な真紅のベルベットドレス、頭には魔核石のティアラが輝き、手には魔核結晶の錫杖、純白のファーで覆われたマントを纏っている。唯一、俺とマントがお揃いだが、豪華絢爛さでは圧倒的にアイリに軍配が上がっている。そして、誰が見ても女王様っぽいのだ。いや、そっち方面の女王様ではなく、正統派の女王様の方ね。たしかに、神々しいのだが……


 次に、サフィーナは何故か巫女服を纏っていた。緋袴に白衣、足袋に草履、完全に巫女さんのコスプレだ。さらに、白衣の上には淡い桃色の羽衣を纏い、腰と手首に鈴のようなものが付いおり、頭には世界樹の葉を編み込んだ冠を被っている。前世の卑弥呼か天照大神って感じだな。そう考えれば、神様っぽいと言えなくもない。俺と意識を共有している時にでも、巫女服とかの知識を得たのだろう。


 最後はシラユキだが……こいつは神を何だと思っているんだろう。中型犬の白竜の姿はそのままに、何故か全身に黄金の装飾と羽飾りで飾り立てている。まるで、リオのカーニバルかのような派手で仰々しい。当のシラユキはさも当然かのようなドヤ顔をしているのがなんか腹が立つ。



「「「<なんでその格好なんだ>よ」」」


 思わず声がシンクロする……はっ!?シンクロ!?いやいやいや、俺なんて思いっきり王道の神様ルックじゃないか!!いや、神祖って神様を実際見たときは光の球だったり渦だったりでどんな格好なんて知らないしな。


「いや、俺が神になるんだから、いいとして何でアイリやサフィーナまで神様っぽい恰好をしてるんだ?それに、シラユキ……どこのお祭りに参加する気だ?」


<ユウマ殿こそ、何を言っている!?神の使者としてユウマ殿に仕えるのだからこのくらいの装いが妥当であろう。少し遠慮して抑え気味にしたくらいだ。なのに、ユウマ殿は何と地味な!白一色ではないか!もっと原色を使わないと神だと気づかれないのではないか?>

 はっ?……シラユキの言っていることがさっぱりわからん。この神様観の違いは何だ……。チラチラとアイリに助けを求める視線を送る。


「ユウマさん。基本的に、神様の姿というのは人間の間には伝わってないの。でも、ラクリアでは、神様の姿はとってもキラキラして派手で美しいのが一般的な神様観なの。だから、ユウマさんの白一色とかサフィーナちゃんみたく白と赤だけっていうイメージはあんまり無いかな。もしかしたらシラユキも守護竜の時に、神様と接触してるかもしれないし……」

 アイリが神様観を説明してくれる。ど派手な神様……まぁ、前世でも多神教ならそんな神様もいるにはいたか……


「そ、そうなのか……結構、この世界に馴染んだと思ってたけど、こんな所で異世界人であることを痛感するとは思わなかった……。で、シラユキが出会った神様ってのはそんなド派手だったのか?」


<い、いや……逢ったことはないが……>

 って、ないんかいっ!!


「ユウマもシラユキも別にいいんじゃないの?サフィーナは恰好なんて何でもいいと思うよ?それに神様になるのはユウマだし。」

 サフィーナが俺とシラユキの間に割って入る。まぁ、サフィーナの言う通り、恰好なんて気にしていない。シラユキが演出がどうのと言われてやってみただけのことだ。そして、そのシラユキも俺の事を考えての事なんだろうけどな。


「そうだな。シラユキも色々と考えてくれてありがとな。まぁ、恰好がバラバラなのは別にいいんじゃないか?色んな出自のメンバーが集まってるんだから、俺たちらしいっちゃらしいだろ。」

 俺がそう言うと、皆も表情が緩む。


「そうですね。じゃあ、これから一足先に族長のハウザーさんの所に行ってエルドランの皆を集めてもらってくるね。ユウマさんたちは後からゆっくり来てね。」

 アイリはそう言うと、部屋を出ていった。


 そして、俺たちもアイリを追うようにハウザーの元に向かう。道中、エルドランの道往く人達にすごいジロジロ見られたのは言うまでもなかった。



 †



 その後、ハウザー邸に集まったのは錚々たるメンバーだった。エルドランの〝十長老(テン・エルダーズ)”やエルフの大集落ニルヴァーナの族長ダナオス。竜人(ドラゴニアン)の集落ヴァースのラスタバンやガーネットたち。獣人の集落ハヌマンのテトや族長クシル、元族長のコウシン。ドワーフの集落タイタスからは族長ラガイオとウェル。人間代表として元新ビザンツ王国でガラハド連合国の人間代表のエドガーや異世界人のミムラ。そして、ガート村からはマールやガンファ、バルガたち。これまで俺たちが出会ってきた人たち、そのほんの一部が俺たちの前に勢ぞろいしていた。


「今日はわざわざ集まってもらってありがとう。サフィーナの復帰祝いで昨日は楽しんでくれたことだと思う。でも、今日はもう1つ、話しておかなければならない事があって、この場を設けてもらった。」

 俺は一度、言葉を切り、一同の顔を眺める。その顔は、俺が何を言うかワクワクしている顔、不安そうな顔、不敵に笑う顔など様々な表情が並んでいた。


「えー……まぁ、俺たちの格好はスルーしてもらって大丈夫だ。いや、スルーしてほしい。理由は後で言うとして……ごほん。まず、俺たちの仲間であるクロウが、行方不明になっているのは皆知っていることだと思う。

 だけど、その居場所が解った。ラース大陸にいる。そして、クロウは邪神アンラの元にいる……らしい。助けるために、俺は神格を得ないといけない。聖領域で出会った神様にそう言われたんだ。だから、これはお別れの挨拶だ。厳密には仙人の格を持つ者は会えるらしいが、会えなくなる者も多いだろう。今まで、色々と世話になった。……いや、お世話になりました。でも、俺は神になってからも、皆さんを見守ることぐらいはできると思います。俺がいなくなった後も、アイリやサフィーナをよろしくお願いします。」

 俺は深々と頭を下げた。辺りは静まり返り、皆は微動だにしなかった。


「ユウマが神様かぁ!知り合いが神様になるなんて初めてのことじゃが、何の心配もいらん!!張り切って神様になって来い!!」

 最初に口を開いたのはガンファだった。ラクリアに転生して初めてできた知り合い。そして、アイリの育ての親。言葉は荒いが包容力のある男。俺の言葉が荒くなったのも、ガンファの影響が大きいんだろうな。


「サフィーナちゃんを大きくしちゃったと思ったら、神様になるなんてね。責任もって美幼女の神様になってくれないかしら?」

 とんでもない事を公衆の面前で恥ずかしげもなく言い放つのは半樹精(ハーフドライアード)のマールだった。変態は相変わらずだが、異世界に来て何もわからなかった俺に色々と教えてくれた恩人でもある。もう幼女じゃなくなったサフィーナに対しても、これまで変わらず世話を焼いてくれている。


「ユウマ様!!妾は仙人の格を持っておる。いつでも会いに行くからの!!」

「ユウマ様!!私もつい先日、グランディア様のお力で仙格を得たぞ!だから、私も会いに行く!!」

「私は……まだ、仙格はないけど……必ず会えるように頑張るから!!」

 ラスタバン、テト、ウェルが声をあげる。


 それ以外からも様々な声が上がる。そして、そのどれもが俺が神格を得ることを応援してくれるものだった。


「ありがとう。ありがとう。皆。クロウの事を必ず連れて帰ってきます。連れて帰ってきますから、その時は、クロウをよろしくお願いします。」

 再び俺は頭を深々と下げる。そうすると、皆からの盛大な拍手が送られた。周囲の空気が歓喜に震えているようだった。そして、皆の想いが俺の中に沁みこんで来るようだった。


「サフィーナは、ユウマが神様になっても変わらずに家族だからね。ずっと一緒だよ?」

 サフィーナも嬉しい事を言ってくれる。思わず涙が零れそうになる。


「ユウマさん。私はユウマさんの奥さんだからね。どこまでも一緒について行くよ。」

 アイリが涙目の俺の横に立ち、そっと腰に手を回してくれる。俺もアイリの肩に手を回し、抱き寄せた。


<我もこの命をユウマ殿に捧げよう。>

 シラユキも俺の足元にすり寄って来る。ジャラジャラと黄金の飾りが若干煩いが……



 その後、皆に見送られながら、シャール王国へ転移した。そこでは、商人ウリリや国王ヤマダ、勇者タカハシや初代勇者の子孫たちと再会と喜ぶとともに、神格を得る事を報告していった。


 皆、一様に驚いてはいたが、納得しているようだった。未だに俺が仙格すら持たない人間であるということが不思議だったとそちらに驚かれたくらいだった。


 そして、皆の挨拶を終え、再びエルドランの樹上邸宅の部屋へと戻って来れた。



「ふぅ……なかなか大変だったな。転移が使えなかったらこれだけで1カ月以上かかっていたかもな。」

 どっかりとベッドに腰を掛けて、俺は溜息をついた。


「でも、ユウマさんが神になるって言う割に、そこまで驚いてなかったですね。」

 淹れてきた紅茶をティーカップに注ぎながらアイリが言う。


「まぁ、ユウマだからねー。これまでやって来た事が、人間離れしすぎてたんだよ。神様って言われた方が納得するんだよ。きっと。」

 テーブルに置かれたクッキーをポリポリと頬張りながらサフィーナが俺の隣に座る。


<魔族をものともせず、無双したのだ。仙格を持つ者ですら、そんなことを単独でやり遂げた者はおらぬ。神格を得るのは必然というもの。>

 シラユキが尻尾で床をタシタシと打ち付けて、胸を張る。


「まぁ、とはいえ、神格を得る準備はできたってことだ。今から聖領域を作る。3人にも神祖って神様に会ってもらう。準備はいいか?」

 俺は紅茶を飲み乾し、ベッドから立ち上がる。すると、3人とも無言で頷いた。



 俺は左右に魔力を集めていく。そして、両手を合わせるようにして、静かに魔力を融合していく。


 凄まじい魔力の波が周囲を包んでいく。


 周囲の風景の色が抜け去っていく。


 輪郭が消えていく。


 眩い光が放たれ、思わず目を閉じる。


 目を開けると、神祖との約束した空間、聖領域に俺たちは漂っていた。


【やぁ。思ったより来るのが早かったね。】

 俺たちの目の前にはすでに小さな男の子、神祖が浮かんでいた。その姿は白い貫頭衣を着ただけの質素なものだった。


【えと、神祖様でいいんですよね?いつもの光の球だとかじゃないからちょっとびっくりしました。】

 俺は目の前の神祖に軽く会釈する。


【あぁ、この姿はあまり見せないからね。ところで、そこにいる3人はアイリーン、サフィーナ、シラユキでいいんだよね?】

【ああ、そうです。ずっと一緒にいるって約束しましたから。それに仙格は持ってるので……】

【うん、別に構わないよ。神格を持てば神使を持つのも問題ないからね。】

 神祖は3人を見ると肩をすくめる。


 その3人はというと、神との遭遇で緊張していると思いきや――――


「嘘……神様ってこんな地味な格好だったの!?」

「だから、ユウマのイメージが正解だったんだって!!」

<いやいや、もっとこうジャラジャラ感があっても良いのではないか!?>


 うん、神祖の姿に軽くショックを受けていた。


【あー、そこの3人さん?色々と声が漏れてるからね?それから見た目とか拘らない神様なんていっぱいいるから。】

 神祖もたまらず突っ込みをいれている。意外と、神祖も気にしているのかもしれないな。


【ごほん……で、君が来たということは神格を得る覚悟が出来たってことでいいんだよね?】

 神祖は後ろで手を組みながら俺の周囲を回りながら、尋ねてくる。


【はい。大丈夫です。クロ子を連れて帰れるのなら、神にでも、何にでもなって見せます。】

 俺は頷きながら神祖を見つめる。


【うん。良い覚悟だね。なら、君は無心で立っていてね。他の3人もその後ろに並んでね。これから君に神格を与えるから。】

 神祖の言葉に、俺は無言で頷くと、アイリたちの方を見る。アイリたちも力強く頷いて配置につく。


 それを確認すると、神祖は両手を俺へと突き出し、そのままスーッと神祖は俺の中に身体ごと吸い込まれていく。


【はい。終わり。これで君は神格を得たよ。】

 神祖の声がどこからか聞こえてくる。それは俺の頭の中に響いているのか、空間から響いているのかよく解らなかった。


【こ、これは……どういうことです?】

 俺が動揺していると、神祖の楽しそうな声が聞こえてくる。


【何って、君の体の中に入ったんだよ。それで君は神様さ。大抵の事は何だって出来るようになったよ。ほら、他の3人も見てごらんよ。】

 神祖の言葉に従い、振り向いてアイリたちを見る。すると、虚ろな顔で立ち尽くしている。その瞳には生気が宿っていない。ただの人形のようであった。


【おい!!なんだよ!!これはっ!!】

 俺は天に向かって叫ぶ。しかし、それにかえって来るのは虫唾が走るような笑い声だった。


【あははははっ!!あはははははははははははー!!おっかしー。こんなに簡単に行くなんてねー。単純だよねー。本当に。まだ気づいてないの?騙されたんだよ?ユウマ君。】

 俺は暴れ出しそうな力を必死で抑えながら神祖の声を聞く。


【神様って長いことやっているとね。生身の体ってのが貴重になってくるんだよね。さっき見た男の子の身体も、昔手に入れた異世界人の身体でね。でもでも、長い事使ってたら色々とガタがきてたんだよ。で、そろそろいい身体が欲しいと思ってたんだよ。あー、でも、クロウだっけ?あの子はちゃんと取り戻してあげるよ?アンラが勝手に動いてることは知ってたし、目障りだからね。ほら、ちゃんと約束を守ってあげるなんて、すごい良い神様でしょ?】


 俺は神祖の言葉に必死に応えようと口を開こうとするが、声が全くでない。


【ああ、この身体はもう僕のモノだからね。そろそろ身体を勝手に動かすこともできなくなってるんじゃないかな。それから後ろの3人も僕の配下。神使ってやつだよ。すべてが僕の思い通りになる。当然の話じゃないか。】


 神祖の声が響く。それを俺はただ聞いていることしかできなかった。


 甘かった……俺が神祖を疑う事もなく、クロウを助けるなんて言葉に誘われて……アイリたちまで巻き込んで……


 俺は何をしてしまったんだ……


 俺は何をやってたんだよ……このラクリアに来て……一体何を……


 俺の思いは、ただ虚しく聖領域に漂うだけだった。



 †



 月が出ていた。それは大きな満月であった。


 煌々と明るい満月と吹きすさぶ瘴気の風の下に、1人の人影があった。


 クロウ。いや、もはやクロウの意識はなく、邪神によって支配された存在。


 邪神アンラは快適なクロウの身体を試すため、〝巨神の背骨”の上空からラース大陸を睥睨していた。


 想った以上にクロウの身体は邪神に適応したようだ。ゾディアナの時とは比べ物にならないほど、身体が自由に動く。それはクロウが有していた異世界人たちから奪ったスキルのおかげだと言えた。


【うん、いいね……いいよ。魔法じゃできないようなことまでできるようになっているって言うのは面白いな。】


 邪神アンラの手には、黒い小さな箱が握られている。そこには赤いスイッチの様な物が付いていた。


【こんな物で、この世界そのものを破壊できるなんて……異世界人というのは恐ろしいものを作るよ。まったく……。アッチの世界じゃ邪神はおろか、神の存在すらいないっていうのにね。いや、もしかしたら邪神が人の姿をしてるのかもね……】

 邪神アンラは黒い箱を愛おしそうに撫でながらひとりごちた。

 

 

 その時、ラース大陸の南西から強烈な神気が邪神アンラを襲った。それは、これまで感じたことがないほどの凄まじいものだった。神格を持つ者のみ感じることが出来る神の気配、神気。それがラクリア大陸全域を覆い尽くしたのだと邪神アンラは知ることが出来た。


【ふふふ……あははははは……楽しそうな事になってるみたいだね。】


 邪神アンラは黒い箱を懐にしまうと、楽し気な笑い声を残して、南西の方角へと飛び去って行った。


 そして、しばらくしてから、先ほどまで邪神がいた空間に、もう一つの影がフラリと現れる。その影の周囲は闇に包まれ、月光に照らされてなお、その姿がぼやけている。


「ふっ……」

 その影は、鼻で笑ったような声を上げ、再び周囲を漂う闇に溶けるように掻き消えていった。



最後まで読んでくださってありがとうございます。


※次回の更新は11/18を予定しております。

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