80、帰って来た日常
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「にしても、よく食べるよな……どこに入るんだよ。この量……」
俺は呆れながら食事をする白髪の少女を眺める。両頬をぷっくりと膨らませ、ハムスターのように頬張る少女の食欲は衰えることを知らない。いや、サフィーナはなんとなく解るよ?でも、なんでこんな事になってんだよ……
長いテーブルに置かれた料理の数々。それを片っ端から口に入れる少女たち……その面々は、美しくも可憐な者ばかりだ。でもなぁ……なんというか……
「なんでサフィーナの帰還祝いが大食い大会になってんだよぉぉぉぉっ!!!!」
サフィーナの石化は無事に解除することができた。あの眩い虹色の輝きはエルドランではかなり目立っていたようで、人が集まり出し、軽いパニックになってしまった。そういえば、俺はともかくアイリはガラハド連合国のお偉いさんになってたんだっけか。それから、2つほど、報告しなければならない事がある。
1つは、サフィーナの急成長だ。石化が解けた後、簡単に言うとデカくなったのだ。今では16、7歳というところか。アイリと並んでも同年代に見えるくらいに成長した。にもかかわらず、俺と再会した後、俺に抱き付き、よじ登り、いつもの定位置、つまり肩車の位置につこうとした時は、ドン引きした。精神的な者はあまり成長してないっぽい。色々と触れてはいけない場所が当たっていた気がするが、俺は全く気にしていない。気にしていない……はず。気にしていない……事にしておこう。
そして、2つ目は、何故かサフィーナと再会したタイミングでレベルアップを果たしたということだ。それも、一気にレベル15にまで跳ね上がっていた。そういえば、ベルガ島で魔族を無双してたときは一切上がらなかったから変だとは思っていたんだが、サフィーナとの再会が何故かレベルアップの引き金になっていたようだ。
で、ステータスはこんな感じになっている。
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■ステータス
名前/有村 悠真
Lv.15
種族/もう仙人の域、超えてない? 年齢/19歳 職業/冒険者(C)
HP 163840/163840(+81920)
MP 655360/655360(+327680)
腕力 163840
体力 163840
敏捷度 163840
器用度 163840
知力 327680
精神力 491520
加護:神祖の大いなる加護 天仙の加護(封仙の加護から昇格)
称号:転生者 封印されし称号その1~5 器用貧乏 タイタスの英雄 人を超えた者
装備:丈夫な布の服
スキル
-EXスキル
【教育者】【学習者】【超健康体】【ステータス倍化/Lv.UP】【真・限界突破】【聖領域】
-ユニークスキル
【極運】【ファミリア】【看破】【隠形】【人たらし】【糸使い】【金剛不壊】【読心法】
戦闘スキル
【武道/Aランク】(諸々の戦闘スキルが【武道】スキルへ昇格しました。】
-一般スキル
【練丹術/Aランク】(【薬草術→練丹術】へ昇格しました。)
【自由自在】(諸々の一般スキルが【自由自在】へ昇格しました。)
―魔法スキル
【魔導/Bランク】(諸々の魔法スキルが【魔導】スキルへ昇格しました。)
-魔物スキル
【身体最適化】(諸々の魔物スキルが【身体最適化】へ昇格しました。)
眷属契約【精霊魔法】(サフィーナより)
【時間跳躍】(クロウより)[現在使用不可]
【竜魔法】(シラユキより)
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……うん。久々のレベルアップでツッコミどころ満載なんだが……。そう!年齢が19歳になってるっ!!って、違――――――うっ!!!そんなことはどうでもいいんだよっ!!
はぁ……とりあえず、上から順番にツッコんでいけばいいのか……ふぅ……やるか……
なんだよっ!!種族名っ!!……っていうか種族名ですらなく、これは質問だっ!!ステータスはもう桁を数えるのにも苦労するくらいになって来た。それなのに冒険者としてはCランクって……微妙だな。まぁ、気にしない事にしよう。
それに天仙の加護?なんだこれっ!!看破っ!!
天仙の加護:サフィーナがサフィーアの能力を超えたため、封仙から天仙へと昇格したことによって得られた加護。HP、MPの50%上昇の他に、不老の力を得る。その他にも、仙人の格でしか習得できないスキルを持つことが可能となる。ちなみに、サフィーアの人格は今まで通りに眠った状態。
そうか……サフィーナが人間を越えたのか……もう、何が何だか解らんが、天仙になったってことは解った。それに……はぁ……これ以上老けないってことか。なんか俺も人間辞めましたって感じになってきてるな。確かに、仙人って感じだな……あれ?でも超えてるのか……よく解らん。
なるほどな、色々とスキルが昇格してるのはこの加護のおかげってことになるのか。そういえば、【練丹術】って確か、サフィーアが使っていたスキルだったけど、これも仙人専用のスキルってことだったのか。ステータスがスッキリして見やすくはなったが……うーん……深く考えるのは止めておこう。
それから……クロ子の眷属契約は切れてはないようだが……現在使うことはできない。もうベルガ島からラース大陸へ移動していたのだろうか……意識を飛ばしてもやはり繋がることはない。
絶対にクロ子の奴を助けてやる……絶対にだ!!
「おおっと!!大食い大会優勝者は……なんと、予想外っ!!ドワーフ族のウェルっ!!」
お、大食い大会が終わったようだ。司会のハウザーがノリノリで優勝者を告げている。……ハウザーってエルドランの族長じゃなかったっけ?何やってんだよ……。
にしても、意外にもウェルがあんなに食べる奴だったとは……。巨大なステーキを30皿も平らげやがった。1皿400gはあったんじゃないか?今、恥ずかしそうに表彰台に上がってトロフィーを貰っている。
参加してた面々も錚々たるメンバーだった。特に女性陣、サフィーナもアイリも善戦してそれぞれ、4位、6位入賞していた。アイリって、実は食うんだよな。いつもは俺と変わらない量くらいしか食べないのに、我慢してたのか。
ちなみに、2位はラスタバン。竜人だし、最初、竜化してからステーキを食べようとして全員から止められていた。まぁ、それでも29皿と最後までウェルと接戦を演じていた。3位は現在、ハヌマンの族長であるクシルだった。寡黙で淡々と食べていたが最後は27皿で泡を吹いて倒れた。にしても、ラスタバンもクシルも族長何やってんだよ……。なんだか後半は種族対抗戦みたいな様相を呈していたが盛り上がっていたから良しとしよう。
1位 ウェル(ドワーフ)
2位 ラスタバン(竜人)
3位 クシル(獣人/猿)
4位 サフィーナ(天仙)
5位 バンナ(一般参加の獣人/象)
6位 アイリ(ハイエルフ)
優勝者にはトロフィーと優勝旗、牛10頭が贈られるらしい……まだ肉食う気かっ!!なんか牛が可哀想になってきた。それから、あまりにも盛り上がった為、来年からの恒例行事にするらしい。
「あぁー、残念だったー。サフィーナ優勝する気マンマンだったのにー。」
「私も大食いには自信があったんだけど、上には上がいるってことかぁ。」
サフィーナもアイリも少し悔しそうに俺の所へやって来る。でも、その表情はどこか楽しそうだ。そう。サフィーナがいる。それだけで、ガート村で過ごした日々が思い出される。そんな昔の感覚はないんだけど、俺以外は10年以上前の事なんだよな……
「いやいや、あのメンバーでよく頑張ったんじゃないのか?2人とも。ほれ、これでも飲んどけ。」
俺は2人を労い、胃腸薬の丸薬を手渡す。これは練丹術で作り出したものだ。効果は看破で調査済みだ。
「えー、いいよ。サフィーナは自力で消化するから。あの位なら楽勝だよ。それに胃の鍛錬にもなるし。」
などとのたまっているのはサフィーナだ。どこのフードファイターだよっ!!
「あ、私はもらっとこうかな。クシルさんじゃないけど、もうちょっとで意識飛びそうだったから……」
苦笑しならがアイリは丸薬を口に放り込む。いやいやいや、アイリもどこまで体張ってるんだよ!思考がアスリートだよっ!!
「サフィーナちゃんっ!!すごいよっ!!4位おめでとうっ!!急にデカくなった時は驚いたけど、喋り方とか雰囲気とか変わってなくて良かった。」
「えーと……誰?」
「ひどーいっ!!レイラだよっ!!サフィーナちゃんのためにこれでも色々頑張ったんだよっ!!」
レイラの扱いが雑だな。でも、なんか仲は良さそうだ。これまでサフィーナにこんな感じで話せる相手がいなかったから良かったのかもな。
「レイラ……レイラね。知ってる知ってる。あれだよね。あの有名なレイラだよね。うんうん、知ってる。」
「……いや、それ絶対誤魔化してるよね!?石化解く時に歌とか歌ってあげたんだよ!うぅぅ……」
えと……サフィーナってレイラに対してはドSなのか?ま、まぁ、見ていて楽しいんだけどね。
「あぁ、あの時の歌。レイラだったの……。あれは、えーと、うん。良かったよ。ありがと……」
サフィーナは少し照れながらレイラに感謝の言葉を告げる。それに驚いたようなレイラも照れたように笑いあっている。うん、何かいいな。こういうの……
「あぁ……あぁぁぁ……ぬぅあぁぁぁぁ……」
奇声が聞こえたので振り向くと、サフィーナとレイラのやり取りをマールが見つめていた。あぁ、マールは小さい子好きの変態だしな。大きくなったサフィーナを見てショックでも受けているんだろう。でも、マールの毒牙からサフィーナは逃れた事になるから、結果的には良かったのかもな。
「サフィーナちゃん!大きくなっちゃって……私、悲しいわぁ。でも、そこのレイラちゃんだっけ?その子とイチャイチャしてるサフィーナちゃんもなかなかグッとくるものがあったわよん♪私、新たな何かに目覚めちゃったかも……」
……ちょっと見ないうちにマールの変態度はパワーアップしてるみたいだ。レイラは完全にマールを見る目が引いている。サフィーナは慣れた感はあるが、あんなものに慣れるんじゃない!!
「ユウマさん、何だかみんな明るい顔してる。やっぱりユウマさんとサフィーナちゃんが帰って来たのがうれしいんだね。」
アイリが俺の横にやって来て、肩に頭を寄せてくる。俺は腕を回し、そっとアイリの頭を撫でる。
「そうだな。みんな笑ってるな。こんな時間がずっと続けばいいな。」
俺は騒いでいるテトとバルバス親子やラスタバンたちを眺めながら、アイリにそう言った。
「みんな揃って、またこんな感じで騒ぎたいね。私、世界平和なんて大それたことは願わない。けど、ユウマさんたちとずっと一緒にいれたら私はそれだけで幸せです。」
「そうだな。クロ子の奴も、一緒にな……」
それきり、俺とアイリは無言でこのお祭り騒ぎの喧騒を静かに眺めていた。
†
僕はやっとこの地へ戻ることが出来た。ん?いや、この身体では初めてか……。どうもこの身体の思考に引き摺られるようだな。でも、問題ないか。僕の目的の場所はもう少しなんだからね。
巨大な船が何隻も沖に停泊している。そして、そこから無数の小舟に乗った下級魔族たちが海岸線に大量の物資を運んでいる。海の大型の魔物を操り、順調に荷下ろしが進んでいる。空を飛べる上級魔族たちは簡易の陣地に建てた宿泊所で待機している。
そんな僕も宿泊所での待機組の1人だ。なんたって、ここの連中の中では魔王なんて呼ばれてるんだからね。
「クロウ様、やはりゾディアナ様は未だ、来られていないようです。」
ゾディアナ麾下の上級魔族の生き残りが僕に報告してくる。うーん、一応、捕まっていたのを解放してあげたんだけど、どこかで野垂れ死んだかな。
「ふーん。そっか。ま、彼女の事だから、後から来るんじゃない?それより周囲の警戒はちゃんとできてる?さっきから強い魔力反応が2つこっちに向かって来ているみたいだけど。」
僕がそういうと、報告していた魔族がビクリと震える。
「え……いや……そ、それは……申し訳あり……は……れ?」
魔族は左右に少しずつズレていき、大量の血と共に真っ二つに絶ち割られていた。斬られたことに気付かずに死んだんだろう。
「申し訳ありません。すぐにでも対処してまいります。」
魔族の返り血がテラテラと自らの鱗に反射させながら、三魔将の1人、ゼゼルが姿を現した。
「あー、うん。じゃあ、ゼゼルが行って来て。ちょっと強そうだからドノヴァンにも声かけて2人で行ってきなよ。」
「はっ!!仰せのままに。」
ゼゼルは巨体を屈めるように礼をすると、宿泊所を後にする。ゼゼルは魔族でありながら、自らのプライドより命令というものを優先する。普通の魔族なら1人で何とかしようとして失敗するんだけど、ゼゼルは僕が言ったことを忠実にこなす。まぁ、彼なりに打算で動いてるんだろうけど、扱いやすくて重宝している。
「まぁ、あの2人なら何とかなると思うけど、対応が早いな。前の魔王さんの仕業だね。まぁ、どっちでもいいんだけどね……」
僕は意識を近づいてくる魔力の方角に飛ばしていく。【遠見】のユニークスキル。異世界人から奪ったスキルでその名の通り、遠くの事を見渡せる便利なスキルだ。
「さて、どんなお出迎えをしてくれるのか楽しみにしておくよ。ルシフェル・ファルファレルロさん。」
†
ラース大陸に至る所から瘴気が噴出しており、あらゆるものが高濃度の魔力を帯びている。それはそこに住む動植物や魔物、魔族に至るまで例外ではない。ただ、あまりにも濃い瘴気の為に、弱い個体は生きていくことすらままならない土地となっている。
そこに2つの人影が飛行している。どちらも上級魔族であることを示す立派な皮膜の翼を持っている。物凄い速さで南西の海岸線へと移動しているが、不意にこの魔族2体の前に立ちふさがる存在があった。
「おい。そんなに急いでどこ行くってんだぁ?あぁっ!?」
重厚な鎧を着たリザードマンのような魔族、三魔将のゼゼルである。
「何か用事があるのなら、儂らが代わりに聞こうかの?」
背が曲がり皺だらけの顔を持つ高齢の魔族、もう1人の三魔将のドノヴァンだ。
彼らは魔力をぶつける様に、目の前の魔族に対峙するが、相手は全く動じた様子はない。そして、無言なまま3分ほどにらみ合いが続いた。
「……ドノヴァンか。何故、ラース大陸へ戻って来た?」
一方の魔族、全身が青い肌をした者がようやく声を出した。
「ふぉっふぉっふぉ……儂の事を知っておるのか?どこの手のモノじゃ?」
「……」
相手は無言のままだった。
「てめぇらっ!!ふざけやがって!言いたくねぇなら言いたくなるようにしてやるわっ!!」
沈黙を破ったのはゼゼルであった。腰に提げた手斧に手をかけ、目に見えない速度で懐に入り込み、もう一方の赤い肌をした魔族を横薙ぎに払う。
「ぐがっ……」
赤い肌の魔族は胴体が分断され、上半身と下半身が瘴気の炎に包まれる。
「へっ!!呆気ない……。おいっ!!青いのっ!!さっさと言うんだよっ!!どこの手のモノだっ!!」
ゼゼルはニヤリと笑いながら青い肌の魔族を睨み付ける。
「ゼゼル殿。ちと先走り過ぎではないか?」
ドノヴァンはゼゼルを窘めるがその行為そのものを咎めるつもりはないようだ。
「だが、ドノヴァン老師もこんな方法、嫌いじゃないで……ぐああああああああっ!!」
余裕を見せていたゼゼルが突如苦しみ始める。見ると、太くて強靭なゼゼルの尾が切断されており、瘴気の炎に包まれている。そして、それは徐々にゼゼルの体を蝕みつづけているようだ。
「ほぅ……面白い技を使うようじゃの。赤いの。」
ドノヴァンはそう言うと、ゼゼルを包もうとしていた瘴気の炎の一部が離れ、赤い肌の魔族の上半身を形作る。
「オレはバアルだ。そっちのトカゲはもうすぐ死ぬ。そちらの目的を聞こうか。」
バアルと名乗った赤い肌の魔族は無表情のまま、そう告げる。
「くそっ!!くそっ!!こんなもんで死ねるかっ!!ボケぇぇぇぇっ!!」
ゼゼルの叫び越えと共に ザンッ という音が響く。ゼゼルから大量の血が流れ落ちる。瘴気の炎で蝕まれた箇所を自らの手斧で切断し、切り離したのだ。それによって、臀部の大部分と左の太もも裏が消失している。
「ゼゼル殿、無理をしおる。まぁ、せいぜい死なんようにの。で、赤いの。目的と言うたか。それは魔王クロウ様でないと解らぬわい。儂らはクロウ様の仰せられるまま動いておるのだからの。ほれ、こちらの目的を話したのじゃ。そっちもどこの誰だかを言ってもらおうかの?」
横で血まみれになっているゼゼルを一瞥するが、飄々とバアルに向き直り、質問を続ける。
「オレたちは、ラースの王の配下。大きな魔力の接近の調査を命じられた。」
「バアルっ!!勝手に喋るなっ!!我らの使命はそれ以外にもあるだろうがっ!!」
声を荒げたのは青い肌の魔族だった。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……勝手に……話を進めてんじゃねぇっ!!ふぐっ!!がああああっ!!」
ゼゼルは大気を震わせるほどの咆哮とともに、切断された尻尾や消失した部分が一瞬にして再生される。
「本当にトカゲみたいな奴だ。うちの大将もお前みたいな面白い奴なら配下に迎えてくれるだろう。」
バアルが無表情な顔を歪めて笑って見せる。
「ふざけんじゃねぇぞっ!!舐めやがって!!俺はクロウ様の配下だっ!!それだけは変わらねぇっ!!」
激昂したゼゼルは魔力を放出する。その衝撃で、バアルと青い肌の魔族は吹き飛ばされ、地面に激突する。
「ゼゼル殿よ。気が済んだかの?そろそろクロウ様の元へ帰ったほうがいいじゃろう。ここでの消耗することはクロウ様とて、望んではおるまいて……」
「ですがっ!!……いや、そうですね。ドノヴァン老師がいてくれて良かった。」
ドノヴァンの言葉に一旦は食いついたゼゼルであったが、先ほどまでの激昂が嘘のように、落ち着きを払った表情に戻っていた。
「ふぉっふぉっふぉ。さすがゼゼル殿だ。引き際がよく解っておるな。では、帰るとするかの……」
ドノヴァンは何やら唱えると纏っているローブからいくつかの影が放たれる。
「ドノヴァン老師……先ほどのは?」
「あれか?あれは儂の使い魔たちじゃよ。ほれ、クロウ様の所まで競争じゃ。負けたら儂の術の実験台になってもらうからの。」
醜悪な皺をさらに歪め、ドノヴァンは笑いながら南西に向かい飛び去って行く。しばらく茫然としていたゼゼルであったが、我に返ると魔力を纏い、もと来た方角へ、ドノヴァンを追っていくのであった。
地面には未だ土煙が収まらずにいた。バアルと青い肌の魔族は暫く地中に埋もれたまま動けないでいたのだった。
「何なのだ。あのトカゲは……。あの魔力の衝撃波以外にも何かやってきたぞ。」
「バアル。見た目だけで判断するのはお前の悪い癖だ。」
2人の胸部には大きな風穴があいていた。そこからドクドクと大量の血が流れだしている。しかし、その血は瘴気の炎に変わり、2人を包む。紫色の炎に焼かれながら、2人の傷が徐々に癒えていく。風穴も塞がっていき、完全に塞がるには1時間ほどの時間を要したが。
「ガープ。とにかく、報告に戻ったほうがいい。癒しの炎でもう飛ぶことが可能だろう。」
「バアルよ。助かった。しかし、お前の軽率な行動も報告させてもらう。」
赤い肌の魔族バアルと青い肌の魔族ガープはそれきり無言で北東の方角の空へと飛び立っていった。
そして、その後を黒い影たちが追うようにして姿を消した。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
※次回の更新は11/6を予定しております。




