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79、帰還

ハッピーハロウィーン♪♪

仮装する以外、ハロウィンって何するんでしょうね?いまだにハロウィンのシステムがわからないです(笑)

 †



 雑多な街並はどこの地域、どこの国だろうとあるだろう。ここビザンツ帝国の帝都ビザンティンであっても、そんな街並は存在した。人間至上主義を主張するこの国にあって、様々な人種が入り混じる一風変わった場所。ここは帝都のなかでもスラムに近い商業地区だ。


 多くの人々が行き交う雑踏の中を縫うように、黒いフードを被った人影が2つ、一定のスピードで移動していく。特に走ったりしているわけではないのだが、普通の人が走るよりも断然速い速度で2つの影は1つの目的の場所まで移動していた。


 この商業地区にあって、一番の賑わいと熱狂が渦巻いている場所。それは薄汚いが丈夫で分厚い布で建てられた巨大テント。月に一度この場所では大陸中から集められた珍品が非合法のオークションに掛けられるのだ。それに引き寄せられるように、大陸中の有象無象がこの場所へと集まって来る。


 このテントに入るには多額の賂が必要とされる。2つの黒いフードもテントの前の屈強な男たちにパンパンに膨らんだ革袋を渡す。130kgは軽く超える巨漢がしばらく2人を睨み付けると顎をしゃくる。通っていいとの合図だ。

 テント内は外見からは想像もつかないほど豪華な装飾が施されており、どこかの王宮に紛れ込んだかと思えるほどだった。そして、中で談笑している人の多くは人間の貴族のようで、上質な衣服の者が多い。そして、そういった輩は決まって、目鼻を隠す仮面をつけている。他にも、山賊の首領の様な者、上級の聖職者のような者、エルフやドワーフ、獣人まで、雑多な人々でごった返していた。黒いフードを目深にかぶった2人が増えた所で何の違和感もないほどに……


『それでは今月のビザンティン・シークレットオークションを開催いたします。それでは早速、商品ナンバー01からスタートいたします。』


 舞台上では仮面をつけた司会らしき男が声を張り上げると、商品が運ばれてくる。最初は宝剣のようだ。宝石が散りばめられた儀礼用の剣がビロードの台座に包まれるように鎮座している。それが光魔術によって照らし出されると、観客たちから感嘆が上がる。


「例の物は何番目だったかしら。」

 黒いフードの1人が声を上げる。


「3番目だ。それで、金は持ってきたのか?」

 それにもう一人の黒フードが答える。その声はオークションの喧騒にすぐに掻き消えてしまう。


「お金?まぁ、それなりにね。でも、現物を見ないで大丈夫なの?ニセモノって可能性もあるんでしょ?」

「いや、少しずつだが力が増している。間違うはずがない。」

「そう。なら、大丈夫ね。」

 2人の会話はそれきりとなり、オークションの熱気に溶け込むように気配が消えていった。



 2つ目の商品も激しい競り合いの内に仮面をつけ、でっぷりと太った貴族風の男に競り落とされたようだ。

 そして、3番目の商品が引き出されてくる。それは大きな品物だった。そして、真紅の掛け布が外される。

 これまでにない感嘆に会場が包まれる。それは台座にスッと立つ少女の石像だった。何かを掻き抱くかのように胸の前で両手を重ねるポーズを取っている。そして、実に穏やかで慈悲に溢れた表情は見る物の心を癒してくれるようだった。


「サフィーナ……迎えに来たぞ。」

 黒いフードの1人は誰にも聞こえない声でその石像に向けてそう呟いた。



 †



 ふん!人間以外にもいるではないかっ!!せっかく珍品が見られるというからわざわざこんな薄汚い所に足を運んだというのに……後で、このオークションを紹介しおった出入り商人に罰を与えねばな。


「なぜ獣人やエルフがいるのだっ!!臭くて叶わんっ!!不愉快だっ!!」

 儂は執事のオードに怒りをぶつける。

「アーノルド様、仕方がございません。このオークションは大陸中の珍品が勢ぞろいする滅多にない物。それだけの品が集まっている証拠かと……」

 上質な執事服に身を包んだオードだったが、気弱気な物言いが癪に障る。

「そんなことは解っておるっ!この儂を誰だと思っておるっ!!」

 一通りオードへ怒りをぶつけるが、どこまで理解できているか解らない。全くもって使えん奴だ。


 儂は子爵位でしかないが、このビザンツ帝国において重要なポジションについている。それは絶対神フィーネリアを信仰する神聖教会の枢機卿という地位だ。この地位を買うのに多少金を使う事になったがその後のリターンを考えると思わず顔が緩んでしまう。爵位などどうという事はない。いずれは……おっと、お目当ての品のオークションが始まるようだな。


「それでは、続きまして商品ナンバー03です。」


 おぉ!……おぉぉぉっ!!!これは……まさに、フィーネリア様が形を成したような姿だ……美しい……美しすぎる……信仰心などどうでもよいと思っていたが、神々しいとはこのような物を言うのか……

 これを手に入れれば他の枢機卿たちとの差もつけられる。それに、大々的に宣伝すれば我が領地へ大陸各地から信徒がやって来るだろう……ふっふっふ……素晴らしい拾い物だ。おぉ!フィーネリア様、感謝いたしますぞ。ふははははは!!


「それでは、少女の石像、1万ゴートからスタートいたします。」

 司会者のスタートの声と共に、金額が一気に跳ね上がる。そして、あっという間に40万ゴートにまで引き上がった。残ったのは儂と、貴族風の男、そして、黒いフードの男だった。


「41万ゴート!!」

「41万5000ゴート!!」

「42万ゴート!!」

 それぞれが5000ずつ刻んでくる。ええい!鬱陶しい奴らめ!!


「45万ゴート!!」

 どうだ!これで儂に決まりだ。


「……45万5000ゴート!!」

 貴族風の男が食いついてくる。忌々しい……


「47万ゴート!!」

 ふん!早く決めてやろう。黒いフードの男は沈黙した。まぁ、小汚い恰好の割には頑張ったというところかな。はんっ!


「47万5000ゴート……」

 青い顔をしながら貴族風の男が食い下がる。ふん、もうすぐか……


「50万ゴート!!」

「くっ……」


『50万、50万ゴートが出ました。白い仮面の貴族様です。』

 ふん、貴族風の男はついに心が折れたようだ。多少、予定より多くかかってしまったがそれでも予算内だ。問題ないだろう。


『他にありませんか?他にありませんか?他にありませんでしたら、白い仮面の――――』


「70万ゴート。」


『おぉぉぉぉぉっ!!!』


 な……に!?誰だっ!?


『おっと、お値段一気に上がって70万!70万ゴートがでました。黒いフードのお客様。』


 横に目を移すと、先ほどまで俯いていたフードの男が手札を上げている。むむぅ……何故あのような奴が大金を払えるというのだ。忌々しい!!忌々しい!!忌々しいぞっ!!


「80万だっ!!これでどうだっ!!」


『おぉぉぉぉっ!!』


「100万ゴート。」


『おおおおおっ!!』

 なにぃぃぃぃっ!?


『大台の100万ゴートです。100万ゴートが出されました。黒いフードのお客様です。』


 何故だ……何故こいつは儂の邪魔をするっ!!予算などとっくにオーバーしてしまったではないかっ!!くそっ!!くそっ!くそーーっ!!


「110万ゴートだっ!!どうだっ!!これでも儂と競るというのかっ!!」


「じゃ、300万ゴートで。」


『えーと……さ、さんびゃく!? えー、ゴホン。300万ゴートですっ!!300万ゴートが提示されましたっ!!本日最高額でございます。黒いフードのお客様です。』


 300万だとっ!!小さな領地持ちの年間予算に匹敵する額をこんな石像に出すだとっ!?はははは……狂ってるな。このフードの男は狂っている……しかし……それ以上に、忌々しいぞっ!!儂をコケにしおって……


『他にございませんね?それでは商品ナンバー03は黒いフードのお客様が落札されました。』

 司会の言葉に、会場から盛大な拍手が起こる。しかし、黒いフードの男は不愛想に、立ち上がり、品物受け取りの手続きに向かう。


「おいっ!!オード。あの黒いフードの男をつけろ。手段は問わん。あの石像を手に入れろ。」

 儂はオードを呼びつけると耳打ちをする。少し逡巡するような仕草をしたオードだが、慇懃に頭を下げて、会場から出ていった。相変わらず、トロいヤツめ。主の気持ちくらい察して動けないものか……長い事雇ってやっているというのに……嘆かわしい。


『続きまして、商品ナンバー04、こちらからは高級奴隷のオークションとなり――――』


 ふん、オードが上手くやる間、新しい性奴隷でも物色するか……



 †



「ユウマさん、気付いてる?後ろ……」

 雑踏の中、黒いフードを取ったアイリが前方を向いたまま話しかけてきた。


「ああ、8人……いや、9人か。尾行にしてはお粗末だな。殺気を抑えるとか全くしてないし、素人も混ざってるな。」

 俺は石像を乗せた荷車を曳きながら同じくフードを取る。オークション会場から石像を引き渡され、出るとすでに追跡者が数名俺たちの後について来ていたのだ。


 この石像からサフィーナの魔力をかすかに感じる。しかも、その姿は少しだけ大きくなったサフィーナの姿だ。早くこの石化したサフィーナを元に戻してやりたいが、今はそういうわけにはいかないようだ。


「人気のいない場所に誘い込むか。あのままだとサフィーナが可哀想だからな。」

「そうだね。私も早くサフィーナちゃんに会いたいもの……」

 俺たちは少しだけ目を合わせ、薄暗い路地へと荷車を引いていく。襲うにはうってつけの路地だ。恐らく、食いついてくるだろう。


 しばらく、ゆっくりと荷車を引いて路地を進んでいく。

 

 囲まれたか……前に5人、後ろに4人か……この辺の連携は離れしている者のそれのようだ。


「ちょっと待ちな。そこの荷車のもの、置いてっちゃくれないか?」

 前に立ちふさがった大柄な男が声をかける。荒事が得意そうなドスのきいた声だ。


「急いでるんだがな。さっきのオークション会場にもいたな。お前ら。それからそっちのオッサン。オードさんだっけ?アーノルド子爵んとこの執事だろ?なら、他のやつらは雇われた暴漢ってところか。」

 俺は大柄の男に隠れるように立っていたマッチ棒のような男、オードを睨み付ける。もちろん、半分はハッタリだ。この男たちの見覚えなんてない。ただ、看破を使い、この場所にに使わない男の名前と役職を告げてやっただけだ。


「ひぃっ……な、なぜそれを……きちんとマスクをしていたのに……」

 解りやすくオードは動揺する。って、自分でそれ言ったら俺の言ったこと認めることになるんだけど、解ってんのか?


「うるせえっ!!死にたくなけりゃ、その荷車を置いてきな!」

 大柄の男が凄み、声を上げると、俺たちを囲んでいた男たちは持っていた得物を構える。多くのものは短剣だが、正面の大柄の男以外は、明らかに使い慣れていない様子だった。


「アイリ、一応、殺さずにな。ケガくらいは仕方ないだろう。後ろの奴らを任せた。」

「了解。」

 アイリに声をかけると同時に、俺たちは動きだす。


 アイリは男たちに躍り掛かり、懐に入ると軽い当身を鳩尾や眉間、顎に入れていく。それだけで男たちは棒のように倒れていく。うわっ……全員、一撃でKOさせてる……アイリ、怖ぇ……まったく殺気も出ていない。

 こちらも、威圧で相手を気絶させていく。なんか、俺の場合、睨むだけって……味気ないな。かといって、力の調節は難しいからな。面倒がないようにさっさとこんなところから転移してしまいたい。


 俺たちの周りには8人の男たちが倒れている。あと1人は後ろ、アイリの担当か。にしても、妙に時間かかってるな……


「あの、ユウマさん……どうしよう。」

 後ろからアイリの困ったような声が聞こえてくる。振り返ると、アイリの前に涙目で短剣を突き出している少女がいる。いや、20歳前半といったところか。赤髪のショートヘア、ボーイッシュな女性だった。看破してステータスを見ると、他の男たちと違い、冒険者のようだ。ということは彼女だけは別口だろうか……。でも、剣を突き付けてきてるしな……。


「アイリ、俺が話してみるよ。彼女は例の暴漢どもとは違うみたいだしな。」

 俺はアイリと赤髪の女性の間に入った。


「どういうつもりだ?お前も俺たちが買い取った石像を奪いに来たのか?だったら、転がってる男どもと同じように対処するが?」

 俺は極力感情を出さずに、そう言った。


「えと……いきなり、戦闘になったから……私もやられるかもって思って……奪うとか……そんなんじゃなくて……」

 赤髪の女性はプルプルと震えている。それでも、絞り出すようにそれだけを口にする。思えば、目の前で屈強な男たちが一撃のもとに倒れていったのだ。確かにびっくりはするだろう。ただ、違和感はある。


「なら、なんで俺たちをつけてきた?見たところ冒険者のようだけど、誰かの依頼か?」

「依頼じゃない……私は、その石像……サフィーナちゃんが心配で……」

 ボソリとつぶやいたがに間違いなくサフィーナという言葉をこの女性は言ったのだ。


「「サフィーナちゃん!?」」

 驚きの声はアイリとシンクロする。


「どういうことなの?サフィーナちゃんの知り合い?ってことは、サフィーナちゃんってビザンツ帝国にいたってこと?えーと……」

「あ、レイラって言います。ってことは……へっ!?えーと、お二人はサフィーナちゃんのお知り合いなんですか!?えええええぇぇぇぇっ!?」

 どうやら、レイラはサフィーナの関係者らしい。見た所、悪い奴ではなさそうだ。


「あー、とりあえず、こんな場所じゃなくて落ち着いた所へ行きたいんだが、レイラさん……だったか。俺はユウマ、で、こっちはアイリだ。で、サフィーナは俺たちの家族みたいなもんだ。場所を移していいかな?」

「あ、はい。大丈夫です。」

「なら、ちょっと驚くかもしれないけど、エルドランに飛ぶぞ。」

 そういうと、俺とアイリ、そして、石像とレイラを中心に空間転移を行なう。一瞬にして、足元に魔法陣が浮かび上がり、白い光が俺たちを包んでいく。


「えっ!?何これ……えっ?えええ!?ええええええええぇぇぇぇぇっ!?」

 レイラの絶叫とともに、俺たちはビザンツ帝国の路地裏からエルドランへと転移していった。



「うわっ!?景色が変わった!!ここどこですかっ!!私、誘拐されてる?あわわわ……身代金なんて払ってくれる人なんていないですよっ!……はっ!?もしかして、私の体が目的で……うわーん……どうしよ……どうしよー!!サフィーナちゃんの事、守ろうと近くにいようって誓ったけど、まさかこんな事になるなんてーー!!アキラさんはサフィーナちゃんの石化を解くために色々研究してるみたいだけど、ハクト皇国の牢屋からはまだ出れないしー……こんな事になるなら、あの時、石化したサフィーナちゃんを抱えて、私の家に隠しておくんだったー!!って、石化したサフィーナちゃん、抱えるのなんて無理か……あの後、ハクト皇国の兵隊さんが来て、サフィーナちゃん持ってかれるし……石像として色々な貴族の家に売られるし……それでも、私は近くにいようって、メイドになって潜り込んだりして、頑張ったんだよ……でも、サフィーナちゃんが買われた家は、何故かあれよあれよと衰退して、転売に次ぐ転売、気付いたらビザンツ帝国まで来ちゃったっていうのにー!!今度も買い取った人に近づこうとしたら、争いに巻き込まれて……攫われて、嫌ぁーーー!!何で私って、いつもこんな感じなんだろう……」

 何か知らんが、一気に色々と喋ったぞ……とにかく、なんとなく状況が解ったような気がするが、このレイラという女性は、アホな子なのは完全に理解した。


「えーと、レイラさん?大丈夫ですよ。ここはエルドラン。ガラハド連合国の主要都市の1つです。それに、ここはサフィーナちゃんの故郷でもあるんです。」

 錯乱状態のレイラにアイリは優しく声をかける。


「そうだぞ。色々とサフィーナが世話になったみたいだしな。それに、レイラの体が目的なんて……(うーん、なかなかスタイルはいいよな。)そんな事考えたら、アイリに殺されてしまうからな。」

「あら?今、ユウマさん、変な事考えましたよね?私、ユウマさんの考えることくらい解りますからね?」

 全身の毛穴が収縮する。悪寒が全身を駆け巡る。変な汗が大量に流れ落ちる。とんでもないプレッシャーがアイリから放たれている。

「すいませんすいません……、アイリさんが一番です。私が馬鹿でした。許してください。」

「もう。ユウマさんは相変わらずですね。気を付けてくださいよ。私だって、傷つくんですからね。」

 アイリからのプレッシャーが消える。そして、なかなか可愛い事を言ってくれる。これは今夜あたり……げふんげふん……おっと、いかん。今はレイラの事だったな。


「あのー、お二人ってそう言う関係なんですね?なら、あれ?サフィーナちゃんとは兄妹か何かですか?」

 ようやく常人モードに戻ったレイラが質問してくる。


「兄妹じゃないけど、そんなような感じかな。森の中に1人でいたサフィーナを俺が保護したんだ。」

「そうそう、ユウマさんったら、森に入って幼女を連れ帰って来るんだもん。あの時は、ビックリしたわよ。」

 うっ……それは俺の黒歴史だから、そっとしておいてほしいんだが……

「えっ!?それって幼女誘拐ですか!?しかも、妹のようにって……洗脳してるって、滅茶苦茶ひどい変態さんじゃないですかっ!?」

 ぐはあぁっ!!レイラ……こいつも的確に人の急所を抉ってきやがる……でも、俺はあの頃の俺ではない!

「いや、違うんだよ?夜の森で1人の女の子がいたら危険だろ?だから、村に連れ帰っただけだ。やましい気持ちなんてコレっぽっちもなかったからな。あ、そうだ!捨て犬を拾ってくる感覚だ。そう!あの感じな。」

「へぇー、ユウマさんって犬拾う感覚で幼女連れて帰るんですね……それはそれで、ドン引きです。」

 ぐああはっ!!いかん。レイラめ!凄まじい返しを……いや、これは墓穴を掘ったのは俺か……何か巻き返しの一手を……

「誤解だからな。変な事を考えるなよ!(威圧)」

 最後の手段で軽い威圧をレイラにぶつけてやる。

「ひぃぃぃ!!わ、わか、解りましたです。解りましたですぅぅ!!」

 ガクガクと震えながら首を縦にコクコクと頷いている。


「ははははっ!そうか解ってくれたか!俺も解ってくれたならい……べぶしっ!!」

 気付くと、いつの間にか俺の脳天にアイリの手刀が振り下ろされていた。

「ユウマさん……レイラさんに何てことしてるんですか!!」

 目を三角にしたアイリが仁王立ちで睨み付けていた。

「あはは……いや、これは軽いジョークで……あ、いや、はい。すいませんでした。悪ノリでした。」

 ここは体を90度以上曲げての謝罪一択だ。もしかしたら、アイリの威圧を覚えたのかもしれない。そう思えるほど、アイリの睨みは強烈だった。


「ふふふっ。サフィーナちゃんが会いたかったユウマさんって、こんな人だったんですね。なんとなく解った気がしました。」

 俺とアイリの夫婦漫才を見ながらレイラが笑いながらそう言った。俺とアイリもそれを聞いて、苦笑しながら見つめ合う。


「そうだな。そろそろサフィーナを元に戻してやらないとな。」

 俺はサフィーナを包んでいた布を外していく。そこには、微笑みを浮かべたサフィーナの変わらぬ姿があった。

「えっ!?元に戻すって……そんなことできるんですか!?」

「ああ、たぶんな。サフィーナの魔力も感じるし、出来ないことはないと思う。アイリ、アイリも手伝ってくれないか?」

「もちろんよ。」

 俺たちはサフィーナの両肩にそれぞれ手を置いた。そして、ゆっくりと魔力を流していく。


 俺の魔力が中心にあるサフィーナの魔力を包んでいくのが解る。アイリの魔力も同じように包んでいく。何重にも俺とアイリの魔力が層のようにサフィーナの魔力を包んでいく。そして、徐々に、それらは混じり合い、温かい光を放ち始める。


「わわわわっ!なに!?なんだか解らないけど、すごい……すごい綺麗……」

 レイラがその様子に思わず声を漏らす。


 虹色の輝きがサフィーナを包み、さらに周囲の俺たちも包み込んでいく。懐かしい気配が近づいてくるのがわかる。


 ~♪~♪~♪~♪


 不意に背後から歌が聞こえてくる。その声からするとレイラのものだろう。優しく、それでいてノスタルジックな歌声が虹色の輝きに溶けていく。


 ~♪~♪~♪~♪


 ゆったりとしたメロディが俺にも心地よさで包んでくれる。サフィーナの魔力が次第に高まって来るのが解る。虹色の輝きが一段と強さを増していく。


 ~♪~♪~♪~♪


 レイラの歌が静かに終わる。それに伴い、虹色の輝きも消えていった。その中心にあるサフィーナは、それまでの石像の硬質な質感は既になく、生き物のそれになっている。その肌に生命力のある赤みがさす。


 そして、静かにサフィーナの瞼が開かれた。


「サフィーナ!解るか?俺だ。ユウマだ。大丈夫か?」

「サフィーナちゃん!アイリだよ?わかる?」

「サフィーナちゃん!!サフィーナちゃん!!サフィーナちゃん!!」

 それぞれがサフィーナへ呼びかける。しばらく茫然としていたサフィーナだったが、俺たちを見ると表情が崩れる。


「ユウマ……会いたかった……会いたかったよ……」


 サフィーナは俺の胸へと飛び込んできた。


 俺はそれを優しく受け止め、しっかりと抱きしめることしかできなかった。





最後まで読んでくださってありがとうございます。


※次回の更新は11/3を予定しております。

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