76、サフィーナストーリーズ 2
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見つからない……もう、3日間ほど探してるのに、全然見つからない。ハクト皇国にいるんじゃないの?アキラって人……
「どうしていないのーーー!!アキラって人ーーー!!」
思わず叫んでしまった。隣りの赤髪の少女に冷たい視線を受ける。
「いやいや、サフィーナちゃん。ハクト皇国領に入ったけど、基本、山ん中だよ?探したのも山間の小さな村を4つほど探しだだけでしょ?そりゃ見つからないって。」
むぅ……レイラのクセに、正論だ……。でも、ハクト皇国といっても、村の作りや雰囲気はガラハド連合国とさほど変わらない。しいて言うなら、住んでいるの人間の割合が多いというくらいだろうか。それでも、エルフやドワーフ、獣人たちがいないわけではない。国境を越えたといってもそこまで変わってしまうわけではないようだ。
「サフィーナちゃん。そろそろこの村で食料を買い足さないともう保存食ないよ。店らしいものもないし、直接、一軒一軒回って食料を分けて貰わないと……って、何やってるのよ!」
もう……レイラうるさいな。畑に何かないか、ちょっと見てただけなのに。ん?視線が複数……殺気?
「何やってんだ!!お前たち野菜泥棒かっ!!!!」
ものすごい怒鳴り声とともに、近くの家から棒を持った男が飛び出してきた。その後ろには、同じように棒を持った12歳くらい少年がこちらを必死に睨みつけてくる。
「『お前たち』って……あぁ、私もカウントされてるよ!!サフィーナちゃん、だから言ったじゃない。勝手に畑なんか入っちゃダメだって!!」
「レイラ、そんなこと一言も言ってないよ。あぁ、でも、泥棒なんてしてないし、話せばちゃんとわかってくれるでしょ?」
にしても、野菜泥棒に向けてくる視線にしては、殺気がこもってるのは何でだろう……。
「お、おいっ!!何勝手に喋ってやがる!!お前たちがいつも野菜を盗ってる奴らだろ!!今日こそはとっちめてやるからなっ!!」
「父ちゃんの野菜を盗りやがって!!ボコボコにしてやる!!」
いつも?サフィーナがこの村に来たのは初めてなのに……、これは誰かと間違えられている?
「いやいや、私たちはこの村にさっき来たところなんです。それに少ないですがお金も持ってます。保存食を分けてもらいに寄っただけです。」
レイラが棒を持った親子を宥めるように声をかける。
「そんなこと信用できるかっ!!お前らのせいで、母ちゃんが……母ちゃんが……」
少年が両目に涙を溜めて、必死に声を張り上げる。その手に持った棒はプルプルと震えているのは恐怖からだけではないみたい。
「お母さんがどうしたの?」
サフィーナはつい、聞いてしまった。それは関係ないこと。でも、野菜泥棒とこの少年のお母さんがどう関係しているのか、それが無性に気になったのだ。
「まずちゃんと謝らないと。サフィーナちゃんが勝手に畑に入ったのが原因なんだから。めっだよ!それからちゃんと野菜泥棒じゃない事とかお母さんの事を聞かなきゃ。」
うぅ……そうか。レイラの癖に、なんかアイリみたいな口調……
「えと……あの……勝手に畑に入ってごめんなさい。お腹が減って、畑が気になって入ってしまいました。本当にごめんなさい。」
サフィーナは頭を膝につくほど下げて謝る。そうだ。まずは謝らなきゃ。
「私もサフィーナちゃんをちゃんと止めれずに、ごめんなさい。それに私たちは冒険者なの。メンバーカードもあるので確かめてもらえば解ります。あの、私はレイラっていいます。で、この子はサフィーナです。本当にごめんなさい。」
レイラもサフィーナに負けないくらい頭を下げて一緒に謝ってくれた。うぅ……なんか気持ちがモヤモヤする。レイラは悪くないのに……。
「うん?冒険者だぁ?そんな小っこいのにか?」
棒を持った男の人が疑いの目を向けてくる。それにはちょっとイラっとしたけど、我慢して首にかけた冒険者のメンバーカードを取り出して見せた。
「うぇっ!?サフィーナちゃんってCランクだったの!?確かに、冒険者登録してるって話は聞いてたけど、身分証代わりに作っただけだと思ってたのに……。負けたぁ……完敗だぁ……。」
レイラは何を言ってるんだろう。目の前で魔法使って飛んでみたり、色々とすごい事してるのに……。やっぱりレイラってバカなのかな。
「あっ!今、サフィーナちゃん、私のことバカだって思ったでしょ!!せっかく一緒に謝ってあげたのに!!」
「でも、レイラの怪我をポーションで治したり、空を飛んだり見せたのサフィーナだよ?ふふん♪」
「『ふふん♪」じゃねーよっ!!反省してないでしょっ!!」
うん、レイラをおちょくるの面白い……。なんかユウマみたい。
「お、おい……小っこいの。今、ポーションって言ったか!?もしかして、今も持ってたりするのか?ポーション……」
サフィーナたちのやり取りを半ば茫然と聞いていた男の人が慌てて割り込んできた。
「ん?あるよ。えと、サフィーナたちを許してくれるの?」
「いやいや、サフィーナたちって私は完全に巻き込まれただけだからね!許されるのはサフィーナちゃんだけだから!!」
うん、レイラなんかうるさい。ちょっといい感じのバカな子だと思ってたのに……
「今、すっごく失礼な事考えてなかった?」
「ぎ、ギクリ」
「言葉で『ギクリ』なんかいう奴がいるかー!!で、やっぱり失礼な事考えてたのかーい!!」
もう……レイラがさっきからうるさい。プリプリ怒ってる。プリ×2レイラだ。
「おい!!お前らっ!!さっきから絶対反省してねぇだろっ!!」
棒を持った少年が顔を真っ赤にしながらサフィーナたちを怒鳴りつける。むぅ……ごめんって言ったのに……レイラのせいだ。
「いや、コンタ。もういい。この子たちを許してやろう。」
「で、でも!父ちゃんっ!!こいつら野菜泥棒だよっ!!」
少年のコンタ?が必死に言い募るが父親の方の人がそれを制して、サフィーナたちの方に向き直る。
「勝手に畑に入ったことは許してやる。それに、野菜泥棒じゃないってことも信用してやる。その代わり……ポーションを売ってくれないか?俺の妻が、この前、原因不明の病で倒れてたんだ。ポーションがあればよくなるかもしれねぇ……頼む。」
男は棒を手放し、サフィーナたちに逆に頭を下げてきた。周りを見ると、騒ぎを聞きつけた村人たちが数人、遠巻きにサフィーナたちの様子を窺っている。まぁ、あれだけ大きな声を出してたら気になるか。
「いいよ。ポーションあげる。お金はいらない。その前に、コンタのお母さんに会わせて。」
そもそもポーションは体力が回復するだけだ。病気は薬か、専用の魔法じゃないと完治はしない。つまり、ポーションを渡しただけでは病気のお母さんは良くならない。
「えっ!ポーションをくれるってのか!それはありがたいが……本当にいいのか?後で金を請求されても――」
「お金はいらない。代わりに食べ物が欲しい。美味しい保存食がベスト。」
「サフィーナちゃんって太っ腹だけど抜け目ないよね。」
レイラ、うるさい。
「と、父ちゃん!本当に信用するのかよ!それに母ちゃんに会いたいって、母ちゃんを人質にする気じゃ……」
「こらっ!!コンタっ!!俺はこの子らを信用するって言ったんだ!それにこの子らも腹空かせてんだろ?飯くらいどうってことない。ここは父ちゃんに任せてグダグダ言うな!!お前は先に帰って飯の準備でもしておけっ!!」
父親の人は怒鳴ってコンタを無理やりいう事をきかせる。でも、重要な事を言っていた。このコンタって子がご飯を作るのか……むぅ……聞いてみるか。
「コンタ。ちょっと聞きたい。」
「な、なんだよ!白い髪!」
「……コンタの作るご飯は美味しい?」
「うるせーー!!知るかーー!!」
コンタは顔を真っ赤にして、家の中に入って行ってしまった。
「サフィーナちゃん。空気を読むって知ってるかな……」
もう、サフィーナは風魔法使えるんだから空気くらい読めるよ。レイラったらバカだな。
「なら、あんたら、俺についてきてくれ。妻を……マーファを助けてやってくれ。あぁ、俺はゴンダっていうんだ。この村の若衆頭をしてる。保存食については出来るだけ良い物を用意する。」
後から聞くと、『若衆頭』ってのは村長さんの補佐をしたりする人のリーダーみたいな役割なんだって。サフィーナたちはゴンダの後に続いて、家の中に入って行った。少し広めの一軒家だったが、掃除が行き届いてないのか汚れが目についた。マーファが病気になったからかな。
「おい。俺だ。お前の病気を診てくれる人を連れてきた。」
ゴンダは声をかけると、とある部屋の扉を開けた。中にはベッドに横たわった女の人が身体を起こしてこちらを出迎える。
「あなた……さっき外で騒いでたのは、この方たちと?」
女の人は静かな口調だったが、弱々しいものは感じなかった。でも、顔色がひどく悪いのが気になった。真っ青なのだ。
「冒険者のレイラとサフィーナです。食べ物を分けて貰おうと思ってこの村に寄ったんですが、その……いろいろと行き違いがあったみたいで……えーと、えへへ。」
レイラが苦笑いしながら状況を説明している。
「サフィーナっていいます。まずは、このポーションを飲んでみて。」
サフィーナはマーファにポーションを手渡す。これは普通のポーションだ。病人に効果の高すぎるハイポーションは逆に危ないらしいから。マーファはコクリと頷いて、ポーションを一気に呷る。すると、顔に赤みが差してきた。しかし、これで終わりというわけではない。
「ありがとうございます。大分、気持ちが楽になったように思います。」
マーファはベッドに座った状態で深々とお辞儀をしてくれた。
「まだ、終わりじゃないよ。ちょっとおでこ触るね。」
サフィーナは手をマーファのおでこに当てて、光魔法の魔力を少しずつ送って行く。すると、お腹の辺りで何かが引っ掛かる。魔力の通りが悪い。いや、何かに魔力が吸収されているような感覚がある。
「これ……もしかしたら、マーファのお腹の中に魔核が出来てきているのかも……」
ふっと思い当たったことを口にする。
「ば、バカなことをいうなっ!!マーファは魔物じゃないんだぞっ!!魔核なんかが身体の中にあってたまるかっ!!」
ゴンダが凄い剣幕で怒鳴り散らす。うるさいな。でも、それ以外考えられない。
「そ、そうだよ。サフィーナちゃん。人間の身体から魔核が出てきたなんて聞いたことないよ。」
レイラもゴンダの声にビックリしながらもサフィーナの考えを否定する。
「なら、お腹の中にある何かを出してみる。マーファ、ちょっと眠ってもらうね。」
サフィーナはマーファに手を翳し、樹木魔法でマーファを眠らせる。そして、今度はマーファのお腹に手を当て、光魔法を再度込めていく。
「『光の手、癒しの光』」
『光の手』でマーファの中の魔核を取り出していく。それと同時に魔核があった周囲の損傷を『癒しの光』で癒していく。2つ同時の光魔法は結構大変だったが、やれないことはなかった。
マーファのお腹から親指の先ほどのアクアブルーの宝石のような物が光に包まれながら現れる。これが、病の原因だろう。でも、魔核のような禍々しい魔力は感じない。それよりもずっと洗練されたような魔力を感じる。そして、再度、マーファに光魔法の魔力を通していく。今度はスムーズに魔力が身体を巡っていく。どうやら、この魔核モドキが病の原因だったのだ。
「ふぅー……終了。これでマーファの病気は治ったと思う。マーファはもう少ししたら起きると思うけど、このまま寝かせた方がいいと思う。やっぱり、この魔核モドキが原因だった。」
サフィーナはそう言って、アクアブルーの魔核モドキを掌の上でゴンダやレイラに見せる。
「ほ、本当に魔核なのか……これ……」
「魔物から採れる魔核とは少し違うような……」
ゴンダもレイラも不思議そうに魔核モドキを食い入るように見つめる。
「魔核とは、ちょっと違うかも。でも、これには魔力があるし、この大きさにしては膨大な魔力を秘めている。理由は解んないけど、胃の中にあったよ。何か変な物食べた?」
サフィーナは魔核モドキを色々な角度から眺めながら質問した。
「そういえば……都から来たとかの行商人から変なお菓子を貰ったんだが……俺もコンタも同じものを食べたんだぞ?なんでマーファだけが……」
「変なお菓子?それって、どんなものだったんです?ゴンダさん。」
「ありゃクッキーみたいなお菓子だったな。俺も食べたがサクっとして香ばしくて旨かったんだが……。も、もしかして俺もコンタもあの魔核モドキが腹ん中にあるってのか!?」
ゴンダは慌てたように自分のお腹を摩る。
「ううん。それは大丈夫。さっき魔力送ってみたけど、コンタもゴンダも魔核モドキは無かったよ。そのお菓子食べても必ず体の中に魔核モドキになるとは限らないんじゃないかな。」
お菓子を配った行商人ってのが犯人なのか……悪い奴だな。
「父ちゃん!!飯の準備ができ……あっ!!父ちゃん!!父ちゃん!!畑っ!!畑に怪しい奴がまたいるっ!!」
台所からコンタの叫び声が聞こえる。ゴンダはその声を聞くとすぐに立てかけてあった棒を手にとり、外へ飛び出していく。サフィーナとレイラもつられてゴンダについて行った。
畑には奇妙な生き物が作物を齧っていた。一見は人間、多少汚れているが服もきちんと着ており、普通に立っていたならそれとは解らない。でも、その生き物は違っていた。獣のように四足で、手足の関節も四足に適した形に変質していた。それが、ゴンダに向けて威嚇の唸り声を上げていた。でも、サフィーナたちが出てくるとバっとその場から駆け出して逃げていった。それも四足で物凄いスピードで山の中に消えていった。
「あ……ありゃ……ありゃなんだ!?あれが野菜泥棒の正体だってのか……」
ゴンダはその場で崩れ落ちるように膝立ちになる。今見たのが魔物なら納得できた。でも、あれは魔物でも人間でもどちらでもない存在だった。それで頭が混乱してしまっているんだろう。
「も、もしかして、あの魔核モドキって放っておくとあんなのになっちゃうってこと!?これってめちゃくちゃヤバいんじゃない!?」
レイラも震えた声で混乱している。その可能性もある。でも、そうじゃない可能性だってある。正直、今のままじゃ、何も解らない。
「とりあえず、お腹減った。コンタの料理の腕を確かめるよ。ゴンダ、レイラ。」
「あ、ああ。飯ぐらい好きに食っていってくれ。……それから、マーファを救ってくれて、ありがとう。」
しばらく茫然としていたゴンダだったが、サフィーナの声に我に返ったのか、家へと再び入って行った。
「はぁ……さっきの状況を見てから食欲が湧くってどんな神経してるんだか……あ、でも、良い匂いね♪コンタくん、意外とやるかもっ♪」
レイラも軽い足取りでゴンダに続く。いやいや、人の事言えないし……レイラのくせに。
「と、父ちゃん!!さっきのは何だったんだよ!!それから母ちゃんは!母ちゃんはどうなってるんだよ!さっき目を覚ますと台所に来て、料理作ってるんだ!!」
サフィーナたちを出迎えたのは、慌てた様子のコンタだった。マーファは元気になったようだ。しばらくは寝ていた方がいいが、料理くらいなら大丈夫だろう。
「おっ!!コンタ!母ちゃんが起きたのかっ!!そりゃすげぇぞ!!ここにいるサフィーナさんとレイラさんが治してくれたんだよ!!お前も礼を言っとけ!!それから……さっきの妙なのはどっかにいっちまったよ。念のためだ、むやみに家の外に出るんじゃないぞ。」
マーファが台所で料理を作る後ろ姿を見て、ゴンダは思わず笑顔になる。それを悟られないために言葉を強くしているが嬉しいのが伝わって来る。それから、奇妙な生物への警戒も忘れずに伝えていた。
「あ、あの……その、母ちゃんを助けてくれて……ありがとう。」
モジモジしながらコンタが頭を下げてくる。
「別に良いよ。それにご飯を食べさせてくれるんでしょ?サフィーナ、お腹ペコペコ。あ、あと……助けたのはサフィーナで、レイラは何もしてないから。」
「いやいやいや、そこは私も精神的支柱として頑張ったというか……サフィーナのついでにご飯をご馳走になりたいというか……い、いいじゃん。別に!!」
無理やり誤魔化した。っていうか、誤魔化せてないし……。
「あら、どうしたの?大きな声を出して。食事の用意ができました。サフィーナさん、レイラさん。こんな物でしかお礼ができないですが、沢山食べてくださいね。」
「おぅ!母ちゃんの料理はすっげぇ旨いんだぜ!!」
「ちっ、レイラ……運がいいヤツ。」
「ちょ、ちょっと!サフィーナ、舌打ちするなー!!ほら、せっかく誤魔化せ……いやいや、料理を作ってもらったんだから、食べよー食べよー♪」
半ば強引にレイラに押し切られたが、確かにマーファの料理はとっても美味しかった。干し肉などの保存食も用意してもらえたようだ。というか、めちゃめちゃ一杯の干し肉で鞄がパンパンになった。
ゴンダは、申し訳なさそうな顔をしていたけど、周囲の村人たちに言って回ってかき集めてくれたらしい。マーファは終始ニコニコして、次々と料理を出してくれた。その料理をコンタも自慢げに説明してくれて、他にも家族の色々な事を教えてくれた。
家族か……いいな。こんな感じ。ユウマは、サフィーナのお父さんなのかな……お兄ちゃん?……ううん。ちょっと違う……ユウマはユウマか。
ハクト皇国には一応、来たんだし、アキラって人も見つけるんだ。それから……それから……ユウマを絶対見つけるんだ。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
※次回の更新は10/25を予定しております。




