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69、深淵からの声

 †



 私は今、訓練場へとユウマ様に呼ばれ、やって来たところだ。もちろん顔には青い仮面をつけている。何故かこの仮面をつけると気分が高揚するな。


「『ハヌマンブルー』見参っ!!」

 ビシっとポーズをとってみる。うん、我ながらカッコイイのではないかと思ってしまう。おっと、周りの兵士たちに変な目で見られてしまったな。いかんいかん。このポーズは誰もいない所で練習しなければな。


 私はユウマ様が消えて10年、混乱するガラハド連合国を纏めるのに尽力した。今では、『ガラハド森林警備隊総監督官』という役職に就くことになった。前族長のコウシン様とヴァースの前族長タクシャカ様に武術を叩き込まれ、ガラハド大森林帯の深奥部の主とも相手取るような実力をつけることもできた。しかし、ユウマ様の姿はおろか、情報もないまま時は過ぎていく。そして、ガラハド連合国として、ラース大陸捜索という計画が持ち上がった。そんな矢先に、ユウマ様発見の報告が届いたのだ。


 正直、喜びに打ち震えた。また、ユウマ様に会うことが出来るのだと。そして、今度こそ、ユウマ様の隣に立つに相応しい存在であらねばと決意したのだ。

 そして、今、ようやく会えたのだ。今こそ力の限りをユウマ様の為に尽くす時だ。身体に気力が巡っているのが解る。私の身体が薄らと白い輝きに覆われていく。この〝気”の使い方も前族長コウシン様から授かった技の一つだ。そして、〝気”を静かに身体の内側に収めていく。


「ふぅ……よし。今日も調子がいいな。」

 私は1人呟き、ユウマ様が来るのを待っていると、数人がやって来た。


「ったく、今更俺たちが訓練ってどういうことなんだ!」

「本当だよ。それに僕は魔術師なんだから戦士たちと一緒に訓練なんてナンセンスさ。」

「こら、お前たち。そんな事を言える立場ではないということがまだ解らんか。」

 やって来たのは黒ずくめの青年、ローブの少女?、そして、法衣のような物を纏った中年の男だった。ん?あの青年と少女は……


「あ、お前らはっ!!」

 私は思わず臨戦態勢を取り、内側に静めていた〝気”を解放する。それにより、弾かれたように2人も短剣と杖をそれぞれ構える。確か、こいつらは、多くの操られた兵士たちと共に襲ってきた者たちだ。


「待たれよ。『青の獣人』殿。この者たちも、勇者様に呼ばれたのです。」

 中年の男が慌てたように、間に入って来る。その動きは無駄な物がなく、その言葉も聞く者の心にスッと入って来るような話し方だった。


「貴方は?」

 少しだけ警戒を解いて、私は問いかける。


「私はブブラン・スズハラ。こちらの2人はギル・ヤサカとミソノ・アサクラです。シャール王国の……いや、今は勇者様の従者です。」

 ギルとミソノと呼ばれた2人はまだこちらを警戒している。

「そちらはユウマ様のお知り合いだとか。ガラハド連合国の方でしょうか?」

「へっ!?い、いや……わ、私は『ハヌマンブルー』それ以上でもそれ以下でもない。」

「そうですか。ガラハド連合国に『ハヌマン』という集落があったと記憶しているのですが……、これ以上聞くのも野暮というもの。よろしくお願いします。『ハヌマンブルー』さん。」

 危ない危ない……いや、よく考えたらこの名前、思いっきり怪しいからな。ミムラめ……もう少し捻った名前を考えてほしいものだ。

「あ、ああ。」

 従者……先日、襲い掛かって来た者を近くに置くとはユウマ様は何を考えているのか。これはきちんと聞いておかないといけないな。


 少し、訓練場がざわつく。その先を見るとユウマ様たちが数人を引き連れて現れた。ちっ、アイリ様は横にいるのはいいとして、ラスタバンにウェルめ……ちゃっかりユウマ様の横をキープして!アイリ様ですら、少し後ろを歩いているというのに!


 以前は竜人(ドラゴニアン)のラスタバンには様付けをしていたが、いつからか呼び捨てで呼び合う間柄になっていた。コウシン様とタクシャカ様に武術の指導をしてもらった時に同門だったという事もあったのだろう。今では、獣人と竜人(ドラゴニアン)という枠を超えての付き合いができている……と思う。ウェルにしても、ドワーフの友人はこれまでいなかった。

 そういう意味で、このガラハド連合国には感謝している。そして、その建国に寄与したユウマ様、アイリ様たちは尊敬に値する。


「おーい。ちょっと集まってくれ。」

 ユウマ様が呼ぶ声が聞こえる。はっ、こんなところで話してる場合じゃないな。


「おい、急ぐぞ。ユウマ様をお待たせするな。」

 私はブブランたちに声をかけ、速足でユウマ様の元に向かう。


 すでに『ガラハドレンジャー』のメンバーや、ナウルとかいうシャール王国近衛騎士、宰相ヨハン、女っぽい喋り方をする騎士ダイヤだったか。あとは勇者タカハシに……あれは、国王アルジー!?訓練場にいた兵士や騎士たちは国王自らやって来たことで、直立不動で動けないでいる。


「皆の者、良い。訓練中の者は続けよ。」

 国王はそれだけを言うと、ユウマ様の方を向く。

「今日、集まってもらったのは他でもない。今からここにいるメンバーをベルガ島攻略の先遣隊という事にしたいと思う。その為に、今から俺が考えた特訓を行なってもらう。これについては国王様はもちろん、タカハシさんとも話し合った結果だ。異論がある者は今の内に言っておくといい。」

 ユウマ様から直々に特訓を受けることが出来るなんて!10年前、暴走したソウルイーターを撃退した雄姿は今でも瞼に焼き付いている。


「はぁ!?僕は魔術師だよ!?えーとユウマさんだっけ?魔術使えんの?」

 なっ!?ミソノとかいうガキがっ!!ユウマ様に何てことを!!ここは私が黙らせて……

「ひゃうっ……」

 突然、ミソノが崩れ落ちる。何?何なの?もしかして……ちらりとユウマ様の方を見るとニヤリと笑っている。

「あぁ、すまんな。今俺がやったのは樹木魔法、『吸魔(ドレイン)』だ。ちなみに、ここにいる『エルドラピンク』も『ガートグリーン』も俺よりも樹木魔法は得意だからな。」

「えっ!?ま、魔法!?魔術じゃなくて……そ、そんな……あり得ない。」

 ミソノが驚愕の表情で首を振る。

「いえ、人間では魔法は難しいでしょうけど、私たちにとっては魔法はそれほど難しいことじゃないの。」

 アイリ様がミソノに優しい笑顔で話しかける。

「で、でも、ユウマさんは人間じゃないんですか。」

 さすがアイリ様だ。ミソノがおのずと敬語で話している。私もあの笑顔の圧力を受ければ思わず土下座してしまうだろう。

「ユウマ様は特別じゃ。自分たちと同じと考えるのがそもそもの間違いなのじゃ。」

 ラスタバンがうんうん、と頷きながら腕を組む。うむ。その通りだ。


「まぁ、強くしてくれるってんなら俺は何でもいいぜ。やるなら早い方がいいな。始めようぜ。」

 ギルは懐から2本のナイフを取り出し、構える。


「おっと、ここで特訓したらマズい。まずは、目を閉じて、俺を受け入れろ。話はそれからだ。あぁ、国王様、『英特部隊』の4人をお借りします。それではとりあえず、3日後には戻りますので……。あ、シラユキとガーネットたちにも伝えておかないとな……。」

 私たちは静かに目を閉じる。ふっと周りの騒音が消え、静寂に包まれていく。ユウマ様は国王となにやら話し込んでいるようだが、それも少しずつ遠くなっていくのが解る。


「よし。目を開けてもいいぞ。」


 ユウマ様の声が聞こえ、目を開けると、そこはどこまでも続く白い空間の中に私たちは浮かんでいた。



 †



 えと……ここはどこ?私は誰?あ、いや、一度言って見たかっただけなんですがね。あはは……。

 にしても、アリムラさんって同じ勇者ってことですが、あの人、やることが規格外過ぎてついて行くのが精いっぱいな感じですね。それに、可愛い子ばっかり周りにいるし……これは、仲良くなっておいて損はなさそうですね。あはは……。


 で、真っ白い空間……。この世界に来た時に、あの不思議な子供に出会ったのを思い出します。今思えば、あの子は神様ってことだったんですね。異世界転生なんて、正直、今でも信じられないけどね。でも、前の世界では死んじゃったからな。


 自衛隊の演習を見学にいって、まさか、私の頭の上に戦闘機が落ちてくるなんてね。あははは……。まぁ、あんなに間近に見れたからちょっと満足してるし、兵器マニア冥利に尽きるかな。はぁ……なんて、バカな事考えてないと頭がどうにかなってしまいそうだ。


 ん?ぼんやりと白い空間から何かが現れてきた。あれは……アリムラさん?それに、『ガラハドレンジャー』だっけ?あのネーミングはアリムラさんかな?あはは……戦隊モノ好きなのかな。ちょっとイタいけど、まぁ、触れずにおいてあげよう。


「よし、目を開けてもいいぞ。」

 アリムラさんの声が聞こえてくる。あ、やば、もう目開けちゃってたよ。

 他にも、ダイヤとかいう王子や、他にも3人の男女の姿がはっきりと見えるようになってきた。


「あの……アリムラさん。ここはいったい……。」

 私は恐る恐る聞いてみる。

「ああ、タカハシさん。ここは俺が作り出した亜空間ですよ。この瞬間、外界からは完全に切り離されてますからどんな邪魔も入りません。」

「亜空間……ですか。えーと、精神とか時とかの部屋っぽい何かですかね?」

「あー、まぁ、そんな感じの理解で間違ってないですよ。」

 そんな事もできるのか……アリムラさんって何者なんだろう。

「そのうち、タカハシさんにも使い方をお教えしますから。えーと、皆、大丈夫だな。今から、このメンバーで特訓する。場所は、この亜空間内で1週間。それからとっておきの場所で3日間を予定している。それから、『ガラハドレンジャー』……もう仮面を外していいぞ。言ってて恥ずかしいからな。」

 アリムラさんがそう言うと、『ガラハドレンジャー』たちは仮面を外していく。おぉ!!エルフ耳!ネコ耳!!ドワーフっ子!!やっぱりファンタジーだっ!!すごいっ!!すごいよっ!!しかも、皆、超絶可愛い子たちばっかりじゃないかっ!!アリムラさんっ!!どういうことですかっ!!

 私がジト目でにらんでいると、それに気づいたのか、アリムラさんは苦笑しながら話を続ける。

「え、えーと、まずは改めて自己紹介と行こうか。まずは俺からな。俺はアリムラ・ユウマ。異世界人だ。10年前にこの世界に飛ばされたんだが、色々あって、シャール王国に勇者召喚された形になった。他に肩書きは……あっ、Cランクの冒険者だ。あとは、ステータスがこの中で一番高いはずだ。解りやすく言うと、一番低いステータスの数値は1万、魔力に至っては6万ある。」

 はっ?い、今、6万って言ったの?私のMPが今、285だから200倍以上!?どんなチートだよっ!!あー、やっぱり……それを初めて知ったであろう人は同じ反応をしてるな。意外だったのが、ガラハドレンジャーのエルフの人以外知らなかったみたいだ。

「ま、マジかよ……」

 黒ずくめの青年が固まっている。

「強いはずだわ……」

 王子なんかは青い顔で腰砕けになっている。まぁ、アリムラさん襲ってたもんな。あの人。っていうか、アリムラさんだけで魔王倒せるんじゃないのかな……。


「あー……ステータスは高いけど、それだけじゃ5万もの魔族を倒すのは難しいだろう。何より、一人でできる事はたかが知れてる。それに、以前、邪仙と戦ったことがあるが、俺の攻撃が通じなかった。皆の協力が必要なんだ。よろしく頼む。」

 アリムラさんは神妙な顔で頭を下げる。その姿は、何かを覚悟したような強い意志を感じることが出来た。

 そして、目が合う。あ、次はこっちの番ってことか。


「えーと、あはは……。じゃあ、次は私が自己紹介しますね。私はタカハシ・ハルト。アリムラさんと同じ異世界人です。先日この世界に来たばかりでよく解らないんですが、現代兵器をイメージしただけで作れる魔法があるみたいです。それから、えーと【起源魔法】?ってのが使えるみたいです。まだ使ったことはないんですが……。」

 自己紹介なんてこんなのでいいのかな?異世界人としての自己紹介なんてやったことないからな。


「ま、また……魔法……」

 ローブの少女が崩れ落ちている。あの子も魔法使いっぽいのに、魔法を使うのってそんなに珍しい事なのかな……。


「えーと……現代兵器って何?」

 ドワーフっ子が訪ねてくる。じゃあ、何がいいかな……あ、じゃあ、こんな感じでいいかな。


「現代兵器ってのは、こんな感じの武器を言うんですよ。」

 私はイメージする。陸自の迷彩服6型、テッパチこと20式鉄帽、ゴーグル、ボディアーマーに半長靴。腰には拳銃SIG HYPER、手にはM5カービンが握られている。そして、ビシっと小銃を構えてみる。うん、なかなか決まったかな。


「えーと……その手に持っている杖?は武器なの?」

 ドワーフっ子は興味津々に、腰の拳銃に触れようとする。あ、そうか。何か解らないとそんなリアクションにもなるか……。


「ちょっと下がっててね。あと、耳塞いでおくといいよ。」

 周囲を見回して、一定の距離を置く。アリムラさんを見ると、苦笑してながら両耳を塞いでいる。


 ダァンっ!!  ダダダァンっ!!  ダダダダダァンっ!!


 空に向けてM5カービンを撃つ。轟音が耳を劈く。いやいやいや……やっぱり生音は厳しいな。耳がおかしくなりそうだ。周囲を見ると、アリムラさん以外、全員が耳を抑えてしゃがみ込んでいる。やっぱりこの世界には銃というものがないのだろう。


「どうです?これは銃という武器で、金属の弾丸を高速で撃ち出して対象を破壊します。これが私たちがいた世界の兵器です。」


「な、なんという轟音……対象の聴覚まで奪うとは、恐ろしい武器だわ。」

 王子は何か勘違いしているようだけど、まぁ、すごい武器だということが解ってくれたならそれでいいか。


「えーと、他にも以前、出した戦車や戦闘ヘリ、たぶん戦闘機も作り出すことが可能だと思います。ただ、短時間しか維持することはできませんが……。私もアリムラさんほどのMPがあれば、イージス艦でも作れそうなんですけどね。あははは……。」

 最後に、ぺこりと頭を下げて自己紹介を終える。ん?何故かみんなの見る目が変わっている。それに、ドワーフっ子なんかはキラキラした目で私の事を見ている。うーん……そっちの趣味はないんですけどね。あははは……。

「タカハシさん。恐らくですが、この特訓が上手くいけば、魔力の件は何とかなるかもしれません。イージス艦も夢じゃないかもしれませんよ。まぁ、地上での特訓なので、使えないでしょうけど。」

 やっぱり私も頑張ればMP6万くらいいけるんだろうか……一人で艦隊作って動かして……ロマンは広がるけど、使いこなせる自信はないな。あはは……。


「次は、私が自己紹介しますね。ガラハド連合国七首脳の1人、ハイエルフのアイリーン・ファンドラです。皆からはアイリと呼ばれています。あと、ユウマさんの妻です。いつも主人がお世話になっております。得意なのは精霊魔法かな?よろしくお願いしますね。」

 えぇぇぇぇっ!?ユウマさん、エルフ耳の奥さんがいたのっ!?まだ若いのにっ!!しかも、アイリさん、皆に誇示するように『妻』の部分を強調したような……。なんにしても、ユウマさん、羨ましすぎるよ!!めちゃくちゃ美人だし、胸だって、なんかバインバインだし……うぅぅ……。


「なら次はわらわじゃな。同じくガラハド連合国の竜人(ドラゴニアン)の集落ヴァースの族長ラスタバンじゃ。ユウマ様の第二夫人の最有力候補と目されておる。得意な事は……そうじゃな。巨竜に変化する【竜化】と竜魔法じゃな。皆の者よろしくな。」

 自分で最有力とか言ってた気がするけど、どうなってるんだろう。この人は、ドラゴニアン……竜っ子か……角が生えてたから悪魔っ子かと思ったけど、そっちだったか。どっちにしろやっぱりファンタジーだな。


「じゃあ、次は私がするわね。私はマール。一応、アイリの相談役ってところかな。人間のように見えるけど、半樹精(ドライアード・ハーフ)よ。樹木魔法ならさっきユウマくんがやったのよりすっごい事できるからね。」

 ロングの黒髪なクールビューティー。秘書とかやったらすごい似合いそうな人だな。すっごい事って何だろう……ゴクリ。


『じゃあ、次は僕が自己紹介しようか?』


 ん?誰?いや、声だけがこの空間に響いている。そう思ったと同時に、強烈な魔力が身体に纏わりつき、その重圧で、身動きが取れなくなる。


『ああ、そっちには声だけしか届けられなかったんだ。ごめんよ。で、僕は魔王ってやつね。今、君たちが討伐とか考えてる相手ってこと。ベルガ島に来るんだったら早い方がいいよ。だって、今、引っ越しの真っ最中でさ。ラース大陸にちょっとずつ皆を移住させているんだ。』


 ま、魔王!?え?どういうこと?この不思議空間に魔王が来ちゃったってこと!?それに、この魔力……やっぱり、魔王って規格外の存在なんだな。


『だから、なるべく早く来てくれるとうれしいな。ってことだから、待ってるよ。またねー。』


 強烈な魔力の重圧がふっと消える。それで、ようやく動けるようになった。すでに、魔王の気配はなく、この空間からはいなくなったようだ。


「ま、魔王って言ってましたよね。あの声……。それにあの魔力……。ど、どうしましょうか……アリムラさん。」

 おもむろにアリムラさんの方を見ると、固まっていた。目が見開かれ、わずかに震えている。あの魔王の魔力に当てられて、戦意喪失でもしたのだろうか……、いや、様子がおかしいのはアイリさんたちもだ。


「あの……どうしたんです?アリムラさん。」

 こんな表情のアリムラさんを見るのは初めてだ。


「あの声……あの声は……なぜ……」

 アリムラさんがブツブツと何かを呟いている。


「あれは……あの声は、クロ子だ……。」

 

最後まで読んでくださってありがとうございます。


※次回の更新は10/4を予定しております。

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