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68、魔王暗躍

 †



「後はお前だけだからな。それにしても、魔王がわざわざこんなワインまで準備してるとは……他の部下はよっぽど使えないか、バカばっかりってことか……。」

 ん?突然、フードの男の口調が変わった。今、魔王とか言ったか!?

「おい!お前!何者だっ!」

 我はフードを掴み、引きちぎった。フードがハラリと地に落ち、男の顔があらわになる。黒髪、黒い瞳のパッとしない顔。

「クソ魔族がっ!今、俺の顔に腹の立つ評価をしただろ!すべてお前の考えは筒抜けなんだよっ!」

 男は不敵な笑みを浮かべながら怒鳴るという器用な真似をしている。ん?さらに数人の人影が男の後ろから現れる。あっ!!あいつら……

「人間を洗脳し配下に置く……か。面倒臭いことしやがって。あ、ちなみに後ろのお前の配下の洗脳はすでに解除済みだ。それから、ほれっ!」

 男は我に向けて何かバラバラを放る。それは綺麗な鉱物の結晶のようなもの。しかし、それは我らにとってはかけがえのない物……魔核結晶だ。

 魔核結晶とは、魔物が魔族へと昇華する時に、魔力供給器官である魔核石が結晶化したもの。すなわちそれは、魔族の命そのものだと言える。

「こ、これは……」

 我は散らばった魔核結晶の数を素早く読み取る。全部で9個あった。知らない者が見れば宝石のようなそれは地面でキラキラと輝いている。

「ああ、そうそう。シャール王国に紛れてたお仲間は皆、処理させてもらった。それとシャーロンに紛れてた1体はこっちで捕えているからな。だから、お前らの企みはすでに潰えたってことだ。」

 こいつは何を言っているのだ……魔族が人間ごときに負ける?ふふふ……ハッタリだ。それにこいつは勘違いしている。まだ我がいるではないか!!我が一人ですべてを実行すれば問題ない。

「何を言い出すかと思えば、人間風情がっ!!」

 我はすぐさま人間の擬態を解き、男に飛びかかる。それは一瞬の出来事だ。我の猛禽の如き爪が男の首目がけて振り下ろされる。ふん。終わりだ。

 男の纏っていたフードが切り刻まれ、吹き飛んでいった。


「ちっ。魔王様の計画に大きく遅れが出てしまうではないか。忌々しい人間め。店の前が血で汚れて……いない!?どういうことだっ!」

 我の爪は確かに何かを切り裂いた感触があったというのに……辺りを見回しても、先ほどの男の姿は見えない。


 ドンっ!!


 我の背中に何かがぶつかった衝撃が走る。といっても、それほど強い衝撃ではない。何事かと振り返ろうとするが、身体が上手く動かない。そして、目の前にはキラキラとした鉱石の結晶のようなものが浮かんでいる。


「何だ……これは……。」

 思わずそれを手に取ろうとするが、我が気付いてしまった。それが何であるかを……


 ドボドボドボドボ……


 それは魔核結晶だ。それも我の結晶……何故なら我の胸には腕が生えていたのだ。ひ弱い人間の腕。それが我の魔核結晶を掴んでいた。


 ズボッ


 腕が消えるとようやく我が後ろを振り返ることができた。これで誰の腕か見ることが出来る。我が最後に見たのは先ほどの黒髪に黒い瞳の男だった。その目は怒りも憎しみも浮かんではいなかった。しかし、深く静かな悲しみがその瞳の奥に見えた気がした。



 †



 火山の麓にそびえ立つ巨大な城があった。朦々と巻き上がる火山灰がその城の上空を覆い、不気味な雰囲気を醸し出している。周囲には城以外、人の形跡を示す物はない。ただ、城だけが静かにそこに存在していた。


 ここはベルガ島と呼ばれるエンヴィー大陸の北東に位置する火山島である。さらに、北東にはラース大陸が広がっており、このベルガ島はそのぼほ中間地点に存在する島である。


 今、一匹の被膜を持つ者が城を目指して飛んでいる。遠目からはその威容は計り知れないが、それは人間よりも遥かに巨大であるという事を、この生物が飛び去った後に残るなぎ倒された木々が教えてくれる。


「ったく、わざわざ呼び出しなんて珍しいこともあるもんだな。」

 その皮膜を持つ者は愚痴りながら、城の屋上へと着地する。すでに、屋上には出迎えの者が1人いた。

「わざわざのお越し、ご苦労様でございます。」

 一見すると人間の初老の男性が恭しく頭を下げて出迎えている。だが、彼の背後からは蛇の様な尻尾がタシタシと地面を打っている。

「ズール爺さんか。爺さんが出迎えとは俺も偉くなったな。」

 皮膜を持つ者はズールと並ぶと頭3つ分は突き出ている。かといってズールが小さいわけではない。ズールも2mは届くかという偉丈夫である。

「何を仰るのです。今や三魔将の一角になられたゼゼル様にはそれ相応の対応をさせていただきます。」

 再び慇懃に頭を下げるズールにゼゼルと呼ばれた皮膜の者は満更ではない顔を浮かべる。いや、常人には彼の顔が少し歪んだ程度でしかないだろう。なぜなら、ゼゼルの顔は爬虫類のそれである。全身を覆う鱗、手足の先には凶悪な鉤爪、そして、長い尾。コモドドラゴンがやや前傾に二足歩行し、皮膜の翼が生えたような姿。そして、重厚な甲冑を纏い、腰には片手斧が下げられている。それが魔王軍三魔将のゼゼルの姿だった。


 2人は世間話をするでなく、黙々と屋上から下へと続く螺旋階段を下りていく。城の内装はいたってシンプルな物であるが、汚さなどは感じさせない。2人は更に地下へと下りていった。そして、大きな広間に行きついた。そこには整然と多数の魔族が並んでいた。角が生えた者、手が8本生えた者、身体がひどく大きい者、人の形を大きく逸脱した者たちが一斉に広間に入って来たズールとゼゼルに視線を送る。


「新米の魔将というのはずいぶんとのんびりとしておるのだな。」

 その場の空気を一気に凍り付かせるほどの凛とした女の声が響く。それによって、広間にいた者たちの話し声が一切なくなる。


「いやいや、ゼゼル殿はここから一番遠いエンヴィー大陸の北の果てからやって来たのですから、仕方ありますまい。」

 好々爺とも言える優しげな声によって、ようやく張りつめた緊張が少しだけ緩和される。


「ま、待たせしまったか……申し訳ない事をした。」

 ゼゼルは若干引きつったような声を出す。

「それは魔王様に言うのだな。自らの無能を妾に言われても、どうしようもないのだからな。」

「これは、辛辣な。どうもゾディアナ殿はゼゼル殿に厳しく当たられる節がある。まぁ、これも魔王様の事を想っての事。気にしないでも良いと思いますぞ。」

「ふんっ!!ドノヴァン老はゼゼルに甘いのではないか!!」

 このゾディアナとドノヴァンの会話だけが広間に響いている。他の者は唯一、ゼゼルだけが少し口をはさむ程度。何しろ、この2人が残りの三魔将だからである。

 ゾディアナは妙齢の美女、しかし、青白い肌にとぐろを巻いたような角が2本耳の後ろから生えている。背中には真っ白な翼が2対、そして、辛うじて身体を隠せる申し訳程度の衣を身に着けている。

 一方、ドノヴァンは酷く腰が曲がり、顔にはいくつもの深い皺が刻まれ、元の種族が何か判別は不可能になっている。ただ、辛うじて目が3つある事が解る程度である。そして、禍々しい髑髏でできた杖と漆黒のローブに身を包んでいる。

 彼らは魔王軍の主力であり、切り札であり、絶対的力の象徴である。ここにいる他のメンバーのほとんどの者は、彼らに反論することさえできないのである。

「おしゃべりはそろそろこの辺で……、魔王様が来られたようです。」

 反論できる少ない一人であるズールが2人に三魔将にストップをかける。ゾディアナは不満げに、ドノヴァンは微笑んで、ゼゼルはホッとした表情で、跪き頭を垂れ、魔王の出座を待つ。


 その場の空気が一変する。先ほどのゾディアナの比ではない。そのに居並ぶ魔族たちが呼吸するのもままならないほどの重圧。それは三魔将であっても、息苦しさを感じるほどの高圧力の魔力が広間を覆っていく。しかし、次の瞬間、その圧力がふっと消える。


「皆、顔を上げてもいいよ。」


 鈴を転がしたような声が広間に響き渡る。女性の、それもまだ幼さが残る声、これが魔王の声であることを皆理解していた。居並ぶ魔族たちが一斉に顔を上げる。そこには禍々しい蟲が折り重なったような玉座の上にチョコンと乗った少女の姿があった。金髪碧眼、そして美少女と言っても過言ではない端正な顔立ちをしている。そして、何よりも違和感を感じさせるものがあった。角も皮膜も鋭い爪も持たないただの人間の少女に見える事である。もちろん、その事について、他の魔族たちが触れることはないが……。


「今日は皆に集まってもらって悪かったね。ゼゼルには、遠い所から大変だったろ?」

 少女は少し申し訳なさそうにゼゼルにそう告げた。

「め、滅相もありません。魔王様がお呼びとあらば、どこからでも馳せ参じますっ!!」

 身体をビクリと震わせながら、ゼゼルは声を張り上げる。

「他の者もありがとう。ゾディアナもシャール王国への対応で苦労を掛けているね。」

「いいえ。魔王様の為ならば、すぐにでもシャール王国を消し飛ばして差し上げますわ。」

 ゾディアナは恍惚の表情で声を上げる。

「それは頼もしいね。それから……」

「魔王様、そろそろ本題を……」

 魔王の話の途中でズールが話の腰を折る。

「あ、そうだね。悪い悪い。」

 魔王は起こる様子もなく、玉座を座りなおす。

「ゾディアナ。悪いけどシャール王国の攻略、躓いているの気付いてる?」

「……は?い、いえ、魔王様、ど、どういうことでございましょう?」

「やっぱり、まだ情報が入ってないか……やっぱり情報伝達がネックだよな。ま、仕方ないんだけどさ。どうしてもシャール王国を攻めたいんなら、もう一度準備を練り直したほうがいいよ。」

 予想外の魔王の発言でゾディアナは呆然とする。

「え、えと……あの……は、はっ!!今すぐ状況を確認し、計画の変更を行ないますわっ!!」

「あー、別に無理しなくてもいいんだよ。シャール王国は異世界人だけ狙ってるだけだから、言わばあそこは牧場のような物だ。別に僕たちが管理しなくても、人間に任せていいんじゃないかい?」

 魔王は暗にこのシャール王国攻略には反対していた。何故ならシャール王国を攻め落としたとしても、魔族では人間たちを上手く動かせるとは思えなかったからだ。基本的に魔族は武闘派が多い。所謂、脳筋という奴だ。軍事力では圧倒していても、統治能力はあまりにお粗末だ。シャール王国に異世界人を安定供給する技術があるなら人間に統治を任せるほうが効率的であるからだ。

「そ、それは妾の無力さ故でしょうか……」

 ゾディアナは涙目になりながら、その場で崩れ落ちるようにへたり込む。

「無力……うーん、ちょっと違うんだけどな。シャール王国攻略についてはゾディアナに一任しようか。今の所、僕はどちらでもいいからね。」

 魔王は困った顔をしながら、ゾディアナにそう告げる。

「は、はっ!!魔王様の御期待に沿えるよう!!このゾディアナ、シャール王国を完全なる手中へとお入れいたします!!」

 ゾディアナは居住まいを正し、真っ直ぐな瞳を魔王に向ける。

「ふぉっふぉっふぉ……それならば、儂の手勢を少しばかりお貸ししますぞ。ゾディアナ殿。儂も重宝している手練れ達。お邪魔することはないと……」

 ドノヴァンがゾディアナに提案する。しかし、ゾディアナは静かに首を横に振る。

「ありがたい申し出であるが、妾にも智謀に長けた配下はいくらかおる。その言葉だけで十分だ。」

 ゾディアナの表面的には穏やかな態度を取っていたが、内心、腸が煮えくり返る思いであった。それを見透かしてか、ゼゼルもゾディアナに冷たい視線を送っている。


「それから、もう一つ。まぁ、これが本題って言えば本題だから。拠点を変える。場所はラース大陸の中央部〝邪仙郷”ね。僕クラスの奴らがゴロゴロいるからそれ相応の覚悟を持ってきてほしい。あー、あと、嫌なら出ていってくれても構わないからね。目標は100日だ。100日でこの城を捨て、ラース大陸へと向かう。話は以上だ。解散。」

 魔王がそう言うと、魔族たちが一斉に動き出す。


「あー、それとズール。ちょっと目端の利く者を数人、情報伝達に当てるようにしてもらえる?進捗状況をいつも僕から皆に伝えるの大変だから。もちろん僕の直属ってことで。」

「かしこまりました。今日中に選抜し、代表1人を魔王様の元へ挨拶に行かせます。ご了承ください。」

「挨拶ね。別にいらないけど……。ま、いいか。うん。じゃあ頼んだよ。」

 魔王はそれだけを言うと、ゆっくりと姿が消えていった。まるで闇に溶けるように。


 丁度、シャール王国の港町で潜伏中の魔族がこと切れたのとほぼ同じ時刻の出来事であった。



 †



「で、ブブラン以外は操られてなかったってことでいいんだな。」


 俺は目の前にいる4人の顔を睨み付ける。すると、4人ともサッと目を逸らす。


 現在、俺は『英雄特務部隊』の4人、勇者タカハシ、そして、宰相のヨハンらと少し豪華さを抑えた部屋で話し合いの最中だった。ここはあの問題を起こしたブブラン、ギル、ミソノ、そしてダイヤが軟禁されている部屋である。アイリたちは今、シャール国王による歓待を受けているはずだ。


 シャール国内に潜伏していた魔族たちはアイリたち『ガラハドレンジャー』の活躍により、殲滅することに成功した。俺も少しだけ手伝いはしたが、ほとんどアイリやマールによる樹木魔法により、人に化けた魔族やすでに操られている人間たちを拘束し、無力化することが迅速に行われた。人の抑制力を抑えるワイン〝魔性酒”という厄介な物もあったが、その絶望的な味のため、ほとんど出回らなかったようだ。魔族の男曰く、このワインの味は格別だそうだが……。

 潜伏していた最後の魔族を倒してから1週間が過ぎた。念のためにシラユキとガーネットたち【竜化】できる竜人(ドラゴニアン)たちによって、港町ローリア沿岸の警戒態勢を敷いているが今の所、全く動きがない。恐らく、魔王側は計画の失敗を悟ったのだろう。一応の安定がシャール王国に訪れていた。


「で、ノアの子孫のブブランが保護者で、問題児のダイヤ、ギル、ミソノの面倒を見てたけど、その保護者が暴走、今回の騒動の発端となったってことでいいんだな?」

 再び、俺は4人、そして、ヨハンもついでに睨んでおく。6人とも目をサッと逸らす。まぁ、確かに能力的にみたらこの4人は人間の中でも最高峰であるレベル15、戦力的に遊ばせておくのはもったいない。だが、制御できないならこれほど危ういものはないだろう。王国側としても苦肉の策と行った所か。


「それで、ブブランは何故、魔族に操られるようなことになったんだ?一応は舞台のトップだろ?」

「は、はい。お恥ずかしながら、私もまさか国内のこんな深くに魔族が潜んでいるなど思いもせず……、治療院に多額の寄付をしてくれるという者と面会し、そこからの記憶がどうも曖昧で……。」

 ブブランは中肉中背の美中年だ。昔はさぞモテただろうことが解る。そして、言葉の内容は置いておいて、言葉の端々に惹きこまれるような何かがある。きっとスキルの【話術】や【威厳】の効果なのだろう。


「まぁ、過ぎた事だから、何も言わない。それに、他の3人を宰相様に押し付けられた形なんだろう?あんたの落ち度はあるだろうが、組織としてどうかと思う所もあるからな。」


 だからと言って、問題児3人をどうすれば良かったのかと聞かれれば、俺にも解らん。下手に勇者の子孫なだけに、単騎突入の使い捨てなどには使えない。そして、それぞれの一族はシャール国内でも屈指の名家。恐らくその一族の中でもはみ出し者たちなんだろう。そこから弾かれたのがこの3人というわけだ。

 とりあえず、すごく扱いの難しい奴らだということは解った。この3人よりも腕っぷしが強く、しっかりと抑えが利く人物ということが最低条件、そして国の意向をしっかりと汲める者、ブブランがそれまでは妥当な人事だったのだろうが、もう彼一人では難しいだろう。


「ユウマ殿、ハルト殿。このようなお願いをする筋合いはないのは重々承知しているのだが……。この3人を勇者の従者としてしていただけないだろうか?」

 変な汗を大量にかきながらヨハンがとんでもない提案をしてくる。このオッサン……言うに事欠いて、俺たちにそれを頼むか!?


「「「はぁっ!?ふざけるなっ!!」」」


 意外なところからも反論が来た。もちろん、先ほどまで殊勝に反省していたはずのダイヤ、ギル、ミソノがヨハンに詰め寄る。いやいやいや、お前ら……全く反省してねぇじゃん。


 はぁ……まぁ、薄々は気付いていたけどな。これは、マジでこいつらの面倒を見ないといけない系か!?


「あの……アリムラさん。あの3人をこのまま私だけに押し付けようとかは無しでお願いしますよ?」

 タカハシが俺に小声で釘をさしてくる。チッ、こいつ俺の思考を読めるのか!?

「あははは!!当たり前ですよ。そんなわけないじゃないですか。」

「あはは……そ、そうですよね。アリムラさんがそんなことするわけないですよね。」

 乾いた笑いと共に、不毛な会話の応酬。そして、再び目の前の3人プラスヨハンを睨み付ける。すると、脊髄反射の如く、サッと目を逸らす。


「はぁ……3人の事を面倒みるって事なら、条件がある。ベルガ島攻略まででいい。シャール王国所属ではなく、勇者直属という事にすること。つまり、それぞれの一族から一時除籍ってことだ。」

 つまり、変な後ろ盾があるからこいつらも変に増長するんだ。それならそんなものを取っ払った方がいい。


「そ、それ本気で言ってるの!?仮にも王子よ?」

「僕たち、これでも勇者の子孫なんだよ!?」

 ダイヤとミソノが反論する。しかし、再び俺に睨まれてシュンとする。


「けっ……俺は別にどっちでもいいけどな。」

 ただ、ギルだけはそっぽを向いている。


「それは勇者様の望まれるままに……。すでに国王様からの許可は得ております。では、これより『英雄特務部隊』の者たちは勇者様の直属とさせていただき、シャール王国の管理から離れるものとします。もちろん一族からの除籍も行ないましょう。当然ですが、先ほどからホッとしているブブラン。貴方も含めての話ですよ。本来なら永久追放でもおかしくない事だったのです。」

 ヨハンが4人にさらりと通達を行なう。完全にとばっちりのブブランはorzの姿勢で崩れ落ちている。まぁ、俺も似たような心境だからな。タカハシも苦い顔をしている。そして、ヨハンだけが清々しい顔で満足そうに頷いている。こいつ……腹立つな。


「で、未だに不満があるダイヤとミソノだっけ?今、この国が置かれている状況をどこまで理解していてどうするつもりだったのか。言ってみろ?」

 俺は未だ納得いっていない様子のダイヤとミソノに声をかける。

「そ、それは、今の状況くらい解ってるわ。私がベルガ島へ行って魔王討伐するつもりだったわよ!そのために功績を上げて、国内を納得させたかったの。だから、新たに召喚された勇者が邪魔だったのよ!」

「ぼ、僕も大変だなぁ とは思ってたよ。だから僕の考えた魔術で魔族を撃退したら魔術の実験もできて一石二鳥かなぁって……。だから、『英特』に選ばれた時はワクワクしてたんだ。それに僕たちも一応、活躍してたんだよ?魔族の隠れ家らしき場所を破壊したり……とか。」

「はぁ……国の一大事だってのに、個人でどうこうしようとか考えるのがそもそもおかしいだろ?向こうは5万ほどの魔族、しかも、この間戦ってみた感触で言うと、1体あたりの強さは人間でいう冒険者ギルドのギルドマスタークラスだ。1体でも人間の街で暴れられるだけでもシャール王国は手痛い損害を被るってことだ。ダイヤ、お前の剣の腕で何体まで魔族を捌ける?ミソノお得意の魔術で5万もの魔族を相手にできるのか?」

「うっ……そ、それは…」

「あぅ……5万は無理。」

 ダイヤもミソノも言葉に詰まっているようだ。

「それに、そっちで満足げな宰相様も解ってるはずだ。もはや、シャール王国だけの問題ではないってことだ。エンヴィー大陸全土に反魔族の呼びかけをしないと太刀打ちできないってことを。勇者召喚して、あとは丸投げなんて悠長な事を言ってる場合じゃないって事だ。国のメンツなんてこの際どうでもいいだろ。この呼びかけを行ってもらう事が、この問題児を預かるもう一つの条件にさせてもらう。」

 俺がそう言うと、ヨハンから満足そうな笑みが消え去る。この先の外交交渉などで忙殺される自分の姿を想像でもしているのか……それとも、予想外の展開に思考がついて来ていないのか……どちらにしても、この条件は飲んでもらわないと俺たちだけで魔族たちの侵入を防ぐのは不可能に近い。


「わ、わかりました。勇者様の希望はすべて聞くように言われております。この件、即時に各国へ使いを出しましょう。」

 ヨハンは未だ表情が強張っているが、ゆっくりと頷いた。


 さてと、なら俺はちょっと例のものを試すとするかな。あー、明日は訓練場を借りて練習か……

最後まで読んでくださってありがとうございます。


※次回更新は10/2を予定しております。

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