67、英特部隊
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眩い光に包まれたが、次第に視界が戻って来た。
何だったんだ……さっきの光は。恐らく【光魔法】であることは間違いない。魔術の範疇を激しく超えた威力が周囲を襲ったのだ。周囲を見ると、それまで気絶していた鬼はともかく、ブブランやテトまで気絶してしまっている。もし、これが敵からの攻撃だとするととんでもない相手ということになる。
俺は、『支配者のトロフィー』をインベントリにしまい込み、ブブラン、テト、そして鬼を風魔法で包み込み、俺の後を追わすように設定し、尖塔の外へと出た。
「な、なんだこれはっ!!」
訓練場の方角を見ると凄まじい戦闘の形跡があった。巨大樹が訓練場の中央から伸び、周囲の建物を浸食し、その建物もボロボロに崩れ落ちている場所がいくつもあった。兵士や騎士たちは皆、地面に倒れ伏している。
俺は訓練場の方角へと急いだ。訓練場の上空にまで到達すると、地面に見知った顔が倒れていた。
「ラスタバン!!マールっ!!タカハシっ!皆、倒れている。一体何があったんだ!!」
そ、そうだ!アイリとウェルがいないっ!!どこだっ!!俺は周囲を見回した。
いたっ!!建物の屋根の上だ。アイリともう一人屋根の上に正座をしている奇妙な人影がある。それから、ウェル……いたっ!訓練場の隅に結界を張り、しゃがみ込んでいた。2人は無事だったのか。
「アイリ……一体何があったんだ!?」
俺は恐る恐るアイリに近づいて行った。俺に気付いたアイリはこちらを振り向き、何とも言えない顔をする。どうした……どうなってるんだ?
「ユウマさん……私……私……」
アイリの顔が少しずつ歪んでいく。何だっ!!何があったんだっ!!
「ユウマさん……私、やり過ぎちゃったみたい……。」
アイリは茶目っ気たっぷりにてへぺろをしている。
……って、はぁっ!?
俺が固まっていると、アイリの弁明ターンが始まった。聞くところによると、操られた兵士たちから上空に逃げたアイリたちにダイヤたちが襲い掛かったようだ。それにラスタバンやマールが応戦し、タカハシも戦闘ヘリを出して悪ノリ……そして、アイリがキレたらしい。むぅ……アイリは悪くないな。で、その後、『魔王の使い』が現れたので拘束し、尋問していたということだ。
なるほど、屋根で正座してたのは魔族だったのか。あ、そういえば、ウェルがまだ結界に閉じこもっているはずだ。
「ウェル?もう大丈夫だ。出ておいで。」
俺は結界の元へ行き、手で触れる。すると、スーッと結界が解かれ、中からウェルが現れる。
「ゆ、ユウマさんっ!!」
ウェルは半べそを掻きながら俺に抱き付いてきた。よっぽど怖かったのか?
「ウェル……もう大丈夫だから。魔族もアイリが拘束したからな。」
ウェルの頭を撫でながら俺は、極力優しい声を出す。
「うぅ……怖かった。アイリは絶対怒らせちゃダメ!!……怖かったぁー!!」
うわっ……どれだけキレたんだよ!アイリ。う、うん……俺も気を付けよう。
俺たちは気絶しているラスタバン、マール、タカハシを訓練場の開いているスペースに移動させ、治療を開始する。といっても気絶しているだけなので簡単な光魔法で皆は目覚めていった。その後の皆のアイリを見る目が若干、怯えていたのは内緒だ。
次は、襲ってきたというダイヤたち3人というのを確認する。予想通りというか、他の3人も勇者の子孫だった。黒ずくめの青年はギル・ヤサカ、アヤノの子孫のようだ。それからローブ姿の少女はミソノ・アサクラ。これはミコトの子孫だな。それからダイヤ……こいつはダイチの子孫で、俺が捕えたブブランはノアの子孫。何だろう……悪役っぽくなってないか?こいつら。
他にも、捕えた魔族2人も合わせてアイリの樹木魔法で洗脳した状態で意識を覚醒させる。
「で、アイリ。反省してるのは解ったからそろそろ尋問の続きをしてもらえるか?」
俺は苦笑いが張り付いたまま固まっているアイリに声をかける。他のメンバーは少しアイリと距離を取っている。
「は、はいっ!!え、えと……その前に、み、皆ごめんね。あまりにも皆が好き勝手に暴れだしちゃったから……私、つ、つい……」
我に返ったアイリが皆に勢いよく頭を下げる。
「い、いや……わらわも周りの事を考えずに火とか吐いたし……べ、別にアイリ殿は悪くないんじゃからの。」
「そ、そうそう。アイリちゃんは悪くないわ。私も大樹召喚とかしちゃって、反省してるし……。」
「あはは……戦闘ヘリはないよね。さすがに……あはは……ごめんね。」
「よ、よく解らないが、アイリ様は悪くないと思うぞ?」
「アイリ様……もう怒らないでね?……いい子にするから……」
口々に皆がアイリに声をかける。いやいや、タカハシの前でアイリの名前出しちゃってるじゃん!誰だよ!最初にアイリの名前出したのは……あ、俺か。
「まぁ、悪いのは襲って来たダイヤたちと魔族だ。応戦の方法は問題があったが、終わったことだ。とりあえず、全部魔族のせいにしてしまって問題ないだろう。」
俺は清々しい顔で皆にそう伝えた。
「勇者なのに魔族より質悪いよね……アリムラさん。」
うん、でもあえてスルーする。
「よし、それでは尋問の続きを開始してくれ。アイリ。」
「はい。じゃあまずはこれまで聞き出したことを教えるね。えっと、まずは―― 」
†
はっ!!何が起こった!?私、ナウル・フォン・バルムンクは訓練場の土の上で目が覚めた。そ、そうだ。ユウマ様を詰所に案内して……そこからの記憶がない。周囲を見回すと、同じように兵士たちが倒れており、私同様、今しがた気が付いたようだ。一様に不思議そうな顔をしてキョロキョロとしている。どうなってるのだ?
私は立ち上がり、訓練場を改めて見渡してみる。そして、私は愕然としたのだった。
「何という事だ……王都シャーロンが何者かに襲撃を受けたというのか!!」
しかも、私たちが気を失っている間にだ。
「おぉぉぉ!!!こ、これはっ!!どうなっておるのだっ!!」
遠くで誰かが叫ぶ声が聞こえる。目を向けると宰相のサティウェン卿が血相を変えてやって来たのだ。
「宰相様!!」
私がサティウェン卿の声をかけると、涙目になりながら私に掴みかかって来た。
「何がっ!!一体何があったというのだっ!!ここは王城だというのにっ!!そ、そうだっ!被害状況はどうなっておる!!王城でこの被害なら城下の街に被害が出て居るやもしれぬっ!!」
そう言われて私の頭はようやく動き出した。失念していた。
「も、申し訳ありません。只今確認させますので、しばしお待ちをっ!!なにぶん私どもを含め、この訓練場で倒れていたようなのです。」
私は、近くにいた兵士長へ指示を出し、被害状況の確認に向かわせる。
「バルムンク卿……これはどうなっておるのだ。私には悪夢が現実となったとしか思えん。もしや、魔王軍の襲撃なのか……。」
「それは、現状何とも……。そ、そうだ!勇者様とその有志の方々はっ!!」
「ん?どういうことかな?」
「は、はい。ドラゴンに乗った方々が魔王討伐の助力にとやって来られたのです。どうも、ユウマ様のお知り合いだとか……。」
「そうか。ユウマ様のお知り合い……報告にあったドラゴンとはそういう事か。」
サティウェン卿は何かを考え込むように腕を組む。
「勇者様方、訓練場にて発見いたしましたっ!!」
私の元に兵士の報告が入る。
「宰相様、一先ず勇者様方の所へ行ってみましょう。彼らならこの状況を説明できるやもしれません。」
「あ、ああ。そうだな。このような惨状を国王様に報告するための言葉を、今の私は持ち合わせておらんからな。」
サティウェン卿は大きなため息を一つ吐き、兵士たちに誘導され、勇者たちの元へと向かっていった。
私はというと、改めて訓練場の惨劇を見て回ることにする。怪我人の確認、被害状況が次々ともたらされ、私の頭の中はどんどんと暗いものに覆われていったのだった。
†
「――という次第でございます。」
俺は、少し緊張しながらも国王アルジー・ヤマダ・シャーロンの前で事の次第を説明していた。もちろん、原因は魔族にすべて押し付けて……だが。
ここは、王城のごく限られた者しか立ち入ることが許されない特別会議室。そこには俺と『ガラハドレンジャー』の面々、勇者タカハシと国王、宰相、そして、各部門の大臣、将軍級の騎士たち、宮廷魔術師たち、それから、特別に近衛騎士のナウルがこの場にいる。今ここに、シャーロン王国の中枢に関わる者たちが一同に集結していたのだ。
「そ、それは誠か!?すでに魔族が多数シャール王国へ潜伏し、いつでも蜂起できる状態にあると……。」
国王は椅子から崩れ落ちそうになり、控えていた近衛騎士団長によって支えられる。
「はい。間違いありません。それにここにいる『エルドラピンク』が魔族から聞き出した情報によると、ベルガ島に近い港街ローリアにまず魔王軍の第一陣が到着するまで早くて、後10日。」
俺の言葉に会議室内に動揺が走る。
「勇者ユウマ殿、それでは我らこの10日にシャール国内に散った魔族たちを炙り出し、尚且つ、ローリアに迫る魔王軍を迎え討たねばならぬということか。」
将軍を表す青いマントを纏った騎士の1人が声を上げる。
「そういう事になります。それから、俺たちを襲ったあの者たちは何ですか?いえ、何者かは解っているんです。勇者の子孫たち……ですよね。ですが、俺たちが狙われる意味が解らない。これについてどなたか説明していただきたい。」
俺は少し強い口調で国王含め、シャール王国の首脳陣を見回した。
「あやつらは、シャール王国の切り札……だったのだ。昨日まではな。しかし、ブブランまでも暴走してしまうとは……。ユウマ殿の言う通り、彼ら4人は勇者の子孫。まぁ、それを言うと儂もそれ含まれるがな。しかし、彼ら4人は特別であったのだ。――――」
◆◆◆◆
ダイヤ・ヤマダ、勇者ダイチの再来とも言われておった儂の倅でな。剣の腕だけを見れば王国一、いや、この大陸でも屈指の腕だと言っていいだろう。その上、特殊なスキルを持っておってな。文献でしか残っておらぬがダイチと同等、いやそれ以上の力を有しておるのではないかとの話であった。儂は嬉しくてな。来るべき魔王との対決に向け、奴の育成に心血を注いだのだ。しかしな……奴は自らの力に奢り、国内で少なくない被害を出しおった。詳細は、我が国の名誉の為にここで言うわけにはいかぬがな。
そして、我が国には他にも3人の勇者の子孫たちがおる。ヤサカ家、スズハラ家、そして、アサクラ家だ。そして、ここにおる大臣や将軍、宮廷魔術師たちにもその子孫たちが含まれておる。
まずは、儂らの傍系であり、筆頭将軍を排出するヤマダ家、外交や諜報などを担当するヤサカ家、司法を担当するスズハラ家、魔術学術を担当するアサクラ家がそれである。現、シャール王国の中枢を担う者を数多く輩出しておる名家といえる。
そして、ダイヤと同様に、突出した力を持つ勇者の子孫たちがギル・ヤサカ、ミソノ・アサクラ、ブブラン・スズハラの3人だ。
ヤサカ家の者はすでにユウマ殿も見舞えたことがあったはずだ。ダイヤの影に潜んでいた者たちだ。彼らはヤサカ一族の秘術【影脚】を使い、各地の諜報や外交、要人警護などを行なう者たちだ。その中でも、突出した能力と技の切れを持つ者がギル・ヤサカだった。次期当主を嘱望されていたが、奴もダイヤ同様、正確に問題があったのだ。奴は自分の腕を過信し、自らの望むことしかやりたがらない。スタンドプレイ、他国への過剰な防諜行為。ヤサカ家だけでなく儂ら首脳の中でも悩みの種だったのだ。
次は、アサクラ家だ。彼らは【ゲーム魔法】と呼ばれる独自の魔術を使う一門でな。集団での大規模魔術を得意としておる。我が宮廷魔術師たちの中でも名門中の名門でな。中でもミソノ・アサクラは大規模魔術を1人でも生成可能で勇者ミコトの再来と言われておる者だった。こやつは国法の禁を犯して、オリジナルの魔術を次から次へと作り出してな。〝マッドウィザード”と呼ばれておる。それが国益をもたらす魔術なら良かったのだが、奴の作る魔術は奇怪なものばかり……。何度も国家施設を破壊している。
最後は、スズハラ家だが……多くの法律家が輩出し、それだけでなく一族秘術の【回復魔法】の使い手でな。国内に多くの治療院を展開しておる。そして、その現当主であるブブランは人間的にもできた人物であったのだ。儂は今でも信じられん、あ奴を信用して、曲者である3人を任せていたのだからな。
儂は、ブブランをトップにして、独立した遊撃部隊を設立したのだ。『英雄特務部隊』としてな。来るべき魔王討伐のための特別部隊だったのだ。彼はこれまで上手く3人を使って、上手く機能していたと思っていたのだがな……。この度の失態はすべて国王である儂の責任である。この通りだ。
◆◆◆◆
国王は静かに話し終えると、ゆっくりと頭を下げた。一国のトップが頭を下げる。それはとんでもない出来事であるというのは俺にも分った。周りの大臣や将軍たちも動揺している。
「頭を上げてください。ブブラン殿は魔族に操られていた可能性があります。それにもうすぐ朗報が届くはずです。」
俺は動揺する会議室の面々を見渡しながら、そう伝える。
<ユウマ殿、遅くなった。先ほど言われた件、すでに準備完了している。>
よし。来た。シラユキからの意識が飛んできた。
(了解した。では、指示があるまで上空で待機していてくれ。)
<了解した。>
「ユウマ殿、それで……朗報とは何なのだ?」
国王が頭を上げて、俺に尋ねる。
「はい。すでにシャール王国内に潜伏している魔族の所在は確認済みです。俺の使い魔から、それが完了したとの報告が今入りましたから。」
俺は昨日、『魔王の使い』の情報を得てすぐに、シラユキに魔族の炙り出しの任務を与えていたのだ。そして、アイリが魔族ヂッグオンから得た情報を重ね合わせることで、先ほど潜伏していた11体の魔族の所在を突き止めることに成功したのであった。
「おぉ!!それでは、魔族の蜂起を防げるということか!!」
「そこまでは断言できませんが、こちらが捕えている魔族から偽の情報を流し、各個撃破すれば難しくないはずです。その代わり、国王様には10日後にローリアへ来るであろう魔王軍への防衛をお願いしたいのです。防衛にはここにいる『タイタスイエロー』も手伝ってもらいます。彼女の結界は頼りになりますから。」
俺はチラとウェルを見る。彼女は少し俯いて照れたような仕草をしながらも力強く頷いている。
「それはもちろんだ。では、儂らとしては潜伏している魔族の対応は勇者殿らに任せてよいのだな?」
「はい。そのようにお願いします。それから……『英雄特務部隊』の面々ですが……。」
「解っておる。本当なら勇者殿らの手伝いをと考えておったが、今回のような件があってはな。しばらくは謹慎……というか軟禁させるつもりだ。」
「いえ、そうではなく。この後、俺と話をさせてもらいたいのです。魔族の尋問でバタバタしていたので、彼らとゆっくりと話す機会がありませんでしたし……かつて仲間だった者たちの子孫なので……お許し頂けますか?」
問題児ってのは解ったが、ダイチたちの子孫だからな。きちんと話しておきたい。
「そうか……解った。そのように手配しておこう。この件は宰相に一任しよう。」
「はっ!!かしこまりました。」
宰相のヨハンが声を上げる。
「皆の者。ユウマ殿の話は聞いたな。これからシャール王国全力を挙げて、魔王軍への対応を急ぐのだ!」『はっ!!』
一同が立ち上がり、右手を胸に当てる。この国の敬礼のようなモノか。
この国王の一声で会議の閉幕を告げる。大臣や将軍たちが慌ただしく会議室を出ていった。
俺たちはそれを見送りながら、これからの行動についてを話し合うことにした。
†
どういうことだ!?配下たちからの連絡が途切れて1日が過ぎていた。
「ちっ!!どこで油を売ってやがりますか!これだから使えない下等生物は……」
我はブツブツと文句を言いながら、商品であるワインのテイスティングチェックしていた。
うん、今日もとてもエレガントでデモニッシュなあと味。完璧だ。
この街に潜伏して半年。魔王様からの指示を着実にこなしてきたというのに、ここに来て初めての失態らしい失態だった。
ここはシャール王国の港町ローリア。まずはベルガ島から魔王軍が進軍して来た際に、橋頭堡となるべき地域だ。そこに派遣された我がどれだけ魔王様の信頼を得ているか、言わなくともわかるだろう。そう。いわば我は選ばれたる魔族。今は人間の商人としてこの港町の一角に露店を開いている。人間の真似事をするのは腹立たしいが、親愛なる魔王様の計画だ。我など計り知れないお考えがあるのだろう。
このワインにしてもそうだ。飲んだ者の残虐性が増し、短絡的な行動を誘発する。しかも、この成分はゆっくりと体内に蓄積していくのだ。人間共は知らないうちに我らの思い通りに誘導される操り人形と化すのだ。しかし、問題はこのワインの売れ行きが芳しくないということか……。腐った血のような美しい色、ドロっとしたのど越し、鼻に抜ける腐った肉の様な香り……ワインの販売を始めて半年、一向に客足が伸びない。人間の舌というのはこの高尚な味が解らぬほど下等な生き物だったとは……誤算であったわ。
それにシャーロンに潜入しているダナンとヂッグオンからの連絡もまだ来ていない。計画ではすでに魔族蜂起の連絡が来ていてもおかしくないと言うのに……。思えば忌々しい奴らだったからな。勇者の動向を調べ、敵の中枢をかく乱させるという簡単な仕事もできぬとは、困った奴らだ。我は、こうして冷静に状況を見て思いとどまっているが、他の地域に散ったアホ魔族が勝手に暴れ出せば、魔王様の計画が失敗してしまうではないか!!
「あの……すいません。このワインなんですが……」
おっと、気付いたら我の露店の前で客が来ているではないか。見ると、フードを深く被った男のようだ。
「あ、いえいえ、こちらこそ気付きませんで。で、このワインをお買い求めで?」
我は営業スマイルで完璧に商人を演じる。
「はい。できればあるだけほしいんです。」
ふん!人間にしては、まともな味覚を持ってる奴ということか。いいだろう。
「もちろんです。このワインの良さが解っていただけてうれしい限りです。」
我が言うと、フードの男も嬉しそうに声を上げる。
「はい。私の主がこのワインが気になると言って探しましたんですよ。あの、物は相談ですが……このワインの出所などを教えてもらうわけには……」
主?貴族とかいう奴か?ふふふ……まぁ、よい。このワインが広まれば我の任務は成功したということなのだからな。
「はははは。そんなに気になってもらえるとは、嬉しい限りですよ。ただ、このワインの仕入れ先は数を揃えることは難しい小規模なワイナリーでして……。私の所に卸すだけで精一杯なんですよ。申し訳ありません。」
我は独自で考えていた設定を披露する。どうだ!?人間社会を知り尽くしている我の演技に穴などないのだ。ふふふ……それに、このワインは魔王様自らが準備された特別製だ。我以外の魔族にも一定数しか行き渡っていないのだ。……ん?では、この女、このワインをどこで手に入れたというのだ。我の客に、この女が来たことなどなかったというのに……。
周囲を見ると、今まで大勢いた人通りが急にいなくなっている。何かがおかしい。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
※次回の更新は9/29を予定しております。




