66、やり過ぎ注意!
†
あ、ユウマさんが言われてた通り、3つの気配がやって来たようです。
「皆さん。警戒して!何か来ます。」
私は皆に声をかける。すでにラスタバンちゃんやマールさんは身構えている。もう一人の勇者さんとウェルちゃんはまだ状況が解ってないのかオロオロしているけど。
「え、えーと……みなさんもしかして、その何かと戦うつもりなんですかね?あははは……。」
勇者さんが少し情けない声で私に聞いてくる。
「もちろんそのつもりです。勇者さんは戦うのが難しそうなら、隠れておいてください。」
「え、えと……た、戦いますよ。これでも一応勇者ですからね。あ、タカハシ・ハルトといいます。よろしくーなんて、あははは……。」
タカハシさんも何か魔法を使い棍棒のような武器をどこからか取り出した。それを腰だめに奇妙な構えをとる。
「来たわっ!下に2、空から1!」
マールさんから鋭い声が走る。
下に群がっている兵士たちの間を縫うように2つの影が私たちの下まで来たかと思うと、建物の屋根へと駆け上る。さらに、空からは魔法陣のようなものに乗ったローブ姿がこちらに向かって飛んできていた。
「数が多いな。勇者は2人じゃなかったのかよっ!!」
「こいつらはドラゴンと共にシャール王国を襲った不逞な輩だわ!殺っても問題ないわ!」
屋根に上った二人はそんなことを言っている。不逞な輩……確かに、名乗るためだけに他国の中枢部で爆発を起こしたしね。で、でも……これはミムラさんがこれウケるっていうからー……じゃないよね。私たちも悪ノリしちゃったもんな。ここは一度、謝って……
「何を言っているのじゃ!?兵士たちを操って勇者様を襲うとは不届き千万なのじゃっ!!今、謝るなら半殺しで許してやろうぞ?」
あぁー!!ラスタバンちゃんが煽ってるぅー!!ちょ、ちょっと!!
「どうでもいいけど、私たちは魔王討伐の助けに来たのよ。それを何?この対応は……。いくら優しいお姉さんでもちょっとイラっとしてるんだけど?」
うわ、うわわ!!マールさんもなんかご立腹じゃないですかー!!
「え、えーと……私、私も……許さないぞ?」
ウェルちゃんまでー!!なんか実はウェルちゃんノリノリじゃないのー!?
「何を勝手なことを言ってるのさ!!国の中枢部で勝手なことして!それに兵士たちを操ってるのはそっちだろ?」
空を飛んできたローブ姿が反論する。はい……その通りで……。あれ?操ってるのはこっち?いやいやいや、何か食い違ってるし!!あ、なんか今のツッコミ、ユウマさんっぽかったかも!あ、違う違う。今、そんなことに感動してる場合じゃなかった。
「ちょ、ちょっと待ってください!!確かに悪ノリして爆発しちゃったかもしれません。けど、今、兵士を操っているのは私たちではありません。だって!この兵士たちに私たち襲われたんですから!!」
私は険悪な雰囲気の3人の間に割って入った。
「やっぱり爆発引き起こしてんじゃないのよっ!!そんな奴らに操ってないなんて言われても信用できるわけないでしょーがっ!!」
女性のような口調の騎士がまくし立てる。はぁ……正論過ぎるよね。
「おしゃべりはこのくらいにしてそろそろコイツで勝負しよう……ぜっ!」
黒ずくめの服を着た男が懐から短剣のような武器を取り出すと同時にこちらへと投げつけて来た。
ギュンっ!!
それはまっすぐに私へ向けて迫って来る。しかし、次の瞬間、ボンっ!っという音と共に、武器が一気に100本近くに膨れ上がり、私たちのいる空間を襲う。
「いきなりなにするのじゃっ!!」
ラスタバンちゃんが前に躍り出し、息を大きく吸い込んだ。そして、次の瞬間、口から白く輝くの炎のブレスを吐き出した。
武器が迫ってきていた空間をブレスが薙ぎ払う。もちろん、それを投げた黒ずくめが立っていた建物の屋根も一部が消し飛んでいた。あぁ……ラスタバンちゃん……ちょっとやり過ぎじゃ……
「なかなかやるわねっ!!」
私たちの背後から声がかかる。振り向くと女性口調の騎士が大剣を振り上げている。
大剣が振り下ろされると、光の刃が私たちを襲う。皆がバラバラになってそれを何とか躱す。
「危なっ!話し合いは難しいなら仕方ないわね。そろそろ怒って来ちゃったかも……。」
マールさんはにっこりと笑っている。……で、でも、全然目が笑ってないじゃないですか!?こうなったマールさんはもう止められないよぉ……。
マールさんは樹木魔法で訓練場の中央から大樹を召喚する。訓練場にいた兵士たちが数人巻き込まれて吹っ飛ばされている。それは瞬く間に枝葉を伸ばし、鋭い枝で騎士を貫こうとする。さらに大樹に巻き付いた蔦のような植物は周りの建物を浸食していく。この蔦も生き物のようにウネウネと動いている。いやぁ……これ、大丈夫なのかな。
「わわわっ!!何してくれてんのさっ!!僕らのお城が変な木に浸食されてるーー!!もう!許さないぞっ!!喰らえっ!!」
ローブ姿が激昂し、複数の魔法陣が中空に浮かび上がる。
「『轟雷召喚』!!」
魔法陣から巨大な電流の球体が現れる。そして、そこから放射上に稲妻が伸びていく。
「きゃっ!!」
「うわっ!!」
「うおぉぉっ!!」
「痛いっ!!」
稲妻は無作為に伸びていく。あれ?これ敵味方関係なく攻撃してるの?しかも、被害はマールさんと騎士と黒ずくめと……ローブの人。ってか自滅してるじゃん!!
「くっそー!!もう頭に来たぞ!!僕の本気を見せてやるからねっ!!」
……これはツッコミ待ちなのかな?私に関してはまだ何にもやってないんだけど……
「『灼熱覇王球』!!」
えぇぇぇ!?今度はめちゃくちゃデッカイ火球が召喚されちゃったよ!!えっ!?えっ!?これマズいでしょ!?この大きさ落としちゃったら訓練場の兵士たちが消滅しちゃうんじゃ……もう!こうなったら、私がっ!!
「『究極の白』!!」
巨大な火球に向けて小さく輝く氷の欠片をぶつける。すると、一瞬白い靄に包まれた火球は急激に萎み、パリンという音と共に、キラキラとした欠片を飛ばしながら消え去った。
「な、何ぃぃ!!」
「何じゃないでしょ!!あんなの落としたら下の人たちが大変な事になるでしょっ!!」
「へっ!?……あ、そうだよね。ごめん。」
まったくもう!何考えてるのよ!あ、あっちはあっちでラスタバンちゃんと黒ずくめの人が戦ってるけど、あー!もう!あんなに武器投げて!周りの人に当たったらどうするのよ!!あーー!!それにマールさんと騎士の人も!!大木が色々と動いてるから建物にヒビがっ!!ん?ウェルちゃんは?あ、あんな隅っこで小さな防壁結界作ってるのか。良かった。えーと……後は、あっタカハシさんは……
バダバダダバダバダ……
へっ!?何アレ……角ばった箱が飛んでる……羽?回転してるの?
「あはははは!!!どうだっ!アパッチ・トマホークだよ!!本当にイメージだけで作れちゃったっ!あははは!!!すごいっ!カッコイイよっ!!」
えっ!?中にタカハシさんが乗り込んでるの!?箱の横に着いた樽のようなモノが回転し、轟音と共に何かを高速で弾きだしている。
ガガガガガガガ ガガガガガ ガガガガガガガガガ……
周囲の建物にみるみるうちに穴が開き、ボロボロと崩れ落ちていく。うわっ!!勇者なのにこの人、箱に乗り込んだとたん人格変わっちゃったよぉ……。なんか異世界人の人ってなんでこんな変な人ばかりなんだろう……。
……うん。もうキレていいよね?うん、いいよ。キレよう!!
ブチリ
「……皆、好き勝手なこと……やり過ぎ……なんですよーーーーーっ!!!!!!」
私は【光魔法】の光を極限にまで高め周囲を煌々と照らしだした。それは段々の明るくなり、目を開けることも困難な光度となり、目を瞑っていても耐えられないほどになっていく。すべての物から影が無くなる。周囲は真っ白い世界に包まれていった。
皆の悲鳴が聞こえてくる。それは聞こえてくるだけでも阿鼻叫喚の惨状が想像できる。
しばらくすると、白い世界からゆっくりと輪郭が形作られてきた。そして、少しずつ色の世界に戻って来る。周囲の人々はバタバタと倒れ伏している。そこで浮かんでいたのは私だけだった。
「あは、ちょっとやり過ぎちゃったかな?えへ♪」
うーん、誰に言い訳してるんだか……私は。でも、これはちょっとマズいかな……。たぶん皆、強烈な光度で気を失っているだけだと思うけど……。
そんな事を考えていると視界にフワフワと浮かんでいる黒い球体がこちらに近づいてきているのに気付いた。それは私の前でピタリと止まるとウゾウゾと動きだし、球体から手足が飛び出してくる。
<やってくれますね。ハイエルフ風情が。まぁ、この状況は私たちにとっては僥倖だったんですがね。>
球体からにょっきりと顔が現れる。それは額から2本の角が伸び、キツネのような顔をしている。黒い球体から身体部分も現れ、全身が私の前に現れた。黒いマントのような物から黒い毛に覆われた太い四肢が伸び、蛇のような尻尾が生えている。背中からは皮膜が2対バサリと広がった。
「魔族!?なんでこんなところにっ!!まさかっ!!」
<ふふふ……どこまで知っているのか解りませんが、私は魔王様の配下ということですよ。>
魔族が不敵な笑みを浮かべながら自らの爪をジャキンっと伸ばした。
「兵士たちを操ってこんな事をして!!許しませんっ!!」
<ま、まぁ、私たちがやったことよりあなたがやったことの方が被害が大きいかと思いますが……いいでしょう。あなたを殺した後、下で伸びている勇者にトドメを指すことにしましょうか。>
言い終えるとすぐに、魔族は私に飛びかかって来た。鋭い爪が縦横無尽に振るわれる。私はそれを紙一重で躱していく。ユウマさんがいなくなってから10年、私は独自に鍛錬を重ねていた。ユウマさんを一人で危険な目にあわせないために、そして、ユウマさんの隣に立つのにふさわしい存在になるために。すでに、魔法だけでなく接近戦でもクロウくんとも対等に打ち合えるようになったし、他にも色々とできる事が増えたのだ。
私は光で形作られた細い剣で、繰り出される爪を捌いていく。3合、4合、5合と打ち合いが続く。すんなりと倒せると思っていたのか魔族の攻撃が次第に焦りを帯びてくる。
<なかなかやるみたいですね。では、こんなのはどうでしょうかね?>
魔族は再び不敵な笑みを浮かべ、黒い球体を作り出す。それが等身大ほどの大きさまで膨れ上がると、ポンっと中からもう1体の魔族が現れる。全く同じ姿をした魔族がそこにいた。
<<どうですか?今度は攻撃が2倍ですよ。これでも私の爪から逃れることが出来ますかね?>>
まったく同じ声が左右の魔物から聞こえて来る。そして、弾けるように左右に別れ、私を挟み込むように爪を振るってきた。
私は左右に光の剣を出して、魔族の同時攻撃を凌いでいく。このスピードは……!!次第に攻撃の速度が上がっていく。
<<どうです?このスピードについて来れますか?ふふふははははは!!>>
嘲笑とともに爪を振るう魔族。これは……。何というか……遅い……よね?最初の攻撃を捌きながら様子を窺っていたけど、十分に対応できていた。これならクロウくんの方が断然早いし剣圧も重かった。今度は私が反撃する番よ!!爪を弾いて大きく崩れた体勢の魔族に一太刀入れる。そして、動きが止まった魔族に攻撃をすると見せかけて、背後の魔族の腹部に光の剣を滑り込ませる。
<<ぐあはっ!!>>
魔族の一方が黒い煙のようになり消える。そして、もう一方は口から黒い血液を吐き出す。その腹部には光の剣が突き刺さっていた。
「あなたがどういうつもりでこんな事をしたか、色々と聞かせてもらいますからね。」
私は魔族に刺さった光の剣を掴み、さらなる魔力を込める。すると、魔族の腹部の傷口からは植物の蔦や根が伸びていく。そして、魔族の身体に絡みついて行った。魔族の瞳は恍惚とした表情となり、口からは涎が垂れている。
<私がそんなことを言うはずないだろう。私はかの有名な魔王遠征軍団長のヂッグオンですよ。シャール王国での暴動を引き起こす事と勇者についての情報収集が主な任務だということは極秘事項、ハイエルフごときに知られるわけにはいかないのですよ。>
あははは……さすがマールさん仕込みの樹木魔法だ。ペラペラと思ったことを話してくれる。
「どうやら極秘任務を帯びているようだけど、その詳細を言いなさい!!」
<ふふふ……馬鹿ですか?それを言っては極秘ではなくなるでしょう。シャール王国に潜伏中の魔族を一斉に蜂起させ、シャール王国内で反乱や暴動を引き起こすのですよ。私の命令一つで簡単にこの国は混乱の渦ですよ。ふふふ。そして、勇者たちの情報収集はすでにもう一人、優秀な魔族が事に当たっているのです。後は、命令を出すだけ。もうシャール王国は終わりですよ。混乱しきった国に魔王軍の本体が攻め寄せて、この国は亡びる運命にあるのです。>
うわっ……なんだかすごい計画が動いてたみたい。
よし!こうなったらこの魔族から聞ける情報を引き出してみるかな。
†
「おい!おっさん!起きろって!おいっ!」
俺は魔鋼糸で簀巻きにした男の頬をペちぺちと叩く。俺の背後には『ハヌマンブルー』ことテトが控えている。ここは天井に大きな穴が開いた尖塔の中だ。鬼との戦闘を終えて、事態の真相を確かめようと、尖塔で水晶玉のような物を操っていた男に尋問を行なう所なのだ。
「ん……んん……こ、ここは?」
しわがれた声、40代くらいの男が目を覚ました。しばらくぼんやりとしていたが、ようやく自分が置かれている状況が解ったようで、急に声を張り上げて喚き始めた。
「私をどうしようというのだっ!!そ、それに私が誰だか解っているのかっ!!無礼者めっ!!これを早く解かないかっ!!」
「誰か解らないな。だから聞こうか。お前は誰で、ここで何を一体何をしていた?こんな鬼みたいな奴と一緒に……。」
俺は同じく簀巻きにした鬼の顔を男に見えるようにぐいっと上げる。
「ひっ、ひぃぃぃ……な、なんだ!!なんだこいつはっ!!こんな気持ちの悪い者など知らん!!私は知らんぞっ!!」
男は本気で顔を青ざめて否定している。どういうことだ?鬼だと知らずに手を貸していた?
「だけどな。お前とこいつがこの尖塔で何かしてたってのは確認済みだ。何してた?」
俺が凄むと、男は状況を整理しているのか、黙り込み俺から目を反らす。まぁ、喋らないならそれでも、やりようはあるんだけどな。まずは完全看破!!……ダメか。じゃあ、目に魔力を込めてから……【真・看破】だ!
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■ステータス
名前/ブブラン・スズハラ
Lv.15
種族/人間 年齢/43歳 職業/シャール王国英特隊 隊長
HP 190/190
MP 250/355
腕力 205
体力 190
敏捷度 250
器用度 325
知力 580
精神力 450
称号:勇者の子孫
装備:飛竜のローブ 金剛石の杖
スキル
-ユニークスキル【回復魔法】【唱詠放棄】【威厳】
-スキル【風魔術/Aランク】【統率/Cランク】【杖術/Dランク】【話術/Cランク】
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……マジか。コイツ、勇者の子孫、スズハラ……回復魔法……ってことは……
ノアの子孫ってことか!?
こんなオッサンだぞ!!あの可愛らしかった少女の子孫がオッサン……い、いや、そういう事もあるだろうけど。イメージとのギャップが凄まじいぞっ!!
ダイヤといい、こいつといい、なんとなく残念だな。勇者の子孫。後はミコトとアヤノの子孫か……むぅ……これ、期待しない方がいいのかもな。
で、この水晶玉みたいなのはなんだ?【真・看破】!
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名前/支配者のトロフィー
レアランク/SSランク
魔力を通すことでトロフィーから念糸が伸びていき複数の人々を支配することが出来る。しかし、命令などは大雑把なものしか与えることが出来ない。強い魔力を持つものを支配下に置くにはより強大な魔力を注ぎ込む必要がある。念糸が切断されたり、強い魔力による妨害を受けると支配効果を失うこともある。
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とんでもないアイテムだな。悪用以外に使い方が解らんぞ。
「で、ブブランは、ノア・スズハラの子孫って事であってるな?」
「なっ!?」
「それで、この『支配者のトロフィー』はどうした?この鬼に貰ったのか?」
「え、い、いや……それは……」
「勇者の子孫が魔王の使いと通じてたなんて事がバレたらどうなるんだろうな?早く知っていることを全部吐いてくれよ。」
俺が再び凄む。ブブランは観念したように項垂れる。
「わ、私は、実は……。」
ブブランがそう口にした瞬間、尖塔の屋根に開いた穴から眩い光が差し込み、周囲が白い世界に包まれた。
なんじゃこりゃーー!!!
※アパッチ・トマホークはオリジナルの戦闘ヘリの名称です。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
※次回の更新は9/26を予定しております。




