63、前を向いて
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時刻は夕暮れ時、俺は与えられた部屋にゴロンとなっていた。
部屋には俺だけだった。シラユキ(竜)を見て悲鳴を上げたメイドが俺の部屋でお世話をしてくれるらしい。あんなことがあったのに、逃げないなんて大したものだ。彼女は呼べばすぐに来てくれるらしい。
はぁ……とりあえず、今後の状況をまとめてみよう。
・俺はあれから10年後のラクリアに飛ばされていた。ファルファレルロの所在は不明。
・今いる場所はシャール王国の王都シャーロン。そこに勇者召喚のタイミングでタカハシと一緒に現れた。タカハシは魔法で戦車を出すようなナイスガイだった。(俺が一番ドン引きしたが……)
・国王から魔王を倒して欲しいというテンプレな展開になる。魔王はシャール王国のあるエンヴィー大陸から北東に位置するベルガ島にいるらしい。300VS50000とかの戦力比で戦うハメになりそう。
・俺の行方不明が原因で、クロウとサフィーナが俺を探しにラース大陸へ向かい音信不通になる。眷属召喚も意識共有にも反応はない。ラース大陸には邪仙がいるらしい。そして、ベルガ島はラース大陸との間に浮かぶ島らしい。
・ダイチ、アヤノ、ノア、ミコトの4人は300年前にラクリアに飛ばされていたようだ。伝説の勇者ってのはこの4人ってことになっている。ちなみに、シャール王国の国王はダイチの子孫で、国王の息子だか孫はダイチそっくり。で、なぜかおネエ口調。
・シラユキに俺が無事な事を伝えにアイリたちの所へ飛んでもらっている。(進行中)
いやいやいや……いくらなんでも盛り沢山過ぎね?今日一日で……
はぁ、でも、ラース大陸に向かったサフィーナたちの行方を追う事が最優先だよな。一人で飛んでいくか?……いやいや、邪仙が絡んでいるのに無謀なことはできないし、戦力を揃えるか……。魔王を倒すのを手伝って王国に恩を売る?どれくらいの時間がかかるか解らないし、魔王が強かったらどうする!?むぅ……こんなに俺って優柔不断だっけ?いや、優柔不断だったな。前世の俺はこんな感じだったな。ダイチたちも俺のせいで過去に飛ばされ、サフィーナたちも俺の失踪が原因で音信不通になった……。
どうすれば良かった?俺はどこで間違った?……俺は……俺は……。
ドカッ!
急に俺の頭部に衝撃が走る。かなりの威力で脳が揺さぶられる。なんだっ!?
さらにドカっ!ドカっ!っと衝撃が腹、肩を襲う。なんだこれはっ!?
周囲には何も感知できない。俺はふらつきながらもベッドから起き上がり、周囲を警戒する。
と、俺の目の前には白く輝く球体があった。
†
我は今、ガラハド大森林帯上空を飛行中である。
時刻はお昼を過ぎた頃、ユウマ殿の安否をアイリ殿たちに伝える途中である。我の白銀の翼を持ってすればシャール王国からガラハド連合国間などあっという間に到着できる。と、行っている側から『エルドラン』の世界樹が見えてきた。
上空から見ると『エルドラン』の周囲に石でできた防壁が聳え立つのが見える。かなり広い範囲を覆われているのが解る。これもユウマ殿の功績だ。『エルドラン』だけでなく主要な大集落はすでに、この防壁で覆われており、魔物の被害などはかなり抑えられたと聞く。
そう思えば、この10年、このわずかな間にこの森は目まぐるしく変化した。『エルドラン』に住む獣人やドワーフ、人間の数が劇的に増えた。それに、これまで閉鎖的だった交易も積極的に行うようになった。生活の変化を良しとしない者も多くいたが、それ以上に様々な物品が集落に溢れており、その恩恵は『エルドラン』に住む者が共有している。それは竜人にも言える事だった。これまで独立心が強かった竜人であったが、若い者から集落を飛び出し、積極的に他種族と交流する者が多くなった。その筆頭がヴァースの現族長ラスタバンである。
<シラユキ様、どこへ行かれていたのです?皆、心配しておりました。>
不意に、我の上空に巨大な影が覆う。首を捻り見上げると、そこには我に匹敵するほどの赤竜が翼をはためかせていた。
<ラスタバンか。緊急事態だ。ユウマ殿が現れたのだ。アイリ殿へそのことを伝えねばならぬ。>
我が娘ながら、この若さで〝竜化”が出来るとはなかなかの優秀さだ。我が父タクシャカが族長職を譲ったのも頷ける。それに美人だ。赤竜としての威容も風格も兼ね備えている。
<きゃー!!ユウマ様っ♪やっぱり生きておられたんじゃなっ!どこにおられるのじゃっ?今から会いに行ってくるぞ!>
……前言撤回する。まだまだ浮ついておる。これが族長で大丈夫か……ヴァースは……。
<ラスタバンよ。ユウマ殿は今、シャール王国におる。お前が単騎で行けば、国際問題となるであろうが!>
<あぅ……ざ、残念じゃ。では、わららはお供させていただきます。>
ラスタバンは渋々ながら我に同道する気のようだ。
<時に、ラスタバンよ。お前はヴァースの族長なれば、ヴァースを空けていて問題はないのか?>
<へっ!?あ、え、えーと、爺様にお願いしております。>
ラスタバンはモジモジとした小声で答える。はぁ……親の顔が見てみたい……あ、我か……。
と、とにかく『エルドラン』の世界樹が眼下に広がっている。我は翼を大きくはためかせ、速度を落とし、そこからは風魔法を使い静かに降下していく。そうせぬと我の翼の風圧で被害が出てしまうからな。
『おぉ……守護竜様。ありがたや……ありがたや……』
『しゅごりゅーさまだー!かっこいーなー!』
『あっ!族長様っ!またヴァースを抜け出してきたんですねっ!!』
我を見上げて竜人だけでなくエルフや獣人、ドワーフたちも拝むように手を合せてくる。我はこの辺りでの治安維持を任されているので、2、3度魔物の襲撃から『エルドラン』や周辺の村々を守ったことがあるのだが、それ以来、このような扱いを受けているのだ。そして、ラスタバンのサボりもばれているようだ。
我は身体を中型犬ほどの大きさに縮め、アイリ殿のいる大樹邸宅を目指す。ラスタバンは人型に戻り後に続いているようだ。
ガラハド連合国の首都となった『エルドラン』には、各種族の出先機関となる邸宅が立ち並んでいる。その中でもアイリ殿がいる大樹邸宅は一際大きなものである。それぞれの種族の伝統的な建築が並ぶ地区。それは、10年前の『エルドラン』では考えられない事だ。我は大樹邸宅のアイリ殿の執務室へと向かった。
<シラユキである。アイリ殿。いらっしゃるか?>
大樹邸宅の最上階にアイリ殿の執務室はある。その重厚な扉の前で我は声をかける。
「あぁ、シラユキさん。どうぞ。開いてます。」
中からは穏やかなアイリ殿の声が響く。我とラスタバンが執務室へ入っていく。
「御無沙汰しております。アイリ殿。ヴァース族長のラスタバンじゃ。」
一応、礼儀は心得ておるのかラスタバンが一礼する。う、うむ。成長したな。我が娘よ……。あ、いかん!今はそれどころではない。
「あら、ラスタバン様もいらしたんですか。どうしたんです?親子揃って。」
アイリ殿は手を付けていた書類を脇に置き、立ち上がり我らを迎えてくれた。
<アイリ殿、落ち着いて聞いてほしい。ユウマ殿が見つかったのだ。シャール王国で。>
我は出来るだけ、ゆっくりとアイリ殿へ伝える。
「えっ?」
アイリ殿は微笑を浮かべた顔のまま固まってしまう。
「え、えっと……ごめんなさい。もう一度言ってもらえるかしら?」
再び動き出したアイリ殿であったが、我の言葉が理解できないでいるらしい。
<ああ。ユウマ殿が現れたのだ。我がアイリ殿の元から消えたのは、ユウマ殿が眷属召喚で我を呼んだからなのだ。>
我は1つ1つの言葉を丁寧にゆっくりと伝えていく。すると、アイリ殿の表情が様々に変化していく。
驚き、照れ、悲しみ、ためらい、そして、大きな喜び……
「ユウマさんが……ユウマさんが……帰って……帰って来てくれた……ユウマさんが……」
アイリ殿の瞳からは大粒の涙がボロボロとこぼれていく。
しばらく、執務室の中はアイリ殿の歓喜の嗚咽で包まれる。思わず我もラスタバンももらい泣きをしてしまう。
「ふぅ……もう大丈夫。本当に、良かった。で、シャール王国でユウマさんは何をしてるの?」
しばらくして落ち着いたアイリ殿は、ようやくいつもの調子を取り戻したようだ。
<どうやらシャール王国の勇者召喚というものに巻き込まれたようで、勇者として扱われているようなのだ。>
「ユウマ様は、これまでもずっとわらわの勇者じゃぞ?」
ラスタバンよ……もう喋るな。色々と親として、恥ずかしい……。
「勇者?異世界人が召喚されるという、あの勇者召喚ですか?でも、ユウマさんは……。」
<そうなのだ。何かの手違いのようでな。きちんともう一人異世界から勇者も来ていた。だが、国王から魔王討伐を依頼されておる。>
「そう……ユウマさんの事だから引き受けちゃうんでしょうね。」
<色々と悩んでいたようだが……その流れになると思われる。それから、他にも重要な事がある。>
「何かしら?」
ホッとしたようなアイリ殿の表情が再び引き締まる。
<どうもユウマ殿は10年前のままなのだ。つまり、ユウマ殿が消えたガラハド大災厄の日から10年の月日を飛び越えて来たようなのだ。>
「え!?それって……ユウマさんは若いままって事なの!?ズルいですっ!!そんなのっ!!」
アイリ殿が怒っているがハイエルフであるアイリ殿は10年たった今でも、その姿はほとんど変わっていないのだが……
「えっ!?シラユキ様!それはわらわも初耳じゃっ!!ズルいズルいズルいぃー!!」
あ、こっちにもいたか……。どこで間違った!?それとも父タクシャカが甘やかした結果か!?はぁ……いや、我の責任であるな……これは……。
<ふむ……二人とも10年前と容姿の変化などほとんどないであろうに。それに、幼さが取れてより美しくなっていると我は思うが……。>
「「えっ♪そうかなぁー♪えへへへー」」
我の言葉に二人の顔が緩む。
……大丈夫だろうか。これでもガラハド連合国のトップたちだったと理解していたが……。
「それでは、今からハウザーさんと〝十長老”のトータティス様、それからエドガーさん、ミムラさんにも話を通しておかなきゃいけませんね。シャール王国へ会談を申し込みましょう。さぁ、これから忙しくなりますよ。あ、調度よかったラスタバン様も手伝ってください。この書類に目を通して受領印をお願いします。これはヴァースへ届けるつもりの書類ですので、手間が省けました。」
アイリ殿はドサっと書類の束をラスタバンの前に置く。さすがアイリ殿だ。こういった時の行動が早い。
「お、おふぅ……せっかく逃げて来たのに……仕事が追ってくるのじゃ……」
ラスタバンよ……、はぁ……もう何も言うまい。
しばらくすると、アイリ殿の執務室に『エルドラン』の首脳陣が集結していた。『エルドラン』の〝十長老”たち、現族長のハウザー、『エルドラン』に間借りしている人間代表のエドガーとその補佐である異世界人ミムラ、その他にも『エルドラン』の主要メンバーが執務室に揃っていた。
「お忙しい所集まっていただき、ありがとうございます。もうお聞き及びかと思いますが、ユウマさんが見つかりました。場所はシャール王国です。詳しい状況はシラユキさんにこれから話してもらいます。その上で、私個人としては全力でユウマさんの手助けをしたいと思っています。ワガママなのは重々承知していますが、どうかよろしくお願いします。」
アイリ殿は深々と頭を下げる。皆、神妙な顔をしている。この10年、アイリ殿がどれほどユウマ殿を想い続けていたかを知っている。そして、クロウ、サフィーナがいなくなったという事件にも、忍耐強く独自に彼らの行方を捜している。そんなアイリ殿が頭を下げているのだ。
そして、皆の視線が我に集まる。我はこれまでの出来事とユウマ殿と交わした話すべてを皆の前で語ったのである。
<ということがあったのだ。また、状況が変化すれば我が報告する。また、意識を飛ばしてユウマ殿へ聞くこともできる。>
我は長い説明を終える。
「そのようなことが……。時間を超えるなんて……。」
ハウザーが思わずつぶやく。
「とにかく、ユウマ殿が見つかったことはガラハド連合国にとっては大きいことだ。さらに大きくこの国が飛躍することだろう。」
エドガーが嬉しそうに頷いている。
「それでも、ユウマさんが魔王討伐なんて……。でも、ベルガ島というとラース大陸との中間点ですよね。アイリさんはサフィーナさんやクロウさんの手がかり探しも兼ねるということですか?」
ミムラがアイリ殿に尋ねる。すると、アイリ殿は無言で、しかし力強く頷く。
「もう儂らは何も言うまいて……、アイリ様が決められたことじゃ。『エルドラン』としてはアイリ様を……いや、ユウマ様たちを全力で支えていくつもりじゃ。」
トータティスが〝十長老”を代表して言う。後ろのエルフの長老たちも頷いている。
「ふむ……私としては『エルドラン』だけでなく、ガラハド連合国全体でユウマ殿をバックアップしても良いと考えておる。まだ、『タイタス』や『ハヌマン』『ニルヴァーナ』の意見を聞く必要があるだろうがな。」
エドガーはチラリとラスタバンの方を見る。
「ヴぁ、『ヴァース』は賛成じゃぞ!当然ではないかっ!!わらわだけなら今すぐにでもシャール王国へ飛んでいきたいくら(ビシっ!)……痛いっ!」
我の怒りの尻尾が火を噴いた。ラスタバンの後頭部をはたく。全く……余計なことを言うな。
<なら、我とラスタバンで各集落を回ってこのことを伝えよう。我の背にはアイリ殿が乗っていってもらえるか。ラスタバンの背にはエドガー殿かミムラ殿にお願いしたい。>
「ならミムラ、頼めるか。私は色々と準備があるのでな。」
エドガーが何やらいたずらを思いついた悪ガキのような顔でそう言った。何を企んでいるのやら……
「はっ!かしこまりました。ラスタバン様、よろしくお願いします。」
「わ、わかったのじゃ。むぅ……わらわの背にはユウマ様に乗ってほしかっ……(ビシっ!)痛っ……よ、よろしく頼むぞ。ミムラ殿。」
我らはその後、色々と話し合いを行い、解散となった。
さて、まずは『タイタス』へと向かうとするか……
†
<おい!バカ婿っ!!何ふさぎ込んでいるっ!!>
突然、俺の頭の中に声が響き渡る。厳しくも優しい声だった。
「この声は……グランディアさん!?ここはいつもの亜空間じゃないですよ?」
いつもは白い空間、亜空間に引き込まれるはずだ。何かあるのだろうか……。
<それはねぇ、ユウマくんが亜空間を拒絶してるからなのよ。どうしても私たちの亜空間に引き込むことができなかったの。>
これは、ジャスリーンさんの声か……。ん?俺が亜空間を拒絶?心当たりはある。俺は、今、亜空間に対して恐怖を感じている。また、周りの人が消えてしまうんじゃないかと……
「すいません。俺、今、亜空間が怖いんです。【聖領域】を作るのに失敗して……ダイチたちを過去に飛ばして……アイリにも、心配かけ、ぶげほっ!!」
再びの衝撃が俺の脳天を襲う。
<本当にどうしようもないバカ婿だな!そりゃMP不足で【聖領域】なんてバカみたいに魔力を使う事を無理やりやったんだからあんなことになるのは当たり前だっ!!10年時間が飛んだだけですんで良かったと考えろ!最悪、この世界が無くなってもおかしくなかったんだぞっ!>
うへぇ……俺って、そんなにヤバいことをやってたのか……ラクリア消滅とか、そんな危機的状況だったのか。ってか魔力不足?あぁ、そうか。あの巨大怪獣ケルヴィムにいろんな魔法飛ばしたからな。そりゃ魔力も減るか……その上で【聖領域】……俺、本当にバカだな。
<貴方、ユウマくんがちょっと残念な子なのは前から知ってたでしょ?魔力管理が出来ないアホだけど、それでもユウマくんはアイリちゃんの旦那様だもの。>
「うっ……うぐ……全くもってその通りでございます。」
ジャスリーンさん、声は優しいけど、絶対怒ってる……いつも以上に声に迫力があるし……
<確かにアホで残念なのは知ってたからな……仕方ないか。それでも、私としては10年間も娘を放ったらかした罪は償ってほしい。>
うぅ……ご両親にディスられるのはかなり精神的に削られるぅ……
「は、はい……どんなことでもやります。やらせていただきます。」
俺は俯き、ようやくそれだけを絞り出す。と、不意に温かいものに包まれていた。
気付くと、俺は実体化したグランディアさんとジャスリーンさんに抱かれていた。
<よく戻ってきてくれたぞ。お前のような奴でも息子だと思っているからな。>
<そうよ。ユウマくんは大切な家族よ。だから本当に私たちはうれしいの。お帰りなさい。>
俺の耳元で2人の慈愛に満ちた声が響いて来る。涙が止まらなかった。そして、とても幸せな気持ちに俺は包まれていた。
「ただいま……帰りました。お義父さん。お義母さん。」
俺は嗚咽を堪えてそれだけを伝えた。
<なら、お前はアイリの元へ行ってやれ。亜空間を使えばすぐだ。それにシャール王国にいることは、すでにシラユキが皆に伝えているだろう。皆に、顔を見せてやれ。>
「解りました。今から『エルドラン』へ行ってきます。それからアイリにもきちんと『ただいま』って言わないと……。」
<そうね。ちゃんと言ってきなさい。そのままウフフな事をしちゃっても構わないんだから。>
<じゃ、ジャスリーンっ!?何を言っているっ!!そんな事、私は許さんからなっ!!>
あぁ……なんかさっきの感動が……そうかウフフな事か……いやいや、違う。ちゃんと言わなきゃな。でも、その後ウフフな事があっても……
<おい!バカ婿っ!!お前も変な事考えているんじゃないだろうなっ!!潰すぞっ!!>
「そ、そんな訳ないじゃないですか……。あは、あははは……。はぁ……。」
グランディアさんの後ろでジャスリーンさんがサムズアップしてウィンクしている。
でも、久々に家族を感じることができた気がしたな。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




