61、国王ヤマダ
†
「えーと、タカハシ ハルトと言います。初めまして。」
勇者は謙虚に自己紹介をしてくる。
「あ、アリムラ ユウマです。よろしく。……にしても、この恰好、ちょっと恥ずかしいですね。」
俺も自己紹介を返す。
「あはは……未だに状況がよく解らないんですが……。アリムラさんは何か聞いてますか?」
気の弱そうな青年、というのがこのタカハシという男の第一印象だった。
「なんか勇者召喚で呼ばれたとか……詳しい話はまだ聞いてません。これから国王様という人から説明があるんでしょう。」
「そ、そうですか……。あはは……なんかアリムラさんは余裕がありますね。私なんて、今の状況を整理するのに一杯一杯で……。」
タカハシは苦笑しながら言う。
「これより国王様のお出ましであるっ!!」
玉座の脇にいる男から声が上がる。
ファンファーレが再び流れ、俺たちは頭を垂れ、跪くように促される。
「おぉ……勇者たちよ。まずは名前を聞かせてくれるか。儂はシャール王国第20代国王、アルジー・ヤマダ・シャーロンだ。まずは良く我が呼びかけに応じてくれた。」
国王の声が響く。ん?今、山田って言ったか?どこぞの乾杯する芸人みたいだな。
「俺はアリムラ・ユウマです。」
「わ、私はタカハシ・ハルトです。」
俺たちは顔を上げる。すると玉座にはロマンスグレーの髪に豊かな髭を蓄えた初老の男が座っていた。全く山田っぽくない。いや、全国の山田さんごめんなさい。
立派な王冠には眩いほどの宝石が散りばめられ、赤い毛皮のマントの下にはレースがふんだんに使われた服を着こんでいる。うん、ちょっと暑くないか?あれ。まぁ、ザ・王様な格好ではあるけども。
「ほう。ユウマ。それにハルト。これが名前で良いのだったな。儂の遥かご先祖様も異世界人であるのだ。この国には多くの異世界人が住んでいるのだ。もしかしたら、そなた等の知り合いがおるやもしれぬな。」
「失礼ながら、質問を良いですか?」
俺は国王ヤマダに質問してみる。周りの家臣たちがざわつく。あれ?ダメだったの?
「良いぞ。ユウマ殿。何でも質問するがよい。」
「ありがとうございます。まず、先にお知らせしておきます。私は異世界人ではありますが、ここに召喚される前もこのラクリア世界に存在していました。それも10年前のラクリア、今のガラハド連合国と言われるところに初めて転生したのです。なので、恐らく勇者として呼ばれたのはこちらのタカハシさんだけではないでしょうか。」
「ふむ……話はナウルから聞いておる。だが、勇者召喚でタイミングよく現れたのだ。何かの縁かもしれぬ。気にすることはないぞ。儂はユウマ殿もハルト殿も等しく勇者として扱うつもりだ。」
い、いや……そういうことじゃないんだけど。俺、勇者じゃないからここから出ていってもいいっすか?
……言えん。この状況では、言えん。それにタカハシは緊張からかプルプルしてるし……
「あ、ありがとうございます。それで……普通の異世界人と勇者と、何が違うのです?異世界人は須らく特殊な力を持っていると聞いていますが?そして、勇者に何をさせようというのですか?」
「ふぉっふぉっふぉ。気にするでない。勇者とはな、普通の異世界人をはるかに超える力を持つ者なのだ。そして、そなた等勇者にお願いがあるのだ。」
ん?魔王を倒してくれとか言わないでくれよ?
「シャール王国の北東沖にある島に巣食う魔王を倒してきて欲しいのだ。」
言ったーーー!!魔王って言ったーーー!!ってか魔王っているのかよっ!この世界。勇者って言われた段階で嫌な予感はしまくりだったんだよっ!そんな無茶ブリすんじゃねぇっての。
「あはは……ははは……。」
あ、タカハシ、放心してる。そりゃそうだろう。いきなりの転生で勇者になって魔王倒せとか……そんなの納得するわけが……
「やりますっ!!私たちが魔王を倒して見せますっ!!」
って勝手に引き受けちゃってるしーーーー!!!何その『私たち』って、俺が含まれてるじゃん!!お前が一人で行ってくれよっ!!って、まぁ、この状況だと引き受けないとヤバいんだろうけど……
「おぉ!それは頼もしいぞ。ハルト殿。ユウマ殿。それでは、まずは今後の事を宰相のヨハンに任せよう。その言葉を聞けただけで余は満足である。有意義な時間であったぞ。」
なんかとんとん拍子に話が進んでいるが……
「国王様の御退出である。」
再びファンファーレが流れ、国王が出ていった。それに続き、家臣たちもゾロゾロと退出する者、俺たちの所へとやって来るもので謁見の間はごった返す。
「勇者殿。ぜひ我が屋敷へ招待させていただきたい。」
「いや、それなら私の屋敷へご招待しよう。綺麗どころを揃えておるぞ。」
「財務相殿は、すぐ女性の話に持っていく。あはははは!」
俺はジト目でタカハシを睨む。……が、当の本人は目をキラキラさせながら貴族たちの誘いを受けている。って、いやいや思いっきり囲い込みかけられてるんですけど……。
「皆、そのくらいで勇者殿らを解放してくれるか。これからの話を伝えねばならんのでな。」
眼鏡をかけた白髪の老人がやって来る。さっき、国王ヤマダの脇にずっと立っていた人だ。
「お初にお目にかかる勇者殿。私はシャール王国宰相ヨハン・ファウンデン・ドゥ・サティウェンと申す。」
長っ!!
ヨハンさんはメガネをクイっと上げながら、濃紺のローブをバサっと翻す。そして俺たちに背を向けて歩いていく。
「ついて来られよ。今後の話を始めよう。」
こちらにはもはや目もくれずスタスタと歩いて行ってしまう。
何なんだよ。まったく……。
(シラユキ、どう思う?魔王だってよ。)
俺は意識を仔猫の姿のシラユキに飛ばす。
<うむ……場所が気になるな。おそらく魔王のいる島というのはこのエンヴィー大陸とラース大陸の間にある島だろう。ということは、邪仙が絡んでいるのかもしれん。>
(そうか。なら、今は話に乗っておいた方がいいのかもな。シラユキ、一つ頼まれごとをしてもらえるか?)
<ん?なんだ?我はユウマ殿の眷属だ。なんなりと言うがいい。>
(そうか、ならアイリたちに俺がシャール王国にいることを伝えてほしい。お前なら飛べばあっという間だろ?)
<我は別に構わぬが……、ユウマ殿が亜空間を使って直接行けばよいのではないか?『エルドラン』の場所は変わっておらぬ。転移すればすぐだと思うが……。>
(うん。そうなんだろうけど、【聖領域】を失敗してこんな事になってるからな。転移とか、正直、怖くてな。また失敗してとんでもないことになりそうで……。)
<そうか……なら、もう何も言うまい。では、今から行ってくる。恐らく今日中には『エルドラン』には到着するだろう。>
(悪いな。頼んだわ。)
「――さん。アリムラさんって。聞いてます?」
タカハシが俺を呼んでいる。
「あ、すいません。ちょっとボーっとしてて……。」
「あはは……わかります。私だってこんな展開で正直、ついていくのがやっとですよ。」
タカハシは終始笑顔だ。こんな状況にテンションが上がるのは無理もない……のか?
「で、何かありましたか?」
「あ、そうそう。アリムラさんは以前にもこの世界に居たんですよね。なら、この世界の事に詳しいかなぁと思いまして、色々と教えてもらいたいんですよ。」
「ああ。いいですよ。あのヨハンさんの話が終わったら色々とお教えしますよ。」
「あはは……ありがとうございます。」
このタカハシは愛想笑いがクセみたいだな。
「勇者殿。この部屋へ入ってくれ。」
ヨハンさんが1つの部屋に俺たちを案内する。俺たちは促されるままに、部屋に入りそこに置かれていたソファに座った。
「それで、今後の俺たちの事ということですが……。素朴な疑問ですが、軍隊でその魔王の島に攻め入るのは無理なのですか?」
魔王退治なんて勇者だけに押し付ける状況って何だよ。
「うむ。私たちも一度軍隊を送り込んだのだ。だが、島の周りには凶悪な海の魔物が多くてな。軍船の悉くを沈められたのだ。だからいくら兵の数を集めてもあまり意味をなさんのだ。強力な力を持つ者が一点突破するのが一番だということになってな。」
「それなら軍船1隻分の人数なら連れていけるってことですか。」
「ま、そういうことだな。300人ほどは乗り込めるのではないかな。それで勇者殿らにはその乗組員の選抜をしてもらいたい。そして、勇者殿らを鍛えねばならぬしな。」
あ、思っていたより人数が多い。5、6人で島へ行けって言われると思っていたけどな。
「なるほど。そういうことなんですね。あ、期限とかあるんですか?いつまでに倒してこいとか……。それから、魔王って具体的にどれほどの脅威なんですか?いまいちピンと来てないのですが……。」
俺は遠慮なくポンポンと質問していく。タカハシの方は、妄想の中で300人の仲間たちと冒険を始めている……のだろう。ニヤニヤしながら話を聞いている様子はない。なんだよコイツ……。
「ふむ。期限は特にない。……が、いつ魔王たちが大量の魔物を率いて海を渡ってくるか解らんのだ。現在、魔王の島、ベルガ島に近い岬には塔を築き、昼夜問わず監視をしておる。やれているのはその程度だ。島には推定でも5万を超える魔物が犇めいておると言われておる。そして、魔王の使いと言われる者たちが今、シャール王国各地で暴れまわっている状態だ。名のある傭兵や騎士、魔術師などがすでに殺されておる。それも異世界人ばかりを狙ってな。今、シャール王国には希望が必要なのだよ。勇者というな。」
異世界人を狙う?どういうことだ?それに邪仙絡みの魔王……、5万匹の魔物……はぁ~これなんて無理ゲ?
この話を聞いてさすがのタカハシもニヤついた顔が固まっている。良かった。バカじゃなかった。これで、『それでも私はやるんだー!』とか言い出したらどうしようかと思った。
「タカハシさん。慎重になったほうがいい。この世界は前世の日本のようにはいかない。死が身近にあるんだ。勇者でも死ぬときは死ぬ。」
俺は念のためにタカハシに釘をさしておく。
「そ、そうですよね。あはは……でも、鍛えてくれるっていうし、少しでもレベルアップしておけばいいんですよね。」
引き攣った笑みを浮かべながらタカハシは言う。そうだ。弱いとすぐ死ぬ世界。……確か、転生するときに神様にそう言われたっけな。
「今から勇者殿らの実力を測らせていただくが宜しいか?」
ヨハンは俺たちを値踏みするように見る。あまりいい気はしないな。ヨハンさんのステータスは一般人とさして変わらない。先ほどの謁見の間にいた騎士たちのレベルもナウルが一番高かった。
「構いませんが、どうやって実力を測るのです?まさか決闘とか言うんじゃないですよね?」
「似たようなものかもしれんな。色々と試させてもらう。まずはハルト殿からだ。この部屋を出て待機している騎士の後について行ってもらえるか。」
「えっ?あ、あの……決闘って、本気で殺し合ったりするんですかね?あはは……。」
いきなり名前を呼ばれついていけていないタカハシ。
「なに、救護班もいるし回復のために魔術師も待機させておる。簡単には死なんよ。今のハルト殿の全力を見ておきたくてな。」
ヨハンはそう言うと、タカハシに退出を急かすように右手を扉の方へ広げる。
「わ、解ったよ。強くしてもらえるならやれるだけやってみるよ。あはは……。」
覚悟を決めたような顔をしてタカハシは部屋を後にする。
「……で?俺とサシで話したいことは何だ?わざわざタカハシさんを外へ追いやっておいて……。」
俺はヨハンをジロリと睨む。
「ほぅ……気付かれましたか。さすがはあのアリムラ・ユウマ殿だ。」
何だ?ヨハンの雰囲気が変わった。
「どういう意味だ?」
「ナウルから聞きましたよ。ダイチ、アヤノ、ノア、ミコトという少年少女たちを探していると……。」
「ん?ああ。確かに言ったが……。おいっ!まさかあいつらがどこにいるのか知っているのか!!」
俺は思わず立ち上がり、身体を前のめりする。
「やはり……。確かに私はあの方々を知っています。ですが、もうここにはいないのです。これをご覧ください。」
ヨハンは懐から古い石板のようなものを取り出した。そこには細かく何かが彫り込まれている。
〝これをアリムラ・ユウマと名乗る黒髪黒目の異世界人へ渡すこと”
かなり古い物なのだろうが、辛うじてそれが読み取れた。そして、それに続く文章が衝撃的なものだった。
〝 師匠!僕ですっ!!ミコトですよ!どこ行っちゃったんですか!!僕たちは、まぁ、なんとかやってるですよ。なんか周りの人たちを助けてたら『勇者様~』なんて呼ばれちゃってるんですよ。ダイチなんか調子に乗っちゃって、いつも僕やアヤノが抑えてるんですよ。それはいいとして……たぶん、もう師匠とは会えないと思うんですよ。僕たちは気付いたら、かなり昔の時代に飛んできちゃったみたいなんですよ。『エルドラン』へ戻っても、知らない人ばっかりだし……だから、僕らの子供とか孫に逢えたら、よろしく言っておいてくださいですよ。僕は離れていても師匠の弟子として頑張っていくですよ。だから、師匠もこのラクリアで頑張ってくださいですよ。 P.S. ダイチがどこかの国のお姫様に告りましたですよ。フラれろ!ですよ。”
あいつら……過去にタイムスリップしてたのか!!なんでだよ……もう、会えないじゃねぇかよ……何さらっとお別れの挨拶してんだよ……ミコト……お前、俺の弟子だろうが……。
俺は目頭が熱くなるのを感じる。ジワジワと涙が溢れて来た。特に何をしてやれたわけじゃなかった。けど、あいつらとは確かに一緒にいたんだよ。やっぱり、俺のせいか……俺が【聖領域】なんか使わなければ……。
「ユウマ殿。やはりその石板を読めるのですね。」
ヨハンが声をかけてくる。確かに石板はタイトル以外全て日本語で書かれていた。でも、俺は返事をしなかった。
「そこ石板は300年ほど前にこの国を救った勇者様が残されたものと言われております。そして、この国の国王も、その勇者の血を引いているのです。」
ん?勇者の血?この国王の名前にヤマダって……ミコトの苗字はアサクラだったし……
あっ!!ヤマダいたっ!!確か、ダイチの苗字がヤマダ……ん?えぇぇぇぇーーっ!!
マジか……じゃ、さっきの文にあったお姫様ってシャール王国だったのかっ!!で、俺はさっきダイチの子孫に緊張しながら跪いて頭下げてたのか……
なんか、今考えたら腹立ってくるな。ダイチのクセに生意気な!
「ゆ、ユウマ殿?いかがしましたか?」
「あ、いや……ダイチの子孫も偉くなったもんだと思ってね。ま、俺が知っているのはガキの頃のダイチだけどね。」
「そ、そうですか。ダイチ様ら勇者様の功績は大変なものですよ。一番の功績は精霊王の封印とガラハド大森林帯に大発生した魔物の進撃をシャール王国の盾となり殲滅させたことでしょうか……。私も幼い頃から何度も英雄譚を聞いたものですよ。」
「精霊王!?それ……10年前に封印解けかけたんだけどな。」
「えぇっ!!それは誠ですかっ!!」
「あ、大丈夫だ。俺が再封印しておいたから。でも、精霊王の分体が出てきて『エルドラン』とか『タイタス』とか、かなりヤバかったんだけどな。その時の分体の魔核石、持ってるけど見る?」
「へっ?……えーと……申し訳ありません。もう一度行ってもらえますか?」
「え?うん。精霊王の分体の魔核石見る?」
「いえいえいえ……その一つ前の話です。」
「え?えーと、精霊王の封印が解けたから再封印した?それとも、分体をやっつけたよって話?」
「や、やっつけたのですか!?」
「え?あぁ、やっつけないと魔核石取れないし。えーと、ヨハンさん。大丈夫?」
「え?え、ええ、まぁ……何といいますか。頼もしい限りでございます。」
変な奴だ。なんかキラキラした目で俺を見てくるし……まさか、そっち系の人なのかっ!?そういえば、さっきから俺の身体を舐めるようにジロジロ見てくるし……ヤバい。ここから逃げないと!!
「よ、ヨハンさん?そ、そろそろ俺も試しの準備しないとな!なっ!」
俺がガタンと立ち上がり、扉の方へ歩いていく。
「ユウマ殿に試しなど必要ないと考えておりますので……。それより、もっとお話を聞かせていただきたいのですがっ!」
ヤバい!ヨハンが凄い速さで俺に近づいて来る。目が怖い。ええい!【威圧】軽めっ!
「はうっ!」
ヨハンは俺の軽い【威圧】を受けて倒れそうになる。俺は触るのも嫌だったが、一応、頭を打たないようにそっと横に寝かせる。
「おいっ!!ヨハン殿が倒れたぞっ!誰かっ!!」
俺は扉を開け、騎士たちを呼ぶ。ふぅー……これで助かった……のか?
「あっ!ユウマ殿!どうなされましたっ!!」
やって来たのはナウルだった。
「い、いや……話している最中に急に倒れられてな。疲れておられるのだろう。で、俺は試しとやらをやらなくてよいのか?」
「宰相様はいつも気を張っておられますから。疲れがたまっていたのでしょう。では、ユウマ殿は私について来て下さい。ハルト殿が大変な事になってますから。」
ナウルはメイドたちを呼びヨハンを介抱させる。そして、俺はナウルの後ろについて行った。
長い回廊が続いており、奥からは歓声のようなものが聞こえる。
「えと、タカハシさんがどうかしたんですか?まさか怪我とか……」
「いえ、怪我ではないのですが……何というか、説明するのに困るのです。実際に見ていただければ解るかと思います。」
回廊を抜けると、そこには闘技場のようなものが広がっていた。
そこで訓練していた者たちだろうか。木剣を持ったまま、こちらへ数人が駆けてくる。いや、何かから逃げているのか?
そして、後ろにとんでもないものが見えた。
Brrrrrrrrrrr
重低音の駆動音が辺りに響き渡り、そこには1台の戦車が鎮座していた。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




