60、気が付くと
新章突入します。
†
「ここは……。」
俺が目を開けると、そこは装飾が施された天井が見えた。天井が高い。それだけでここがかなりの広い屋敷かなにかだというのが解る。
上質なベッドの脇にあるベッドチェストの上には水の入ったピッチャーが置かれている。かなり広い部屋のようだ。かなり高価であろうカーペットや燭台、家具が置かれている。外からは光が差してくるのことから日が出ている時間帯なのだろう。
俺はあの時、【聖領域】を使おうとして、上手くいかなかった……気がする。よく解らない。前回、【聖領域】を使った時と何か違和感がある。そして、ここはあの白い空間ではない。
そうだ。ファルファレルロは!?ダイチ、アヤノ、ノア、ミコトはっ!?
見回すが、この豪華な部屋には俺しかいないようだ。
ガチャ
扉が開かれ、1人のメイドが入って来る。人間の少女だ。16、7歳だろうか。黒髪の可愛らしい少女だった。
「お目覚めになられましたか。勇者様。」
へっ!?
「えーと……勇者って俺の事?」
「はい。勇者様は我が国王様の勇者召喚の魔法により異世界から呼び出された勇者様……ではないのですか?」
首をコテンと倒して俺を覗き込んで来る。
「いや、異世界人ってのはあってるけど、異世界からってのはちょっと解らない。ここはラクリアだろ?」
「えっ?あ、はい。ここは絶対神フィーネリア様が御造りになられたラクリアですが……なぜそれを。」
「俺は元々異世界からここに来た。けど、俺はガラハド大森林帯にいたんだ。で、ここはどこかな?」
「えっと……あの、どういうことでしょう?ガラハド連合国の方なのですか?でも、召喚の儀式で現れたと聞いていますし……えーと……少々お待ちください。」
メイドは慌てて外に飛び出していこうとする。ガラハド連合国?なんじゃそりゃ。
「あっ!待って!!その儀式ってのに、俺以外の人間は召喚されなかったのか!?まだ幼い男の子や女の子なんだけどっ!」
「へっ?いえ。召喚された勇者様は貴方様お一人だけですよ。それでは、失礼します。」
急に呼び止められビクっと立ち止まったメイドだったが、それだけを言うと部屋の外へと言ってしまった。
どういうことだ……。あの状態で俺は召喚された?じゃあダイチやアヤノ、ノアやミコトはどうなったんだよ!!死んでしまった?俺のせいで?俺だけが助かったのに?俺が殺してしまったのか……あんな無茶したから……
(サフィーナ……助けてくれ……クロ子……頼む……助けてくれよ……俺は……あんな幼い子たちを……殺してしまった……)
俺は藁にも縋る思いで意識を飛ばす。しかし、なぜか反応がない。どういうことだよっ!眷属召喚だっ!来てくれよっ!サフィーナっ!!クロ子っ!!シラユキっ!!
俺の願いも虚しく、何の反応も……いや、あった。目の前に光の渦が現れ、それが部屋いっぱいに広がっていく。
<何なのだ?これは……ユウマ殿……なのか!?>
「おぉっ!!シラユキかっ!!生きてたんだなっ!!良かったっ!!本当に良かったっ!!」
<それは我のセリフだ。ユウマ殿、今までどこにいた。それに、姿もあの時のままだ。>
シラユキは感動しているというより、戸惑っている。俺、今、泣きそうなほど感動してるってのに……。いや、ちょっと泣いている。
「どこにいたも何も、あの光の後、気付いたらこの部屋で寝てたってところだ。どうやら勇者召喚?ってのに召喚されたらしい。」
<何っ!?それではユウマ殿が歳を取っていないのもそのせいなのかっ!?>
「シラユキにしたらリアクションでかいよな。なんだよ大げさに。もしかして……俺、かなりの間寝てたのか?3日?いや、1週間くらいか?いやいや1年ってことはないよな?」
<10年だ……。あのガラハド大災厄の日から10年の月日が経っているのだ。>
「はぁーーーーーー!?じゅ、じゅ、じゅ、10年っ!!俺、10年も寝ていたってことか!?」
<い、いや……たぶんそれは違うだろう。というか、話聞いてたか?ユウマ殿。歳を取っていないということは、あの時、あの瞬間、ユウマ殿は召喚されたってことだ。ユウマ殿の知識でいうなら10年後の未来にタイムスリップしたという所だろう。>
「タイムスリップぅ~~~~~~~~!?」
<ゆ、ユウマ殿。少しキャラが変わったか?い、いや何でもない……。>
「えーと、ちょっと待てよ。今、状況を整理してるから。うん……なるほどな。そうことな。まったく実感わいてないけど。だからシラユキも……っていうかそろそろ縮んでもらえないか?」
今のシラユキは以前のような小柄サイズではなく、オリジナルの大きさで体を小さく丸めている状態だ。少しでも体を動かしたら部屋が崩れるだろう。っていうかよく入ったな。
コンコン!
扉がノックされ、先ほどのメイドが入ってくる。
「先ほどのお話でしたが、一度、国王様がお会いになりたいそうで……きゃぁぁぁぁぁああああああ!!!ドラゴンっっっ!!!!」
メイドはシラユキの姿を見て、悲鳴を上げ、再び部屋を飛び出していってしまう。
「だから、早く縮めっていったのに。そうだな。動物に化けることはできるか?猫とかが理想だけど……。」
<なっ!?そのような下等な動物にかっ!?ただ縮むだけではダメなのかっ!?>
「いや、さっき国王がどうとかって話してたからな。竜の姿ではマズいかもしれないし……。ほら、猫ならモフモフできて可愛いじゃん。」
<ユウマ殿の本音は後半の部分にしか感じられないのだが……。まぁ、いいだろう。猫か。やってみよう。>
シラユキの姿がシュルシュルと縮んでいき、ポンという音とともに、それまでの白銀の竜の姿は消え去る。代わりに、小さな仔猫が現れる。
<どうだ?このような姿で問題ないか?>
「うんっ!!いいよっ!!かなりいい!!仔猫ってところもすっげーいいよっ!!モフモフしてもいいか?いいよな?」
<ゆ、ユウマ殿?目が、目が怖いぞ?ちょ、ちょっと待てっ!!あ、誰か来るようだぞ?先ほどのメイドかもしれんな。>
「なんだよ。ちょっとくらいいいじゃないかよ。」
確かにシラユキのいう通り、誰かがやってくる気配がする。それも複数だ。
バタンっ!
「どこだっ!ドラゴンというのはっ!!」
ガチャガチャとフルプレートを着込んだ騎士たちが入ってくる。先頭のオッチャンはどっかで見たことがあるような……うーん……思い出せん。
「で、でもっ!本当にいたんですよっ!!さっき扉を開けると部屋いっぱいに真っ白いドラゴンがっ!!」
メイドは必至になって弁明しているが、いるのは俺と猫になったシラユキのみ。
<にゃ、にゃ~ん……>
シラユキが慣れない猫の鳴きまねをしている。ヤバい。吹き出しそうだ。
「ど、どうしたんですか?こんな大勢で。さっきの君もいきなり大声を出したりして……。」
必死で笑いをこらえつつ、キョトンとした顔をしてみせる。うん、演技は完璧だ。
「勇者殿。いきなりこのような非礼を申し訳ない。このメイドがこの部屋にドラゴンが現れたなどという夢みたいなことを言い出したのでな。」
金髪を短く刈り込んだ年かさの騎士が代表して謝罪してくる。
あ、思い出した。誰かに似ていると思ったら、エイラムにいたバルムンクに雰囲気が似ている。血縁者か?
看破っ!!
――――――――――――
■ステータス
名前/ナウル・フォン・バルムンク
Lv.10
種族/人間 年齢/39歳 職業/近衛騎士
HP 170/170
MP 85/85
腕力 145
体力 140
敏捷度 85
器用度 85
知力 80
精神力 100
称号:シャール王国の鬼神
装備:ミスリルプレート 龍鱗の剣
スキル
-スキル【剣術/Bランク】【楯術/Aランク】【ウェポンマスター】【統率/Bランク】
【身体強化/Bランク】
――――――――――――
あ、バルムンク。ってことはあの人の血縁者ってことか?装備も称号も同じだ。
「えーと、もしかして、ガフォー・フォン・バルムンクさんの血縁者の方ですか?」
俺がその名前を出すと、ナウルは驚いたような顔になる。
「父をご存じなのですかっ!?ということは、このメイドが言っていたことは本当なのか……。」
ナウルは体を乗り出して聞いてくる。うん。ちょっと暑苦しい。
「ん?それは、俺が異世界人だけど、以前にガラハド大森林帯にいたってことですか?で、ここはシャール王国なんですか?」
「あぁ。ここはシャール王国王都シャーロンだ。これまで召喚の儀式でこのようなことはなかったのでな。そのことを含めて国王に話してもらいたいのだが、宜しいか?もちろん着替えなどもこちらで用意させてもらっている。」
ナウルがそういうと、数人のメイドが豪華な衣装を持って来る。なんかダボダボした服だ。これが貴族用の服なんだろう。今の俺は白い患者服のような物を着せられている。俺の装備はどこいった……高かったのに……ま、いいか。
「ああ。ありがとう。それより、先ほども聞いたが13、4歳の男女と10歳くらいの男女の4人組だ。知らないか?ダイチ、アヤノ、ノア、ミコトっていうんだが……。」
「そ、それはっ!!」
ナウルはさらに目を大きく見開く。なんなんだ。さっきから。
「し、失礼しました。ユウマ様。お着替えが終わられましたら、お呼びください。」
ん?急にナウルの言葉遣いが変わったぞ?何がどうなってんだか……。
ナウルたち騎士たちはまたぞろぞろと部屋を後にする。メイドたちが俺に衣裳を着せようとするが、断った。着方は多分わかるだろうし、なんとなく恥ずかしいからな。
「すまないな。部屋の外で待っていてくれないか?着方が間違っていたらあとで教えてほしい。」
そういって、メイドたちを部屋の外へと出てもらう。
「さてと……シラユキ。そろそろ教えてくれよ。サフィーナもクロ子も意識を飛ばしたが反応はなかった。あいつらはどうなってる?それにアイリは無事なのか!?ガラハド連合国ってのは何だ?」
俺が気になっていたことを一気にシラユキにぶつける。
<むぅ……無理もないか。10年の時空を飛び越えてきたのだからな。まずはアイリ殿は無事だ。ガラハド連合国の首脳の1人として『エルドラン』におられる。ガラハド連合国というのは、例の氏族連合だ。今では国としての形を成している。自称国王だったエドガーが色々と法や各集落の掟を取りまとめて、国にしたものだ。>
「そうか。アイリはそんなに出世してるんだな。まずは無事でなによりだ。それに国造りも上手くいったのか。色々と変わったんだな。浦島太郎の気分だ。」
<そして、ここからは深刻な話だ。サフィーナとクロウだが……現在、行方不明となっている。>
「おいっ!!それはどういうことだっ!!」
俺は思わずシラユキの首根っこを引っ掴む。
<お、落ち着いてくれ。ユウマ殿。……まず、いなくなったのはクロウだった。ユウマ殿を捜索するために、エンヴィー大陸の北東に位置するラース大陸へと渡ったのだ。定期的にサフィーナへ連絡があったのだが、それも2年前に途絶えた切りなのだ。そして、サフィーナも1年前にラース大陸へと行ったのだ。そして、半年も経たないうちに連絡が取れなくなったのだ……。>
項垂れたようにシラユキは頭を下げる。
「ラース大陸にいるのか?サフィーナもクロ子もっ!!なら、助けに行かないとっ!!なんでお前はラース大陸に行かなかったんだよっ!!」
<落ち着けっ!!お前はバカかっ!!我までラース大陸に向かい、連絡が取れなくなったらどうするのだっ!それに、今のラース大陸は危険なのだっ!邪仙の巣窟になっておるっ!>
邪仙……その言葉があの男、ファルファレルロの姿をフラッシュバックさせる。
ニヤリと笑う奴の顔……
腹を抉られら時の痛み……
思わず胃液が込み上げてくる。
「うぇっ……おぉぇっ……」
<ユウマ殿。大丈夫か?>
シラユキがその小さい肉球のついた手で背中を摩ってくれる。
「ああ。ありがとう。」
<我も独自のルートでラース大陸の事は調べている。ユウマ殿はまずは今の現状をしっかりと把握することに努めるのだ。>
仔猫に説得される俺……。妙な絵だが、シラユキのいう事も尤もだ。とりあえず、着替えを済まそうか。
「ああ。そうだな。そうするよ。」
俺はシラユキに礼を言って、ベッドに置かれた衣装に袖を通していく。ん?これで王様に会いに行くんだよな?いいのか?こんな格好で……。
「あの。着替え終わりました。本当に、この恰好でいいんですかね?」
俺は部屋の外で待機しているメイドを呼び込む。すると、メイドが入って来て俺の姿を確認する。
「はい。お見事な着こなしでございます。これなら手直しの必要なく国王様へお目通り可能となりましょう。」
少し年かさのメイドが俺の恰好を褒めてくれる。いや、着こなすもなにも、着ただけなんだけどな。
俺の今の恰好はダボダボのデニムにデカイ白Tシャツ、黒いダウンジャケットっぽいもの、そして赤いキャップ。
……どこのBボーイだよっ!!
しかも金のネックレスとか細かい所まで再現してるんだけど、すべてシルクか何かの光沢素材で細かいレースがあしらわれている。なんじゃこのファッションはっ!!
「えーと……本当にこの恰好で失礼にならないですかね?王様でしょ?今から会いに行くのって……。」
俺はあまりの展開にドッキリかと疑ってしまう。ってかカメラどこって感じだ。
「ええ。異世界人の方はそのような恰好をなされると言い伝えにありましたので。シャール王国は歴史が古く、そのような文献も残っているのですよ。」
年かさのメイドはドヤ顔でそう言ってくる。いや、確かに前の世界ではそんな恰好をする人たちもいたけどさ……、いや、悪いってわけじゃないんだよ?でもさ……、正装かっていえば、それは断じて違うって言いきれると思うんだよね。っていうか……どこのどいつだよっ!!間違った異世界の情報をラクリアに流しやがった奴はっ!!
「――者様?勇者様?どうかなさりましたか?」
メイドは不思議そうな顔で俺を覗き込んでいる。
「い、いや。あまりにも出来に前の世界が懐かしくなってね。うん、いい出来だと思うよ?。」
「ありがとうございます。これを作った者もさぞ喜ぶことでしょう。では、参りましょうか。ナウル様がお待ちでございます。」
メイドに促され、歩いていくと騎士たちが俺を出迎える。その先頭にあのナウルもいた。
「さすが異世界人の勇者様だ。その服を着こなされている。よくお似合いだ。」
なんだそれ……お世辞なのだろうが、なんだろう……あんまり嬉しくないんだが。
「あ、ああ。ありがとう。俺のいた世界の服だからな。」
後ろにいる騎士たちも口々に俺を褒め称えてくる。なんだろう……すごい面映ゆい。
ちなみに俺の後ろにはシラユキがついてきている。
「ん?その白い猫は?」
ナウルはシラユキに気づく。
「ああ。どこかから迷い込んだのでしょう。俺によく懐いているので使い魔として使おうかと……。」
「おぉ!使い魔っ!さすが勇者様だ!」
何がさすがなのか解らないが、ま、いいか。
メイドからナウルに案内役が変わり、俺の後ろからも騎士たちが付いてくる。見ようによっちゃ連行されてるっぽいけど、後ろの騎士たちが口々にお褒めの言葉をいただく。なんだ、新手の嫌がらせか?
「そうだ。バルムンクさん。さっきの話の途中だけど、俺と一緒に召喚された子たちはいなかったのか?」
俺が先ほど有耶無耶になっていたことを改めてナウルに聞いてみる。
「はい。勇者様の言われていた名前の方々はおられません。ただ、もう一人勇者様が召喚されております。」
そうか……ダイチたちも行方不明ってことか……必ず見つけてやるからな。
ん?もう一人の勇者?ってことは異世界人?っていうか本当に召喚された勇者ってその人なんじゃ……
「勇者様、すでにもう一人の勇者様もお待ちです。どうぞこちらへ。これより謁見の間ですので。」
ガチャ
巨大な扉を開くとファンファーレが流れる。うわっ……『新ビザンツ王国』のなんちゃって謁見の間を思い出すな。あの時は緊張したよな。実質、村長に会うだけだったのに……。
俺が謁見の間の最奥にある玉座まで敷かれたレッドカーペットを歩いていく。
玉座の前にはすでに、俺と同様にBボーイの格好をした男が立っている。この人が本当の勇者か。
俺が歩いていくとその男も俺のほうを見る。20歳前半の若い男だった。線は細く、糸目だがイケメンの部類に入るだろう。
看破!
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■ステータス
名前/タカハシ・ハルト
Lv.1
種族/人間 年齢/26歳 職業/勇者
HP 300/300
MP 285/285
腕力 200
体力 200
敏捷度 185
器用度 185
知力 280
精神力 150
加護:神祖の加護
称号:異世界勇者 Bボーイ(仮)
装備:Bボーイルック
スキル
-Exスキル【勇者補正】【起源魔法】【機甲魔法】
-ユニークスキル【看破】【幸運】
-スキル【射撃術/Bランク】【剣術/Bランク】【体術/Bランク】【戦術/Cランク】
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レベル1なのにステータスが高い!俺がこの世界に来た時と比べると悲しくなるほどだ。で、俺と同じで神祖の加護を持っている。
「あ、どうも。」
「あ、はい。どうも。」
勇者同士の第一声は会釈とともに交わされることになった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




