52、ファルファレルロ
†
ソウルイーターの穴は地中を縦横に走っていた。まるで捻くれまくったウォータースライダーを歩いて下っている気分だ。穴は直径3mほどで、表面は何か体液のようなもので塗り固められている。俺の後ろではミコトが光魔術の灯りで周囲を照らしている。
「うぇっ!酷い臭いですよ。師匠。この中、空気薄いですよ?窒息死とか危ないですよ。」
先ほどからミコトが絶えず喋り続けている。暗くて深い穴を下っていくことで不安になっているのだろう。
「嫌なら帰ってもいいんだぞ。はぁ……せっかく一番弟子にしてやったのに、弟子でいた時間は1時間だったか。たぶんそれ最短記録だな。」
俺があえて、残念そうな声で言う。
「わ、解りましたですよ!ついて行きますですよ!」
ブツブツ言いながらミコトは俺について来る。
気配感知を穴の奥に伸ばしていくと、反応があった。なぜか2つ。大きい反応と小さい反応。なんだ?誰かが捕えられてるのか!?なら急がないとな……。これ、滑り降りたほうが早いんだけどな。まぁ、最後にソウルイーターが口を開けて待っていたらそれで終わりになってしまう。地道に降りていくしかなさそうだ。
ん?反応に動きがある。どういうことだ?戦っている?ソウルイーターと一体誰が……。
俺は【隠形】で先行することにした。ミコトには俺の後をゆっくり言うように告げる。
「えぇーー!!師匠、僕もついて行くですよ!!」
「お前なぁ、気配消せないだろ?ミコトと一緒じゃ向こうにバレちまうだろ?」
「むむむぅ……マジックポーション貰えるならついて行けるですよ。【ゲーム魔法】は万能ですよっ!」
ミコトのゲーム魔法か、見てみたいのでポーションを渡す。すると、ミコトは何やら呪文を唱え始める。
「我を隠せ 不可視の霧 『隠れ身の霧』」
するとミコトの姿が消えている。宙にマジックポーションが浮いている。それが、傾きグビグビと音が鳴る。
「ふぅ……やっぱりゲーム魔法はMP消費がハンパないんですよ。どうです?師匠。僕のこと見えないですよ?」
「ああ。これなら大丈夫そうだな。なら俺が背負うから早く負ぶされ。」
「えぇー!!また走るんですよ?あれ、酔うんですよ……」
「ほれ、早く行くぞ……何なら、後から走って来てもいいぞ。」
「わ、解りましたですよぉ……」
俺はミコトを背負うと、そのまま滑り落ちるよりも素早く穴の下を目指し、下って行った。
どうやら穴の底が近づいてきたようだ。赤い光が漏れている。熱気が凄いぞ……これはマグマか。
「ミコト、魔法で耐熱膜を張る。いいな?」
「は、はい!」
俺は水魔法で俺とミコトを覆うように膜を張っていく。魔法になってからは呪文を唱える必要はほぼなくなった。イメージするだけである程度の事は再現できるようになっている。さっきの〝慈悲の雨”はって?あれはギャラリーがいたから勿体ぶっただけだ。
よし、身体が楽になったな。これで奥に進めそうだ。
ん?奥から何かが聞こえてくる。下は開けた空間になっているみたいだな。念には念を入れて、接近は声と姿が判別できるギリギリの所までにしておこう。
「――なのですか。なかなかしぶといではないですか。早く堕ちれば楽になるというのに。」
<黙れっ!このような事をっ!!許さぬっ!八つ裂きにしてくれるわっ!!>
「絶望したのでしょう?ヴァースの民に。貴方ほどの力を持つ方々が、なぜそのような事を責められる必要があるというのです?尤も――、先ほどの暴れようは、貴方の真の願望。生き生きと竜人たちを食い殺していたではないですか。」
<黙れ黙れ黙れっ!!小童よ!我に何をしたっ!!力が湧き上がる……見る物全てを壊したい……答えぬかっ!!さもなくば、塵も残さず燃やし尽くしてやるぞっ!!>
「おぉ、怖い事をおっしゃる。私は貴方が進むべき道を示したに過ぎません。歩を進めたのは貴方自身。今までの境遇に満足されていなかった貴方自身が選んだ選択ですよ。」
<違う違う違うっ!!断じてそのようなことはないっ!!もういいっ!小童!お前を喰ってやるっ!!>
「では、なぜ先ほどからそうなさらないのです?もうお気づきでしょう?私と貴方の力の差を。貴方では私に勝てないということもね。」
いったいどういう事だ。ソウルイーターの方が押されている?
それにあの男は何だ?
奇妙な男、20代にも見えるし、40代にも見える。顔に特徴らしきものはない。どこにでもいそうな男だった。特に武装をしているわけでもなく、ただ、きちっとした服装の男だった。
<ぐおおおおおおっ!!死ねっ!!小童っ!!>
ソウルイーターはついに大きな口を開け、男目がけてかみつきに行った。
轟っと巨大な頭が男の目の前まで迫る。しかし、男は何気なく手を翳すとソウルイーターの頭をピタリと止めてしまう。
大きな口を開けたままソウルイーターは金縛りにかかったかのように身動きが取れないでいる。
「やれやれ。本当に襲い掛かってくるとは……。元守護竜の矜持というやつですか?くだらない。でも、まぁ、これで貴方も私たちサイドに来てもらえそうですね。」
男は胸ポケットから何かを取り出して、それをポイっとソウルイーターの口に放り込む。すると、ソウルイーターの口からはシュルシュルと紫色の煙が沸き立ち、周囲を包んでいく。クソっ!よく見えないな。
男は煙に巻き込まれないように、後ろに飛びのき、楽し気に様子を見ている。
何者なんだよ!よし、完全看破っ!!
俺が意識を込めた途端、パキッ!!と何かが割れるような音が響いた。
「おや?誰か紛れ込んでいるようですね?気配をここまで上手く消せるネズミはどこのどなたです?」
男はニヤけた顔を崩さず、周囲の様子を窺っている。そして、俺の方向を見て、視線を止める。
何っ?見えてるのか?そんなはずは……
「何で見えてるのか不思議でしょう?ま、私も今はネズミさんを直接見ているわけではないんですがね。」
男からは煙のようなものを四方に飛ばしている。そうかっ!空気の流れで俺の位置を……
「煙にそんな使い方があるとはなっ!」
俺は【隠形】を解き、男の前に姿を現せる。
「ほう。どこの神仙かと思えば、ただの人間ですか。なかなか見所があるようですね。どうです?この世界に絶望してませんか?良ければ、あなたに素晴らしい力をお与えしますよ?」
男は俺を興味深げに眺めると、再び胸ポケットから黒い丸薬を取り出した。
「お前は邪仙か……。生憎と俺はこの世界を楽しんでる最中でね。知らないこともいっぱいある。それにそんな怪しげな物で強くなりたくはないな。」
俺は皮肉を込めて、男に言い放つ。しかし、男は笑うだけで特に怒った様子もない。
「くっくっく……そうですか。それなら今のうちに楽しんでおいてください。ま、絶望するのも時間の問題だと思いますけどね。そこのトカゲも昔は守護竜とまで呼ばれた聖なる生き物だったのですよ。でも、今は見る影もありません。破壊を糧に生きる暴竜。あんなのでも一応、ギリギリ邪仙の端くれってことになりますかね。」
男は煙から姿を現したソウルイーターを指して言う。今まで白い鱗に覆われていたソウルイーターだったが、今では漆黒の鱗に覆われ、凶悪な角が背中から幾本も突き出た変わり果てた姿になっている。
「何が目的で、こんなことを……。邪仙は自分の衝動で行動するんじゃなかったのか?こんな事に何の意味があるんだよっ!!」
「邪仙にも色々いるんですよ。どうです?一度、邪仙になってみればそれも解りますよ?……ま、冗談はこれくらいにして、私はこれから行くところがあるので失礼しますよ。」
世間話を切り上げるように、男は何気なく手を挙げる。
「待てっ!逃がすと思うかっ!」
俺は【高速化】で一気に懐まで潜り込み、男の腹に拳を叩きこんだ。
しかし、俺の拳は何の抵抗もなくスルリと腹に入り込んだ。まるで水に手を入れたようだ。
「ふふふふ……本当に人間ですか?素晴らしい力をお持ちのようだ。名前を伺ってもよろしいですか?あ、失礼。私はファルファレルロと申します。長いので親しい者はファルと呼んでくれますよ。」
ファルファレルロと名乗った男は腹に手を突っ込まれているのにも関わらず、気軽に俺に話しかけてくる。
「ユウマだ。だが、お前と親しくなるつもりはないがな。」
俺は腕を引き抜いた。ピリピリと手が痺れている。毒か、それとも酸か何かだろうか。厄介な体をしている。
「それは残念です。では、これ以上お止めにならないようでしたら。失礼しますよ。」
ファルファレルロは軽くお辞儀をしたままの姿勢で、シュンとその姿が掻き消えてしまった。
しかし、次の瞬間、それまで固まっていたソウルイーターが動き出した。
おいおい。上で暴れてた時より凶悪そうになってるじゃねぇかよ!!
「ミコトっ!!聞こえるかっ!!こっちはヤバいっ!!ありったけの魔力込めて防御に徹してろっ!!」
俺は上に続く穴に向けて叫ぶと、ソウルイーターに魔鋼糸を飛ばす。
<コワス……コロス……壊スっ!!>
糸でグルグル巻きにしたにもかかわらず、ソウルイーターはブチブチと引きちぎる。そして、口からは瘴気を吐き出し、糸を溶かしていく。俺はさらに糸を槍状に変化させ、ソウルイーターの足を串刺しにする。これで動きは封じたはず……。
<ナゼ……邪魔ヲする!壊スっ!!殺スっ!!>
先ほどと違い、言葉がまともにしゃべれていないようだ。あの口に入れられた丸薬が原因なのだろう。
「おいっ!ラスタバンをこれ以上悲しませるんじゃねぇっ!!ヴァースを守るのが嫌なら俺が引き受けてやるっ!」
<黙レっ!!ウオオオオオっ!!>
ソウルイーターの口から圧縮された瘴気の球が四方八方にばら撒かれる。マグマにもその瘴気が当たり、熱風と酷い臭いが鼻をつく。マズイな……これ以上暴れられると崩落するかもしれない。
俺は、ソウルイーターの頭に飛びつき、無理やり口を魔鋼糸で括りつけ、口を閉じさせる。
「クソっ!暴れるなっ!!話を聞けよっ!!邪仙なんかになるなっ!!」
苦しそうに首を左右に振り、岩壁に俺を叩き付ける。それでも、俺は奴の顔にしがみついた。こうなったら意地の張り合いだ。俺は全身を魔力で覆い、魔力を乗せた【威圧】をソウルイーターにかけていく。奴のお口から洩れる瘴気が俺の肌をチリチリと浸食してくる。体力がガクンと減っていくのが解る。
「ヴァースを守りたかったんだろっ!!大切な人たちを守りたかったはずだっ!!どうしてこんな事になるんだよっ!!」
俺が完全に瘴気に飲みこまれていた。まともに呼吸が出来ない。全身に痛みが襲い掛かって来る。腕を見ると黒く変色を始めている。
「話してみろよっ!!大変だったんだろ?いろんな理不尽があったんだろ?全部ぶちまけちまえよっ!!俺が聞いてやるっ!!だからっ!!」
俺は瘴気を浴び続けならがも話しかけ続けていた。次第に、痛みも感じなくなってくる。
「ラスタバンにもう一度会いたくないのかよっ!こんなトカゲの姿でずっといるつもりかっ!!親ならラスタバンをしっかり抱きしめてやれよっ!!あいつもそれを待ってるんじゃねぇのかよっ!!」
<う、うう……うるさいっ!うるさいっ!うるさいっ!!先ほどから、解ったふうな口を利きおって!お前に何が解るというのじゃっ!!>
「知るかっ!!だから聞いてやるって言ってんだよっ!!何がそんなにお前をイラつかせてんだよっ!何がお前をそうさせたんだよっ!!」
ん?あれ?さっきよりちゃんと話せてる?いや、その前に俺の意識が飛びそうだ……ん?瘴気が止んだ?
<あれは5年前の事だ……ヴァースの民で流行り病が蔓延してな……>
チャンス!この隙にエリクサー飲んでおこう。よし、相手は自分の世界に入って語り出してる。グビグビ……あれ?回復しない?もう一本、グビグビ……あれ?これヤバい感じか?
<ん?お前、ちゃんと聞いてるか?>
「あ、はいはい!聞いてますよ!めっちゃ聞き入ってますとも!」
うわ、俺ってば、HPがマイナスに突入してるしっ!あとエリクサーは2本……もう全部飲んでやれっ!グビグビグビグビ……ふぅー。おっし!なんとかマイナス回避!もう無茶なことはやめよう……。
<――ということなのだ。ふぅ……お前に話したらなぜか楽になった。礼を言おう。>
「えっ?あ、あぁ。そ、そうか。それは良かった。」
なんだかよく解らないが、結果オーライだ。
でも、もう一つ、試すしたい事がある。まだソウルイーターの邪仙の称号は消えていないからだ。
「ちょっと強引だが、お前を邪仙から救えるかもしれん。受け入れろっ!『眷属契約』っ!!魔力全放出っ!!」
そう。これが俺が試したかったことだ。相手の魔力よりも10倍の魔力を込めると問答無用で眷属にすることが可能なのだ。相手が邪仙なのが問題だが……
俺の魔力で周囲の瘴気が掻き消えていく。強烈な光がすべてを包み込んでいく。
そして、俺は意識を手放した。
――ピロリン♪ピロリン♪――
――――――――――――
■ステータス
名前/有村 悠真
Lv.11
種族/人間? 年齢/18歳 職業/冒険者(C)
HP 100/10240(+5120)
MP 0/40960(+20480)
腕力 10240
体力 10240
敏捷度 10240
器用度 10240
知力 20480
精神力 30720
加護:神祖の大いなる加護 封仙の加護
称号:転生者 封印されし称号その1~5 器用貧乏 タイタスの英雄 人を超えた者
装備:黒牛鳥のマント アダマンタイトの部分鎧 マチェットナイフ
スキル
-EXスキル【教育者】【学習者】【超健康体】【ステータス倍化/Lv.UP】【真・限界突破】
-ユニークスキル【極運】【ファミリア】【看破】【隠形】【人たらし】【糸使い】【金剛不壊】【読心法】
【薬草術/Aランク】【剣術/Bランク】【体術/Bランク】
【弓術/Cランク】【投擲術/Bランク】【槍術/Bランク】
―魔法スキル【火魔法/Bランク】【水魔法/Bランク】【光魔法/Cランク】
-魔物スキル【毒牙/Bランク】【高速化】
眷属契約:【精霊魔法/Eランク】(サフィーナより)
【時間跳躍タイムリープ】(クロウより)
最後まで読んでくださってありがとうございます。




