51、守護竜
ユウマサイドの冒険に視点が変わります。
ユウマサイド
†
俺はソウルイーターの尻尾で薙ぎ払われそうだった人影に飛びつき、抱えるようその場を後にした。
俺の腕の中には10代前半の少女がぐったりと抱えられていた。額には捻じくれた角が一本後ろに伸びている。こいつは、竜人か!?
ようやく土煙が収まり、ソウルイーターと体当たりをしたクシルの様子が見えて来た。
「ミコト、いつまでしがみ付いてるっ!お前にこの子の護衛を任せる。このポーションを飲ませてやれ。危なくなったら逃げろ。いいな。」
俺は背負ったミコトを下ろし、抱えた少女とポーションを手渡した。ミコトはコクコクと青い顔で頷いている。さっきは結構ギリギリだったからな。さすがの一番弟子もビビったか。あ、いや弟子じゃないけど。
地面には巨大なクレーターが出来ている。そこにクシルが大の字になって倒れている。ソウルイーターの姿は見当たらないが、クレーターの中央部に大きな穴があいているのが見える。
地下に潜ったかっ!!
追いかけようと穴を覗き込むと下から猛烈な火柱が立ち昇る。
うわっ、危ねぇ……。俺はクシルを庇うように覆いかぶさる。
火柱が収まり、再び穴を覗くがもはや、ソウルイーターの気配は消えていた。逃げられたか。
俺が、クシルにポーションを振りかけると、気が付いたようだ。
「ん?助かった……。はっ!ラスタバンは?」
クシルは上体を起こすと俺に掴みかかりそうな勢いで聞いて来る。
「竜人の少女なら向こうでミコトが保護している。それより、クシルは動けそうか。」
俺の言葉で目に見えてクシルは安堵したようだ。
「そうか……。ソウルイーターには渾身の一撃を入れたが弾かれた。まだまだ精進が足りんな。」
かなり綺麗に急所に入ったと思ったが、あれでもダメだったようだ。なら、なぜ逃げた?よく解らんな。
『ぶ、無礼者っ!!控えよっ!!』
向こうで、少女のものらしき叫び声が上がった。
見るとミコトが少女に張り倒されていた。
そこに慌ててコウシンとテトが割って入る。どうやら2人ともラスタバンという少女を知っているようだ。
「なぁ、クシル。あのラスタバンって子、誰?偉い人か?」
俺は手渡したポーションを飲んでいるクシルに尋ねてみる。
「ああ。彼女はヴァースの族長の娘だ。見ての通り気位が高くて扱いづらい。」
以前より少し口数が増えたクシルが、ラスタバンの説明をしてくれる。
「なるほどな。お姫様ってことね。そろそろミコトの所に行ってくるわ。もうポーションはいらないか?」
「ああ、助かった。ユウマ殿。」
「気にするな。それに呼び捨てでいいから。」
俺はそれだけを言うと倒れているミコトの所に向かった。
「し、師匠!!あ、あいつ、僕のこといきなり叩いたんですよっ!!」
ミコトは涙目になりながら、俺に縋り付いてきた。正直うざい。
「あぁ、はいはい。相手が悪かったな。ラスタバンっていってヴァースの族長の娘らしい。お前も、いろんなタイプの人と付き合っとけ、あとはそんな傷くらい自分で治せるよな。光魔術教えただろ?」
「族長の娘!?だったら僕は師匠の一番弟子ですよっ!こんな扱いは酷いですよっ!断固抗議するですよっ!師匠、あの子にガツンと言ってやってやるですよっ!!」
ってお前が言わんのかいっ!!
「俺も嫌だよ。面倒くさい。自分で言えっての。」
「そ、そんなーーっ!?」
とアホなやり取りをしているとラスタバンとコウシンたちがこちらにやって来た。
「そなたがユウマとその一味か。」
一味って……俺たち盗賊じゃねぇよ。まぁ、言わないけど……
「はい。ラスタバン様。」
ここは下手に出ておくのが無難か……
「なんて……なんて……なんてっ!!」
「は、はい?」
「なんてことをしてくれたのだっ!!守護竜様に……守護竜様になんということをっ!!これでヴァースもお終いじゃっ!一度暴れだした守護竜様のことを止めるのは誰にもできんのじゃっ!」
すごい剣幕でまくし立てる。守護竜とはソウルイーターの事だろう。
「ですが、ああでもしないとラスタバン様が危なかったですぞ?一先ずはご無事で何よりでした。」
コウシンが何とか仲裁にはいる。テトに関しては、どうしていい変わらないでいるようだ。
「コウシンか……。そ、そうじゃな。まずは集落の者たちを助けねば!力を貸してくれるか?」
ラスタバンの目には涙が浮かんでいる。
見ると集落のほぼ半分が潰滅状態にあり、いまだにくすぶり続けている炎が見て取れる。先ほどのソウルイーターの戦いに巻き込まれたのか、よく見れば至る所に竜人たちが倒れている。
「俺の魔法で何とかしてみる。」
俺は水魔法と光魔法を合わせるように魔力を込めてみる。イメージするのは〝ポーションの雨”、まずは集落の上空に濃い雲を作り上げる。その雲に強力な回復の力をイメージして、その力が溢れ、雫になって落ちてくる。
『〝慈悲の雨”』
するとポツリポツリと雨が降り注いでくる。優しい春雨のような雨だった。
雨は炎を消し、傷ついた集落の人々を癒していく。それをコウシンたちは唖然とした顔で見ている。
あ、ヤバ……やりすぎた?
ミコトの方を見るとキラキラとした目でこちらを見てくる。そして、ラスタバンもなぜか同様にキラキラとした目でこちらを見てくるのだ。
はぁ……なんかややこしくなりそうだな。
「ユウマ様、こんな魔術、私は見た事ありません。貴方は本当にただの人間なのか?」
「ん?あぁ、あれは魔法だからな。それに俺は異世界人だ。まぁ、その辺で納得しといてくれよ。」
「なっ!?ま、魔法……わ、解った。納得するよう努力する。」
あぁ、全然納得してないよな。テト……。
「ラスタバンっ!!ラスタバンはどこじゃっ!!」
怒声を上げながら屈強な老人がやって来た。スキンヘッドにねじれた角、白い髭を蓄えている。その後ろには竜人と見られる住人たちがぞろぞろとついて来ている。
「爺様。わらわはここじゃ。守護竜様はいずこかへお出でになられたようじゃ。」
「おぉ!ラスタバンっ!無事だったかっ!心配しておったぞっ!!何という無茶をするのじゃ!!」
ガバっとラスタバンに抱き付き頬ずりしている。
「おお、これはタクシャカ様。ハヌマンのコウシンでございます。ご機嫌麗しゅう。」
竜人の爺さんにコウシンはお辞儀をして見せる。
「ん?誰かと思えばコウシンではないか。それに、他の者たちは、ハヌマンの者か?」
「そのことで爺様にお伝えしたいことがあるのだ。ここにいるえーと、名前は何と言うたかの。」
ラスタバンは、チラチラと俺の方を見てくる。
「……ユウマ。」
「おぉ!良い名じゃ。そう!このユウマが先ほどの守護竜様の暴走によって傷ついた我らに癒しの雨を齎してくれたのじゃ。」
「ん?あのソウルイーターを追い払ったのはこっちのクシルだぞ?」
「おぉ、クシル……どこかで……そうかコウシンの息子であったか!それにユウマか。我らヴァースの為に良く働いてくれたな。今、ヴァースでは色々と問題が起こっておってな。こんな所で立ち話もなんじゃから、わしらの館に来てくれぬか。」
館といっても、見る限り、大きな建物はない。2階建ての家もないほどなのだ。それに、取り立てて大きな建物は見当たらない。どういうことだ?
俺たちは竜人の爺さん、タクシャカに連れられ、石作りの小さな建物に入った。そこには下に続く階段のみがある空間だった。なるほど、住居はすべて地下にあるということなのか。その階段も大柄な爺さんが通っても充分な広さが保たれている。所々、魔核石が配置されており、歩くのに不便はない。
階段の下までつくと、そこはホテルのエントランスのような広々とした作りになっていた。地下水を引いているのか噴水まで備え付けられている。しかし、使用人のような者は見当たらない。聞くと、身の回りの事はすべて自分でやるのがヴァースの慣習なのだそうだ。
「どうじゃ!ここが我が館じゃ。地下にある邸宅など珍しいじゃろうて。」
ラスタバンが胸を張る。残念ながら平坦だが……
「そうですね。ラスタバン様、これほど立派で興味深い建物を見るのは初めてです。」
まぁ、話を合わせておけばいいだろう。俺はそこまで空気が読めないわけじゃない。
「あれ?師匠。エルドランでハウザーさんから頂いた大樹邸宅はもっとデカくて木の中にも上にも住む場所がある超、超立派な屋敷ですよー。」
あ、空気読めない奴がここにいた。ミコトのヤツ、まだ張り倒された時の事を恨んでやがるのか……面倒くさい。
「な、なにっ!?そ、そうなのか!?ユウマ!」
「いえ、地下に水まで引いて、魔核石の明かりで照らされた邸宅など俺が知る限りここだけでございます。」
「そ、そうじゃろう。そうじゃろう。あ、僻んでおるんじゃな。」
「ち、違うですよ。エルドランの方がデッカイ木がいっぱい生えてて、人もいっぱいいて、それで……」
「ミコト、いい加減にしろ。エルドランも確かにいい集落だ。けどな、他所の集落にまで来て、自分住む場所を自慢する奴があるかよ。他所を褒める余裕を持て。余裕があれば、色々なものが見えてくるから。」
はぁ……ま、こんなこと言ってもまだ幼いミコトには分かってもらえないんだろうけどな。
ミコトはふて腐れたようにぶすっとして横を向いた。ま、後でフォローしておくか……
「元気の良い少年であるな。して、今日は何の用じゃ?ハヌマンの族長とその息子がわざわざ揃ってくるとはよほどのことなのであろう?」
ミコトとラスタバン、俺のやり取りを見ていたタクシャカが声をかけてきた。
「御先代様、お見苦しい所を……。今回、我らハヌマンの民は、ここにおるユウマ殿の提案に応じて、ここガラハド大森林帯に氏族連合なる国を作ろうという話になりましてな。我がハヌマンの賢兄であるヴァースの民にもその旨をお知らせに参った次第です。」
コウシンが慇懃にお辞儀をし、俺たちのヴァース訪問についての説明をしていく。
「ほう。国とな。昔からそのような動きがなかったわけではないが、上手くいった例がないのだぞ?どれも、反対する集落との諍いが絶えず、結局、そんな話は立ち消えてしまうんじゃ。それでもやるというのか?ユウマとやら。」
試すような目で舐めるように俺を見てくる。
「まずは、ドワーフの集落タイタスにおける秘術、『絡繰り術』を皆に解放すると族長のラガイオ殿から約束して頂きました。その防壁により、エルドランもハイエルフという尊い犠牲の元にある結界体制から解放されました。ガラハド大森林帯に点在する集落の皆さんにまずは安全の為の力をお約束します。そして、交流を活発にし、人々の輪を大きくしていきたいと考えております。」
漠然とし過ぎていてピンとこないが、問題は山のようにあるのは解っている。各集落間にある発言力や拒否権、中小集落が肩身の狭い思いをしてしまうのではないか、など思いついただけでも色々とある。
「ほぅ……じゃが、言っているユウマ本人がまだまだ問題を感じておるようじゃが?」
見抜かれた。痛い所をついて来るな。
「はい。俺は異世界人です。この世界の事はおろか、ガラハドに暮らす人々の事は何も知りません。それぞれの集落にある掟や慣習など知らなければならない事が山ほどあります。ですが、諦めなければ、国を作ることは可能かと思うのです。」
俺の言葉に一同黙り込んでしまう。気まずい沈黙が流れていく。
「ふむ……若いな。なら、こちらからは1つだけ、提案しよう。お前たちはあの守護竜様を追い払ったそうじゃな。あれを滅ぼしてくれぬか。そうしてくれたらヴァースの民はお前たち認めてやろう。」
「爺様っ!!守護竜様を滅ぼすなどっ!!あってはならない事じゃ。あれはヴァース代々より守りについてこられた聖なる竜。それを滅ぼすなど、爺様であっても許されんことじゃ!」
ラスタバンは必死に声を上げる。
「もう良いのじゃ。ヴァースを守るための竜がここまで民に被害を出してしもうたのじゃ。もう捨て置くことはできぬ。」
「でも、だって!あの中にはお父上とお母上が入っておられるのじゃ!それを滅ぼすということは……。」
まだよく解らんが、解ったことがある。この集落もエルドランと同じってことだ。
なんでこのガラハドにある集落ってのは、誰かの為に誰かを犠牲にするようなやり方ばっかりを選択するんだよっ!!結界の為に身を捧げたハイエルフたち。一族の秘術の為に社会的に封印されたタイタスの人たち。そして、今度はヴァースの族長ってわけか。
俺は、ラスタバンとアイリが重なって見えた。そして、俺は先ほどから気になっていたことを聞いてみる事にした。
「その前に、一つ聞きたい事があるのです。『邪仙に堕ちる竜』この言葉に心当たりはありますか?」
俺がその言葉を発すると、目に見えて動揺するのが解る。隣にいたコウシンとクシルも同じだ。
「そ、それは誠かっ!すでに守護竜様は邪仙に堕ちたというのかっ!!」
タクシャカは体に似合わない素早さで掴みかかって来た。
「いえ、それはまだ解りません。ですが、俺が看破したところによると、そのような称号がついていました。」
「なるほど……ユウマは【看破】を持っておるのか。なら、すでに堕ちてしもうたのか……」
タクシャカは一気に力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。
「そもそも、邪仙とは何なのですか?それに堕ちるとどうなるというのです?」
俺がタクシャカに問うが、タクシャカはもう目が虚ろになって耳に入っていない。
「それは、俺から説明しようか。」
見かねたコウシンが俺に邪仙について語ってくれた。
ラクリアには人や魔物・動物の枠を超えた能力を持つ仙人という者たちが存在する。そこへ至る方法は2つあり、様々な善行を行なう事で神仙への階梯へ登り、悪行を重ねることで邪仙へ堕ちるのである。ただ、邪仙というのは特殊で、何かにひどく絶望したり、凄まじい執念によっても堕ちることがあるという。
神仙は神々の代行者として善なる者たちを陰ながら助け、悪を挫くという。場所によって、天使などと言われることもあるそうだ。邪仙は自らの欲望のままに動き、さらなる悪行を重ね、邪神へとさらに堕ちていくと言われている。
ラクリアにはこの仙人と呼ばれる者たちが多数存在しており、ガラハド大森林帯にもガラハドと言う名の仙人が暮らしていると言われている。
つまり、守護竜は何かを切っ掛けにして、邪仙へ堕ちたということか……。
サフィーアは元々、仙界の住人だと言っていた。だから仙人とはラクリアとは違う次元に存在するのかと思っていたが、ガラハド大森林帯にも住んでたんだな。
俺は、恐らくソウルイーターを、守護竜を倒すことは容易だろう。だが、それだと俺はアイリたちに顔向けできない。ラスタバンの両親を手にかけ、何のための交流だというのだ。そんな犠牲の上にできた国なんてクソの価値もない。チクショウ!何なんだよ!!誰だよ!こんな訳の分からないシステムを考えたのはっ!!
「タクシャカ様。俺が出来る限りことをはやらせてもらいます。では、これより単独で守護竜の元へ行ってきます。」
俺は声を抑えて、崩れ落ちたままのタクシャカに声をかけると、踵を返し、再び地上に向かおうとした。
「ユウマ様、私たちも一緒に!」
「ダメだっ!!俺は1人で行く。そろそろ俺もキレてきたんだよ。誰かを犠牲にして守る平和ってシステムがなっ!!おっと、クシル。それからコウシンもついて来るなよ?来たらお前らでもぶっ飛ばすからな。ミコト。お前は来い。もう面倒臭いから弟子だと認めてやる。」
「は、はい!!師匠!!」
俺の言葉に皆が固まった。それもそうだろう。【威圧】を込めたのだから。そんな中、ミコトだけが嬉しそうに俺の後について来る。こいつには、やってもらう事があるからな。
俺たち2人は、ようやく白み始めた空の下、ソウルイーターが逃げていったクレーターの穴に入って行った。って、また、地下かよ……
最後まで読んでくださってありがとうございます。




