43、 slick talk
slick talk 口車に乗るとか そんな意味です。
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僕たちが族長様の大樹邸宅に入った時、周囲のエルフたちはなにやら忙しそうにバタバタとしていたですよ。何かあったのかな?外壁や集落内の木々がところどころ焦げたような跡があったけど……。
「あのー、ミコトです。ワイバーンの討伐から戻ってきましたですよ。」
僕たちは近くにいたエルフにそういうと、少し待つように言われる。今まで、こんな事なんかなかったですよ。
しばらくすると、笑顔で太いエルフが出迎えてくれたですよ。
彼の名前はミハエル。僕たちが転移して森を彷徨っていた時、オークに襲われたミハエルを偶然助けたことがきっかけでエルドランにお世話になっているですよ。
「ミハエルさん。族長様からの依頼だ。ほれ!この通りワイバーンは俺たちが仕留めたぜ!」
相変わらずドヤ顔でダイチがインベントリからワイバーンの首を取り出しているですよ。
「ほぅ……これは見事だ。さすがダイチだ。すさまじい力だな。族長様もさぞお喜びのことだろう。」
「あのー、ミハエルさん。エルドランで何かあったんですか?私たちが帰って来た時、皆バタバタしてるし、集落に木々は焦げてるし……」
アヤノも僕と同じ心配をしていたようですよ。それに先ほど外であった白髪のサフィーナという少女のこともあるですよ。確実に、僕たちがいない間に何かがエルドランで起こったですよ。
「おぉ、アヤノも鋭いな。そうなのだ。今、エルドランで一大事が起こっておる。これまでエルドランが結界によって守られ、多くの者たちが安心して暮らしておったのは、以前に話したな。」
ミハエルさんは僕たちを見る。ゆっくりと頷いて見せる。
「その結界が現在、機能しておらん。そして、3日前、魔物たちがこのエルドランの集落を襲ったのだ。」
僕は目を見開いた。つまり、あの焦げ跡は戦火の後だったのですよ。
「そ、そんな……私たちがいない間に……そんなことが……。」
ノアが打ちひしがれている。
「それだけではないのだ。タイタスというドワーフの集落から屈強な戦士たちがこの間までこのエルドランを占拠しておった。名目上、我らエルドランを助けると言うておったが、来るのが明らかに早すぎた。つまり……」
「初めから襲われるのが解っていたのかよ!ってことは、そのドワーフたちが魔物をけしかけたってことか!」
「ひどいっ!!でも、どうやってエルドランの結界が消えていたことが解ったのかしら。」
「んー。これは仮説ですが、その結界消失もドワーフたちの仕業と考えられるですよ。」
「そ、そんな……で、でも、集落の人たちに怪我人らしい人たちはいませんでしたよ?もし、いるなら私の回復魔法で……」
ノアが申し出るが、ミカエルは苦渋に満ちた顔で首を横に振る。
「いや、怪我人はいないのだ。ドワーフたちが来るのと同時に、もう1つの勢力がこのエルドランにやってきたのだ。それは、ハイエルフ……。」
「「「「ハイエルフ!!」」」」
思わず声がハモってしまう。ハイエルフとはこのエルドランの世界樹に眠る神聖な存在。結界もこのハイエルフの力だと、以前、族長様に聞いたことがあるですよ。
「そうだ。そのハイエルフを連れた人間が、怪我をしたエルドランの民の傷をみな治してしまった。」
「えと……それは良かったんじゃないのですか?」
ノアが聞く。そうだ。怪我人を治してくれる人たちなんていい人たちですよ。
「私も最初は喜んでいたのだ。ヤツがあの提案をしてくるまでは……。」
「もったいぶらないでくれよ。その人間が何を言ってきたんだよ!」
「結界を張るのはハイエルフではなく、私たちエルフが代わりに行えと……族長様を筆頭にエルドランの有力者とその家族全てが世界樹に入り、結界を張ればいいのではないかと……。もちろんその中に、私も入っておる。」
「そ、そんな……そんなひどいことを言えるなんて……」
ノアはミハエルさんから聞いた出来事に怒りと悲しみで小刻みに震えている。
「ヤツはエルドランの民の傷を癒すことで、多くのエルフたちを味方につけようしておったのだ。それにヤツにはハイエルフという切り札も持っておる。エルドランの族長様たちがいなくなってから、ヤツが何をしでかすか……」
その人は、いい人を装ってエルドランを乗っ取ろうと考えているかもしれないですよ。ミハエルさんは少し窶れたような顔をしているですよ。
しばらくすると、族長様の支度が整ったようで、付き人のような人が知らせに来た。これで、僕たちは族長様に今回の討伐報告ができるのですよ。
「俺たちがそんな奴の勝手にはさせないぜ!」
「そうよ!そんな悪い奴をエルドランから追い出してやるわ!!」
「おぉ……ダイチ、アヤノ。ありがとう。本当にありがとう。どうか族長様のお力になってくれ。頼んだぞ。」
「あ、あの……ミカエルさん。そのハイエルフを連れた人って、なんて名前なんですか?」
ミカエルとの別れ際に、ノアが質問した。
「おぉ、ヤツの名前は、確か……ユウマ と申したかの。」
それを言うと、ミカエルは僕たちを見送ってくれた。
ユウマ……。
†
ついに族長ファルスとの会見の日が明日に迫っていた。首尾は上々といったところか。
「サフィーナ、クロ子。明日は大事な日なんだから今日は早く寝ろよー。」
「は~~い。」
「まだ早いし。11時にもなってないだろ?時計ないけど。」
早く寝ないとオバケがくるぞーってクロ子にはこれは通じないし、俺も中学生くらいのことは深夜まで起きてたよな……で翌日、後悔してたんだよな。
「まぁ、寝ないなら別にいいけどな。」
「いいのかよ!!」
うん、だんだんツッコミのキレがよくなってるなクロ子のやつ。
「でも、ついに明日なんですね。私はなんだか心配です。クロウくんの気持ち解るかも……」
アイリは優しいなー。クロ子も見習えよ!とでも目で訴えておこう。
「それより、ユウマ。話しておくことがある。」
「ん?どうした改まって……おっ!そうか!ついにあそこに毛が生えたか!!」
「違うわっ!!もう知らん!!死ねっ!!」
あぁ、こいつ下ネタNGなのね。
「ぐあはっ!!」
強烈なボディがアイリから繰り出される。ヤバい内臓が全部出てきそうだった。
「ユウマさん。デリカシーないです!!で、クロウくん。何か気になることでもあったの?」
おぉ、アイリ、ナイスフォロー♪たぶん、俺がこのままクロ子に聞いても口にいてもらえなかったろうしな。
「ああ、昼間に日本人の子供に会ったんだ。小学生高学年くらいの4人組。それも転生者じゃなかった。この世界ラクリアに突然転移したって言ってたな。スニーカーとかスパッツとか向こうの世界の物持ってたし。」
どういうことだ?転生者は珍しくないとはいえ、転移者だと!?
「マジか!それはエルドランの中でってことだよな。今までどこにいたんだ!?まさか、ここ数日中に転移してきたってことか?」
「いや、エルドランに帰って来たって感じだった。ファルスからの依頼でワイバーンの討伐に行ってたんだよ。まぁ、ステータスが100~150ってところだから、子供だけどそこそこ強いと思う。」
ほぇ~ワイバーンがどれだけの強さか知らんが、小学生が魔物退治か……すげーな。
「そうか。あと聞きたいんだけど、その子たちの服装は古い感じだったか?転移してからどれくらい経ってそうだった?」
「うーん……スニーカーもそこそこ綺麗だったし、ラクリアの物を身に着けてなかったから、転移してからそこまで時間は経ってないかも。1週間経つか経たないかってところかな。」
「なるほどな……そいつらファルスの所にいるんだよな……変な事吹き込まれてなきゃいいけど……。」
「あり得るかもね。僕が、ここはヤバいから人間の街へ行けって言ってやったのに、自分の力に酔ってるな。あれは……。」
うん、それクロ子が言えるのはすごいと思うよ?ある意味……
「小学生にそんな事言っても無理だろ?クロ子そんなこと言ったのかよ。はぁ……どうせその子たちと揉めたんだろ?俺たちが何とかしてやるーとかなんとか言われて。」
「み、見てたのか!?」
いやいや、解るだろ。ファンタジー世界に転移ホヤホヤで俺Tueeee!やらかして、テンションアゲアゲのガキ相手にそんな事言っても聞くわけがない。それにクロ子だし、言葉足らずだったのだろう。
「はぁ……見てねぇよ。まぁ、いいや。教えてくれてありがとな。明日の会見で何も起こらなけりゃいいけど……」
「せ、せっかく教えてやったのに!!」
いやいや、ありがとうって言ったじゃん。今さっき。
「悪かったって。クロ子ちゃん。じゃあ、もう歯磨いて、トイレ行って寝ろ。」
「もう知らん!僕ももう寝る!!」
あ、素直だ……。まぁクロ子も色々と俺たちを受け入れてくれるようになった。サフィーナの護衛をお願いしていると真面目に面倒を見てくれているしな。闇ギルドの幹部の時みたいな荒んだような印象はもうない。クロ子はクロ子なりに頑張ってるよな。もう少し優しくしてやるかな。
俺はそんな事を考えながら、クロ子が自分の部屋に行くのを見送っていた。
「変わりましたね。クロウくん。特にサフィーナちゃんに対して優しくなった気がします。」
アイリも俺と同様に、クロ子の変化に気付いていた。子供を育てるってこういう事なのかもしれない。ふとそんなことを考えてしまう。
そんな時、ハウザー大樹邸宅の外に【隠形】に取り込まれた気配感知に反応があった。数は4つ。アイリもそれに気づいたのか、険しい表情になる。俺は急いでサフィーナとクロ子に意識を飛ばし、警戒するように伝える。
(ふぅぁ~~~い。)(了解。)
大丈夫か?サフィーナ……寝ボケてんじゃねぇか。
「アイリはハウザーさんたちに伝えてそのまま護衛にまわってくれ。俺は様子を見て迎撃にでる。」
俺は小声でアイリに伝えると、無言で頷き、ハウザーさんたちの部屋に向かっていく。俺は灯りを消し、部屋の中を暗くしておいた。
あぁ……嫌な予感しかしねぇよ。うーん……暗殺者って動きじゃないな。どう見ても素人、でもこの高さの大樹に上ることができる身体能力……あ、今、外でガタンって音したし……やっぱり転移者たちか……
うーん……入ってくるなら、窓か。普通は天井の小窓から侵入ってのが可能性高いか……いや、待てよ。素人ならバルコニーがある大窓からか……。ちょっと仕掛けしとこうか。
俺は魔鋼糸を使った罠を大窓付近に張り巡らせた。極細の糸に粘着性と弾力性を持たせたものを無数に仕掛けておいた。
ガリガリガリ ダン!
あぁ……たぶん、小窓から入ろうとして失敗したな。隠密行動する気ないだろ。早く入ってこい。どうせ大窓からだろ?
ギィ……突然、俺の後ろの扉が開いた。そこには短剣を構えた少女が、俺に飛びかかってきた。
キィン!!
金属音と火花が暗い部屋に煌めいた。短剣を振るだけでなく蹴りや拳も飛んでくる。だが、どこか違和感がある。攻撃が鋭いのだが、連携がお粗末なのだ。なにか見様見真似で動いているような……
「つ、強いよ……聞いてないってこんなの!」
焦ったような少女の声が聞こえる。
「君は日本人だろう?クロ子……いや、クロウから聞いてるよ。止めるんだ!」
俺はできるだけ穏やかな声を出し、説得を試みてみる。
「う、うるさい!エルドランを無茶苦茶にするつもりなのは知ってるんだからね!!」
うん、失敗。ファルスに色々と吹き込まれているらしい。
「俺はエルドランを何とかしたいんだよ。このままではアイリの両親が死んでしまうんだ!それに君たちのような子供に人殺しはして欲しくない!!」
「うっ……死ぬ?アイリって……だ、誰よ?」
おっ、食いついた。
「アイリっていうのはハイエルフの女の子だ。そして僕の婚約者でもあるんだ。このエルドランでは代々、ハイエルフたちが世界樹で眠りにつくことによって結界を張っていたんだ。でも、ハイエルフが結界を張り続けると、最後はどうなるか知ってる?」
「ど、どうなるの?」
「世界樹に取り込まれてしまう。死んじゃうんだよ。」
「で、でも!あなたは族長様たちを代わりに世界樹に入れと言ったんでしょう?それじゃあ、族長様たちは死んじゃうじゃない!!」
「あぁ、死ぬかもしれないな。」
「なっ!?や、やっぱりあんた、エルドランを……」
「何でそうなるんだよ。俺はそもそも結界を張ること自体反対だ!それにハイエルフはエルフと関係ない。ただ、エルフの上位存在だというだけのこと。エルフを守ってるのは義務でもなんでもない。ただのハイエルフたちの好意だ!それでも結界を張りたいというなら、ハイエルフたちを犠牲するのではなく、エルフたち自身が犠牲になるというのが筋だろう!!だから俺は族長たちに言ってやったんだ。」
「そ、そんなことって……じゃ、じゃあ、私たちがやってたことって……」
ガシャン!!
ようやく大窓からの侵入に成功したようだ。ワラワラと3人の少年少女が入って来る。
「おい!アヤノ!!大丈夫かっ!!お前がユウマだな!!俺たちが倒し……うわっ!なんだこれ!?」
「わ、わわわぁぁ……動けないです。」
「マズイですよ。これは、相手の罠に掛かったようですよ!!」
あっという間に、俺が仕掛けておいた粘着糸の罠にかかり、3人は身動き取れない状態になる。
「く、クソっ!俺の魔術で燃やしてやるっ!!えっ!?なんで……燃えない!クソっ!斬れない!!アチっ!!アチーっ!!」
そんな自分に近い糸燃やそうとしたら自分にも引火するだろうに……バカかこいつ。とりあえず、水魔法で火を消してやる。
バタン!
扉が勢いよく開かれる。そして、アイリたちが俺の部屋に入って来る。
「ユウマさん!大丈夫ですか!!」
「サフィーナ参上!!ってアレー?ノアたち何してるの?」
「やっぱりお前たちか。まだこの集落から出ていってなかったんだな。」
アイリ、サフィーナ、クロ子がそれぞれ、この惨状を見て声をあげる。
「くそー!!はなせー!!」
大きい方の少年が糸に絡まりながら喚いている。
「ひぃ……た、助けて……サフィーナちゃん。」
小さい方の少女は、涙目でサフィーナに助けを求めている。
「えーと……混沌としてきたな。そこの君。名前はなんて言うの?」
「あ、はい。アヤノっていいます。」
「そう。じゃあアヤノちゃん。俺がさっき君に話したことを、彼らに話してくれないかな。たぶん僕の口から言っても余計に混乱させちゃうと思うから……。」
アヤノと名乗った茶髪の少女は、コクリと頷くと、俺が話したことを彼女なりの言葉で糸に絡まった3人に聞かせている。
「ねぇ、ユウマ。ノアたち、どうなっちゃうの?サフィーナ、ノアたちを助けたいよ。」
サフィーナが心配そうな目で俺を見てくる。
「大丈夫だよ。ちょっとした勘違いだよ。彼らは悪くない。だから、どうするつもりもない。俺を襲ってきたから拘束させてもらっただけだ。」
それを聞くとサフィーナは安心したような表情になる。にしても、この子たち危ういよな。ファルスたちにいい様に使われて、下手したら死んでたぞ。そう考えると、だんだんと怒りが溢れて来た。
「ユウマさん。そんな怖い顔しないで。この子たちが怖がってますから。」
そんな俺にアイリが声をかけて来た。怒りが顔に出ていたようだ。
どうやら、アヤノが事情を放し終えたようだ。皆、シュンとした顔をしている。
「あぁ、すまない。アイリ。こんな子たちを俺にけしかけてくるファルスたちの事を考えたら、腹が立ってきてな。俺も、状況が解ってなかったら、この子たちを殺していたかと思うと……。」
俺が『殺す』という言葉を出すと、改めて自分たちが置かれた状況に気付いたのか、4人の子たちは涙目になっていた。
「自分が強いと勘違いして、よく確かめもせず襲い掛かって来るからそうなるんだ。」
クロ子が、4人に追い打ちをかける。おいおい、だから、お前が言うなって!まぁ、正論だけど……
「ほ、本当に、ごめんなさい……」
ノアと呼ばれていた少女が涙を流しながら謝っている。
「大丈夫だよ。解ってくれたらそれでいい。」
「で、でも、俺たちはユウマってヤツが悪い奴だと思って……」
まだ気持ちの整理がつかないのかダイチと呼ばれていた少年が俺に食って掛かる。
「それで俺を殺しに来たのか?」
「違う!!殺そうなんて思ってない。ちょっと痛めつけて、やっつけてやろうって……」
「それでも、相手が向かってきたらどうするつもりだったんだ?それに、お前らの力は普通の人より強いんだ。殺そうと思ってなくても殺してしまうなんて簡単にできてしまう。ワイバーンも倒せるほどの腕なんだろう?」
「そ、それは……それは……ごめん……なさい。」
うわ……泣かせてしまった。でも、これは言っておかないといけない。思わぬところで殺人を犯して、歪んだ成長をされるなんて見てられないからな。
「大丈夫だ。俺は怒ってないからな。解ってくれて、俺はうれしいよ。君らとは争いたくなんてないからな。ん?ちょっと待ってくれ。」
再び気配感知に反応があった。ハウザー邸を囲むようにいくつかの反応。
「この家が誰かに囲まれてる。アヤノたちは俺をやっつけた後、どうしろと言われてたんだ?」
「あ、はい。アイリというハイエルフを保護して引き渡せと……あと、その他の人たちは悪い奴だから、その……殺しても構わないって……」
子供に暗殺者の真似事なんてさせるなよ!!アイツら俺たちを何だと思ってるんだ!!
「ユウマ殿、どうしますか?この子たちはこのまま家で保護することはできますが……」
今までの事態を静観していたハウザーさんが声を上げる。
「助かります。ならこの子たちをお願いします。サフィーナ、お前はここでこの子たちの話し相手になっていてくれ。何かあったら呼ぶから。」
「ほーい。了解」
俺は、アイリ、クロ子に目配せをして、ハウザー邸を外に向かった。
外の奴らには、ちょっと俺の薬の実験台になってもらおうか……
最後まで読んでくださってありがとうございます。




