42、コンセンサス
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「――というわけだ。さっき話したことは信用できる者以外話すなよ?」
俺は集まったメンバーの顔を見回し、確認する。
ここはエルフの大集落エルドラン。防衛主任を任されているハウザーさんの大樹の邸宅内だ。そこには俺、アイリ、サフィーナ、マールとドワーフの集落タイタスのラガイオ、ハウザーさんの奥さんアエラさんがいる。
「じゃが、本当にそんなに上手くいくのか。」
ラガイオが心配そうな顔をしている。まぁ、そりゃそうだわな。結構突拍子もない話だったし。
俺たちはタイタスやエルドラン、そしてハイエルフの今後について話し合っていた。内容は古い集落の在り方の負の部分を改革していくというもの。タイタスの絡繰り術を扱う一族や世界樹の中で眠りにつくことを強いられているハイエルフの今後についてを。
話し合いは1日では終わらず、翌日も続けられる。それぞれの集落の文化や慣習があまりにも違っていたためだ。でも、どこかで妥協して認め合わないといけない部分があるのだ。古い伝統を今の生活に沿うものに作り替えていく。そんな話し合いを昼夜行っていたのだ。
もちろん、サフィーナは早々に脱落し、メイドさんにお菓子を貰って、エルドランの探検に行っているらしい。クロ子はその護衛としてついて行ってもらうことにした。
「そんな簡単な事じゃないのは解ってる。でも、変えるんだよ。ラガイオには一度、タイタスに戻ってもらってこの考えを持ち帰ってほしい。それでタイタス内の意見をまとめてきてほしい。合理主義のドワーフたちならメリットとデメリットを説けばきっとわかってくれるさ。」
「ふむ。今回、カラヌイが事件の発端じゃ。儂もタイタスの族長として責任を取らねばならんからな。ユウマ殿、何としても今回の件、タイタスの民を説得して見せよう。」
今回、ラガイオの存在は大きい。ガラハド大森林帯の一勢力のトップだ。彼の発言力は俺たちにとっても重要であるといえる。ラガイオは皆に必ず説得すると約束し、一夜明けた昼過ぎに戦士団たちを率いて、タイタスに帰還していった。
ハウザーさんたちは、俺たちの改革案に反対すると思っていたが、意外にすんなりと受け入れられた。実はエルドランでは3つの派閥があるのだという。
一つは、族長ファルスを中心とする族長派。これはハイエルフたちとの契約を重視し、結界による保護を当然とし、そこで浮いた防衛費を背景に他勢力の取り込みや交易によるエルドランの発展を掲げる者たちだ。エルドランで強い発言力を持っている。エルドランの裕福層がこの族長派に属しており、エルフの富豪たちからファルスに資金が流れているとか。思ったよりドロドロとしているな。
一つは、ハイエルフを崇拝するハイエルフ派。これはハイエルフを崇め、世界樹からの解放を求めるという者たち。グランディアたちの人間性に触れて、現状のハイエルフの在り方を変えようと考える者たちが作り上げたのだ。ハウザーさんたちもこれに属しており、集落の兵士たちを筆頭に一般のエルフなどから幅広い層に支持をされているが、族長派に抑えつけられており、勢力としては最弱。
一つは、中立派。族長派とハイエルフ派のどちらにも属しておらず、その場の状況を甘受している者たちだ。エルドランの大多数はこの中立派であるという。
「ハウザーさんにも色々とお手伝いをお願いします。アイリの両親たちをこのままの状態にはしておけませんから。」
俺がハウザーさん夫妻を見ると、ゆっくと、しかし力強く頷いてくれる。
「ユウマ殿。私もハイエルフ派の人々に今の話をして合意を得てみます。それにエルドランの救世主様とハイエルフのアイリ様がいらっしゃるんだ。このまま中立派も取り込めるよう動いてみます。」
ハウザーさんも根回しに動いてくれるとのことだった。
その後、タイタスの一団が帰路につき、エルドランは一時的な収束を見せていた。青々と茂る世界樹の雄大な姿は先日の出来事を忘れさせられる。しかし、未だに焼け焦げた大樹の集落が見られている。それを見るたびに悲惨なあの事件を思い出される。そんな状態で3日が過ぎようとしていた。
俺たちは引き続きハウザーさんの邸宅でお世話になり、今後の打ち合わせなどをしている。相変わらずサフィーナとクロ子はエルドラン探索だ。ちらほらとエルフの知り合いも増えて来たようだ。マールには少し頼み事をしているため、ここにはいない。
ファルス側の動きと言えば、形式的な晩餐会にお誘いを受けた。俺とアイリで出席することにし、色々と話す機会があったが結界の件については触れてこなかったため、あえてこちらからも触れずにいることにした。
そして、俺たちは正式にエルドランの族長ファルスに会見を求め、ついにその返事が来たのだった。
†
「なぁ、今回の仕事も楽勝だったよなっ!」
深い森の中を少年が呟いている。12、3歳くらいの黒髪の少年だ。快活で少し生意気そうな目をしている。その少年の周りには、他にも3人の男女が歩いている。
「もう!そんなものこっちに向けないでよね!気持ち悪いんだから!!」
少年のようにも見えるが、こちらは少女のようだ。ショートの前髪を赤いヘアピンでとめている。先ほどの少年と同い年くらいだろうか。少年が持つワイバーンの首がこの少女にはお気に召さないようだ。
「で、でも、段々とモンスターが強くなってる気がします。このままじゃモンスターに食べられたりとか……あわわわ……」
この2人の会話に申し訳なさげに、声を上げたのは10歳くらいの少女。品のいい紺色のワンピースを着ている。
「本当はもう少し経験を積んで、連携の強化したら大丈夫だと思うですよ。でも、この辺りの敵は雑魚ばっかりなんですよ。」
少女の心配に答えるように、先ほどまで黙っていた小柄の少年が口を開く。こちらの少年も10歳くらいだろうか。メガネをかけている。
この4人組、どこかラクシアの世界の人々とは違うものがある。スニーカーであったり、スパッツであったり、空手の道着であったり。そう。彼らも日本人であった。しかも、転生ではなく、元の世界からこちらの世界へいきなり転移させられた者たちであった。
「にしてもよ。いきなりこんな異世界に飛ばされるとか正直ビビったよな。かれこれ5日になるか?」
道着を着込んだ快活そうな少年ダイチが誰とはなしに、呟いた。
「たしかに学校帰りにあんたと話してたら、いきなり森の中だもん。そりゃ焦るわよ。」
ショートカットの少女、アヤノがダイチに相槌を打つ。
「ご、ごめんなさい。私、最初は泣いてばっかりで……みんなに迷惑ばっかりかけて……」
紺色のワンピースの少女、ノアがつい先日までの自分を振り返りシュンとしている。
「でも、ファンタジーの世界なんてすごいですよ!しかも、みんなゲームみたいに魔法使えるですよ!」
転移してきたときの興奮を思い出し、メガネをかけた少年、ミコトは指先から火の球をボワっと出してみる。
「まぁ、いろいろあったけど、あの人に助けられてよかったよな。本当に。魔法使えたり力が強くなったかもしれないけど、食べ物とか寝るところとか、あのままじゃ絶対野垂れ死にしててもおかしくなかったと思うぞ。」
「それに、ミコトが魔法の使い方とか教えてくれたしね。たぶん、私とダイチだけじゃ本当にヤバかったし。」
「そ、そういえば、ミコト君。なんで魔法の使い方とか色々とこの世界のこと知ってたの?」
「ん?あぁ、僕はこう見えてゲーマーですよ。それに、こんな世界に憧れてたってのもあるですよ。でも、まさか本当にこんな世界に来れるとは思ってなかったですよ。ゲームの勇者にでもなった気分ですよ。」
「あぁ、本当だな。まぁ役割から行って俺が勇者ポジションじゃね?前衛だし。ほら、剣だって持ってるしな。ミコトとノアは杖持ってるから魔法使いだろ?で、アヤノが短剣持って……ってか、なんで忍者みたいな技ばっかりあるんだよ!」
「う、うっさいわよ!!で、でも漫画とかで忍者とかカッコイイなーとか思っちゃって……えーとなんだっけ?キャラメイク?の時にこんな感じにしちゃったのよ。……てへぺろ?」
「まぁまぁ、ダイチもアヤノも落ち着くですよ。僕とノアは2人の後からキャラメイクに入ったから選択肢が後衛職しかなかったんですよ!僕だって剣と魔法で戦いたかったですよ……。」
「わ、私は、よく解らなかったからミコトくんの言う通りに後衛職のヒーラー?だっけ?そんな感じにしたんですけど……。怪我を治せるってすごいです。ミコトくんに感謝してます。」
「そうだな。ノアの回復には俺も大助かりだわ。殴られると痛いし血が出るから、やっぱりここって現実の世界なんだよな……。」
「ダイチはミコトの言う事無視して突撃するからそうなるのよ!連携もなにもできないじゃない。あんたの役割はタンカー?だっけ?私たちの盾になって相手の攻撃を引き受ける役目でしょ!そのために無駄に丈夫なスキル取ったんでしょうが!」
「何をぉ!?アヤノ!誰が無駄に丈夫だよ!もう守ってやんねぇぞ!」
「はぁ?そうしたら私はあんたなんか助けないわよ。敵に囲まれてボコられててもね。」
「あ、あの2人とも喧嘩はやめましょうよ。えーと……あの、えーと……喧嘩するなら、もう回復魔法かけてあげませんよ?」
「「へっ?……いやいやいや、それは勘弁して!!」」
「だからそれぞれの役割が大事なんですよ。決められた約束はきちんと果たすが基本ですよ。ダイチもそろそろ戦い方に慣れていってもらわないと強敵に出会った時に対処できなくなるですよ。タンカーとして頼りにしてるんですよ。」
「お、おぅ……そういうことなら頑張ってやってみる。」
「ぷぷぷー……年下に説教されてやんのー!ダッサーイ。」
こんな他愛のない会話をしながら彼らは森を進んでいく。
彼らが目指しているのはガラハド大森林帯の一大勢力を誇るエルドランの大集落だった。
†
「今日もありがとうねー。サフィーナちゃん。」
「いいよー。サフィーナは探検してるだけだからー。それに薬草分けてくれたお礼だよー。」
サフィーナは今、エルドランの大樹住宅を探検中なのだー。今回の事件でいっぱいのエルフの人たちが怪我しちゃったから、ポーションを配ってるの。ユウマもガート村でよくポーション配ってたからその真似してるだけなんだけど……。でもでも、皆に『ありがとう』言われるのはなんだかくすぐったいよー。
「ふんふふーん♪ ふんふーん♪ふーん♪」
「サフィーナ。こんな事いつまで続けてるつもりだよ。」
サフィーナの後にクロウが、ブツブツ言いながらついてくる。
「じゃあ、先帰っててもいいよー。サフィーナもうちょっとポーション配って来るからー。」
「一応、護衛なんだから、僕だけ帰ったらユウマがうるさいだろ!お礼されるためにポーション配ってるの?」
「んー……解んない。解んないけど、サフィーナができる事は何かって考えたら、これかなーって思ったのー。」
「ふん。……できる事ね。とりあえず、手持ちのポーション配り終ったらユウマの所に戻るからな。」
クロウはいつも不機嫌そうだ。それなら帰ればいいのに変なところが真面目ちゃんだ。でも、真面目って言うと怒るの。変なのー。
サフィーナたちが最後のポーションを配り終えた時、エルドランの外壁にある重そうな門がゆーっくり開いた。あの事件の後、ドワーフさんたちが出ていった時以外は開けられたことなかったのにー。ん?誰か入って来た。
「誰だろうねー。あの子たち。サフィーナと同じくらいの歳だしー。エルフじゃないっぽいねー。クロウ、解るー?」
「そんなの僕が知るわけな……。」
クロウが言いかけて、途中で口を開けたまま入って来た子たちを見てる。なんだろ?
「どしたの?クロウ。知り合い?」
サフィーナはクロウの顔を覗き込んで見る。クロウは目を見開いて驚いているみたい。
「ち、違う。違うけど……あれは日本人。スニーカー履いてる……あのメーカー、僕も持ってたな。」
んー。ニホン人?あーユウマが元いた世界の人ってことか。クロウ、何だか懐かしそうにあの子たちを見てる。
「ねーねー♪あなたたちってニホン人であってるー??」
サフィーナは入って来た4人の子たちに走って行った。
「あっ、ちょ、サフィーナ!ちょっと待って!」
「ん?この白髪の子、エルフじゃないな。」
「でも、私たちの事、日本人って知ってたわよ?どういうこと!?私たちがこの世界に来たことを何か知ってるんじゃない?」
「んー?この世界に来たの?じゃあ、ユウマたちと一緒だね。髪の毛も黒いしー。あれ?こっちの子は茶色だー。じゃあ、ちょっと違うのかなー。」
サフィーナがそう言うと4人の子たちがザワザワとし始めた。
「コラ!サフィーナ。急に話しかけるなよ。悪い奴だったらどうするんだよ。」
やっとクロウが追いついてきた。クロウは警戒するような目で4人の子たちを見ている。
「わ、私たち悪いことなんて、してません……よ?」
わー。この女の子、黒い髪に黒い瞳。それに、紺色のワンピース。綺麗。思わずじっと覗き込んじゃう。
「サフィーナと反対だね。」
髪と瞳、服を指さしてみると、その子はふふふって笑ってくれた。
「ね、ねぇ……サフィーナちゃんだっけ?なんで日本人を知ってるのか私にも教えてくれないかな?あ、私の名前はアヤノ。よろしくね♪」
もう一人の茶髪の女の子が質問してきた。アヤノっていうのね。
「ちょっとサフィーナ。あんまりペラペラと喋るなよ。で、あんたらこそ、なんでエルドランにいるんだよ。異世界人なのは解ったけど、今、エルドランは色々とヤバいから早く人間の街に行った方がいい。」
もー。クロウ、なんで喋っちゃダメなのー。ぶー。
「ちょ、何だよ。俺たちは転移してきてこの集落の人に助けられたんだ。ほれ!」
大きい男の子がどこからかでっかいトカゲの首を取り出した。
「どうだ?驚いたか!ワイバーンの首だぜ?俺たちはここの族長様に言われて、こいつを討伐してきたんだ。すげーだろ?あ、俺の名前はダイチ。ダ・イ・チな。よろしく。」
うんうん!すごーい。でも、ここの族長って、アイリのパパとママに意地悪した人だよね?
「ダイチ!女の子にそんなもん見せて何ドヤ顔してるの!!バカじゃないの!!」
「そうですよ。ダイチさん。それ気持ち悪いからしまってください。私はノアって言います。」
へぇ、この子ノアっていうのか。友達になりたいなー。でも、悪い人なの?
「お、おぅ。悪い悪い。でも、俺たちはこんなのも倒せるくらい強いんだ。エルドランがヤバいなら俺たちで何とかしないとな!」
「まだまだレベルも低いし連携も未熟ですけど、大抵の事なら何とかできるですよ。ちなみに僕はミコトって言うですよ。」
「強い……まぁ、そこそこ強いみたいだな。お前ら。でも、お前らの考えてるヤバさと違う種類のヤバさなんだよ!」
あ、クロウがキレてる。短気なんだからー。
「なっ!そこそこって……カワイイからって調子に乗るなよっ!!」
あぁ、大きな男の子の方も、キレた。
「はぁっ!?カワイイとかいうなっ!!僕は男だっ!!!」
「はぁぁぁっ!?どうみても金髪美少女じゃねぇか!!嘘つくなっ!!」
あぁ……サフィーナ、面倒臭くなってきた。困ったようにノアの方を見ると、ノアも困った顔をしていた。
「クロウ。喧嘩はダメだよー。」
「そ、そうですよ。ダイチさん。女の子相手にそんな言葉遣いダメだと思います。」
あぁ……ノア、それ言っちゃクロウが余計にキレるよー……
「僕は美少女でも女の子でもないからっ!!色々あったけど男だからなっ!!」
クロウはぷいっとどこかに行ってしまった。うんうん。クロウえらーい。手を出さなかったー。
「えーと……ダイチもあの子も、不毛な口喧嘩してる気がしてるのは私だけかしら……。」
アヤノも深いため息をついている。
「えーと……うちのクロウがごめーわくおかけーしましたー?」
「いやいや、こちらこそうちのバカダイチが大きな声出したのが先だし……」
「えーとサフィーナちゃん?だっけ?僕たち、族長様に報告することがあるですよ。もし良かったら、その後、えーとユウマ君だっけ?その人のこと教えてもらえると助かるですよ。」
「いいよー。ノアもアヤノも後でいっぱい遊ぼうねー。ダイチはいいやー。」
「何で俺はいいんだよ!!」
このダイチは、ユウマがいつも言っている〝つこーみぞくせい”とかいう人だなー。ユウマみたい。
「そ、それじゃサフィーナちゃん。また後でね。」
「うん。またねー♪サフィーナたち、今、ハウザーって人の家にお泊りしてるからー。ばいばーい。」
うん。ノアいい子だったな。アヤノはちょっとお姉さんな感じだし、お友達になりたいなー。どうやったらなれるんだろー。
4人の子たちは族長さんの家に歩いて行った。
さぁてと、サフィーナもユウマの所にかーえろっと。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




