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閑話、ガンファの独白

ここで少し、閑話を挟みます。

少し短めです。

 †



 むぅ……ガート村も静かになったもんじゃ。ユウマとアイリが出ていってから1カ月は経ったか。

 ふと薬草小屋に置かれたポーションを眺めているとユウマが来てからの日々が思い出されるわい。異世界人、それにしても変なやつじゃ。始めは、何もできない赤子のようなやつじゃったのに、みるみるうちに様々な事を覚えていきよった。そういえば、最初はこちらの言葉さえ解っておらなんだ。


「ま、今日は日課のボウガン整備でも始めるかの。」


 最近、家での独り言が多くなってきたな。アイリがいた頃はそんなことなかったが……。まぁいい。ワシは首からかけている紐から小さな鍵のような物を引っ張りだし、ボウガンの整備を始める。


 〝絡繰りの鍵”、たしかそう呼ばれておったな。一族の者が生まれると同時に贈られる特殊な品。これが名前の通り、絡繰り術の鍵となるものじゃ。これをボウガンに近づけていくと、照準や弦の張り、引き金の遊び部分などを微調整することが出来る。


 『メンテナンス』!!


 【絡繰り術】の術技の一つである。ボウガンのありとあらゆるの数値が頭の中に流れ込んで来る。その中から、必要な項目に意識を集中し、理想値にズレがある数値を変更していく。その後、ボルトを装填せず、試し打ちをする。ガチッ ガチッ ガチッ うん、問題ないようじゃな。

 次は特弾の手入れじゃ。通常弾とは異なり、細い矢の中に魔核石の粉が詰まっておる。これも、絡繰り術の鍵を近づける。貫通力ではなく、爆発力の数値が流れ込んでくる。5本ある特殊弾のうち1本だけ限界値ギリギリまで爆発力を上げておく。ウルフイーターに襲われた時、運よく1本だけ、爆発力を上げていたため、命を救われたからだ。これは、ユウマと出会ってから、ゲン担ぎのようにいつものようにやっていることだった。


 ふぅ……よし。手入れ終了じゃ。


 つまらん。やることが無くなってしもうた。

 作業台の上で突っ伏してみる。何かがワシの手に当たりコロコロと転がり、床に落ちた。ん?なんじゃ?見ると、金色に輝く指輪が落ちていた。

 おぉ……こんなところに置いてあったか。ワシの楽しくも苦い思い出が詰まった指輪。そういえば、もうかれこれ20年になるのか……


 ラグナリアよ……


**********


 はぁっ はぁっ はぁっ はぁっ!!


 ワシは暗闇の中に身を躍らせ、懸命に駆けていた。走るには昔から苦手だった。でも、立ち止まったら、またあの場所へ連れ戻されてしまう。心臓が激しく胸を打つ。それでも手を振り、ある場所を目指した。


 見つけた。木の枝に巻かれた白い布。そこに発光する染料が塗られている。それが暗闇の中に浮かび上がる。ワシはそれを手に取り、広げてみる。そこには、この辺りの地図が描かれていた。だが、ワシは地図が読めない。今までタイタスから出たこともない。いや、タイタスどころか、自分の家からも碌に外に出る事は許されなかったのだから。


 ワシは『絡繰り術』を継承する一族に生まれたのだ。生まれた時から外出を禁じられ、他人との接触もほとんどない。繰り返される不毛なスキル習得のための訓練の日々。

 そんな時、ワシに運命的ともいえる出会いがあった。一族の住居の見張りとしてやってきた少年バラガだ。歳も近いこともあり意気投合した。一目を忍んで様々な事を話した。バラガには両親とは早くに死別しているということ、一人妹がいること。あとは、ほとんど妹自慢だったな。

 バラガとの会話は楽しかったが、ワシはワシを取り巻く理不尽な環境に我慢ができなくなっていった。そして、ついにタイタスを抜けることを決意したのだ。ワシはそれをバラガに伝えると、驚いたことにワシと一緒にタイタスを抜けてもいいと言ってくれた。ワシはここで初めて友達というものが出来たと感じることが出来た。

 

 ワシはバラガの協力を得て、あの防壁を登り切り、無理やりタイタスの外へ逃亡を図ったんだ。でも、ワシは1人じゃない。バラガがこの先の小屋に待機している。よし!こっちだ!この先に……あった!小屋だ!!


 ワシは森の中の粗末な小屋に、転がり込むように入って行った。


「ああ、ガンファ。良かった。無事に出てこれたんだな。」

「バラガ。助かった。本当にありがとう……で、そっちが?」

 小屋にはバラガともう1つの人影があった。女の子のようだった。

「ラグナリアです。兄さんからガンファさんのことは聞いてます。」

 目のクリっとした可愛らしい女の子だった。彼女が話に聞いていた自慢の妹か。

「が、ガンファです。よ、よ、よろし、よろしくお願いします。」

 女の子と話すなんて初めてだ。どう接していいか解らない。

「あははは。何急にかしこまってんだよ。変な奴だな。」

「う、うるさい。ワシは女の子と話したことなんて初めてなんだからな!」

 バラガとラグナリアが顔を見合わせて、笑い合う。


 ワシは少し困った顔で笑い声を止むのを待つしかなかった。


**********



 そう。これがワシらの出会いじゃったな。

 それから3人で、ワシらはガラハド大森林帯のいろんな集落に厄介になりながら、色々と旅をした。そんな中、ワシとラグナリアが惹かれあうのは、自然な流れじゃったのだろうな。


 ワシが唯一、愛した女性。ラグナリア……。

 ラグナリアは笑うと太陽のように眩しく、怒ると火山のような素敵な女性だった。そして、いつもワシの事を支えてくれ取ったんじゃな。今更ながら、そのありがたみを思い知らされる。


 何にしても彼女には感謝してもしきれない。ささやかながら式も挙げさせてくれた。出席者はバラガのみ、人知れない世界樹の若木の前で、慎ましい結婚式。それでも、ワシは充分じゃったな。そして、この指輪を作ったんじゃ。タイタスから持ち出した金貨を加工して……。バラガに加工の仕方を教わりながら。こんな不細工な指輪をラグナリアは飛び跳ねて喜んでくれた。あの時ワシは、ラグナリアを一生守っていくと誓ったんじゃ。



 バラガが村を一から作ろうと言った時は驚いたが、ワシもラグナリアも訳も分からず我武者羅に家や柵を作ってたもんじゃ。ラグナリアは大木なんぞあっという間に、引き倒して木材に仕立てておったな。そんな豪快な姿も、魅力的じゃったな。

 ワシなんぞ、食糧の調達のために狩りをするのが精いっぱいじゃったのに、ラグナリアは村作りの為に、何でもあっという間に作り上げていったな。家、柵、井戸、畑、製鉄用の炉なんかも次々と村に作り上げていったんじゃ。今思えば、ガート村の主要な施設はほぼラグナリアの作といってもいいじゃろう。そうこうしているうちに、この村に住み着く人が1人増え2人増え、いつしか今のような村になっていったんじゃ。


 そういえば、ワシとアイリを引き合わせてくれたのもラグナリアのおかげじゃったな。乳飲み子のアイリを連れて、マールがガート村に迷い込んできた時じゃったな。

 母乳の代わりになるものをと、あの時は必死で探したんじゃったな。ラグナリアがどこからか乳の出る大角牛を手なずけて連れて来た時は驚いたがな。それに、アイリはラグナリアに良く懐いておったな。マールが嫉妬するほどに……。


 そんな時、突然、マールのヤツがアイリをワシらに預け、姿を消しおった。ワシがマールが許せんかった。幼子を見捨てたと思ったからじゃ。じゃが、ラグナリアは違ったな。アイリの世話をさせてもらえるだけで嬉しいと、屈託なく笑っておった。以後、ワシとラグナリアはアイリを自分たちの娘として育てるようになったんじゃ。いつもラグナリアに助けられておったな。自分も子育てをした事などないだろうに。泣生き止まないアイリをラグナリアが抱くと、すぐに泣き止み、笑顔を見せる。ワシが何度やってもできんかったことじゃ。


 アイリはすくすくと成長していった。それをラグナリアと見ている瞬間が一番の幸せに感じられたんじゃ。


 アイリを預かって8年。再び、マールのヤツがガート村に現れたんじゃ。そして、アイリを引き取ると抜かしおった。ワシらは反対した。ワシは力づくでやめさせようとしたが、マールの馬鹿力でワシは逆に吹っ飛ばされたの。あの時の恨みは今も忘れておらんからの……。じゃが、マールがアイリの手を取り連れていこうとすると、大声で泣きわめき、その場を動こうとしなかった。あの時の困り果てたマールの顔を思い出すと……ふん!いい気味じゃわい。で、結局、またワシらがアイリを育てるということになったんじゃ。あの時も、泣いているアイリを抱きしめ、笑顔に変えたのはラグナリアじゃったな。


 しかし、ひどく呆気なく、死んでしもうた……。流行り病じゃった。他の村人も何人も感染していたんじゃが、その者たちの看病を人一倍、ラグナリアがしていたのはワシも知っていた。北の方から流れて来たアゴラたち山猫獣人たちを受け入れた時じゃった。どうやら、その中に流行り病の者がいたようじゃった。


 ラグナリアが死んだ後、ワシとアイリは笑わなくなっていた。5日ほど、何もせず、何も食べることもできなかった。しかし、切っ掛けは、ラグナリアからの手紙を見つけたことだった。その手紙は今でも大事にとってある。その後、最愛の人を失った悲しみを乗り越えることが出来た。そして、ワシとアイリは2人だけの家族となった。


 それが、今では家族が3人に増えたんじゃな。ワシは指輪を手の中で転がしながら、おもむろに上を見上げる。


「ラグナリア……。お前も、ユウマを見てどう思う?ワシはなかなかに良いヤツじゃと思っておるんじゃが……」


 ふと、ラグナリアがワシの呼びかけに答えてくれたような気がした。


〝アイリが選んだ男なんだから最高に決まってるじゃないか。”……と。








 手紙にはこう書かれてあった。


『 愛するガンファとアイリへ。


 まずは、流行り病に感染した人たちに、しっかりと栄養があるものを食べさせてあげてね。もちろん、ガンファもアイリも同じようにしっかりたっぷり栄養のあるものを食べる事。食べる前は手を洗う事。身の回りを清潔にすること。まずこれだけはしっかりするようにね。


 それから、山猫獣人さんたちの事、恨まないで上げてね。彼らもガート村の一員なんだから。


 ガンファは出来るだけの事はやってあげるように。お兄ちゃんに任せたら、大抵上手くやってくれるだろうけど、ガンファはお兄ちゃんの決めた事の最終チェックをすること。お兄ちゃん、ああ見えて、そそっかしいから。それから、アイリをお願いね。あの子、あなたが思っているより大人だよ。でも、任せっきりにせずに、何をしようとしているかちゃんと見ていてあげるように。

 それと、アイリ。もう少しそばにいてあげたかったけど、ごめんなさいね。あなたは素直でとてもいい子。父さんのことよろしくね。あと、アイリが思った事、考えてる事はだいたい正しい。でも、それをちゃんと口に出すこと。遠慮なんてしてても、チャンスが逃げちゃうぞ?もっと図々しくて大丈夫だからね。


 それじゃあね。私は新しい家族のおかげで最高に幸せな人生を送れました。


 ありがとね。ばいばい。

                                       ラグナリアより 』



 

最後まで読んでくださってありがとうございます。

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