38、ネオアイリ
アイリが完璧超人になるます。
†
いやいやいや……落ち着け俺、落ち着け俺……目の前にいるのは……95%の確率でアイリのはずだ!そう!アイリである確率がかなり高い。しかし……低確率でマールが知り合いを連れて来たということも無きにしも非ずだ。ここは低い確率のものから消していこう。
「えー、マール。その連れて来た子は、マールの知り合いの精霊とかじゃないよな?」
「はっ?何言ってるのよ……。」
おぅ……マールに呆れられてしまった。いや、でもこれでマールの横になっているのがアイリであるというのが確定したのだ。だが……俺は、アレを認めていいのか……アイリはアイデンティティを捨てたというのか!?
よ、よし。まずは名前を呼んで反応を見てみようか。それで返事したらもう受け入れるしかないよな。
「あ、アイリー?アイリやー。アイリさーん。」
「は、はいっ!」
うわっ!!返事した!!ってことは、目の前の限りなくアイリに似た存在はアイリだったのかーー!!
ん?何言ってるかよく解らない?いや、それは次のサフィーナのセリフで全て解るはずだ。
「うわーー♪アイリ-♪おっぱいバインバインになったねー♪すごいすごーい♪」
うん。直球だよな。サフィーナ。あ、コラっ!胸に飛び込んで頬ずりなんて……こういう時こそ、我が眷属よ!感覚共有だー!!うほぉ!こ、これは……なかなか……あー!いかんいかん!これ以上はダメだ!!
「あん!ダメだよ!サフィーナちゃん。そんな揉むと変な声でちゃうからー♪」
おい!アイリもなんで嬉しそうなんだよ!あ……そうか、巨乳になってアイリもテンション上がってるのか……。でも、良かった。幸いここには男は俺だけだ。アイリのあんな姿を見ても、他の奴らは何とも思わな……違う!!ヤツがいた!!
俺はガバっとクロ子の方を振り向く。肉体的には女の子だけど、元々バリバリの思春期男子だったの忘れてたー!!
「お……おっぱい……バインバイン……おっぱい……バインバイン……」
遅かったか……こうも早く仲間内で血が流れるなんて……まぁ、鼻血だけど。
「おい…。クロ子。ちょっと面貸せ。」
俺は鼻血クロ子に【威圧】を軽く入れ、皆の輪から引きずっていく。
「お前、アイリの胸見て鼻血出してんじゃねぇぞ!傍から見たら、女が女のおっぱい見て鼻血出してんだからな!そんな変態行為、マールが喜んで絡んできても放置するからな!」
「ごめんなさい。もう見ません。あの変態を放置するのはやめてください。ごめんなさい。すいません。」
うわっ……こっちが悪い事してるみたいな気がしてきた。ん?してるのか……まぁ、釘をさしておくのは大事だよな。うんうん。
「あの、ユウマさん。クロウくんと何を話してたんですか?」
ネオアイリが不思議そうに俺とクロ子のやりとりを見ている。
「いや、気にするな。新たに眷属となったクロ子に色々と教えてたんだ。」
「そうなんですか。」
「それにしても、アイリ、もとから綺麗だったけど、さらに綺麗になったな。」
まさに鬼に金棒、虎に翼、獅子に鰭、アイリに巨乳だ!!
「そ、そんな……綺麗だなんて……でも、この胸、こんなに大きくなるなんて……もにゅもにゅ」
お、おい!自分で揉むな!アイリ!!見るなー!クロ子!!
「えーと、ユウマ。そろそろ本題に入ってもいいかしら?」
あ、マールが呆れてる。マールのクセに……。
「あ、まだいたのか。」
「いたわよ!!ユウマたちはこれから精霊王の再封印と分体からエルドランを守るって二つのことを同時にやろうとしてるんでしょ?」
「そうだ。そのためのクロ子の眷属化だ。そっちがアイリの能力を解放したのもその為だろ?」
あ、アイリのステータス看破しとこう。完全看破!!
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■ステータス
名前/アイリーン・ファンドラ
Lv.5
種族/ハイエルフ 年齢/16歳 職業/冒険者(C)
HP 1050/1050
MP 3850/3850
腕力 420
体力 420
敏捷度 740
器用度 880
知力 900
精神力 1040
加護:世界樹王の加護
称号:ハイエルフの王女 解放された体(胸) ネオアイリ
装備:樹王のネックレス 黒牛鳥のマント 魔綿のチュニック コンポジットボウ
スキル
―Exスキル【ステータス10倍化】【吸収】
―ユニークスキル【隠ぺい/Bランク】【魔力精密操作】
【薬草術/Aランク】【気配察知】【気配消失】【剣術/Eランク】
【体術/Dランク】【弓術/Cランク】【投擲術/Cランク】【槍術/Eランク】
―魔法スキル【精霊魔法/Sランク】【火魔法/Aランク】【水魔法/Aランク】【光魔法/Aランク】
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色々とすごくなっている。ステータス10倍ってヤバいよな。それに各属性の魔術は魔法にランクアップしてるし、軒並みSとかAランクになってる。そしてなにより、称号……解放された体(胸)って!ここにも悪意を感じるよな……。
「アイリのステータス見た?すごいでしょ?相手が分体といっても精霊王だからね。それに、王様と王妃様の許可も出たの。」
うわっ……お義父さんお義母さん、マールにも会いに行ったのかよ……
「あとユウマに、これを渡そうと思ってね。」
マールは俺に綺麗なマーブル模様の腕輪を手渡してきた。木製の腕輪のようだ。
「この腕輪は、王様から頂いた特別製の腕輪よ。看破してみれば解るわ。」
説明くらいしてくれよ。まぁ、いいんだけど。完全看破!!
【世界樹王の腕輪】:ユニークアイテム。お義父さん作。世界樹のある場所に一瞬で移動できる。しかし、1度言ったことのある世界樹でないと移動不可能。現在、エルドランの世界樹のみ登録されている。>詳細>腕輪所有者の半径2mまで同時に移動可能。さらに、魔力を込めることによりMP100消費毎に半径が1m上昇する。>完全看破>所有者は樹木魔法が使えるようになる。また、世界樹の登録数に応じて、樹木魔法ランクが上昇する。現在Fランク。
うん。お義父さんとんでもない物作ってたのね!?これで一瞬でエルドランまで一瞬で飛べるんだな。でも、半径2mだけって……。俺たちだけの移動なら問題ないってことか。それに樹木魔法も使えるってか……マールも使ってたな。心を読んだり、トラウマ抉ったり、色々とエグい魔法だったよな。
さぁ、どうするか……一度、先にエルドランへ行って世界樹を守って、それから再封印?そんなに上手くいくのか?
「あ、ユウマ。渡す物渡したし、私はこの辺で帰るからね。」
「はっ?俺たちと一緒に来るんじゃないのか?」
「本当はサフィーナちゃんと一緒にいたいけど、私が今やってる転移は時間制限あるのよね。魔力もいっぱい使っちゃうし……また、魔力溜まったらサフィーナちゃんに会いに来るから心配しないでね♪」
その心配は全くしてない。むしろ、いきなり来られることが心配なんだが……
マールは再び緑色の光の粒子となり、アイリのネックレスに吸い込まれていった。はぁ……嵐のような時間だった。
「ユウマ殿!エルドランへの戦士隊の準備が出来ましたぞ!」
タイタスの族長ラガイオが鎧を纏い、戦士たちを率いて来た。ん?族長自ら出陣するのか。
キィィーーーン キィィーーーン
ん?耳鳴り?これは……タイタスの巨孔の中から?ん?皆は気付いていない?俺だけか?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
今度は地鳴り……今度は周りも気付いたようだ。なんだ?封印が解ける前触れか?クソっ!時間がないのか……
ドワーフの戦士たちも動揺が見られる。
「俺はタイタスの巨孔に入り、精霊王の再封印をしてくる。他の皆はエルドランに向かってくれ。俺も封印が終わり次第エルドランに飛ぶから!」
「ユウマさん!そんな一人でなんて危険です!!」
「解ってる。けど、俺なら封印が出来る。アイリたちは世界樹をお義父さんたちを守ってくれ!」
アイリは俯きながら、しかし、コクリと頷いた。
「タイタスの皆も、俺を信じてくれ!必ず俺が精霊王の再封印をしてみせる!エルドランを救ってくれ!!」
俺はドワーフの屈強な戦士隊に向けて宣言する。
『頼んだぞ!!英雄様ーー!!』
『エルドランのエルフたちを守りに行ってくるぞーー!!』
戦士たちからも声が上がる。
「ユウマ殿。よろしくお願いします。頼めるのはユウマ殿しかおりませぬ。ウェル!ウェルはどこだ!ユウマ殿を巨孔の案内をするのだ!」
族長ラガイオが一人のドワーフの少女を呼びつける。連れてこられたのは、赤毛のボブカット、130cmあるかないかの小柄の少女だった。
「はい。かしこまりました。族長。」
「ユウマ殿、そこの娘、ウェルを案内にお使いください。」
ゴゴゴゴゴゴ………
再び地鳴りが起こる。時間はないようだ。
「解った。えーとウェル。案内を頼む。再封印が終わったら俺もエルドランへ向かうからな。アイリたちは急いで向かってくれ。」
俺はウェルと呼ばれた少女を一瞥し、アイリたちにエルドラン出発を促した。
「おー!!サフィーナ頑張って世界樹守るよー!!アイリのお父さんとお母さん守るよー!」
サフィーナも俺と意識を共有しているので事情を理解しているようだ。
「なら早く出発するよ!まぁ、ユウマが来るまでに僕が分体を仕留めてるだろうけどね。」
クロ子が息巻いている。
「ユウマさん。無理しないでくださいね。それから封印が無理そうなら分体の件が落ち着いてからみんなで考えましょう。」
アイリも心配してくれている。確かにアイリのいう事も一理ある。
「解った。皆。気をつけてな!!」
俺はアイリたちと戦士隊に声をかける。
皆、力強く頷き、それぞれの馬やグラントータスに乗り込む。総勢200名ほどのドワーフの戦士たちがタイタスの外壁前にぽっかり空いた出入り口から出発していく。道中にもまだ、狂える精霊がどれほどいるか解らないからな。
「行ってきます!ユウマさんもお気をつけて!」
戦士隊の最後尾からアイリたちも出発する。アイリの前にはサフィーナがちょこんと座っている。
皆がタイタスの出入り口の中に消えていくのを見送った。タイタスの防衛にあたるドワーフたちも引き続き周囲の警戒に当たっている。
さてと……俺も急ぐか。地鳴りは、一定の間隔を置いて周期的に鳴り響いている。
「ウェル。では、案内を頼むな。」
俺の横にちょこんと立っているドワーフの少女に声をかける。
「……はい。」
言葉少なげにウェルは俺の前を巨孔に向かって歩き出す。
巨孔の中は松明が一定の距離ごとに置かれており、明るさは問題なさそうだ。
穴は直径20mほどその周囲に螺旋状の階段が作られており、下に続いている。所々、横穴が掘られ、そこから鉱石を掘っているのだろう。
「ウェルはこの巨孔で抗夫をやってるのか?」
階段を下りながらウェルに話しかける。
「いえ……。」
「なら、なんでこの巨孔の構造に詳しいんだ?」
「私の祖先がこの巨孔を設計したんです……。」
「ほぅ……こんなデカイものを……すごいんだな。ウェルのご先祖様は。」
「はい……すごいです。」
うーん……なんというか、話が盛り上がらん。いや、盛り上がるつもりもないんだけど……
しばらく無言のまま階段を降り続けると、行き止まりとなった。上をみると青空が遠くに見える。50mほど地下に潜っただろうか……。だが、見回すかぎり何も見当たらない。ただ滑らかに整えられた岩肌が見えるだけだった。封印された部屋は地下200mほどのところにあるはずだが……。
ウェルが背負っていた袋からレバーを取り出し、岩肌に突き刺した。そして、そのレバーをガコンと引く。
ガタガタガタガタガタ………
何もなかった壁にぽっかりとさらに下に続く階段が姿を現した。
ウェルは何か訝しむように階段が現れた壁をペタペタと触っている。
「どうした?ウェル。何か気になることでもあるのか?」
「この階段、つい最近起動した形跡がある……。このレバーは一部の人しか持つことが許されないはずなのに……。」
「ん?抗夫が鉱石を堀に潜ったんじゃないのか?」
「それはない……。ここから先は、掘ることが許されない。族長の許可なく入れない……。」
「この先にあるものは、精霊王が封印されている部屋以外何かあるのか?」
「ない……。」
なら中に入った誰かが封印を解こうとしたってことか。
キィーーーン
ん?なんだ?見るとマールからもらった世界樹王の腕輪が光っていた。そして、その輝きが1本の光線のようになり地下への階段の下をさし示している。
「行くしかないな。」
しかし、階段の下には松明などの明りはなく暗闇に包まれている。俺は光魔術で『灯り』を唱えると光球が俺の頭上に浮かび上がる。俺たちは地下への階段を下りていった。
「おい!ウェル!お前、戦えるか?」
俺はしばらく階段を降りるとウェルに強い口調で質問した。地下から何かの気配を感じたのだ。
「戦えない……。どうして?」
「下から何かの気配がする。ここから、お前の案内なしで封印の部屋まで行けそうか?」
「それは無理……」
ウェルは少し震えているようだった。
「なら、危なくなったら隅でじっとしているんだぞ。」
「……わかった。」
そして、再び無言のまま俺たちは階段を下っていく。すると階段は無くなり、幅4mほどの通路がずっと奥に続いている。その奥から気配の強さが一段と強く伝わって来る。
ズシン ズシン ズシン ズシン
奥から何か重い何かの足音が近づいてきた。
「ウェル!下がってろ!!」
「うひゃい!!」
俺はウェルの周囲を籠のように魔鋼糸を出し、簡易の避難所を作り出す。
「その中なら多少安全だから絶対に出るなよ!!」
「……はい。」
ウェルは大人しく籠の中で小さくなっている。俺はそれを確認すると近づいてくる足音の主を睨み付ける。
暗闇の中から現れたのは、巨大なグラントータスであった。しかも、甲羅からは巨大なクリスタルの結晶が角のように何本も突き出ている。
グラントータスは俺のことを見つけると、その巨体に似合わないスピードで迫って来る。通路を辛うじて通ることができる巨体。凶悪な牙を剥いてグラントータスが迫りくる。
俺は魔鋼糸を長大な槍状にして、グラントータスに突撃する。グラントータスの頭目掛けて全力で突きを入れる。
Guooooooun!!
交通事故のような音が通路に響き渡る。槍はグラントータスの頭を吹き飛ばし、さらに突き入れられた槍に首の根本に深々と突き刺さった。
しかし、頭を失ったグラントータスはまだ動くことをやめない。さらに、首を失った部分を黄色い輝きが覆っていき、再び顔のような物が再生される。この輝きは……精霊!?グラントータスの顔が老人のような顔に置き換わっていた醜悪な化け物の姿となっている。
「こいつも狂った精霊に憑かれているのか!?でも、なんでこんなところにグラントータスが!!」
俺は魔鋼糸を無数に飛ばし、さらに火魔術の魔力を込めていく。炎の糸がグラントータスを切り刻んでいく。
炎に包まれ、ついに動きを止めるグラントータス。焼け残った後、巨大な甲羅だけが残った。
その甲羅の側面にはガリガリと削られた傷が4本走っている。ん?この甲羅の傷……どこかで……これは!!カラヌイの連れていたグラントータスだ!!間違いない。
ガート村に来たカラヌイとカインツに絡まれた時の亀談義に巻き込まれた時の事だ……
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「儂がオークの群れに襲われた時じゃった。このグラントータスが俺の前に立ちふさがってな!オークの持っていた斧を甲羅に受けたんじゃ!」
「へぇ……なるほど……すごいですね……」
「儂はもうダメじゃー!と思ったんじゃが、コイツめ、斧を受けてもピンピンしとる。さらにこの立派な牙でオークたちを蹴散らしよったんじゃ!!」
「へぇ……なるほど……すごいですね……」
「そうじゃろう!そうじゃろう!!その時の傷がこの4本傷じゃ!どうじゃ!カッコイイじゃろ?」
「へぇ……なるほど……すごいですね……」
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どういうことだ!?この先に感じる気配はカラヌイだっていうのか!?でも、どうして!!
「邪魔をするな……もう少しで災いがこの世界を覆い尽くすことになるんじゃ……」
通路の奥から、怨嗟の籠った声が響いてくる。フラフラとした足取りでカラヌイがぬぅっと姿を現した。
「カラヌイっ!!お前どうして!!」
俺は思わず怒声をあげる。
「おじいちゃん!!」
ん?この声は……ウェル!?しかも、おじいちゃんって……
俺は思わず声の方を振り返ると魔鋼糸の籠からウェルが飛び出していた。
「フッフッフ……どうしてじゃと?恨みよ。我が一族を今までゴミのように扱ってきたすべてを壊しつくすためよ!ウェルっ!!お前はなぜ邪魔をする!!お前も一族の辛さは知っておろうが!!」
ウェルの身体がビクンと震え、立ち止まる。
「どういうことだ!恨み?壊しつくす?訳が解らねぇよ!!」
俺は正直混乱していた。短い間だったが、カラヌイとは普通に話をし、馬鹿な事を言って、一緒に飯を食った仲だ。そんなカラヌイにこんな狂気が秘められていたなんて……
「ふっふっふ……まぁ、いい。封印が解けるのも時間の問題じゃ。昔話をしてやろうかの。お前らが想像もできないような忌まわしき儂ら一族に課せられた悲運を……」
カラヌイはポツリポツリと語り出していた。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




