32、男の娘?
†
目の前でクロウが喚いている。いや、もう女の子になったからクロ子とでも名付けようか。
ここは宿り木亭の部屋の1室。
周囲にはアイリとサフィーナがこちらを見ている。
「おい。クロ子。そんなに喚いたら近所迷惑だろう?一応、お前の分の宿代払ってないんだから静かにな。」
俺は諭すようにクロ子に話しかける。クロ子は今、白い大き目のシャツを着てベッドに座っている。これがクロ子でなかったらグッとくるんだろうな。
「はぁぁぁぁ!?誰がクロ子だよ!ボクはクロウだ!人を勝手に女にしておいて、何言ってるんだよ!
しかも、宿代払ってないってケチか!?ケチなのか!?いいから早く僕を元に戻せぇーー!!!」
クロ子はご立腹のようだ。ムムムムと力んで何かを出そうとしているが、何も起きない。あー、そんなに力んだら別のもの出ちゃうって……あ、ごめん。聞こえてたのね。
「あー、ちなみにお前のスキルは今、使えなくなってるから、そこんとこよろしく。」
「よろしくなーーい!僕に一体何をしたんだよ!!」
そうだよな。死んだと思って起きたら女だったとか……うん。俺なら泣きわめいてるな。
「まぁ、その疑問はごもっとも。ちょっと長くなるが、説明してやる。だから、ちょっと落ち着けよ。
腹減ってないか?まずは何か食べながらゆっくり説明してやるから。」
ぐぅ~~~~~
「べ、べつに腹は減ってないけど、食べてあげてもいいから、早く持ってきてよ。」
ツンデレかよ!まぁ、見た目は女の子だから萌えなくも……いやいやいや、こいつは男だ!中身は。
「サフィーナが持ってきてあげるよー。朝食の残りをリリーにもらってくるねー。」
テテテテーとサフィーナが部屋を出ていく。しばらくすると、パンとシチューを持ってきてくれる。
「では、クロ子。食べながらでいいから聞いてくれ。」
「だれふぁくろふぉらー!!」
食べ物食べながら叫ぶなー。いろいろ飛び散ってるじゃねぇかよ!!
「ごほん。クロウ。首を切られる前、俺に殴られたろ?その時、お前の口に2つの薬を入れたんだ。1つは、お前のスキルを封じる魔法薬。これがないとお前のスキンアーマーだっけ?それに弾かれて斧の刃が立たないからな。それから、もう1つはお前の身体をスライムにする魔法薬。」
「はぁーーーー!!!す、す、スライムぅーーーーー!?まさか、このポヨポヨはスライムなのか!?」
クロ子はそういって、自分の胸を揉む。いや、なんだろう。少しいいものが見れた気がする。ひぃ!!すいません。アイリさん。なんでもありません。
「い、いや。今の体はスライムじゃないぞ?女だから胸がポヨポヨなんだからな。」
「なっ!?そ、それを早く言えーー!!!」
クロ子は赤面しながら、枕を投げてくる。まぁ、首を傾けてサッと避けるわけだが……。
「最後まで聞けよ。お前は首を切られたショックで気を失ってたってわけだ。普通は死ぬからな。そのままショック死しないかハラハラしたけど。で、改めてスライムから元の人間に戻ったわけだ。な?めでたしめでたしだろ?」
「全然めでたくないだろー!!僕、女になってるし!!そこの説明が全くされてないし!!」
クロ子がまたキーキーと言い出した。殴ったり蹴ったりと手を出してくるが、ことごとく避けてやる。
「スライムから人間に戻れたんだぞ?男か女かなんて種族の差に比べたら誤差の範囲内ってことで……。ってのは冗談で、お前の新たな人生のためだ。男のままならまた騎士団に捕まるだろうし、闇ギルドからも狙われるだろうが。それに、ライカさんと約束したんだよ。」
「へっ?ライカ……ばあちゃん?そうだ!ばあちゃんはどうしたんだよ。無事なのか?」
ライカの名前を出した途端にクロ子は動揺する。
「ライカさんは、今、騎士団の監獄に捕まっている。まぁ、闇ギルドの関係者だったんだから、仕方ないだろうな。」
それを聞くとガバっと立ち上がり、部屋を出ていこうとする。俺はクロ子の腕を掴む。
「話せよ。助けに行くんだ。邪魔するなよ。」
腕を振りほどこうとするクロ子。しかし……
ベシッ
俺はクロ子の頭にチョップを落とす。
「痛っ……。何するんだよ。」
涙目でこちらをにらむ。
「ライカさんは納得した上で捕まってるんだ。で、お前が好き勝手やった責任を取ってるんだ。どの面下げて助けに来たーなんて言えるんだ?俺はお前を再教育する。これ、決定事項な。反論は許さん。」
「な、何を勝手なことを言ってるんだよ!!そんなこと許されるわけないだろう!」
必死になってクロ子が反論する。
「お前の命を助けてやったんだ。お前のことは俺が自由にさせてもらう。嫌ならもう一度死ぬか?まだ人体実験が必要な魔法薬がいっぱいあるんだ。モルモットとして飼い殺してやる。選べ。それに、これはすでに、ライカさんの許可ももらっている。」
俺は淡々と告げていく。
「そ、そんな……い、嫌だ!!なんだよ!再教育って……僕をどうする気なんだよ!」
「んー。まずは話し方かな?できれば敬語。あとは、生活指導……かな?あとは悪いことはするなーとか?」
そう言われれば、教育なんてどうすんだ?子育てなんてしたことないぞ?
「な、なんで疑問形なんだよ!」
「知るか!見切り発車で再教育するんだから仕方ねぇだろうが!!」
「なんで逆ギレしてるんだよ!!」
「う、うるせぇーーー!!!」
ベシッ バシッ
「「痛っ!!」」
アイリが俺とクロ子の頭を叩く。
「ちょっと!本当にうるさいです。2人とも。周りの迷惑になるでしょ!ユウマさんも、さっき自分で言ってたじゃないですか。それにクロウくん。ライカさんの気持ちをもっと考えなきゃダメです!悪い子になったあなたの事を心配してたんですからね。あなただってライカさんの事が好きなんでしょ?」
アイリがキレた。すいません。反省してます。ほら、クロ子も早く謝れ。今なら許してもらえるから。
「べ、べつにばあちゃんなんて好きじゃないし。一応、この世界で肉親だからだし。」
バカー。早く謝れって……。ほら、アイリの目が……ん?
「クロウくん。大丈夫だよ。ライカさんは、もうすぐ釈放されるし、またすぐ会えるよ。」
ライカさんに会えると聞いてクロ子はホッとした顔をする。
「そうか……。で、あんた誰?」
「私はアイリーン。皆からはアイリって呼ばれてるわ。で、こっちの白い髪の子はサフィーナちゃん。よろしくね。クロウくん。」
「よろしくなー。クロー。」
サフィーナはクロ子の事が気になるのかジロジロと眺めている。
「な、何見てるんだよ!!見るな!」
クロ子がサフィーナに噛みつく。
「なかなかカワイイ顔してるなーって思ってねー。それにグフフ。アイリより胸あるなーって見てたのー。」
うわっ……サフィーナ、なに地雷踏んでるんだよ!!ほら、2人とも違う意味で悶絶してるし……。
「僕はこんなところ出ていくからな!!放っておいてくれよ!!」
クロ子は、部屋を飛び出して行ってしまった。
うーん。難しい年頃ってやつか?それにしても、アイリのフォローが先決だな。
「サフィーナ、クロ子を追ってくれ、後で合流するから。」
「了解ー」
テテテテーとサフィーナも部屋を出ていく。
部屋に二人っきりとなった。
「アイリ。その、クロ子のことなんだけど。さっきはありがとう。叱ってくれて。あいつには普通に接してやりたくてな。それに……胸はアイリの方がいい形してるから。」
俺は、真剣な顔でアイリに告げる。
「解りました。それよりも、5回です……。」
ニッコリと笑うアイリ。おもむろに俺の両頬をつねる。
「ふぇ!?」
「でも、ダメですよー。クロウくんの胸見ちゃ……。男の子なんですから……フフフフ……そう、あの子は男の子、これは敗北ではない……」
「痛でででで……ちょ、ちょっとアイリさん!?目が怖いですって!痛い…もげるぅ。」
割と本気でもげそうなんだが……。俺のほっぺはゴムのように伸びきっている。
「ユウマさん。バカなこと言ってないでクロウくん追いかけますよ!どっち行ったんですか!」
良かった。なんとか通常モードに戻った。うん、本当に良かった。
(ユウマー。ちょっと面倒なことになってる。急いできてー。)
サフィーナから救援要請が来る。
「ちょっとクロ子が、トラブルに巻き込まれたみたいだ!アイリ、急ぐぞ!」
こっちか……。俺たちはエイラムの裏街の路地を急ぐ。サフィーナから誘導してもらう。バラックのような小屋が乱立する裏街。浮浪者やストリートチルドレンなどが生気のない目で座り込んでいる。
あの角を曲がった所か!!
うん。パッと見を説明しよう。暴漢5人に襲われる美少女と美幼女。
もちろん、美少女と美幼女というのはクロ子とサフィーナだ。ステータスが見えないというのは、こうも不運を生んでしまうものだろうか……暴漢は高くてレベル2。ステータス高くて20…。これは、可哀想すぎるだろ!
「おい!ちょっと待て!何やってんだ!!」
暴漢たちが一斉にこちらに振り向く。
「おいおい、兄ちゃん。なに邪魔してくれてんだ?あぁ?」
「おぉ、そっちの連れてるネェちゃんもカワイイじゃねぇか?」
「そーかそーか、そっちのネェちゃんも俺たちと遊びたいってか?グヘヘヘ」
ギャハハハと馬鹿笑いをしている。いやいや、クロ子の目、殺気で満ちてるし。
「殺すな。殺すんじゃないぞ!」
俺はクロ子に向かって叫ぶ。
「ギャハハハ!もう命乞いかよ!ヘタレは引っ込んでろ。ネェちゃんはこっちに来な!」
いや、お前らに言ってんじゃねーし……まぁ、いいけど。
「……僕、今、めちゃくちゃイライラしてるから、消してもいいよね?」
クロ子は冷たい笑顔を貼り付けて、暴漢たちに向かって歩いていく。スキルは封じられていてもレベル14の身体能力は伊達じゃない。もし、ガチで殴り掛かれば暴漢たちはひとたまりもないだろう。
「クロウくん。ダメ!新しく生まれ変わったんだよ!もう前のクロウくんじゃない!!そっち側にいっちゃダメだよ!!」
アイリが叫ぶ。クロ子はアイリに方を一瞥すると、自虐的な笑みを浮かべる。
「別にこんなクズたち、いくら殺しても問題ないじゃないか。それに僕、襲われたんだよ?まぁ、女として襲われるのは納得いかないけどね。でもこれ、正当防衛だよね。」
「せいとうぼうえ…?」
前の世界の法律を引き合いに出されて戸惑うアイリ。
「バカか。過剰防衛だよ。それに刑法なんてのはこの世界にはないんだよ。何やっても自由だ。」
「だったら別にいいじゃないか!!こんな馬鹿な奴ら殺したって!いや、むしろこの世界の為だろ?悪党が減って!!」
うん。一見すると正論のように見える。だが……
「自由だからこそ、自分の行動は自分で戒めないと、また闇ギルドに逆戻りだぞ!それに世界の為だぁ?ふざけんな!この世界の事なんてこれっぽっちも考えたことねぇだろ!自分を正当化したいだけだろ!ガキが!!」
あぁ、俺もだんだんとイライラしてきた。
「うるさい!!じゃあ、僕はこのまま襲われろっていうのか!こんな小汚い野郎たちに!!」
クロ子も怒ったように、俺に噛みつく。それを暴漢たちは唖然として眺めてる。暴漢が傍観……いや、なんでもない。
「そんなことは言ってない。襲ってきた奴のあしらい方を教えてやる。よく見てろ。殺さずに、痛めつけるんだよ。もう、二度とバカなことをしないようにな……クックック。」
俺は不敵な笑みを浮かべて暴漢たちに飛びかかる。
まずは、クロ子に近い男の急所に膝と入れる。
「ふがっ……」
悶絶して倒れ込む男。
しばらくそれを傍観していた暴漢たちも……ん?しつこい?すいません。我に返って、俺に襲い掛かってくる。
俺は繰り出された拳を掻い潜り、柔道の内股の要領で投げ飛ばす。もちろん蹴り上げた足で急所を捉える。きれいに一本。昔はこんなにきれいに決まったことなかったな。
次の男は俺の後ろから羽交い絞めにしようと接近してくる。俺は踵を後ろに蹴り上げる。もちろん狙いは急所攻撃。パシン とすごい音が響く。
あっという間に3人の暴漢が地面でもがいている。
「クロ子。こうすれば奴らを殺さずにすむだろ?」
この時、俺はとってもいい笑顔だったに違いない。いつの間にか、クロ子はウチマタになって、痛そうな顔をしている。自分がやられたわけじゃないだろうに……。それに、今、クロ子にはあの痛みからは無縁なはずだが……。
「ゆ、ユウマー。一番最初にクロウに教えるのが金的って、どうかと思うよー。」
サフィーナに呆れられた。あれ?何か間違っただろうか……アイリも赤い顔をして、こっちを見ている。
「いやいや。マジな話、人を殺すってのは自分の何かをすり減らすんだよ。クロ子みたいに精神的に幼い奴は余計にな。でも、この世界は襲われることなんてよくあることだ。なら、人生の先輩として教えておかないとな。」
まぁ、初めての授業が金的講座だったのは自分でもどうかと思うけどな。
「や、やればいいのか……。」
クロ子も少しずつやる気を出してくれている。うんうん、良い傾向だな。
唖然としている暴漢2人にクロ子が襲い掛かる。
『いやぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!』
エイラムの裏街に男たちの野太い悲鳴が響き渡ったのは、それから間もなくの事だった。
「ぼ、僕になにさせてんだよ!!お前は!!」
暴漢たちを片づけている俺の背後からクロ子が声をかける。
「俺はユウマ。アリムラ ユウマだ。よろしくな。ミチバタ クロウ。」
「僕はサエキ クロウだ。もうクロ子なんて呼ぶなよな!」
ん?ってことは、クロウと呼べということか?まぁ、別になんでもいいけどちょっとは距離が縮まったかな?
「はいはーい。この暴漢を騎士団に引き渡すから手伝ってねー。ユウマー。クロウー。」
サフィーナが手際よく暴漢たちを縛り上げている。いつの間に、あんなに手際よく……。サフィーナ将来が恐ろしい子……。
俺たちは縛り上げた暴漢5人を近くにいた騎士に引き渡すと、エイラムの中央通りに向かった。
†
もうすぐ夕方かなー。いつ来てもここの通りは人がいっぱいだよー。
いろんな人たちが歩いてるのを見ているのは全然飽きないのー。
サフィーナたちは、今『バミリア皮革店』に来てるんだよー。
理由?それは、ユウマの黒いマントに穴が開いちゃったから、その修繕だってさー。
サフィーナはいっぱい買い食いしていいって言われたから、ついてきたんだけどねー。
闇ギルド討伐の報奨金ってことで、お金いっぱいもらったらしいんだよー。いくらかは知らなーい。
でも、串焼きいっぱい買える値段だってのはわかるよー。だって、今、サフィーナとアイリは両手に2本ずつ串焼きを持ってるもん。ユウマ太っ腹だー。あ、あそこのお店、新作の串焼き出てるー。
あ、クロウの分のマントも買うんだー。へぇー。サフィーナたちとお揃いなんだー。刺繍の色は?黒がいいの?ダメだよー。黒はユウマの色だもん。えー!クロウだから黒は譲れない?わがままだなークロウはー。あんまり真っ黒黒だと、なんだっけ?チューニーとか言われちゃうんだよー。ユウマが言ってたもん。あ、でもユウマも真っ黒黒だからチューニーなのかな?
あ、クロウのマントの刺繍、緑にしたんだー。きれいな色ー。クロウにぴったりだよー。あ、なんで隠すのー?似合ってるよー。そのマントー。あ、バサってやってる。わかるわかるー。サフィーナもやったもん。一緒だねー。ん?なんでショックなの?さぁー一緒にバサってやろーよー。バザっ♪あとは、ポーズはこうだよー。あれ?一緒にやらないの?変なのー。
あ、ユウマー。今度はどこ行くのー?『バミリア衣料品店』?あぁ、カムラーのとこかー。あの近くに揚げフルーツの美味しい屋台があるんだー。行ってもいいでしょ?やったーー♪で、ユウマー、服買うの?あぁ、クロウの服ねー。あと、糸も売るんでしょ?この前いっぱい糸出してたしー。あ、またお小遣いくれるのー?やったー!じゃ、あの屋台にいるから終わったら呼んでねー♪
おじさーん。全種類の串焼きちょーだーい!!あれー?アイリも来ればいいのにー。あ、クロウの服選んでるのかー。なら問題ないかー。ユウマだと変な服選んじゃいそーだしー。あ、これおいしー。おじさーん。これもう3本追加ねー。
あ、アイリー。買い物終わったのー?あ、この串焼き?アイリの分だよー。買っといたー。えへへー♪撫でるのくすぐったいよー。あれー?クロウの服ってこれー?スカートじゃないんだねー?当たり前だ?似合うと思うのにー。グレイのズボンに白いシャツに黒いベストかー。なんだか男の子みたいだよー。えっ?男だ?ウソだー!今、女の子だよー!えぇ?ユウマ、そこはそっとしておけ?うーん……わかったよー。
今日はいっぱい串焼き食べたなー。さぁ、明日は何を食べようかなー。ん?えっ?ユウマー。今、何言ったのー?えっ?えっ?
えぇぇぇぇぇ!!!そんなぁぁぁぁーーー!!!
最後まで読んでくださってありがとうございます。




