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30、暴走

 †



 俺は、何も考えずに男たちに向かって走り込んでいた。【隠形】の効果か、足音などもせず容易に接近できた。

 近くの男の顔を思いっきり殴りつけた。男は吹き飛ぶ。俺は、それも確認せずに次の男に殴りかかる。男はグシャと地面に叩き付けられる。次!次はどいつだ!!


「なんだ!?どうなってるんだ!!」

 突然仲間が吹き飛び、地面に崩れ落ちたためか、残った男が叫ぶ。知るか!そんなこと・・・

 次の男に殴りかかろうとする俺に向かってナイフが投げつけられた。


 クソ!なんで、こちらの動きが解ったんだ!!


「おぉー。さすがに躱すかぁー。やるねぇ。伊達に転生者やってるわけじゃないんだね♪」

 な、なに!?何で知っている。それに、何でこちらの姿が見えているんだよ!!

 後の2人の男にはこちらの姿が見えている様子はない。見えているのは小柄な、いや、若い男。13、4歳の少年だ。額には斜めに大きく抉られた傷跡が見える。コイツだけが俺のことを捉えている。


「で、こうしたらどうするんだろうねー♪よっ!!」

 少年は倒れているサフィーナに向けてナイフを投げる。クソっ!!何やってんだよ!!コイツ!!

 俺は【高速化】を使って、サフィーナを庇う。


 ぐっ・・・


 俺の背中にナイフが深々と突き刺さる。黒牛鳥のマントもアダマンタイトの装甲も関係なく貫き通し、背中からはナイフの柄だけが伸びている。

 あの時と同じだ・・・メイガンの刺突剣に腹を突かれたときのような感覚に陥る。一瞬、体の動きが止まるのだ。


「おぉ!!早いね♪ あの時よりお兄さん、すばしっこくなってるじゃん♪すごいすごい。」

 少年は無邪気にパチパチと拍手を送る。なんだよこのガキは!!

 俺は、サフィーナを背に立ち上がり、少年に【威圧】を飛ばす。しかし、少年はわずかに眉間に皺を寄せるだけに過ぎない。

「うわー、生意気だね。何してくれちゃってるの?」

「く、スカー様、いったい何が起きてるのでしょう。」

 キョロキョロと周囲を見回す男の一人が少年スカーに問いかける。状況を理解していないから仕方ない。

「さぁ?何が起きてるんだろうねー?僕にはさっぱりわからないや♪ほっ!」

 少しおどけて見せながら、再びスカーはこちらにナイフを投げつける。今度は、マチェットではじくことに成功した。投擲の技術そのものはそれほどでもないようだ。だが、鎧を構わず貫くあのナイフはいったいなんなんだよ!

「やるねぇ♪お兄さん。僕ね。お兄さんを殺せば、スキルが増えるらしいんだよねー。神様がそう言ってたから。僕、どんどん強くなっちゃうなー。勇者とかやっちゃおうかなー♪ねぇ?どう思う?」

 スカーはどこからか、2mほどの槍を取り出し、俺たちに向かって走り出す。パタパタとひどくゆっくりとしたスピード。しかし次の瞬間、スカーの姿が消える。


 ポタ ポタ ポタ


 気づくと俺の腹には、深々と槍の柄が突き出している。その柄を伝って地が地面に滴っている。そして、目が合う。いつの間にかスカーは俺のが懐に入り込み、ニターっと俺を見上げて笑っている。


 ぐはっ  ぐはぁぁ!!


 口から大量の血がこぼれる。

 スカーはさらに、槍を腹の中で抉る。再びの吐血。


「今、どういう気持ち?ねぇ?大切なものを守れずに、お腹刺されてさー♪ま、次は後ろの子も殺すんだけどねー♪」

 俺は拳をスカーに向けて振り下ろす。当たる瞬間、パっとスカーの姿は消え、5mほど後ろに現れる。

 

 ボタボタボタ


 俺の腹から大量の血が流れ出る。いつの間にか貫いていた槍が消えている。足がふらつくが、目だけでスカーを追い、【威圧】を放つ。まだ少しだけ、足に力が入る。


「くっ・・・だから、生意気なんだって!そんな目で見るなよっ!!」

 スカーの顔から笑みが消え、イライラしたような目でにらみ返してくる。

 俺は【高速化】と【鋼糸】【毒牙】を発動させ、一気に鋼糸を噴射する。すでに、網状にした糸は高速で広がる。その網には毒液が滴っている。触れると身動き取れなくなる致死量ギリギリの神経毒だ。


「ぐわっ!なんだこれ!!」「いったいどこから!?」

 巻き込まれたほかの2人の男が毒液を浴び、硬直したまま倒れ伏す。


 しかし、スカーの姿は消え去る。どこだ!どこへ行った!?


「はい、ストーップ。はいはい。こっちこっち。無駄な抵抗は止めてよねー。」

 背後からスカーの声。振り向くと倒れたサフィーナの首に黒い小太刀のような刃物を突き付けている。


「なに・・・してる!? ゴボゴボ 何してんだよ!!てめぇ!!」

 俺は殺気と魔力を込めて【威圧】を放とうとする。

「おーっと、その睨むの禁止ねー。ほら、この刃が落ちて首に刺さっちゃうよ?」

 クソっ!!俺は中断し、立ちすくむ。

「なんでこんな事と・・・ふざけるな!」

「ぎゃはははは!!なんでって?ここは異世界だよ?何しても自由じゃん。それに、チート貰ってるし。使わないと損でしょ?僕、最強を目指します!!なんてね♪一応、ダークヒーロー的なのがいいかなーって。こんなこともできるんだよ?見ててね?」

 スカーは軽い調子で指を鳴らすと、空中に3本のナイフが現れる。

「それがお前のスキルか・・・。」

「そうだよ。すごいでしょ?うーん、まずは肩かな?行け!」

 1本のナイフがすさまじい勢いで、俺の肩に突き刺さる。刺さった反動で俺はバランスを崩す。

「ぐあぁぁぁぁ!!」

 しかし、歯を食いしばって立ち上がる。

「おぉ!お兄さんタフだねぇ・・・的としては優秀だよ。じゃ、次は、どこにしようかなっ!!」

 次は太ももにナイフが刺さる。俺は転倒し、地面で悶える。もう少し・・・もう少しだ。

 俺は、再び立ち上がりスカーを睨み付ける。

「すごいねー。まだ動けるんだね。でも、飽きたからもう寝ててもいいよ。永遠にねー。死ね。」

 最後のナイフが俺の心臓目がけて飛んでくる。でも、俺は避けない。もう少しなんだ。


 ザク


 俺の胸にナイフが突き刺さる瞬間がスローモーションのように感じられる。胸に刃物が突き刺さるという悪い冗談のような光景が網膜に焼き付けられる。


 ドックン ドックン  ドクン ドクン ドクン ドク ドク ドク ドク ドドドドドド・・・


 俺は眷属召喚と発動し、サフィーナを俺の後ろに召喚する。スカーはサフィーナが突然消えたので動揺している。俺は構うことなく、ゆっくりと近づいていく。拳を振り上げ、殴りかかる。スカーは気持ち悪い笑みが張り付いたままだ。


 バキッ


 しかし、今度は違ったようだ。俺の拳は奴の頬を捉え、壁まで吹き飛ばした。壁には蜘蛛の巣のようにヒビが無数に走る。


「どうなってるんだよ!時間止まらないじゃないか!なんでだよ!」

 ん?何言ってるんだ。こいつ……。 完全看破。

――――――――――――

■ステータス

名前/ミチバタ・クロウ<スカー>

Lv.14

種族/人間   年齢/14歳  職業/闇ギルド幹部

HP  350/350

MP  300/300

腕力  280

体力  300

敏捷度 210

器用度 200

知力  200

精神力 220

称号:転生者 ライカの孫

装備:スキンアーマー(壊)  

スキル

Exスキル【武具創造(クリエイトウェポン)】【時間跳躍(タイムリープ)】【技能奪取(スキルイーター)

ユニークスキル【真実の魔眼】

 【剣術/Eランク】【投擲術/Eランク】

――――――――――――


 どうやら時間を操るスキルを持ってたようだ。でも、なんで俺の拳が当たったんだ?まぁ、当たったからいいか。にしても、コイツ……ライカの孫って、どうなってんだよ?しかも転生者!?神様云々言ってやがったし、神様、もうちょっとまともな奴を転生させろよ!!


「おい!止まれ!止まれよ!!クソっ!クソっ!!」

 スカーは壁から身体を引き抜こうとする。すると、スカーの皮膚にひび割れが起こり、パラパラとはがれていく。なんじゃこいつは……。


「ボクのスキンアーマーが!!なんで壊れるんだよ!!破壊不可の特性をつけたはずなのに!!」

 特性?あぁ?知らんがな。


 俺は再びスカーに殴りかかる。瞬間的にスカーは俺との間に巨大な楯を作り出すが、構わず拳を振りぬく。


 ドゴンっ!!


 再び、スカーが壁にめり込む。楯は粉々に砕け散っていた。


「なんでだよ!!これも僕が考えた最強の楯のはずなのに!!わっ……血だ!!血が出てるぅ!!」

 【武具創造(クリエイトウェポン)】は自分の好きな武器、防具を作り出せるスキルなのだろう。『僕が考えた最強』か……なんで、俺、壊せたんだろうな。俺が聞きたいぞ。


「殺す!殺す!絶対殺すからな!!もう許さない!!死ねよ!!」

 スカーは身の丈ほどの大剣を作り出す。仰々しい装飾に塗れた趣味の悪い剣だった。刀身に刻まれた文字が輝き、炎を纏って俺の首筋目がけて振り下ろされる。そう。当たったんだ。俺の首に。


「なんでだよーーー!!なんで死なないんだ!!斬れないものなんてないんだぞ!回復不可能なダメージが……。なんで平気なんだ!!このチート野郎が!!」

 お前が言うなよ!!でも、本当にどうなってんだよ。俺の身体は。


 まぁ、今はスカーのことだ。俺は奴の胸倉を掴み、正面から睨み付ける。

「おい!あんまり婆ちゃんを迷惑かけんじゃねぇよ!!」

 俺は、至近距離で【威圧】を放つ。すると白目を剥き、気絶したようだった。俺は魔鋼糸で簀巻きにしておく。


 ふぃ~……やっと終わった。俺は尻もちをつく。もう立つのも億劫だ。

 あ、サフィーナだ!俺はサフィーナの所まで這っていく。

 サフィーナの状態を見ると『毒』となっている。俺はインベントリから解毒ポーションを取り出し振りかけていく。

 よし!『毒』の表示が消えた。終わったー!!俺はその場で大の字になって寝ころんだ。

 

 サフィーナを見るとパチリと目を開け、上体を起こす。

「ユウマ。その姿は……そう。サフィーナを助けれくれたのね。」

「良かった。どこか痛みはあるか?サフィーナ。」

 俺はサフィーナをのぞき込む。

「いいえ。今はサフィーアよ。ユウマの力に反応して、目が覚めたみたい。それより、ちょっと待って。このままだとあなた、死ぬわよ。」

 目覚めていきなり死の宣告!?さすがにジョークにしては笑えないが……。

「あぁ、そうだったな。限界突破中だったな。でも、まだ1時間にはまだ余裕が……。」

 確か、1時間以内に治療すれば大丈夫だったはずが……

「いえ。持ってあと1分と少し。世話のかかる人ね。」

 へっ?1分?どうなってんだ?


 サフィーアの目が緑色に輝き、その光が全身を覆っていく。


「我ハ望ム 万能ノ妙薬 来タレ『天の甘露』」


 サフィーアの手のひらに、ビー玉のような翡翠色をした丸薬が現れる。

「さぁ、早くこれを飲んで。」

 俺は言われるままにそれを飲み下す。

 身体の中で猛っていた妙な力が抜けていく。意識が鮮明になり、身体の傷はもちろん古傷までも再生されていくようだ。まるで生まれ変わったような感覚。


――ピロリン♪――


 ん?ステータス

――――――――――――

■ステータス

名前/有村 悠真

Lv.7

種族/人間   年齢/18歳  職業/冒険者(C)

HP  640/640(+320)

MP 1280/1280(+640)

腕力   640

体力   640

敏捷度  640

器用度  640

知力  1280

精神力 1920

加護:神祖(しんそ)の大いなる加護 封仙の加護

称号:転生者 封印されし称号その1~5 器用貧乏

装備:黒牛鳥のマント アダマンタイトの部分鎧 マチェットナイフ

スキル

-EXスキル【教育者】【学習者】【超健康体】【ステータス倍化/Lv.UP】【限界突破】

-ユニークスキル【極運】【ファミリア】【看破】【隠形】【人たらし】

【薬草術/Aランク】【剣術/Cランク】【体術/Cランク】

【弓術/Cランク】【投擲術/Cランク】【槍術/Cランク】

―魔法スキル【火魔術/Cランク】【水魔術/Cランク】【光魔術/Cランク】

-魔物スキル【鋼糸/Bランク】【毒牙/Bランク】【高速化】


眷属契約:【精霊魔法/Eランク】(サフィーナより)

――――――――――――


 おっ!レベルアップしてるぞ。でも、俺、どうなってたんだ?瀕死でステータス100倍だから、腕力で考えると32000!?もう基準が解らん。


「何とか間に合ったみたいね。一時的だけどあなたは人間の枠を超えた力に強化されてたの。でも、何とか元に戻ったみたいね。そのおかげで私も目覚めることができたんだけどね。だけど、もう限界みたい。また眠りにつくわね。サフィーナのことよろしくね。」

 ふっとサフィーアの気配が消える。結局、色々とわからず仕舞いか。

「う……うう。ユウマー。おはよー。また助けてくれてありがとねー。」

 いつものサフィーナが目覚めたようだ。ギュッと抱き付いてくる。

「俺もサフィーアに助けられたからお相子だ。良かった。無事で良かったな。」

 俺は、サフィーナの頭をポンポンと撫でる。



「あーーーーーー!!!な、な、何してるんですかーーーー!!!」

 ん?おっ、アイリだ。血相を変えて、こちらに走って来る。


「おぉ、アイリ。よくここが解ったなっ!一応、こいつらぎゃばらべしゃ……」


 あれー?視界が一回転して地面が見えるぅー。あれー?息が出来ないよー?


 ビタン


 い゛っ…でぇ……


 どうやらアイリのアックスボンバーが決まったようだ。後でサフィーナに聞いたところによると、キレイに空中で一回転して地面に叩き付けられていたらしい。


「私というものがありながら、こんな地下の人気がないところで抱き合ってるなんて!!

 不潔ですぅーーーー!!!そんなの絶対許しませーーーーーん!!!!」


 周りに倒れている男たちのことがアイリには見えないらしい。結構激戦だったと思ったんだけど……。


「アイリー。えと、違うの!サフィーナが悪いの!サフィーナに隙があったから……だから、こんなことに!!」

 うん。サフィーナ。説明的には間違ってないよ。でも、その言い方はどうかと思うよ?だって、そんな言い方なら……


「ユウマさーん!!サフィーナちゃんに何したんですかーーー!!しかも、こんな小さな子にまで庇われて!きちんと説明してくださーーーい!!!」

 ほら、こうなった。で、こうなったら説明してもほぼ意味をなさない。


「アイリ。落ち着いてきいてくれ。闇ギルドの連中にサフィーナが人質に取られて、やっと助けることができたんだ。」

 うん。俺悪くない。あの流れは自然だよね?大丈夫だよね?


「それは!良かったと思います。思いますけど……私の気が収まらないんですーーー!!!!」

 大丈夫じゃなかったー!!!

「どれだけ…どれだけ心配したと……思ってるんですかぁ……ひっく…ぐすん……。」

 そうだ……アイリも色々と心配をかけていたんだ。

「すまない。アイリ。俺、心配かけてばっかりだったな。アイリも無事で本当に良かった。本当に……。」

 俺はアイリを抱き寄せ、口づけを交わす。アイリは、少し睨みながらも、唇を話すと優しく微笑んでくれた。

 ふぅ。これで俺の生命の危機が去った。さっきから何回も生命の危機にあっていた気がする。



『無駄な抵抗はやめろーーー!!!お前らはすでに包囲されているぞーー!!!』


 ワラワラと騎士たちがアジトに入って来る。その先頭を指揮するのはバルムンクのようだ。

 にしても、遅ぇよ!!推理小説で事件がすべて終わってからやって来る警察くらい遅いよ!!


「あ、バルムンク卿。<スカー>の拘束、完了してます。他に倒れている男も痺れているだけで、生きています。」

 俺は、バルムンクがこちらに気付いたのを確認して、声をかけた。

「おぉ!!ユウマか。それにアイリ、サフィーナ。お手柄だな。他の冒険者チームはことごとくリタイアしている。もう1人、闇ギルドの幹部が率いる部隊の介入があってな。上では、レガリアはそちらに掛かりっきりだ。まぁ、奴なら何とかするだろうがな。」

 <スカー>並の奴がもう一人。それは厄介なことだ。こちらの情報が筒抜けだったらしいからな。

「それで、『ピリング魔法薬店』にいた老婆はどうなりました?俺が拘束していたはずですが……」

「あぁ、あの老婆なら騎士団の拘置所に移送された。あれでも一応、闇ギルドの関係者だ。それなりの処理がなされるはずだ。」

 それなりの処理……それって……殺されるのか!?ライカさんは……。

「一度、話をさせてください!!彼女は異世界人なんです。それから……俺も。だから!!お願いします!!」

 隠していたが、もうここでカミングアウトしてしまおう。アイリが心配そうにこちらを見ている。


「なんと!ユウマは……あ、いや、ユウマ殿は異世界人であったか。それに、あの老婆も……何か、因縁があるようだな。いいだろう。一応、こちらの騎士団の者をつけることになるが、特別に面会を許可しよう。」

 なんだ?異世界人であることをバラした瞬間、対応が良くなったぞ!?にしても、ライカさんと話ができる。……でも、俺は何を話す気でいるんだ!?お孫さんを捕まえましたよーとでも言う気か!?ライカさんを殺さないでくれと嘆願する気なのか!?でも、ライカさんと話さないといけない。


「すまない。アイリ。サフィーナ。俺、ライカさんに会いにいってくる。先に宿り木亭で休んでいてくれ。」

 俺は2人にそう言うと、バルムンクに案内され騎士団の拘置所に向かった。


 夕暮れの街の中、俺はライカにかける言葉をずっと考えていた。


最後まで読んでくださってありがとうございます。

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