29、ギルドアタック
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俺たちはその日、ギルドマスターのレガリアからの呼び出しを受けていた。それは、ザール商会のバックについていた闇ギルドの尻尾を掴んだというものだ。俺たちはフル装備を整え、ギルドマスターの部屋にやってきた。
コンコン
「ユウマです。呼び出しに応じやって来ました。」
「入れ。」
レガリアが短く答える。
ギルドマスターの部屋に入ると、そこにはマスターのレガリアと上級騎士バルムンク、他にも数名の冒険者や騎士たちがいるようだ。
「ユウマ、アイリ、サフィーナ。よく来てくれたな。ザール商会と闇ギルドとの繋がりから、ついに闇ギルド主要メンバーの潜伏先を突き止めることが出来た。今、その潜伏先には、冒険者を張りつかせている。お前たちにも協力を願う。指名依頼というやつだ。」
Cランクになると、こういう強制参加の依頼の要請を受けることがあると、エイミーから説明を受けていた。でも、よりによって闇ギルド絡みとは・・・ウリリの店の件もあり、断りにくいということも織り込み済みだろう。つくづく喰えないオッサンだ。
「おいおい。大丈夫かよ。こんなガキたちを参加させて。俺たちはガキのお守りをしに来たんじゃないんだぜ?」
俺たちの見た目から、あざ笑うかのような声を上げる男、冒険者のようだが・・・レベル6か。ベテランなんだろうが、ステータスやスキルを見ると、アイリにも劣るだろう。
「静まれ!ここに揃っている者は、皆、騎士団や冒険者ギルドでの実績のある者たちである。人選に文句のある者はここで辞退してくれて構わん。」
バルムンクが一喝する。すると挑発してきた男もすごすごと黙り込む。ナイスフォローだよ。バルムンク。放っておいたら、俺が【威圧】かけるとこだった。
「いいか。今から、潜伏先を制圧しに行く。戦闘になる危険性が極めて高い。それで、これからチームに別れて行動する。それぞれの役割は今から説明していくからよく聞くように。」
レガリアがエイラムの街の地図を広げ、ある一点を指さす。ん?・・・あそこは、確か。
「この地点と中心にバルムンク卿率いる騎士団で囲んでいただく。これらの路地には、それぞれ人員を配置してほしい。それから、冒険者は各パーティー毎に裏から接近。突入してほしい。突入と同時に、騎士団にも囲みを絞っていただき、時間差で後詰も突入していただく。奴らを一網打尽にする。抵抗が激しいようなら殺しても構わない。」
それぞれが真剣にレガリアのブリーフィングを聞いている。
「ちょっといいか?」
一人の冒険者の男がレガリアに質問する。皮鎧を部分的に着込んだ軽戦士のようだ。
「想定される敵の人数と潜伏先の内部の状況などは解らないのか?突入したはいいが、無関係の者を殺したとなると後味が悪すぎるんだが。」
その通りだよな。相手の顔も人数も解らないと、現場は混乱するだろう。
「こちらが情報を掴んでいるのは5名。うち1名が幹部クラスとのことだ。他の4名も精鋭である可能性が高い。幹部の名前は不明。灰色の髪をした頬に疵がある男だ。仲間内からは<スカー>と呼ばれている。すべて人間だ。」
レガリアが説明していく。
「他に留意することはないのか?俺はその潜伏先というのは、確か魔法薬の店だったはずだ。」
俺はレガリアに、ある懸念を指摘する。レガリアの差した潜伏先というのは、俺がエイラムで初めてであった転生者、道端雷華の店だったのだ。
「そうだ。潜伏先は『ピリング魔法薬店』だ。店のものも闇ギルドの一員だ。捕えて問題ない。おそらく店は偽装で、地下に拠点を築いている可能性が高い。」
どうなっている!?なんであの温厚そうな老婆が闇ギルドの関係者なんだよ!!
俺は、混乱する。全くレガリアの説明が頭に入っていない。いつの間にか、冒険者や騎士たちが解散し始めた。説明は終わったようだ。
「あの・・・ユウマさん。どうかしたんですか?なんだか途中から上の空みたいでしたけど。」
「ユウマー?気になることがあるならサフィーナたちに言ってねー。仲間なんだからー。」
そうだな。こんなモヤモヤした気持ちのまま闇ギルドとかち合うわけにはいかないものな。
「実はな・・・。」
俺は、アイリとサフィーナにライカという転生者のことを打ち明けた。闇ギルドに関係しているのは何か理由があるのだと。そして、できれば、もう一度、話したいのだと。同じ日本人が犯罪に手を染めると考えると許せない、と思う一方で、薬店に座っていた小さな老婆ライカのイメージ。感情と思考が一致しないのだ。
「ユウマさんは、作戦の前に、ライカさんに話しておきたいんですよね?だったら行ってきてください。私とサフィーナちゃんで、レガリアさんたちには上手く言っておきますから。」
アイリの目には俺への信頼の色がうかがえる。
「ユウマなら【隠ぺい】とか使って、バレないようにチョチョイってあって来れるでしょー?こっちは、サフィーナたちに任せなさーい♪作戦は今夜日が沈むと同時に開始されるから、あと3時間くらいかな?どーせ、レガリアの説明聞いてなかったんでしょー?」
サフィーナも俺ことを信じてくれている。色々とお見通しのようだ。
「ありがとな。2人とも。なら、俺、行ってくるわ。同じ日本人として、俺とつながりのある人として、何もしないままではいられない。すまないな。」
「おい。ユウマ。今回の作戦はお前たち突入班が重要なんだから、しっかり頼むぜ?くれぐれもスタンドプレイは厳禁だからな。」
レガリアが何かを察したのかくぎを刺してきた。なんだよ、気持ち悪いほど勘がいいじゃねぇか!
「よく解らんが、規律を求めるなら騎士たちだけでやればいい。俺たちは俺たちのやり方で闇ギルドをやる。闇ギルドに腹を立ててるのは同じだからな。」
「ふはははっ 確かにそうだ!自由が冒険者の生き方だからな!ユウマ!好きにやれ!だが!足引っ張るなら、俺の全権限を使って潰すからな!!」
おぉ・・・いろいろと豪快だな。しかも、権力振りかざし過ぎだぞ!!まぁ、いつも通りか。
「解った。なら、行ってくる。」
俺は、アイリ、サフィーナ、そしてレガリアと別れ、ライカの店に急いだ。
少し、日が傾きかけている。そんなエイラムの街の路地を俺は急いでいた。
俺は、『ピリング魔法薬店』の近くまで来ると、【隠ぺい】【気配消失】【気配感知】を発動させる。
周囲を行きかう人々の息遣いや動きが、よりダイレクトに俺に伝わってくる。人混みを目を閉じて歩いても、人とぶつかることもないだろう。俺は、さらに神経を研ぎ澄ませていった。
俺は、『ピリング魔法薬店』に入った。物音も立てず、店内にスルリと入り込む。
相変わらず、薬品の匂いで店内は充満しており、咽そうになる。
ライカの姿は見えない。俺は、店内の様子をさらに探っていく。地下だ。地下に複数の気配を感知する。
やはり、レガリアのいったように地下に拠点があるようだ。なら、地下への階段か何かがあるはずだ。
どこだ?
俺は極細の鋼糸を四方に飛ばす。
ユラユラと鋼糸が落ちていく。俺はその糸の様子に注意する。糸の揺らめきに変化がある。
風だ。
地下から吹き上げる風に、ゆっくりと落ちていく糸が不規則な揺らめきを起こす。
あそこか・・・
一見、薬品棚のようだが、仕掛けがあるようだ。
俺は、棚の周辺をペタペタと触っていると・・・・
「あら、貴方は・・・ユウマさん。いらっしゃい。やっぱりいらしたんですね。」
背後からライカが声をかける。変な汗が俺の背中を伝う。
「やっぱり?」
ライカの違和感のある言い方に俺は聞き返した。
「解ってたんですよ。このお店が見張られてるのも、騎士たちがここを囲みつつあることも、それからユウマさんが私に会いに来ることも。」
「それじゃ、俺が会いに来た理由も?」
「ええ、たぶん。私が考える通りなら。貴方は日本人である私が心配で来てくれた。闇ギルドの関係者として捕えられるのを憐れんだ。闇ギルドと私の関係を疑問視した。そんなところかしら。」
図星だった。俺はライカに見つめられていた。俺の目の奥、すべてを見られている気がしてくる。
「それなら教えてくれるか。どうして闇ギルドと関係を持っているんです。」
俺は得体のしれない不安に包まれていた。それが何かは解らなかった。
「この歳まで生きていると、いろいろなしがらみというものがあるんですよ。守りたいモノも増えていく。良いとか悪いとかそういう次元の話じゃなくなってくるの。ユウマさんもそうでしょう?この世界に来て、守りたいモノの1つや2つできたんでしょ?」
ライカの目には哀しげで、それでいて決意に満ちた意志が感じられる。
「それでも!話し合う余地はないんですか!良いとか悪いとかって基準がなくなれば、それは状況に流されているだけじゃないですか!!俺は・・・俺は!それが嫌だから・・・なんとなくで流されていくのが何か怖かったから!!だから俺はここに来たんです!!」
散々流されてきた俺が言うな。自分でツッコんでしまいそうになる。ただ、この言葉に偽りはなかった。
「流されているだけ・・・そうね。その通りかしらね。もう抗う事に疲れたのかもしれないわね。なら、貴方に1つだけ教えておいてあげる。今回の冒険者ギルドの作戦、失敗します。すべて筒抜けですから。すでに騎士団たちは混乱状態、冒険者たちは各個撃破されていっているわ。」
なん・・・だと!?
(おい!サフィーナ!聞こえるか!?返事をしろ!)
サフィーナからの反応が返ってこない。クソっどうなってる!?
「ライカさん、あんたの仕業か。あんたのスキルでこんなことを・・・・。」
「あら、貴方、【看破】を持っているのね。ユウマさん、貴方とはもう相容れないところまで来ているの。だから、大人しく帰りなさい。私は殺しは苦手なの。」
「違う!まだだ!まだ何かできるはずです!それに・・・じゃあ、なんでライカさんは、俺にこんな事を話すんですか!!この状況をなんとかしたいからじゃないんですか!!」
クソっどうしたらいい。俺は、どうしたら・・・
†
「くっ!何なんですか!!あなたたちっ!!」
私とサフィーナちゃんは何者かの襲撃を受けていました。
潜伏先に移動している最中の路地裏で、いきなりナイフが投げつけられて来たのです。
サフィーナちゃんは、反射的にナイフを投げ返しています。すごい!あんなに正確に!
「ぐっ・・・。」
どうやら襲撃者にナイフがヒットしたようです。しかし、違う方向からもナイフや矢が飛んできます。
相手の数は、3つ。私の【気配感知】には捕えることが出来ています。
「破壊の炎よ 我が手に集まりて 彼のものを焦がせ『ファイアーボール』」
なんとか唱詠を終え、襲撃者の固まった場所に火球をぶつける。
「ぐわっ!!魔術だっ!!ぐああああ!!!」
一人の男が炎に包まれ、悶えながら倒れ込む。や、やったの!?
シュッ
「痛t!!」
私の太ももにナイフが突き刺さっている。
「アイリ!!」
サフィーナちゃんが心配して駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫!!サフィーナちゃんは周りを警戒して!まだ2人残ってる!!」
私は、腰の袋からポーションを取り出し、傷に振りかける。
シュウシュウと傷口から煙があがり、傷口が塞がって来る。
「くっ・・・」
痛みが引かない。傷口から血が止まらない。毒!?
私が対処に手間取っていると、さらに矢が射かけられる。ダメ!!避けれない!!
その時、私の足元からズズズズと土壁がせり上がってくる。これは精霊魔法のアースウォール!?
「アイリ、ちょっとそこで待っててね!サフィーナがチョチョイとやっつけてくるからー!!」
「サフィーナちゃん!!ダメっ!私も戦えるから!!くっ・・・・」
でも、血が止まらない。解毒ポーションが確か、リュックに・・・。サフィーナちゃん、先走らないでね。
土壁に隠れながら、私は黙々と治療を行なう。その間も、破裂音や剣戟のような金属音が聞こえてくる。
『キャッ!!』
えっ!?今の声、サフィーナちゃんの!!
よし、傷口の出血も止まった。もう大丈夫。待ってて、サフィーナちゃん。私が土壁から飛び出し、周囲の様子を窺い、気配を探る。
あ、あれ?いない・・・・誰も・・・・
「サフィーナちゃん!!どこっ!!」
意識を集中すると、ここから走り去る気配をかすかに感じることが出来た。
「行かなきゃ!!私がサフィーナちゃんを守るんだから!!」
私はその気配を追って、その場から駆け出して行った。
†
「何ができるっていうの?貴方に。この状況は誰も覆すことが出来ないわ。でも、やってみればいい。抗って抗って、失敗して絶望して、無力感を感じなさい。そして、受け入れるしかなくなるの。流されるままに。今の私のようにね。」
俺に何ができるかなんて解らない。ライカは今までいっぱい抗ってきたのかもしれない。
「やるよ。やってやるよ。ライカさん。あんたはしたり顔で俺を見ていたらいい!!無理でもやってやる。俺が必ずなっ!だから、あんたはしばらく眠っていてもらう!!」
俺は、【威圧】をライカに放つ。静かに、ライカは倒れ込む。俺はライカを抱きかかえ、魔鋼糸で縛り上げ、急いでカウンターの下に寝かせる。
なぜ急いだのか。それは、この店に接近する複数の気配を感じたからだった。
バタン
店内に1人の男が入って来る。見覚えがない顔。冒険者や騎士ではない。どうやら、俺と縛られたライカには気付かなかったようだ。かなり焦っている。男は薬品棚の横にある壁を押し込むとガクンと音がする。その後、ズズズズと棚が横にスライドする。そこに地下に通じる階段が現れたのだ。
俺は、男に【威圧】を放ち意識を飛ばし、魔鋼糸で拘束していく。動けないように糸で床に固定する。
俺は、ぽっかり空いた地下への階段を下りていった。
薄暗くカビ臭い通路が続いている。地下には縦横に狭い通路が通っていた。ライカの店のような入り口が複数あるのだろう。俺は、意識を集中して気配を探っていく。すると、通路を右に進んだところに複数の気配がある。
俺は改めて【隠ぺい】【気配感知】【気配消失】を意識する。
――ピロリン♪【隠ぺい】【気配感知】【気配消失】は一定の条件を満たしたため【隠形】に進化しました。――
【隠形】:ユニークスキル。姿を消し見えなくすることが出来る。同じく、ステータスも見えなくすることも可能。また、【気配感知】より広範囲の気配を察知することが出来る。
姿が消せるのはありがたい。【隠形】を意識し、進んでいくと通路に明りが漏れているのが見えた。
俺は、その明りを覗き込むと・・・
サフィーナ!!
なんとサフィーナが倒れていたのである。意識がないのかぐったりとしている。
周囲には5人の男たちが何やら話し込んでいた。
その時、俺の中で何かが切れた音が聞こえた気がした。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




