28、そして、平穏なギルド生活
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なんでよ!なんなのよ!あの女、許さない・・・許さないんだから!うちの可愛いザハルちゃんを袖にしただけでなく、私の地位まで奪いにかかるなんて!!悪魔だわ!!きっと悪魔に憑かれた醜い魔女にちがいないわ!!こうなったら、私がアイツらに粛清してやるわっ!!
ふん!エイラムの鉄仮面と呼ばれた私の力を、あのヘボマスターにも思い知らせてやる!!
「あ、カノンさん。おはようございます。珍しいですね。1階での業務をしてるなんて。」
「あ、あぁ、貴方は新人の・・・確かエイミーさんだったかしら。冒険者の方に直接対応する1階の業務は初心を忘れないために丁度良いのよ?貴方も頑張りなさい。」
そういえば、この子、あいつらの対応をしてた子よね?この子から聞き出せば・・・
「は、はい!カノンさんにそう言ってもらえると、とってもやる気が湧いてきます!!私、頑張ります!」
「そういえば、ユウマ様はもう依頼をお請けになられましたか?色々とご迷惑をお掛けしましたから気になってしまって。」
あの女の事が気になって気になって夜も眠れないのよ!!まったく!!
「失敗をリカバリーするために懸命フォローに徹する。すごいと思います!私ならたぶん、逆恨みしちゃうかも・・・ダメですよね。まだまだ未熟者です。あははは」
その通り未熟者よ!本物は恨むだけじゃなく復讐するのよ!!
「もう馬鹿なこと言ってないで、ユウマ様は依頼をお請けになったの?」
「すいません。えと、はい。お請けになっておられます。Cランク『オーク討伐』ですね。エイラム南東部のスーダー村からの依頼ですね。もう出発されているようです。」
なるほど、その村なら行ったことがあるわね。馬で向かえば先回りできそうね。
「エイミーさん。とても解りやすい説明でしたよ。この調子で受付業務頑張りなさい。」
「はい!カノンさん!!私、カノンさんみたいなギルド職員になって見せます!!」
はぁ・・・せいぜい頑張ってね。
コンコン
「ん?誰だ?入れ!」
「ギルドマスター、カノンです。」
ちっ!このヘボマスターのせいで降格処分に・・・自分だけは権力にしがみついているクセに!!
「おぉ、カノンか。しばらくはサブマスターの職を解いたが、機会を見てまた復帰させてやるから大人しくしとけよ。で、何の用だ?」
どうせサブマスター業務がすべて自分に回ってきたから大変なのだろう。せいぜい苦しむがいいヘボマスターめ!!
「ええ。少し体調が優れないの。しばらく休養させてもらうわ。」
このままユウマたちを追いかけて粛清してやる!!
「おぅ。解った。間違ってもユウマたちに仕返しとか考えるなよー。」
なっ!?勘だけは無駄に鋭いわね!ヘボマスターのクセに!!
「そんなことするわけないでしょう。私はそこまで暇じゃないわ。」
「そうか・・・。なら、いいが。」
クソ!ヘボマスターのクセに!!
私は馬を駆り、スーダー村を目指す。もちろん途中、オークの情報収集を行ないながら。
「オークだか~?オラ知らねぇが、山の奥から変な声が聞こえてくるっちゅう噂は最近よく聞くだ~。」
恐らく山の奥にオークの集落があるんでしょうね。そして、アイツらも山の奥にやってくるはず・・・そのどさくさに紛れて粛清する。フッフッフ完璧だわ。証拠も魔物が消してくれるはず!!
「ぎゃあああああ!!!」
ん?なに?悲鳴!?男の声?可哀想にオークにでも襲われてるのかしら?
向こうから男が血相を変えて、こちらに向けて走ってくる。うわっ!目があったわ。
な、なんでこっちに来るのよ!!うわっ!オーク来ちゃったわ。キモっ!来るなっ!!
来るなっていってるのよぉぉーーー!!!
私はオークと男に向けて【威圧】を放つ。それぞれ、バタバタと倒れ失神している。
ったく、何だって言うのよ!危ないからオークには止めは刺したけど・・・この男は、どうすんのよ!
「ちょっと!ちょっと!起きなさい!」
男を乱暴に揺すると、ようやく気が付いたようだ。全く世話のかかる男だわ。
「あの、貴方様は、あ、オークは!?」
「あぁ、オークなら私がやっつけたわよ。これでも昔は冒険者だったのよ。」
「あぁ、冒険者様でしたか。助けていただいてどうもありがとうございます。」
なによ、お礼だけしてお金は渡さないつもり?冒険者ナメてるの!?
「私は急いでるの。あ、そうだ。この辺りにオークの集落があるって聞いたんだけど。知らないかしら?」
「あそこに見えてる稜線の中腹にある廃村に住み着いてるらしいです。」
なるほどね。ならあの周辺で張っていれば、あいつらもやって来るってわけね。
「そう・・・。ありがとう。言ってみるわ。」
「ダメです!!いくら強くても一人では危険ですから!!一緒に私の村まで行きましょう!!」
ふん!自分の事も守れないクセに人の心配なんて50年早いわよ!!
ここからは馬ではいけないわね・・・ちっ、面倒くさいわね。
「なら、この馬を村で預かっておきなさい。帰りの足だから丁寧に扱うようにね。それじゃあね。」
先回りして罠を張って待っててあげるわ。覚悟してなさい!アイリ!!
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こんな所にオークの集落ができていたなんてな。ウジャウジャいやがる。アイリとサフィーナを後ろに待機させ、俺は単独で廃村の偵察に出ていた。気配感知には20を超える個体の反応があるな。罠を張って、一気に殲滅するか・・・よーし、この辺りで魔鋼糸を張り巡らせておくか。
「アイリ、サフィーナ。オークの住処を見つけたぞ。この先50mの廃村だ。その南に罠を張っている。俺は陽動を行なうから、2人も派手に魔法をぶっ放せ。南に追い込む。こちらに向かってきた奴は容赦なく叩いていいからな。」
「「了解!」」
よーし!一網打尽にしてやるぞ!!
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ふっふっふ これで罠は完璧よ。あいつらがここを通れば、アイツらはこの魔道具で大爆発!奴らの飛び散った肉片はオークの腹の中に・・・証拠も残らない完全犯罪のできあがり。ふっふっふ
『オークどもめっ!!俺が皆殺しにしてやるぞぉ!!』
あら、あの声は、ユウマとか言ったかしら。ふふふ オークの大群を相手にするなら、このルートを通るのは必然。伊達に冒険者歴が長いわけじゃないのよ。ほーら、段々、剣戟がこっちにやって来た。あらあらあら、20匹も醜いオークに追われちゃって、可哀想に。でも、そろそろ例の罠に
ドッガーーーーーン!!! ドガーーーン!!
「ふっふっふ ふふふはははは!! あーっはっはっはっは!!いい気味だわ!!」
ん?ヤバいわ。残党のオークがこっちに気付いたわ。来るんじゃないわよ!!【威圧】!!
ふぅ、えっ!?魔術!?なによこれ!!火矢!?熱っ!!なんでよ!!
なんなのよーーーー!!!!
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俺たちはオークの死体から魔核石を剥ぎ取っていた。数が多いためこれだけでも重労働だ。
「ふぅ・・・なんとか殲滅できたか。にしてもあの爆発はすごかったな。あれはサフィーナがやったのか?」
目の前に火柱が上がった時はビビったけどな。【高速化】を使わないと巻き込まれてたかもな。
「へっ?サフィーナじゃないよ。アイリじゃないの?」
「えっ!?私はあんな爆発魔術なんて使ってないよ。使ったのは火矢の魔術だし・・・。」
ん?じゃあ、あれは何だったんだろうな。噴火?いやいや、あれは魔法的な何かだったはずだが。
まぁ、済んだことは考えても仕方ないだろう。
ん?これは、足跡だな。
しかも、人のものだ。大きさからしたら女性だろう。まさか!!女性が攫われていたのか!!
「おい!アイリ、サフィーナ!この足跡を追うぞ!!オークに女性が攫われていたのかもしれん!保護するぞ!!まだオークが潜んでいるかもしれないからな!!」
まだ新しい。どうか生きていてくれよ!!俺たちは攫われた女性の探索を開始した。
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なんなのよーーーー!!!!
あいつら、オークと一緒に私まで魔術で殺そうとして・・・・・・
ま、まさか!私が罠を張って待っていたことに気付いていたって言うの!?
まずいことになったわ。優秀な狩人なら私の足跡を追って殺しに来るかもしれない。
ふっ まぁ、まずあり得ないわね。
あんなオークの死体まみれの場所から私の足跡を見つけるほど優秀な奴らじゃ・・・・・・
『おーーい!どこだーー!!助けに来たぞーー!!』
『返事をしてくださーーい!助けに来ましたよーー!!』
なにぃぃぃ!?追ってきてる!それも、正確に私の足跡を追跡して・・・・
助けるなんていって油断させる気ね。でも、そんな安易な嘘に騙されるほど私は甘くはないわよ!
はぁ はぁ はぁ はぁ どうして・・・・・こうなったのよ・・・・私が何したっていうのよ・・・・
あ、村だ・・・良かった。助かった。これで逃げ切れる。
「あっ!冒険者様!!無事でしたか!でも、ひどい有様です。今すぐ治療を・・・」
良かった。馬を預けた男がいた。
「馬よ!」
「えっ!?」
「今すぐ馬を返しなさい!!」
早くしないとアイツらが追ってくるじゃないの!
「は、はい!!」
まったくトロい男ね。だからオークなんかに追われるのよ。
私は馬に飛び乗って、エイラムに向けて走り出した。なんでよ!なんで私ばっかり・・・
「あっ、カノンさん、お帰りなさい。どうしたんですか?服がボロボロですよ。」
チッ!またあの子か。正直苦手なのよね・・・・
「いろいろと忙しくてね。エイミー。まだ業務についてたのね。もう上がる時間じゃないの?」
「ええ。でも、少し残業代出るまで頑張っちゃおうかなって。今月は、例の罰則で厳しくて・・・・あ、もちろんユウマ様たちにはこんな愚痴言ってませんから。」
ん?何の事を言ってるのかしら?
「えーと・・・その罰則って?」
「例のアレですよ。今月の給料半額ってやつです。カノンさんはもっと大変ですよね。一般職員にまで給料を減らされてさらに半額なんですから。」
なっ!?なんですってぇぇぇぇぇぇ!!!!
「そ、そうよね。大変よ。」
「本当にギルドマスターも無茶な罰則を掛けますよね。まぁ、悪いのはギルド側だっていうのは認めますけど。」
あのヘボマスター!!余計な事ばっかりしてぇぇぇぇぇぇ!!!
「ほ、ほんとうに・・・・困ったものよね・・・・。」
「カノンさん、どうしましたか?顔色が悪いですよ? それにしてもカノンさんはすごいです。大変な時にこんなにボロボロになるまでお仕事頑張られてます!憧れますよ!!」
あぁ・・・本当に気分が悪くなってきた。
「私はもう上がるわ。エイミーもお仕事頑張ってね。それじゃあね。」
今日は早く寝るに限るわね・・・・
『おっ、エイミー。まだ受付にいたんだね。依頼は達成しましたよ。』
『わぁ、ユウマ様、アイリ様、サフィーナ様、ご無事でなによりです。』
ひぃぃぃぃ!あ、あいつらが戻ってきたぁぁぁぁぁ!!
なんで元サブマスターのこの私が、この間まで新人だった冒険者から隠れるように逃げなきゃなんないのよーーー!!!
なんなのよぉーーー!!!なんでなのよぉぉぉーーーーー!!!!
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「「「かんぱーーーい!!!」」」
俺たちは今、ギルドの酒場で祝杯を上げている。アイリとサフィーナはパフェのグラスで乾杯している。
そう、ついに酒場でスイーツの営業が始まったのだ。専属パティシエ付とはレガリアもなかなかの太っ腹だな。
「にしても、今回の依頼は本当にサクサク進んでビックリするほど楽ちんだったな。謎の爆発でオークの大群のほとんどが吹っ飛んだわけだし。」
「本当に、あの爆発は不思議ですよね。いったいなんだったんでしょうか。」
「きっとサフィーナがイイ子だから、精霊さんが助けてくれたんだよ!!きっとそうだよー!」
いやぁー本当にそうかもしれないな。精霊様様だ。数日かかると思った依頼だったが、日帰りで終わらせることが出来た。今日はゆっくりとベッドで眠れるのはデカイ!
「オークに攫われてた女性も、自力で村に帰ってたから、本当に良かったよな。」
「そうですよね。足跡を辿ったら、結局、村に戻ってたんですから。」
「それもサフィーナがカワイイから精霊さんが・・・・」
「なんでも精霊のせいにするなー!!ちなみに、妖怪のせいでもないからな!!」
にしても、本当に良かった。誰も怪我らしい怪我もしてないし、魔核石も思った以上に高額で引き取ってもらえた。ランクアップの査定も好印象ってもんだ。良い事づくめの一日だったな。
アイリがおいしそうにパフェを頬張り、頬についたクリームをぬぐってやる。
それを見たサフィーナが顔中、クリーム塗れになって拭って拭ってと催促してくる。
うーん、今日は平穏な一日だったなぁ。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




