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21、テンプレな悪役

怪しい人が登場します。

 †



 世紀末でひゃっはーとか言いそうな男たち、それが3人。その奥に大柄で太鼓腹の男が腕を組んでサフィーナを睨み付けている。いかにもチンピラのボスという風体だ。


「サフィーナ。怪我はないか?何があった?」

 俺は、チンピラたちとサフィーナの間に割って入る。アイリもサフィーナの頭を抱えるようにして庇っている。


「おいおい!なに邪魔してくれてんだ?あぁ?俺様はこのガキに用があるんだがな!!どけっ!」

 ひょろ長いチンピラが俺の胸倉を掴みかかってきた。うん、レベル2、そのスピードはかなり緩慢だ。

 俺は、何事もないようにチンピラの手をすり抜けると、再度、サフィーナに問いかける。

「サフィーナ、この人たちに何かしたのか?もし悪いことをしたなら謝らないといけないぞ。」

「えっとねー。あの太いオッサンが足を伸ばしてサフィーナのことをひっかけて転ばそうとしたのー。だから、サフィーナ、靴の裏でオッサンの足をぎゅって抑えたの。それだけだよ?」

 えーと……つまり、足を掛けようとしてきたから、逆に踏んずけてやった……ということか。うん、サフィーナ悪くないな。

「この子に足を抑えられて、怒ってるんですか?どう考えても、足を出す方がおかしいでしょう。それをいい年の男が寄ってたかって小さい子に……で、どうしたいんですか?」

 俺は、だんだんと膨れ上がっていく怒りで、口調が丁寧になっていくのを感じる。ブチギレる一歩手前ってやつだ。

「はぁ??お前、このガキの保護者か?この方を誰だと思ってるんだよ!あぁ?田舎もんが!!」

「ふざけてると叩きのめすぞ!!コラっ!!」

「おっ、こいつなかなかイイ女連れてやがるな。この女連れて行こうぜ!!」


 こいつら……会話できねぇのか……後ろの太鼓腹はニヤニヤしてるし……


 周囲の人々は、突然起こった出来事に遠巻きで眺めているだけだ。中には、心配するような視線だけでなく、興味本位の野次馬の姿も見える。

 あぁ……面倒だな……最大レベルは太鼓腹でレベル5、だが、ステータスは俺と比べるとかなり低い。ただ、盗賊に襲われた時の事もある。何が起こっても対処できるようにしないと……


「だから、あんたたちは俺たちにどうしてほしいか聞いてるんです。謝罪ですか?謝ればいいですか?なら、そちらも謝ってくださいね。そちらも足を出してますから。それとも金ですか?それは無理です。理由がありません。それで何でアイリを連れていかれないといけないんですか?意味が解りません。」

 

「はぁー!?何ふざけた態度とってんだよ!おい!やっちまえっ!!」

「オラーっ!!!」

 チンピラ3人が一斉に襲い掛かってきた。小柄なチンピラがナイフを抜き、横薙ぎに振る。


 俺は、小柄なチンピラの手首を掴み、捻り上げて頭から投げ落とす。


「ぐあっ!!痛ぇ!!」

 

 これでも中学高校と柔道部だったのだ。大学はプロレス同好会でマニアックな関節技をよく練習したものだ。多人数を相手にするときは一撃必倒が基本。


 次に、近くにいたひょろ長いチンピラの首を前から掴みチョーク。そのまま片手で持ち上げてそのまま地面にたたき落す。チョークスラムという奴だ。昔は両手でもできなかったのに、ステータスがあがると片手で簡単にできてしまう。


 一人呆気にとられている中肉中背のチンピラ。目の前で起こったことが信じられないようだ。でも、許すわけないだろ。俺は思い切り足を踏み込み、肩から相手の鳩尾に飛び込み、両手でチンピラの足を刈る。両足タックルだ。チンピラは2mほど吹き飛び頭で数回バウンドする。


――ピロリン♪【体術/Fランク】を取得しました。――

――ピロリン♪【体術/Eランク】を取得しました。――

――ピロリン♪【体術/Dランク】を取得しました。――

――ピロリン♪【体術/Cランク】を取得しました。――


 おぉ……これでもスキル取得できるんだな。それはそうと、喧嘩で刃物抜くとか、普通じゃないよな。下手したら死ぬかもしれないとか、考えないのか?アイツら……


「で、そこの太鼓腹さん。あんたは俺たちにどうして欲しいんだ?やりすぎだってんなら少しは謝ってもいいと思ってるんだが……」

「お……お前ら……、わ、悪かった……俺が悪かった……許してくれ……頼む……この通りだ。」

 太鼓腹は体を縮めて頭を下げて謝ってきた。まぁ、ここまで謝ってくれたら許さないでもない。

「サフィーナ。向こうは謝っているが、どうする?許すか?」

 俺は太鼓腹を睨みながら、サフィーナに聞いてみる。

「ユウマ。もういいよー。許してあげるー。サフィーナも足踏んじゃったしー。」

 まぁ、この辺でいいだろう。周囲からの視線が痛いが……

「……だ、そうだ。俺もサフィーナがいいなら俺も許す。倒れてる奴ら連れて消えろ。」

 俺たちはアイリとサフィーナを両手に抱えるように、ウィンドウショッピングを再開する。



「……ゃってやる……やってやるっ!!殺してやるぞぉーーーーっ!!!」


 後ろで、太鼓腹が何か言っている。俺はアイリとサフィーナを脇に寄せ、太鼓腹を見据える。

 太鼓腹は腰に下げていた刺突剣を抜き、体ごとこちらにぶつかってくる。あの体型でその武器チョイスするんかい!!うわっ……意外と早いぞ!!ここで鋼糸は一目がありすぎるし、あれを捌けるか!?


 ドンっ!!


「うぐっ……」

 ボタボタボタっと血が落ちる。


「ユウマさん!!」

「ユウマー!!」

 アイリとサフィーナから悲鳴が上がる。


「ふっ……ふははははは!!!やったぞ!ぶっ刺してやった!!あーはっはっは!!ざまぁみやがれ!!

 俺様をバカにしたからそうなるんだよっ!!バーカっ!!なっはっはっはっはっ!!」

 あの太鼓腹の声が聞こえる。


「どーーーん!!」

「べぎゃっ…」

 ん?何が起きてる?


 たぶん、俺は腹を刺されて、血が出て……そうだ。たぶん瀕死になって【限界突破】と【超健康体】が発動してるはず……なのに、上手く動けない?なんでだ?意識も遠くなって……


 ん?体が……動く?

 

 動く!動くぞ!


「ユウマさん!あの、ごめんなさい!勝手にリュックに入ってたハイポーション使いました!」


 あぁ……アイリのおかげか…助かったーー。

 俺は体を起こすと、太鼓腹が地面に逆さまにめり込んでいた。動いてるから多分死んではないだろう。


「ユウマはサフィーナが守るっ!!」

 サフィーナが太鼓腹を突き飛ばしたようだ。サフィーナはさらに、俺に近づいて手を翳し、精霊魔法で治療しようとしてくる。光の精霊が集まってくるのが見える。


「サフィーナ、大丈夫だ。大丈夫だから。アイリがハイポーションを使ってくれたから。

 魔法はいい。サフィーナ、ありがとう。守ってくれてありがとう。」

 さすがに街中で精霊魔法を使うのはまずいだろう。俺はサフィーナの手を握り、魔法を止めさせる。


「ユウマはサフィーナが守るの……」

 サフィーナの目には涙が浮かんでいる。


「ごめんな……。心配かけて。ダメな保護者だな……俺。」

 俺は絞り出すようにそれだけを吐き出した。

 サフィーナはぶんぶんと首を振っている。


「ユウマさん。立てますか?今日はもう宿に戻りましょう。」

 アイリが俺の脇に頭を入れ立たせてくれる。


「アイリ。……ごめんな。」

「いいの。良かった……ユウマさんが、無事で、本当に良かっ……」

 アイリの言葉は、涙で最後まで言えなかった。



 †



 エイラムの中央通りで起こった、この騒動を野次馬に混ざって見ていた1つの人影。

 ユウマたちが見えなくなると、倒れた男たちのところにフラフラと歩いていく。


「あーあ。せっかくボクのあげた武器でも殺せないなんてねー。クズって本当に何にもできないねー。

 まっ、面白いものが見れたからいいんだけどねー。あの転生者、クソ弱いくせに頑張っちゃって。」

 年齢の頃では14、5歳だろうか。金髪碧眼、透き通るような白い肌の少年だった。

 周りの人は少年の姿が見えていないようだった。人混みをすり抜けるように少年は歩いていく。


「せっかく作った“デス”も欠陥品だったかなー。ま、いいやー。消去(デリート)しとこっと。」

 少年は、太鼓腹の男の傍に落ちていた刺突剣をヒョイと拾い上げると、パッといつの間にか消えてしまう。まるで手品のように。


「うーん。アレ、どうしよっかなー。ムキになって殺しにかかるってのもなんか違うしなー。

 まっ、他にやることあるし、別にいいかー。いつでも殺れそうだったしー。」

 少年は、独り言を続けながら、露店の串焼きをパッと手に取る。もちろん、誰も気づかない。


「んー……ちょっとこのお肉固いな。ぺっ  ぺっ!」

 串焼きを一口齧ると、もう興味がなくなったのかポイっと捨てる。


 少年はまたフラフラと人混みの中をすり抜けていく。

 

 そして、いつの間にかその姿は見えなくなっていた。



 †



 俺は、今、宿り木亭に戻ってきていた。俺はベッドに座っている。

 それをアイリとサフィーナが心配そうに見つめていた。日は傾き、夕方近くなっている。


「いや、悪い悪い。ちょっと油断しちゃってな。まさかあんなに素早い奴だってわかんなくて。

 いやー焦った焦った。アイリ、ハイポーションありがとな。あれなかったら本当ヤバかったわ。」

 俺は軽い調子で、アイリとサフィーナに話しかける。

 しかし、2人の表情は暗いままだ。俺は、構わず続ける。

「それに、サフィーナすごいパワーだったな!あんなに大きな男を吹っ飛ばしたんだって?

 よく見れなかったけど、『どーーーん!!』ってあれ、笑えるくらいすごいって!

 それにな。それに……


 それに……それにな……


 はぁ……


 本当に心配かけて悪かった。

 ちょっと、2人に聞いてほしいことがあるんだ。聞いてくれるか?」

 俺は張り付いていた笑みを消して、2人の目を見ながら言う。2人も無言で頷く。


「俺は転生者だってことは知ってるよな。実は……」


 俺は今までアイリやサフィーナに黙っていた自分のスキルの事、サフィーナを眷属化したことでサフィーナのステータスが上昇したことなどを2人に伝えた。まだ、サフィーアの存在などは伏せていたが、それでも俺の秘密であるほとんどを話した。2人は黙って俺の話を聞いてくれている。


「俺は、この世界のことを色々と見て歩きたい。だから、このまま冒険者をしていろんな国を回りたい。

 それで……できればなんだけど、アイリやサフィーナにもついてきてほしい。どう……だろうか?」


 言い切った。俺の単なるワガママを言っただけだ。

「ユウマさん!私、ユウマさんについていきます。私なんか足手まといだろうって今まで思ってました。

 でも……私。ユウマさんと一緒がいいです!!私も連れて行ってください。足手まといにならない等に頑張ります!頑張りますから……」

 アイリは目に涙を溜め、必死になって訴える。

「ありがとう。アイリ。本当にありがとう。」

 俺は思わずアイリの頭を撫でていた。

「……はい。」

 アイリの頬には溢れた涙が伝っている。


「サフィーナに今さら聞くの?ご主人様の行くところはサフィーナが行くところだよっ!!」

 サフィーナはガバっと俺に抱き付き、頭を俺の胸にぐりぐりと押し付けてくる。

「サフィーナ。そうだったな。ありがとな。」

 頭をポンポンと撫でる。


――ピロリン♪【人たらし】を取得しました。――


 人たらしって……まぁ女たらしよりましか……こんなスキルもあるんだな。


【人たらし】:ユニークスキル。人の心を掴みやすくなり、好かれやすくなる。


 もともと『たらし』って良い意味じゃなかった気がするけど……


 よし!切り替えよう!!俺はスキルを過信しすぎないように!謙虚に!ステータスの高さに慢心しない!


「俺、まだまだこの世界に慣れてないし、危険な目に合わせてしまうかもしれないけど、2人のことを大事に思ってるから!俺がおかしなことをしてたらどんどん言ってくれ!あらためてよろしくお願いします!!アイリ!サフィーナ!!」

「はい!ユウマさん!」

「あたぼーよー!ユウマ」

 2人は俺にガバっと抱き付く。うん、嬉しい……本当に嬉しいよ。


「ちょっと遅くなったけど、さっきのお店にマント取りに行くか!」

 俺たちは宿り木亭を後にした。



「あの、マントをお願いしてたユウマですけど、出来てますかー?」

 件の革製品のお店の前に来ていた。夕暮れで人通りも増えている。帰宅を急ぐ人、夕食の買い物客、中央通りはこれまでにない賑わいを見せていた。


「おー!さっきの。出来てるぞ。ちょっと待ってろ。」

 店主のドワーフはまた、店の奥に引っ込み、マントを持ってきた。

「ほれ、それぞれ俺の独断でマントの裏地に名前を刺繍しているからな。アイリは赤。サフィーナは白で刺繍してある。で、ユウマは黒な。」

 おぉー!なかなかいい感じだ。黒牛鳥の黒い光沢に赤や白がよく映えてい……ん?なんで俺の刺繍は黒なんだ!?ほとんど目立ってない……暗がりなら、ほぼ判別できないだろう。

「えっと、店主さん。なんで俺の刺繍、黒なんだよ!これじゃ名前解りづらいだろうに。」

「それはな……。俺のちょっとしたジェラシーだな。可愛い子2人も連れやがってチクショー!!」

 うん、嫌がらせだったのか……って小っさいぞ!器ちっさ!!

「まっ、でもマントにはフードもサービスでつけてあるし、刺繍した色と同じ色の石をマント止めにつけてある。どうだ?なかなかいい出来だろ?知り合いの彫金師の作だ!」

 たしかに、最初に見たマントとは形状が変わっていた。フードしかり銀色のマント止めしかり。そこには小振りだが、キレイなカラーストーンがあしらわれている。

「これ……キレイです。ユウマさんとお揃いですね♪」

「サフィーナにぴったりの白く輝く石♪きれー!!」

 サフィーナは早速マントを纏ってバサっと翻しポージングをしている。うんうん、俺もマントなんて初めてだからな。一度はバサってやってみたいのはわかる。


「いろいろとありがとうございます。良かったら店主さんのお名前を教えてもらってもいいですか?」

「おう。俺はシムラーってんだ。まぁ、今後ともご贔屓に!」

 シムラー うしろー!!  うん、言っても通じないのは解ってるよ。

「シムラーさん、良かったら衣料品と武器なんかで良いお店を紹介してくれませんか?このマント止めなんてなかなかの出来ですからね。」

「おう!ちょっと待ってろ。今、地図書いてやる。手前味噌で悪いが、俺の兄弟がやってる店がある。『バミリア衣料品店』『バミリア武具店』ってんだ。ちなみにうちの店は『バミリア皮革店』ってんだ。うちは、珍しい魔物の革なんかも扱ってるから、もし手に入ったら買取も行なってる。冒険者ギルドより高く買ってやるぜ!」

 兄弟バラバラの職種のようだ、まぁどれも生産職だが……


「ありがとうございます。今度行ってみますね。アイリ、サフィーナ。今日はもう宿り木亭に帰ろうか。

 他の買い物は、明日から朝一で回ってみよう。」

「そうですね。今日は色々とありましたから……でも、このマント、とっても格好いいです!」

「なら帰る道にある露店制覇するぞー!!まずはあの串焼き行ってー焼きフルーツ行って-……」

 そろそろ夕飯だ。食べ歩きの続きと思って、サフィーナの好きにさせようか……


 アイリとサフィーナは両手に違う種類の串焼きを持って、嬉しそうに齧り付いている。村にいたらあんな食べ方できなかったからな。

 俺は、ふと路地裏にある店が目に入る。


 『ピリング魔法薬店』とある。古ぼけた小さな店だ。営業してんのか?それすら解らん。

 俺は、アイリとサフィーナにちょっとあの店に寄ってくると言い、少し待っていてもらう。さすがに串焼き娘たちを見せの中に入れるのはまずいだろうからな。 


「すいませーん。やってますか?」

 店の扉を開く。つーんとした薬品の臭いが鼻をつく。

「お客さんかしら?」

 店の奥のカウンターには品のいい老婆がちょこんと座っていた。

「はい。ちょっと商品を見せてもらいたくて……」

 陳列棚には様々なポーションが並んでいた。これまで俺が見たことのないものまで。睡眠薬に石化薬、惚れ薬なんてのもある。俺はしばらく店内の商品に目を奪われていた。

「すごいいっぱい種類があるんですね。俺も薬草術を齧ってますが、こんな種類あるなんて知りませんでした。」

「そうですかそうですか。まぁ、歳だけは重ねてますんで、いろいろ薬の作り方を知ってるだけですよ。

 ん?この匂い……貴方さん、今、ポーションをお持ちで?あ、ハイポーションもお持ちですね?」

 すごい。こんな薬品の臭いで充満してる店内で俺のポーションの臭いを嗅ぎ分けられるなんて……この店にもポーションあるはずなのに……どんな人だよ。 看破


――――――――――――

■ステータス

名前/道端雷華(みちばたらいか)

Lv.8

種族/人間   年齢/92歳  職業/薬師

HP  45/45 

MP 662/662

腕力   20

体力   15 

敏捷度  14

器用度 135

知力  440

精神力 545


加護:知識神の加護

称号:転生者 魔法薬の開拓者 

EXスキル【生き字引】【世界検索】

ユニークスキル【効率化】【黒魔法】

―スキル【薬草術/Sランク】【投擲術/Cランク】

――――――――――――


 て、転生者!?しかも日本人っぽいよな。

「えっと……もしかして、日本人の方ですか?」

 俺は恐る恐る目の前の老婆に聞いてみた。すると老婆の目が少し見開かれた。

「あらあら。貴方さんも日本人なんですね。まだ若いのに、大変だったわね。」

「あの……俺、有村悠真っていいます。あなたも……こちらの世界に飛ばされたんですか?」

「わたしはライカ、道端雷華といいます。そうねぇ。向こうの世界で事故で死んじゃってね。こちらの世界ではこんなお婆ちゃんになるまで住んでるわ。」

「俺と……同じなんですね。俺、この世界に来たばっかりで……何していいか……」

「そう。わたしもそうだった……もう遠い昔だけど。何をしてもいいのよ。ユウマさんがやりたいと思うことを存分におやりなさい。」

 確かにどう生きていくか人に聞くものじゃないよな。ただ、こんなところで日本人に出会うのは何かの縁なのだろう。

「そう……ですね。いろいろやってみます。ありがとうございました。」

 俺はお辞儀をして、そのまま店を出ていこうとした。

「ちょっと待ちなさい。これを持っていきなさい。」

 ライカさんは俺を引き留めるとカウンターの下に置いてあった1冊のボロボロになった本を取り出した。

 表紙には『ミチバタ魔法薬事典』と書かれてあった。ライカさんが作ったものだろう。

「これは……いいんですか!?ライカさんが書かれたんでしょう?大切な物でしょうに。」

「わたしには必要ないものなの。ぜーんぶ頭の中に入ってるからね。」

 ライカさんは枯れ枝のような指で頭をトントンと叩く。それがひどくお茶目で微笑ましく見える。

「ありがとうございます。えっと……また来てもいいですか?」

「ええ。待ってるわ。いつでもおいでなさい。」

 ライカさんはニコニコして俺を見送ってくれた。


 俺は、とっても温かいものに触れたような気がしたまま、アイリ、サフィーナと宿に帰った。


 待たせすぎたようで、2人は食べ終わった串が大量に握られていた。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

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