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アラスカでビットコインを掘ることになった  作者: 東川鬼面斎 - Easton Ghostmask


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第九章 残った人たち

翌日の午後、オールデンはまたモロウ・ハウスへ来た。


訊かないと決めていた質問を、一つ抱えて。


入ってきた彼を見るなり、マレンがテーブルを指した。


「ターキーメルト?」


「いや」


「成長したね」


「コーヒー」


「ちょっと戻った」


それでも、ちゃんと注いでくれた。


昼の混雑はもう引いていた。


奥の部屋ではホワイトボードの予定が消され、また別の予定に書き換わっている。

地元の業者が壁の寸法を測り、その横でマレンがクリップボードを確認していた。


作業が終わるまで、オールデンは待った。


「本当に、この建物も自分の?」


マレンは彼を見る。


「所有権を確認しに戻ってきたの?」


「雑談だ」


「違うでしょ」


彼女は向かいに座った。


オールデンは片手でコーヒーマグを包む。


「モロウ・クリークを出たよな」


「出たね」


「どこへ?」


「アンカレッジ」


「学校?」


「仕事。レストラン」


「ずっと飲食?」


「好きだったから」


「何してた?」


「最初はホール。そのうち管理する側になって、そのあと新しい店の立ち上げも手伝った」


オールデンは頷いた。


「じゃあ、うまくいったんだ」


「何が?」


「出ていくこと」


マレンは長く彼を見た。


「出た」


「何が?」


「州境をゴールラインだと思ってた男の子」


「そんなこと言ってない」


「言う必要なかったよ」


オールデンは椅子の背にもたれた。


「この町より、もっと大きいものが欲しかっただろ」


「欲しかった」


「アンカレッジにはあった」


「いくつかはね」


「じゃあ、なんで戻った?」


マレンは奥の部屋を見る。


業者は測り終え、メモ帳に数字を書き込んでいた。


「これが欲しかったから」


「レストラン?」


「自分で決められる商売」


「モロウ・クリークで?」


「そう、オールデン。私も今いる場所くらいわかってる」


その皮肉は無視した。


「アンカレッジのほうが市場は大きい」


「家賃も高い。競争も多い。それに、私が何を変えていいか決める人間も多かった」


オールデンは黙った。


マレンは二人のあいだに置かれたマグを指先で軽く叩く。


「いい人たちのところで働いた。たくさん学んだ。そのあと新しい店の立ち上げを手伝ったけど、何か一つ決めるたびに意見が六個ついてきた。メニュー。人員。営業時間。家具。椅子の形について会議をしたことまである」


「ありそうだな」


「三時間」


「犯罪だな」


「だから戻った理由、少しはわかった?」


オールデンは笑った。


だが、まだ足りなかった。


「アンカレッジで自分の店を出す手もあった」


「何のお金で?」


「ローン」


「借りたよ」


「もっと大きいのを」


マレンは眉を上げた。


「また出た」


オールデンは息を吐く。


「この店を馬鹿にしてるわけじゃない」


「あなた、ずっと“大きく”しようとしてる」


「商売はそうやって成長する」


「そういうこともある」


「たいていは」


マレンは奥を指した。


「今夜、あの部屋は心肺蘇生の講習。明日は業者の朝食会。土曜は結婚記念パーティー。半分くらいは食事も頼む。部屋代を払う人もいる。何も払わず、ただ何度も来る人もいる」


「それでも、町の人口が上限になる」


「もちろん」


「上限を受け入れてるわけだ」


「上限を選んだの」


オールデンは眉をひそめる。


マレンは続けた。


「この建物は手が届く値段だった。駐車場もある。厨房も作り直せた。奥の部屋があるから、飲食だけじゃない収入も作れる。開店する前から、客になる人たちを知ってた」


「ちゃんと計算したってことか」


「したよ」


その答えが、妙に気に入らなかった。


自分が言いそうな言葉だったからだ。


マレンが笑う。


「私が失敗して戻ってきたと思ってた?」


「そんなこと言ってない」


「言う必要なかった」


オールデンは正面の窓越しに外を見る。


駐車場の端には、押しのけられた雪が灰色の山になっていた。


一台のピックアップが入ってくる。

運転手は扉へ着く前から、マレンに手を振った。


オールデンが言った。


「若いころ、この町に残った人間はみんな、何かを待ってるように見えた」


「そういう人もいた」


「違う人もいた」


「うん」


マレンは立ち上がり、コーヒーポットを取りに行く。


オールデンは、さっきの運転手が入ってくるのを見ていた。


二人と名前を呼び合って挨拶し、ファイルを一冊抱えて奥の部屋へ向かう。


「いつ決めた?」


マレンが振り返る。


「戻るって?」


「ああ」


「人の商売を作るのが、すごく上手になってるって気づいたとき」


オールデンは何も言わなかった。


マレンがテーブルへ戻ってくる。


「アンカレッジに拒まれたから帰ってきたんじゃない。自分の欲しいものを作れるだけの経験が、やっと貯まったから戻ったの」


「ここへ」


「ここへ」


「市場は小さい」


「そう」


「天井も低い」


「かもね」


「成長も遅い」


「確実に」


マレンは店内へ顎を向けた。


「でも、私のもの。ちゃんと支払いをしてくれる。人が使ってくれる。それに、私はこれを回すのが好き」


オールデンは、彼女がテーブルに置いていたクリップボードへ目を落とした。


部屋の予約。

食事の注文。

設備の修理メモ。


シリコンバレーの物差しなら、何ひとつ大したものではない。


だが、何ひとつ架空でもなかった。


マレンはクリップボードを取り上げる。


「規模は便利だよ、オールデン。でも、物差しはそれ一つじゃない」


オールデンは彼女を見た。


「今の、練習してた?」


「まさか。あなたが戻ってくるまで九年も準備期間があっただけ」


「長すぎるだろ」


「二十二歳のあなた、かなり面倒だったから」


「会社を作ってたんだ」


「私に、町を出たほうがいいって説教してた」


その会話を、オールデンは覚えていた。


できれば、もう少し忘れていたかった。


「あんたなら、もっと大きな場所でもやれると思った」


「やれたよ」


その一言は、ほかのどの答えより深く入った。


マレンは立ち上がった。


「そこが、あなたにはずっとわからなかったところ」


そう言ってカウンターへ戻り、客の応対を始めた。


オールデンは席に残った。


スマートフォンには、ヴォス・アークティックの表計算がある。


土地。


倉庫。


電力。


修理設備。


道路アクセス。


ここ数日、彼はそれらを一つずつ売却価格へ変換してきた。


部屋の向こうで、マレンは小さな町の古い飼料店を前に、別の問いを立てていた。


どこまで大きくできるか、ではない。


何に使えるか。


オールデンは何も変更しないまま、表計算を閉じた。

お読みいただき、ありがとうございます。


本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


――東川鬼面斎

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