第六十八章 十四分
リードの機械が稼ぐのをやめたとき、ファンはまだ回っていた。
二時十六分。オールデンの携帯に監視警報が届いた。修理区画でギャリックと筐体を架台へ持ち上げていたところだった。
自分の側を慎重に下ろし、画面を見て、預かり区画へ向かった。
客の二百台がすべて、プールへの報告を止めていた。自社機はまだ計算結果を送っている。買電メーターにも負荷が落ちた様子はない。
原因を絞れた。
顧客用ネットワークの盤へ直行した。
着く前に電話が鳴った。リード。
呼び出しを消した。両手が必要だったし、一分もすれば答えが出ると思った。
盤には電気が来ている。上流側の接続も生きていた。顧客ネットワークを受け持つスイッチが、通信を通していない。
ギャリックを呼び、稼働準備のときに設定を済ませ、事務所へ置いておいた予備機を持ってくるよう頼んだ。
二時十九分、またリードから電話。
今度はヘッドセットで取った。
「そちらのラック側のネットワーク障害です。機械には通電しています。スイッチを交換します」
「そちら側とは? 私の機械という意味ですか」
「ラックに接続する施設側のネットワークです。こちらが直すものです」
「口座から二百台全部が消えた」
「確認しています」
ケーブルへ手を伸ばしかけ、まだラベルを読んでいない自分に気づいた。止まり、確かめ、ギャリックの持つ予備スイッチへ移す。
リードが続けた。
「電気はまだ使っている?」
「はい。再接続を試みています」
「つまり、二百台のファンを回すために払ってるわけだ」
役立つ返事はなかった。盤の横のメモに停止時刻を書き、接続が戻ったら電話すると伝えた。
「どのくらい?」
「確かな見通しは、まだありません。今、作業しています」
リードが息を吸った。また質問が来ると思った。
「何度もこちらから電話させないでくれ」
通話は静かになった。
ギャリックが彼を見て、照明を少し高く持った。
交換を終えた。予備のスイッチは起動したが、最初の一台はすぐにはプールに現れなかった。盤側から接続を確かめ、次にラック側から確かめる。
通信が戻り始めた。
全台をいっぺんに再起動したくなるのを抑えた。機械は、それをしなくても戻りつつあった。
一列、また一列。現場の報告とリードのプール画面が一致するまで追った。
二時三十分、最後の機械も正常に結果を送り始めた。
十四分。
電話をかけた。
「復旧しました。二百台すべて、そちらのプール口座へ送っているのを確認しています。故障したスイッチは使用停止にします」
「なぜ壊れた?」
「まだわかりません。作業台へ出しました。わかったことを送ります」
リードは何も言わなかった。
オールデンは復旧した台数を見た。この数字が、もう少し自分に代わって話してくれればよかった。
「十四分でした」
「ええ。こちらも、その十四分を過ごしました」
静かな返事だっただけに、恥ずかしかった。
椅子を引いて座った。
「共同出資者のほうが、私より先にプールの警報を受けました。また悪い業者を選んだのかと電話してきた。あなたが直していると答えたら、何が悪いのかと訊く。答えられなかった。あなたから連絡がなかったから」
「電話には出ました」
「二度目にはね」
修理区画からラチェットの音がし、ギャリックが誰かに台車を動かすよう言った。ほかの仕事は、もう戻っていた。
提案書に書いた約束を見た。速やかな通知。その後、復旧までの経過報告。
自分が書いた言葉だった。
「停止を確認した段階で、すぐ知らせるべきでした。先に直せると思ってしまった」
「みんな、そう思うんです」
リードは長く息を吐いた。
「古い電子機器を部屋いっぱいに置いて、永遠に壊れないとは思っていない。壊れたとき、そこに人がいると知りたいんです。わからなければ、私はトラックの値段を調べ始める」
意識しないまま、そのトラックについての言葉を書き留めた。
「今日、時系列の報告を送ります。こちらからお知らせした時刻も入れます」
「電気代の調整も」
メーターの履歴を見る。
「停止中の電気代はこちらで負担します。請求からの控除として示します」
「わかりました。報告ができたらメールを」
電話が終わっても、しばらく机にいた。
失った採掘時間にも電気にも、ドルで表せる値段があった。どちらも、自社の機械なら、もう故障部品を調べることへ頭を移していた程度の額だった。
十四分で有能に修理したところを、リードに見てほしかった。
リードはその十四分の一部を、また二百台を移さなければならないのかと思いながら過ごしていた。
ギャリックがスイッチを運んできた。
「使用停止の札はつけた。見えるところに焼けはない」
「分解で午後を使い切らないで。交換品を手配して、原因は調べられるところまで調べよう」
机に置かれた。
「暖房の引き取り、あの筐体がまだだ」
時計を見た。架台に置いたままだった。客は二十分後に来る。
「手伝う」
出る途中、ネットワーク盤で接続の写真を撮り、それから修理に戻った。
客がカウンターで待っているうちに仕上げた。
夕方、障害報告の横で夕食が冷めた。
記憶ではなく記録から経過を組み立てた。最初の電話に出なかったことも書いた。原因の欄には、スイッチが通信の転送を止め、交換したこと、その根本原因は調査中であることを記した。
〈短時間の〉という言葉は消した。
送る前に通知手順を変えた。警報を受けた人が、対処を進める前に客へ短い受領の連絡を送る。問題が続くなら、よい報せがなくても、次に知らせる時刻を決める。
その週の呼び出しを受け持つ業者へ、試験通知を送った。
オールデンは机を離れて廊下へ立ち、相手が対象ラックと連絡先を探す手順を、電話で説明するのを聞いた。
電話番号はすぐ見つかった。
ラックの情報は、共有していないファイルの中にあった。
事務所へ戻り、直した。
七時四十二分、リードから返信が来た。
〈受領しました。次の予備機が現場に届いたら知らせてください〉
発注の確認と到着予定日を返した。
メールを閉じると、裏の画面では二百台すべてがオンラインだった。
携帯が机で震えた。
一瞬で立ち上がっていた。
ペーパータオルの配送通知だった。
机の縁に片手を置いたまま立っていると、上着を着たギャリックが通った。
「出るか」
「もう少ししたら」
手をつけていない食事と、緑の画面を見た。
「鍵を忘れるな」
オールデンは座って食べた。
携帯は皿の横に伏せた。音は、入れたままにした。
お読みいただき、ありがとうございます。
本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。
――東川鬼面斎




