第六十四章 もう一つ作れ
ギャリックは作業台まで来る前に、巻線機だとわかった。
「まだ事務所にあると思ってた」
「圧力計の箱の後ろにあった」
「誰かがようやく動かしたか」
かがんで軸を調べ、指一本で巻枠を回した。倉庫でオールデンが感じたのと同じ、かすかな引っかかりを確かめている。
「動くようになって、父さんに見せたんだ。ほとんど顔も上げなかった。もう一つ作れって」
巻枠がゆっくり回る。
「たいしたものじゃなかったのは、わかってる。十二歳だ。でも何か言ってくれても、よかった」
「何と言ってほしかった」
「よくできたとか、ちゃんと見たとか。命令に聞こえないことなら、何でも」
ギャリックが顔を上げた。本当に不思議そうだった。
「あれを、誰にでも見せてたぞ」
オールデンは冗談の続きを待った。
ギャリックはコードを持って足踏みスイッチを持ち上げる。
「カウンターに置いてた。作業伝票に署名してもらうたびに、どかすのが面倒になった」
「事務所のカウンター?」
「今、カードの端末があるところ」
ガラス越しにその場所が見えた。今は納品書が広がっている。
「違う。僕の机を片づけるあいだ、置いただけだろう」
「何週間もあった」
口を開き、閉じた。
変化に気づいたのか、ギャリックは仕事に戻らず、丸椅子を引き寄せた。
「ある朝、部品の営業が来た。悪くない男だったが、いつも急いでた。おまえの親父は電池を探すあいだ、そいつを待たせた」
「これのために?」
「スイッチも息子が作ったんだと言った。相手が時計を見てたから、もう一度言った」
木のペダルを押す。中の接点が、かちりと鳴った。
「オーソンはうまく線を送れなくてな。片側に積み上げちまう。おまえのほうが手加減がうまいと言ってた」
オールデンは隣の作業台の縁に腰を下ろした。
記憶が、うまく収まらなかった。業者に苛立つ父ならわかる。帰りたがっている大人を待たせて、子どもの不格好な発明を説明する父は、思い描きにくかった。
「それなら、僕もいたはずだ」
「学校に行ってた」
「土曜は?」
「釣りか、誰かの家か、ここでラジオの選曲がひどいと文句を言ってたんだろう。おまえの行動記録はつけてなかった」
責める調子ではなかった。
オールデンは自分の手を見た。目撃した本人に、そんなことはなかったと言わせようとしていた。
「ほかには、誰に?」
「さあな。運転手、客、シャッターを見に来た男。線なんか関係ない話にも持ち出してた」
ギャリックの口元が少し動いたが、笑い話にはしなかった。
「しまいには言ってやった。俺もここで働いてるんだから、俺の作ったものも並べてくれってな」
オールデンの息が、笑いになりかけた。
「何て?」
「見せる値打ちのあるものを作れ、と」
今度は短く笑った。父の声が、そのまま聞こえた。ギャリックは笑いが消えるまで待った。
「僕には、何も言わなかった」
「ああ。言わなかったんだな」
その返事で、逃げ込める場所がなくなった。
父をかばう言葉が来ると思っていた。あるいは、理解できなかった自分のせいにする説明が。
ギャリックは膝に前腕を置いた。
「知ってると思ってた。おまえは次から次へ何か作ってたし、二人のあいだでは通じてるんだろうと」
「通じてなかった」
「そうか。そこは俺が間違えた」
木の台に乾いた接着剤がこびりついていた。オールデンはそれを指でいじり、剝がれかけるとやめた。
「そういう意味だったと思う? 最初のがよかったから、もう一つ作れって」
「もう一つ欲しかったんだろうとは思う。その先は、訊く相手を間違えてる」
「三十年も知ってたのに」
「俺が知ってるのは、俺の前でしたことだ」
オールデンが機械を戻すと、ギャリックが手を伸ばして支えた。
「持ち出した。電池を入れた。息子が作ったと人に話した。そこまでは言える」
しばらく、工場の向こうでコンプレッサーが動く音だけを聞いていた。
何年も、あの午後を証拠にしてきた。この土地に対して。アラスカの外では誰も気にしないような仕事に対して。軸受の小さな傷ならいくらでも説明できるのに、息子については何も語れない父に対して。積み上げた言い分の中に、あの午後があった。
巻線機を抱えて戻った自分は、今も覚えている。
その一方で、学校に行ったあとのカウンターに置かれた巻線機も、思い描かなければならなくなった。
二つの午後を同時には、まだ鮮明に見ることができなかった。
ギャリックが立った。
「昼すぎに、あの制御器を客が取りに来る。仕上げを手伝うか」
オールデンは巻線機を見た。
「そこに置いておけばいい」
それから一時間、主作業台で一緒に働いた。制御器には、筐体が温まったときだけ接触不良を起こす緩みがあった。ギャリックが配線束を動かし、オールデンが計測器を見た。蓋をつけた状態でも、もう一度動かした。
試験の終わりにギャリックが新しい札へ手を伸ばしたとき、オールデンは言った。
「基板を換えずに、あそこを見つけた。あの人、ずいぶん助かったと思う」
札の上で鉛筆が止まった。
「基板代だって、払っただろうさ」
「わかってる」
ギャリックは書き終えた。教訓めいたことも、聞こえなかったふりも言わなかった。ただうなずき、直した制御器を引き取り用の棚へ移した。
あとで、圧力計の件でレノーラに電話した。箱ごと買う代わりに値引きを求める買い手がいた。価格を決めるあいだ、向こうで食器をしまう音がしていた。
切る前に、オールデンは言った。
「昔作った、線を巻くやつが見つかった」
「ペダルのついた?」
「ギャリックが、父さんは客に見せてたって」
皿が台に触れる音がした。
「ああ、あれはひどかったわねえ」
事務所の窓から、小さな作業台を見た。
「知ってたの?」
「電池を減らしてたのは知ってる。台所の引き出しから、いつも持っていくんだもの」
使える懐中電灯が欲しかった人の、ごくありふれた不満だった。
オールデンは椅子に寄りかかった。その日初めて、映像がすんなり浮かんだ。台所の引き出しを開け、最後の二本を取る前に、肩越しに確かめる父。
「どこに置くの?」
「僕の作業台へ戻した」
「よかった。あの棚は、いつも詰め込みすぎだった」
電話を終え、在庫一覧へ戻った。
圧力計は売れた。採掘機の電源は、もう一度試験が必要だ。在庫の仕事はまだ大事で、明日も続ける。
帰る前に、巻線機のコードをほどき、木のペダルを台の横へ置いた。それから古い荷札を表へ向けた。
扉のところから、読めるようにしておきたかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
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――東川鬼面斎




