第六十三章 初めて動いたもの
十時までに、売る価値のある箱を三つ見つけた。四つ目は、買い手の払う額より送料のほうが高くつく。オールデンは一覧からそれを消した。
奥の倉庫には、段ボールと古い切削油の匂いがあった。高窓から差す四月の光が、すでに運び出された設備の跡を、きれいな長方形に浮かび上がらせている。熱回収の計画でも二人でこの棚を探したが、あのとき追っていたのは管径と耐圧だった。今、追っているのは現金だ。
隣の棚で、ギャリックが部品番号を客の修理伝票と照合していた。
「この二つは残せ。あとは売っていい」
「箱ごと?」
「俺の手にある二つだ。必要な客がいる」
オールデンは残りを撮影した。昼までに使える在庫を拾い出し、十八台の更新案を見直したかった。今のところ、互換性のあるファンが四つ。試験の必要な電源装置が一つ。あとは、二度と連絡してこなかった客のために父が買ったらしい機器が、落ち着かないほど多かった。
古い規格の圧力計の箱の奥へ手を入れたとき、曲がった釘に手袋が引っかかった。
木でできた何かが、棚をこすった。
小さな機械だった。合板の台の端にモーターがねじ留めされ、二つの金具の間に少し曲がった軸が渡っている。黄ばんだプラスチックの巻枠には、細い銅線が何巻きか残っていた。
台を持って引き出すと、ゴム足が一つ、棚に残った。
金具を取りつけてから位置を変えた、最初の穴が見えた。配線を通す穴には、被覆を傷めないようゴム管が差し込んである。平たく潰した瓶の蓋が、座金になっていた。
その座金を、知っていた。
一瞬、埃ではなく、熱いはんだの匂いがした。
「ギャリック」
彼は電話を耳に当てていた。
「いや、バイパスするな。制御器ごと持ってこい」
少し聞いてから送話口を覆う。
「客だ。ちょっと待て」
オールデンはうなずき、梱包台へ機械を運んだ。
コードの先には木製の足踏みスイッチがついていた。親指で押すと、中で曲げた金属片がねじの頭に触れる。
線を巻く機械。
回収した線を手で巻くのが退屈で、作ったのだった。父が、まともなモーターは玩具じゃないと言った。それなら、まともでないモーターを使ってよいのだと受け取った。
最初の軸は、巻枠を工場の向こうへ飛ばした。
二本目は、線を張りすぎて切った。
これは、動いた。
台を窓へ傾けると、裏に綿ひもで荷札が下がっていた。光の当たらないところで、文字が守られていた。
〈オールデン 十二歳〉
〈初めて動いたもの〉
オーソンの大文字だった。この冬、配管の表示で何度も見た、角ばったR。
残ったゴム足まで取れる前に、機械を置いた。
工場を横切って父に見せに行ったことを、覚えていた。
父は作業台でポンプのケーシングを開いていた。シャツの袖口に染みがあり、耳には短い鉛筆。エアレンチが止むのを待って、空いていた隅に巻線機を置いた。
「見て」
電池をつなぎ、ガイドに線を通して、スイッチを踏んだ。
巻枠が回った。銅線はむらになりながらも、切れずに巻かれていく。片手で送り方を調節し、その操作には何の苦労も要らないようなふりをした。
オーソンがこちらを見た。
必要以上に長く、モーターを回した。線が片方のつばへ積み上がり始めたので、絡む前に止めた。
父はガイドが見えるところまで顔を寄せ、木の台に触れ、それからポンプへ戻った。
「もう一つ作れ」
覚えている言葉は、それだけだった。
顔を熱くして、自分の小さな作業台へ持ち帰った。もう三度も作り直したのに。動くものになっても、まだ足りないらしかった。
何年ものあいだ、やり遂げる力を誰かに褒められると、あの午後を思い出した。十二歳の彼は、父にレンチを置いてほしかった。十七歳になると、もう見せに行かなくなっていた。
今、荷札があった。
字に触れないよう気をつけながら、親指で縁をなぞった。
倉庫の扉が開き、まだ電話をしているギャリックが空の木箱を抱えて後ろ向きに入ってきた。
「明日の朝だ。金具も持ってこい。トラックに置き忘れた部品までは直せん」
電話を切って箱を置いた。
オールデンは見えるように機械を回したが、そのとき腰の無線機が鳴った。修理区画でフォークリフトを動かしてほしいらしい。
「そこに置いとけ。戻る」
扉が閉まった。
在庫表の〈不明〉の脇に、ペンの点が一つ残っていた。
写真は撮れる。説明も、棚の位置も、状態もつけられる。代替価値として意味のある額はない。モーターは自分が触る前から捨てられたものだったし、スイッチは今の工場では一日ともたない。
ペンを置いた。
巻枠から銅線が一輪、外れていた。軸からそっとほどくと、巻枠が半回転した。台の裏、荷札のそばに、自分の鉛筆の線がまだある。消した寸法が二つ。三つ目は、木がへこむほど強く丸で囲んでいた。
三つ目を測る前、もうやめようと思ったことを覚えている。
やめなかったことも覚えている。
父が札をつけたことは、覚えていなかった。
電池入れは空だった。新しい電池を入れ、脆くなった線を換え、金具を真っすぐにもできた。けれど台の埃だけを払い、配線はそのままにした。
壁の向こうで事務所のプリンターが動き始めた。次の修理伝票だ。会社はまだ、この午前を使っていた。
売れる圧力計を箱に戻し、写真を撮り終えた。採掘機のファン四つを工業用在庫と分け、電源装置の欄に〈試験〉と書いた。試していない機器を、金として数えるのはやめた。
それから巻線機を抱えて、倉庫を出た。
小さな作業台は、何か月か前に移した修理区画の脇にあった。引き出しは、今も半分で引っかかる。台の大半を占める新しいファンテスターの横へ、機械を置いた。
テスターを六インチずらすと、木の台が収まった。
見下ろす今の彼には、十二歳の手がした間違いが全部わかった。ガイドは中心を外れ、スイッチの箱は直角でなく、ねじは四種類も使っていた。
父は、〈初めて動いたもの〉と書いた。
ギャリックが戻る音を聞くまで、オールデンはそこにいた。
「見つけたものがあるんだ」
思っていたほど、何げない声にはならなかった。
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本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
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――東川鬼面斎




