第六十二章 給料はビットコインでは払えない
レノーラは更新案の台数を丸で囲んだ。
十八。
夕食のあと、オールデンは彼女の台所に資金繰り予測と、まだ実行していない計画の紙を持ってきていた。
「その十八台のうち、どれが壊れたの?」
「どれも壊れてない」
「どれが赤字?」
「今の価格と電源構成では、どれも赤字じゃない」
「それなら、なぜ十八台買うの?」
「買ってない」
「売り手の価格帯も、運賃も、修理予備費も、購入総額も書いてある」
「設備更新は、そうやって検討するものだ」
レノーラは彼を見た。
オールデンは二枚目を上に重ねた。
「いちばん効率の悪い群が、稼働を続けられる境目に近い。難易度は上がった。ビットコインは下がった。買い替え用の中古機も安くなった」
「言葉は全部聞こえたわ」
「値段が合えば、敷地全体の電力を増やさずに、効率の悪い機械を置き換えられる」
「そこはいいと思う」
彼は待った。レノーラは再び台数を叩いた。
「私が訊いたのは、なぜ今なのか」
「今は、買い替えの値段が特別にいいから」
「別の答えね」
「時期が重要な理由だ」
「時期に心を動かされる理由でしょう」
オールデンは台所の椅子に背を預けた。違いを指摘されると腹が立つのは、その指摘が正しいからだった。
レノーラは資金繰り予測を引き寄せた。上にはもう、次回の給料、電気料金、保険料、税金がまとめてある。その下には道路補修、部品在庫、その週のビットコインがどうなろうと構わず発生する経費。
さらに下に、昨日分けた三つの項目があった。運転用の現金。保有ビットコインと採掘のリスク。設備の再売却価値。
「もう、リスクは分けたのね」
「ああ」
「それはいい」
更新費用を指す。
「なのに、これはどうして運転資金に手を入れるの?」
「採算が取れる計画だから」
「そこを訊いたんじゃない」
総額を見た。
「十八台全部が境目を越えるまで待ったら、市場はもうこんなに安くないかもしれない」
「そうね」
「今買えば、必要になる前に効率を上げられる」
「そうね」
「それに、価格が戻れば――」
レノーラの指が一本上がった。
彼は止まった。言われることはわかっていた。
「モデルには入れてない」
「よろしい」
「ビットコインが上がるとは仮定してない」
「それも、よろしい」
「難易度が下がるとも」
「字は読めるわ」
紙を自分へ向け直した。
表をごまかしていたところを見つけられたのではない。そのほうが簡単だった。擁護できる前提で、更新案はなお成り立っている。ただ、すでに別の役目を持つ現金と競り合っていた。
「その十八台が問題になるのは、いつ?」
「わからない」
「明日?」
「違う」
「金曜日?」
「違う」
「今月?」
「価格か難易度がまた動けば、何台かは、そうなるかもしれない」
「かもしれない」
「わざとやってるだろう」
「ええ」
オールデンは鉛筆を取った。
「更新が悪いわけじゃない」
「わかってる」
「早いんだ」
「わかってる」
「早めることにも、費用がある」
レノーラはうなずいた。
「そういうこと」
今買えば、設備費が安く済むかもしれない。待てば、現金と、判断のための時間が残る。どちらもただではない。だから、選ばなければならない。
「父さんは安い設備を買ってた」
「使い道があるときにね」
「必要になる前に買うこともあった」
「あったわ」
「それじゃ参考にならない」
レノーラは笑いかけた。
「十五年間、私が埃を払っただけの棚も残した」
「もっと参考にならない」
「あの人は、選べる余地を持つのが好きだったの」
顔を上げたオールデンに、レノーラは資金繰りの紙を指した。
「あなたも、そうすればいい」
現金も、選べる余地だった。まだ使っていない電力契約の容量も、今なお利益を生む機械も。安いときにビットコインを売らず、支払日を遅らせず、あと一か月待てることも。
オールデンは更新案を開き、〈今買う〉を消した。
代わりに、〈更新を実行する条件〉と書く。
旧機群の採算が稼働基準を下回る。
修理負担から退役が妥当と判断できる。
現在の価格と難易度で更新案が成立する。
使途の決まった運転資金を取り崩さない。
四行を読んで、レノーラが言った。
「そのほうが、あなたらしい」
「褒められた気がしない」
「褒めてないもの」
十八台の下に、〈状態――監視継続〉を加えた。
売り手の調査はやめなかった。底値の予言もしない。古い機械が永遠に使えるとも思わない。ただ、魅力的な値札が現れたからといって、将来の更新を、今日の緊急事態にはしなかった。
レノーラがテーブルの端の古い記録をまとめた。そこに一枚、オーソンの工場時代の紙が見えた。
ポンプの購入に取消線。その脇に、レノーラの字で〈まず在庫を使う〉。
「わざと出しておいたな」
「いつ気づくかと思って」
「何の在庫?」
彼女の目を見て、オールデンは止まった。具体的な部品はわからなくても、問われていることはわかった。
熱回収設備でも、すでに同じことをした。新しいものを買う前に、所有しているものをギャリックと調べ、まだ信用できるものを試し、使えないものだけを換えた。
倉庫があるという発見は、もう済んでいる。
まだ計算していなかったのは、その倉庫がどれだけの時間を稼いでくれるかだった。
更新案を引き戻した。
「十八台を、ひとつの問題にしてた」
レノーラが待つ。
「効率が悪いもの。修理の手がかかるもの。両方のもの。倉庫に電源やファンや制御部品があって、ましな機械を安く維持できるなら、更新すべき時期が変わる」
「悪い機械は?」
「それも部品取りになる」
レノーラは一度うなずいた。
「絶対に使わない在庫があれば?」
「お父さんは、たくさん持ってた」
「売れる?」
「ものによっては」
「意味のある額になるくらい?」
「わからない」
鉛筆を握り直した。
「そっちが役に立つ問いだ」
更新条件の下に、〈手持ち部品で延ばせる運用期間〉〈機群ごとの修理費〉〈売却できる余剰在庫〉と足した。
「倉庫を表計算にするのね」
「倉庫に、答えを出してもらう」
「そのほうが健全に聞こえるわ」
「そう聞かせるつもりはなかった」
彼女はまた、笑いかけた。
翌朝も機械は約百二十台のままだった。
更新も増設も発注しなかった。中古価格が下がったことで、期限が生まれたとも考えなかった。十八台は監視対象に残し、電気を使うだけの採算があるうちは動かした。
古い資産一覧を開く。去年の夏の分類が残っている。
〈完成品で売却〉〈部品として売却〉〈修理案件が終わるまで保管〉〈廃棄〉〈不明〉。
倉庫を換金すべきものと考えていたころの分類だ。その後、同じ棚が移植用の部品や修理在庫を出し、会社がまた使える設備も出した。
今は別の答えが必要だった。
何を持っているか、ではない。持ちすぎていることは知っている。
〈これで何を得られるか〉と書いた。
下に、〈採掘機用部品〉〈修理用在庫〉〈売れる余剰品〉〈不動在庫〉〈不明〉。
最後の分類を見つめた。
〈不明〉が、まだ多すぎた。
紙を印刷し、マーカーをつかんで奥の倉庫へ向かった。
十八台の買い替えに金を使う前に、棚の上に、あとどれだけ使える時間が眠っているかを知りたかった。
そして残りの品物のどれだけが、その次の支払いを助けてくれるかを。
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本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
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――東川鬼面斎




