第六十一章 値下がり
採掘機の評価をし直し終える前に、ビットコインがまた下がった。
モニターには二つの画面が並んでいた。左は、ヴォス・アークティックが得たものを示すプールの明細。右は、同じような機械が今いくらで売られているかを示す中古市場。
どちらの数字も低くなっていた。
汚れたファンガードの箱を持って、ギャリックが入ってきた。
「何か壊したか」
「いや」
「じゃあ、何だ、その顔」
「ビットコインがまた下がった」
ギャリックは窓の外の採掘区画を見た。
「機械は動いてる」
「ああ」
「電気も来てる」
「ああ」
「なら、画面の問題だ」
「画面の問題じゃない」
設備の表を開いた。修理して集めた約百二十台。動かすべき機械がすべて動けば、毎秒十ペタハッシュを少し超える。昨日から何も変わっていない。
変わったのは、それで得られるものの購買力だった。
難易度の上昇で、同じ仕事から得るビットコインはすでに減った。今度は、その一枚あたりで受け取れるドルまで減った。
収入の前提を変える。月間の数字が下へ動く。
「まだ儲かってるか」
ギャリックは箱を床に置いた。
「儲かってる」
「苦しそうな言い方だ」
「減ったから」
「減るのと、なくなるのは違う」
「わかってる」
「ならいい」
箱を持ち上げた彼を止めた。
「見てるのは、そこじゃない」
「まだ悪いところがあるのか」
設備の表を向けた。
「買ったときは、誰かが手放したかったから安かった。売る場合の価値は、控えめに見積もってきた」
「会計の話だな」
「そう」
「帰ろうとして正解だった」
「見て」
同世代の古いASICの出品価格と、最近の買い手の提示額を出した。採掘市況につれて、数字が落ちている。
今度はギャリックも、少し長く見た。
「今日売ったら、入る金が減る」
「そう」
「今日売るのか」
「売らない」
「なぜ気にする」
「設備も資産だからだ」
相手が待つ。
「資金が苦しくなったとき、資産の価値は誰かが実際に払う額になる。買った値段でも、僕がこうあってほしいと思う額でもない」
「少し会計らしくなくなった」
「まだ会計だ」
「釣りより悪い趣味だな」
オールデンは評価を更新した。
換金価値の列が下がった。
焼けた機械はない。屋根が落ちたわけでも、盗まれたわけでもない。同じ金属の箱が、同じラックで、同じ仕事をしている。ただ、次の買い手にとっての価値が減ったのだ。
この一年の大半をかけ、形のある資産が会社を救うことを学んできた。土地。進入路。電気設備。水力発電所。修理の道具。予備部品。それらの価値が、いつも一緒に動くわけではない。
ASICは違った。
これからいくら稼げるか。その見通しについていくのが中古の値段だ。採掘の条件が悪くなれば、機械のどこかが変わる前に、市場は評価を下げる。
採掘の収入が弱くなる。その収入を生む設備の値打ちも下がる。
オールデンは椅子に背を預けた。
「腹が立つのは何だと思う?」
出口にいたギャリックが答える。
「いろいろある」
「いちばん悪い機械は引退が近い。その買い替え先も、同時に安くなってる」
「都合がいいじゃないか」
「そこが心配なんだ」
「なぜ」
「悪い投資判断は、都合のよさそうな顔でやってくる」
「カリフォルニアの言い方だな」
「そこで覚えた」
「じゃあ、何も買うな」
「それも投資判断だ」
「釣りより悪い趣味だ」
ギャリックは出ていった。
それでも、新しい表を開いた。
〈更新案――増設はしない〉。
その表題は残った。
昨日の十八台を出発点にした。敷地の電力上限も、電力会社との契約も変えない。水力の見積もりは控えめなまま。ビットコインの値上がりも難易度の低下も見込まず、稼働率も魔法のようによくはならない。
そのうえで、総負荷を増やさず、効率の悪い群を置き換えられる中古機の価格を調べた。
最初の結果は、胸の躍るものではなかった。かえって助かった。
更新用の機械は数か月前より安い。だが輸送、検査、修理時間、部品、そして現金が必要だった。そこはもう学んだことだ。
今回は、その学び直しではない。
古い機械の採算が尽きていくなかで、性能のよい機械へ資金を投じることが、利益を守れるかどうかだった。
〈旧機群を維持〉と〈旧機群を更新〉を比べた。
維持すれば購入費は要らない。その代わり、電気一単位から得るものの少ない機械に、電力を使わせ続ける。
更新すれば効率が上がり、同じ電力上限の中で計算力を増やせる。その代わり、十八台のどれもまだ停止を迫られていないうちに、現金が出ていく。
今の価格で計算した。もっと低い価格でも計算した。難易度をもう一段上げ、運賃を足し、更新用の一群には修理予備費も加えた。安値がついたからといって、中古機が信用できる機械に変わるわけではない。
答えは、いらだたしいほど境目に残った。
明らかな買いでも、明らかな見送りでもない。今の市場なら更新に経済的な意味はありうる。
ただし、今日である必要はなかった。
今や、その違いが問題のすべてだった。
発注せず、表を保存した。
昼には採掘区画を歩いた。
古い混成の機械は朝と同じ姿だった。最初の荷から生き残ったもの、部品を移植したもの、ファンや電源を修理したもの。修理の説明より長生きしたテープのラベルもある。
立派な見栄えの資産だったことはない。
役立つ資産だった。
ラックの端で足を止めると、緑の状態表示が点滅していた。この機械は、自分の中古価格が下がったことを知らない。隣のファンも知らない。
客の暖房を直す修理工場には、そのときのビットコインの値段は関係ない。水力発電所も回り続ける。
事務所へ戻り、モデルを三つの項目に分けた。
〈運転用の現金〉
〈保有ビットコイン・採掘事業のリスク〉
〈設備の再売却価値〉
以前から別物として扱ってはいた。今は、そのうち二つがどれほど速く同時に弱るかが、見えるようになっていた。
会社はまだ黒字だった。
守られているという意味ではなかった。
夕方、中古の出品情報が更新された。更新案に合う機械を、別の売り手がまた値下げしていた。
表へ反映すると、投資の回収期間が短くなった。誘惑も強くなった。
増設ではない。更新を早めるのだ。
表がもっともらしい理由を示すぶん、退けるのは難しかった。安いうちに買う。古い十八台は予備か部品取りに残す。次の難易度上昇には、よい効率で臨む。
どれも正しいかもしれない。
それでも、今日がその支払期限になるわけではない。
更新案を閉じた。下に資金繰り予測があった。
上のほうには、父の古い記録を読んだあとで作った区画がある。
次回の給料。電気料金。保険料。税金。
金曜日が、先だった。
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本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
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――東川鬼面斎




