第五十四章 明日は給料日
朝から、水力の出力がじりじり落ちていた。
オールデンは画面でそれを知り、ギャリックは氷を見た。
二十分後、二人は取水口にいた。
スクリーンの縁に育った氷が、細かなごみを除塵柵にせき止めている。水は流れていた。ただ、思うようには通れていなかった。
手すり越しに見下ろして、ギャリックが言った。
「まだひどくはない」
「いつ、ひどくなる?」
「明日」
点検用の足場からスクリーンを掃除し、氷が橋のようにつながり始めたところを崩していった。
「これを取ったら、どれくらい戻る?」
「いくらか」
オールデンが見ると、ギャリックは手を動かしたまま言った。
「六分は我慢したな」
「自己最高だ」
先に変わったのは、水の音だった。
やがて流れが落ち着いた。携帯で発電量を確かめると、無視できないだけの出力が戻っていた。
オールデンは携帯をしまった。
ギャリックは手袋を手すりに打ちつけ、氷を落とした。
「おまえの親父、一晩じゅうこれをやったことがある」
「ここで?」
「取水口は前のやつだった。同じ沢だ。手すりは、もっとひどかった」
「いつ?」
「何年も前だ」
「ずいぶん絞れたね」
「絞るつもりはなかった」
ギャリックはもう一度スクリーンをのぞいた。
「暗くなってから一気に凍り始めた。取るより早く増えるんだ。よしと思うたびに、また流量が落ちた」
「一緒にいたのか」
「途中まではな」
「それで?」
「たいしたことは起きなかった。それが厄介だった」
柵に残った氷のかけらを取り除く。
「水圧管が割れたわけでも、火が出たわけでもない。発電機も壊れてない。ただの氷だ。取る。水が戻る。待つ。また取る」
「どのくらい続けた?」
「夜の、ほとんどだ」
オールデンは沢を見た。
「発電所を止めて、明るくなってから戻ればよかったんじゃないか」
ギャリックは両手を手すりに置いた。
「工場の景気が悪い年だった」
「仕事が少なかった?」
「ああ。支払いの遅い客も二、三あった。オーソンは一ドルずつ勘定してた」
木々の間を下っていく水圧管に、オールデンは目をやった。
「それでも、ここで徹夜する理由にはならない」
「そうだな」
「父さんは何て言った?」
「ご立派な話なんかしなかったぞ」
「そんなものは求めてない」
「何度も腕時計を見てた」
ギャリックは工具袋を持ち上げた。
「だから最後に言ったんだ。取水口は、朝になっても逃げやしないってな」
点検階段へ歩き出しながら、続けた。
「オーソンは言ったよ。『明日は給料日なんだ』」
お読みいただき、ありがとうございます。
本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。
――東川鬼面斎




