第四十九章 漏水
最初の現地試験は、一分も持たなかった。
しかも、採掘場の熱をモロウ・ハウスへ送る前だった。
それでよかった。
本番の前に、建物側だけを試す。
日の出前。
ギャリックが裏の機械室へ小型熱交換器を固定。
オールデンが既存暖房ループへ仮設分岐を接続する。
ボイラーは止めない。
新しい制御だけ、いつでも切れる。
マレンはコーヒーを持って戸口に立っていた。
「いつ感動すればいい?」
「何も起きなかったら」
「それなら期待できそう」
ギャリックが隔離弁を開く。
圧力。
安定。
試験ポンプ起動。
数秒。
仮設配管がわずかに振動するだけ。
そのとき、
「オールデン」
顔を上げる。
戻り側ユニオンの周りに、水滴が一つ。
遮断へ手を伸ばす。
水滴が筋になる。
次の瞬間。
継手が動いた。
水が壁へ当たる。
下段の棚。
床。
一気に広がる。
「止める!」
ギャリックはもう動いていた。
オールデンがポンプ停止。
ギャリックが二つの隔離弁を閉める。
噴き出しはすぐ止まった。
床の水は止まらない。
すでに出た分が棚の下へ流れ、裏室へ広がる。
マレンが避ける。
遅かった。
両方の靴が濡れた。
彼女は足元を見る。
オールデンも見る。
片足を上げる。
「これ、高いやつ」
「今日に限って?」
「今日に限って厨房靴じゃない」
オールデンは棚からタオルを取った。
ギャリックが漏れた接続を見る。
「熱交換器じゃない」
「今、それは慰めにならない」
「慰めてない」
ユニオンを外す。
シールがずれていた。
さらに後ろの支持部を見る。
ポンプ起動時に仮設配管が動き、横方向の力が接続へかかった。
熱交換器は試した。
ポンプも試した。
制御も試した。
工場試験では出なかった故障が、現場据付で出た。
マレンがモップと古いタオルを持って戻る。
「先に確認。ボイラーは?」
暖房ループを見る。
「ずっと動いてる」
「よし」
「そこはバックアップ設計通り」
「知ってる。褒めるところ探してるだけ」
ギャリックが外れたシールを渡す。
「二個目の故障モード、見つかったな」
昨日、自分で言った言葉だった。
手の中にあると、まったく嬉しくない。
仮設設備を壁から離し、水を裏口側へ寄せる。
電気設備は濡れていない。
怪我もない。
ボイラーも動いている。
店は暖かい。
そして床は水だらけ。
ヒーターの横に置いたマレンの靴は、乾く気配がない。
「靴、弁償する」
「いい」
「濡らした」
「配管が濡らした」
「俺の配管」
「仮設のね」
「区別が役に立たない」
「役立てる気ないから」
オールデンは部屋を見る。
「清掃費も出す。何か傷んだらそれも。開店遅れるなら――」
マレンはモップへ体重をかける。
「客の精神的損害も払う?」
「真面目に言ってる」
「私も真面目。とりあえず片づける」
オールデンは制御箱の電源を抜いた。
「ここで終わりにする」
マレンが見る。
「今日の試験?」
「プロジェクト全部」
ギャリックは何も言わない。
オールデンは続けた。
「承認なしでは繋がないと言った。君は試験を許可した。結果はこれだ」
「漏れた」
「床を水浸しにした」
「かなり派手な漏れだったね」
「ここは君の店だ」
「そう」
「俺の実験場にするつもりはない」
マレンは足元の水を見る。
「その台詞、少し遅いけど」
オールデンは笑わなかった。
「本気だ」
そこで、彼女の表情も変わった。
ギャリックが失敗した継手とシールをケースへ入れる。
「これは工場へ持ち帰る」
外へ出ていく。
オールデンはマレンを見る。
「悪かった」
「水?」
「“開店は遅れない”って言ったこと」
マレンが時計を見る。
「まだ間に合う」
「そこじゃない」
「うん」
最後の仮設ケーブルを外し、巻く。
バージョン1は工場では通った。
現場では、一接続が一分も持たなかった。
オールデンは制御箱を持ち、扉へ向かった。
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本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
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――東川鬼面斎




