第四十七章 父が残したガラクタ
朝食前に、新品の熱交換器を調べた。
九時には、三社の見積もりが画面に並んでいた。
ギャリックが、古い熱交換器の銘板を持って入ってくる。
汚れを落として、ようやく読める状態。
オールデンは画面を指した。
「新品。仕様書あり。定格明確。保証もある」
ギャリックは銘板を机へ置く。
「高い」
「高いのは欠陥じゃない」
「そうだな」
「じゃあ何が問題?」
「必要かどうか、まだわからん」
画面を向ける。
「布の下から出てきた正体不明の古い熱交換器を、マレンの建物には入れない」
「それでいい」
「今、同意した?」
「ああ」
オールデンは待った。
ギャリックが銘板を指先で叩く。
「だから、こっちを試せ」
オールデンは椅子へ深く座る。
「清掃。再整備。圧力試験。シール交換。制御変更。リスクも残る。そこまでやるなら新品のほうが安いかもしれない」
「かもな」
「新品は性能データもある」
「ああ」
「納期もある」
ギャリックが頷く。
そこだけは、新品の弱点だった。
納期が長い。
「それでも新品の価値はある」
「あるかもな」
オールデンは睨む。
「わざとやってる?」
「何を」
「ちゃんと反対しないから、俺が勝てない」
ギャリックは銘板を持ち上げた。
「勝ち負けじゃない。使えるか知りたいだけだ」
古い熱交換器を修理場へ運ぶ。
いきなり繋がない。
まず断熱材を外す。
開けられるところを開ける。
フレーム。
継手。
バルブ。
熱交換面。
オールデンは表面錆を見つけた。
ギャリックは信用できないバルブを一つ。
硬化したガスケットも出てきた。
明らかな亀裂はない。
「これだけじゃ何も証明してない」
「その通り」
古いバルブを隔離し、悪いガスケットを交換。
接続部を塞いで、圧力試験。
ゲージを見る。
保持。
少し待つ。
まだ保持。
「どれくらい見る?」
「お前がゲージを睨むのに飽きるまでじゃない」
「試験基準になってない」
「基準は別にある」
規定時間、加圧。
その間、別作業。
一時間後。
落ちていない。
オールデンは結果を記録した。
「意外?」
「いや」
「がっかりして見える」
「二個目の故障モードを待ってる顔だ」
「そのほうがいい」
次に内部洗浄。
最初に出てきた水は、疑って正解だったと思えるほど茶色い。
やがて透明になる。
昼までに、短い一覧ができた。
不良バルブ一つ。
古いシール。
新用途には不適切な制御。
本体からの漏れは未確認。
運用を信用する理由はまだない。
捨てる理由もまだない。
オールデンは二度読んだ。
ギャリックが手を拭く。
「昨日よりは、わかったな」
「試験を一個通っただけ」
「ああ」
「システムに採用していい、とは言ってない」
「ああ」
オールデンは見る。
「それ、昨日言えたろ」
「昨日のお前は聞かなかった」
「……反論しにくい」
午後、二人でモロウ・ハウスへ。
裏の機械室。
マレンは扉を開けるなり言った。
「二人とも先に言っとく。ここにあるものを変えるなら、私が何をする設備か理解してから」
ギャリックが頷く。
オールデンも。
「同意」
マレンが見る。
「早いね」
「学習中」
「不安になる」
既存暖房設備は、ごく普通だった。
ボイラー。
ポンプ。
制御。
ゾーン。
普通だからこそ、扱いやすい。
ギャリックが暖房ループの一箇所を指す。
「ここなら試験接続できる」
マレンが見る。
「日本語じゃなくて、普通の言葉で」
「建物全部を改造しなくても、試せる場所がある」
「それならわかる」
オールデンは寸法を取る。
接続候補はある。
それだけ。
節約額も、古い熱交換器が使えるとも言わない。
工場へ戻り、また新品の見積もりを開く。
新品はきれいだ。
仕様も決めやすい。
古い機器は、試験も調整も判断も要る。
窓の向こうで、ギャリックが例のバルブを分解している。
悪いシールは迷わず捨てた。
熱交換器は、試験を通ったからまだ残っている。
オールデンは購入画面を最小化し、修理場へ行く。
「次の試験で駄目なら新品」
「いいぞ」
「修理費が交換費を超えるなら新品」
「ああ」
「モロウ・ハウスから安全に隔離できなければ新品」
「ああ」
オールデンは待つ。
ギャリックが顔を上げる。
「何だ」
「反対するところがないか確認してる」
「ようやく質問がまともになったな」
「何がまとも?」
「“古いか新しいか”じゃない。“使えるか”だ」
オールデンは試験票を取った。
「バルブ、仕上げて」
事務所へ戻る。
プロジェクト名を変更した。
NEW HEAT-RECOVERY SYSTEM
から、
HEAT-RECOVERY TEST
へ。
マレンへメッセージ。
《まず古い熱交換器を試験する。約束はしない》
返事。
《それでいい。古い建物は一個で足りてる》
お読みいただき、ありがとうございます。
本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
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――東川鬼面斎




