第四十六章 熱を買って、熱を捨てる
採掘区画の外で、オールデンは片方の手袋を外し、排気の流れへ手を差し出した。
暖かい。
雪かきを肩に担いだギャリックが角を曲がってきた。
「何か落としたか?」
「熱」
ギャリックは開いたルーバーを見る。
「そこにあるぞ」
オールデンは無視した。
冬季負荷で回っている採掘機には、何百キロワットもの電力が入る。
そのほとんどは、最後には熱になる。
換気設備は、オールデンが金を払って設計した通りに働いている。
熱を、外へ捨てる。
排気の向こうには雪。
「モロウ・ハウス、64°Fなんだ」
「マレンのサーモスタットだろ」
「燃料を買って、暖房してる」
「普通の建物はそうする」
「こっちは電気を買って、熱を外へ捨ててる」
ギャリックはまたルーバーを見る。
「ああ」
オールデンは手袋を戻した。
「馬鹿みたいだ」
「たぶんな」
もう工場の中へ戻り始めていた。
父の事務所からマレンへ電話。
三回目で出た。
「サーモスタットの話なら却下」
「違う」
「今の声、嘘っぽい」
「熱の話だ」
「一手間増えただけで、結局サーモスタットじゃない」
オールデンは窓越しにマイナーを見る。
「冬の暖房費のうち、空間暖房ってどのくらい?」
「オールデン」
「帳簿全部見せろって言ってない」
「何考えてるの?」
少し黙った。
「俺、熱で損してる気がする」
「熱くなることで有名な機械を百台以上持ってる人が?」
「そこなんだ」
沈黙。
「それ、安心できない返事なんだけど」
「俺は金を払って熱を外へ出す。君は金を払って熱を作る」
また沈黙。
「……で?」
「安全に一部を移せないか調べたい」
「採掘場から?」
「ああ」
「モロウ・ハウスへ?」
「ああ」
「どうやって?」
「まだわからない」
「今のが今日一番いい答え」
オールデンはノートを開く。
「何も約束しない」
「もっといい」
「既存の暖房設備が何を受けられるか、距離的に意味があるか、それから――」
「それから?」
「ここに何が残ってるか見たい」
「“ここ”って、オーソンの工場?」
「ああ」
「その発想、前にもあなたを困らせたよね」
「覚えてる」
必要なのは、建物と暖房設備を見る許可だけ。
何か接続するなら、必ずマレンの承認を取る。
「それならいい」
「明日?」
「昼過ぎ」
会議にされる前に、電話を切られた。
修理場で、ギャリックへ訊く。
「親父、熱回収設備って作ってた?」
「何用?」
「寒冷地。排熱。機械熱。そういうの」
「やってた」
オールデンは待った。
ギャリックはモーターを触り続ける。
「それだけ?」
「やってたかって聞いたろ」
「何か残ってない?」
そこで手が止まった。
「……あるかもな」
倉庫へ。
冬に一度、採掘場を救った棚を通る。
ポンプ。
制御機器。
モーター。
ギャリックが箱を開けるまで、オールデンはラベルすら信用しなくなっていた。
奥の壁際。
ヒーター筐体の後ろに、灰色のカバーをかぶった長い物体。
カバーを取る。
鋼製フレーム。
熱交換器。
古いバルブ。
フランジ接続。
埃。
断熱材の一部は、昔外されたまま。
オールデンは銘板へしゃがみ込む。
「親父の?」
「ヴォス・アークティックで、ある寒冷地案件用に組んだ」
「案件は?」
「現場変更で設備が戻ってきた。使えるものだけ残した」
「だろうな」
熱交換器本体を見る。
「最後に圧力試験したのは?」
「最近じゃない」
「シール」
「不明」
「制御」
「お前がやりたい用途には合ってない」
立ち上がる。
「つまり、システムじゃない」
「ああ」
「古い部品が一つ残ってるだけ」
「ああ」
「使える?」
ギャリックはカバーを全部外した。
「それは、別の質問だ」
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本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
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――東川鬼面斎




