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アラスカでビットコインを掘ることになった  作者: 東川鬼面斎 - Easton Ghostmask


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第四十一章 金を止める

ナディーン・クォンが訊いたのは、ビットコインの採掘量ではなかった。


どれだけ電気を止められるか。


それだけだった。


オールデンは父の事務所から採掘区画を見た。


稼働中、およそ百二十台。

総ハッシュレート、約10.2PH/s。

換気や補助設備まで含めれば、敷地全体の負荷は四百kWに迫っている。


水力は二百四十前後。


足りない分は系統電力。


「どれくらい落とせばいい?」


電話の向こうでナディーンが言った。


「まず知りたいのは、“止められる負荷”がどれだけあるかです」


「マイナー」


「全部?」


「原理的には」


「原理と運用は別です」


オールデンは画面を開いた。


夕方のピークが近づいている。

系統負荷がさらに上がれば、契約上の割込可能電力は高くなる。


不足する前に、高くなる。


ナディーンはその前に知らせてくれた。


提示された単価をモデルへ入れる。


数字はすぐ変わった。


古い機械から順に、採算線を下回る。


動かせる。


だが、動かす意味がない。


オールデンはプール報酬と購入電力を見比べた。


「聞こえてます?」


「いる」


「どうします?」


「どれくらい前に負荷を落とせばいい?」


「ピーク前なら早いほど助かります」


オールデンは効率順に並べ、下位三分の一へ印をつけた。


「まず採掘負荷の三分の一を落とす。必要ならさらに」


電話を切ると、ギャリックがグリースガンを持って入ってきた。


「何が壊れた?」


「何も」


「その顔で“何も”は高くつくやつだな」


オールデンは画面を向けた。


「水力が二百四十。系統電力が高くなった。効率の悪い機械は、回すほど赤字になる」


ギャリックは一度だけ画面を見た。


「じゃあ止めろ」


オールデンは黙った。


「早いな」


「赤字なんだろ」


「ビットコインは掘ってる」


「で?」


「価格が動けば答えは変わる」


「動いた?」


「いや」


「電気代は?」


「動いた」


ギャリックはグリースガンを持ち直した。


「なら、答えが動いたんだろ」


それだけ言って出ていった。


オールデンは採掘区画を見た。


これまで、重要な仕事は全部“動かすこと”だった。


直す。

配線する。

冷やす。

立ち上げる。

落とさない。


画面の赤表示が嫌いになった。


三十八台。


効率の悪い機械だけを選ぶ。


停止ボタンへカーソルを置く。


プール画面では、まだ報酬が増えている。


もう一度だけ計算する。


それから、二度目はしなかった。


停止。


一列ずつ表示が落ちる。


ハッシュレートが下がる。


少し遅れて、音も減った。


ファンが止まっていくにつれ、倉庫の片側が妙に静かになる。


ギャリックが戻ってきた。


「全部?」


「三十八台」


「なんで三十八?」


「効率の境界」


「だろうな」


負荷計が落ち着く。


水力は変わらず二百四十。

購入電力だけが大きく下がった。


ナディーンへ数値を送る。


すぐ返事。


《そのまま維持してください。状況が変われば連絡します》


オールデンは暗くなったラックの前へ立った。


隣では、動いている機械が耳栓の要る音を立てている。


「変な感じだ」


「何が?」


「壊れてない機械を止めるのが」


ギャリックは暗い列を見る。


「修理屋やってるのか。会社やってるのか」


「今日は?」


「いい質問だ」


事務所へ戻り、運用シートにルールを書く。


RUN ONLY WHEN MARGINAL REVENUE EXCEEDS MARGINAL POWER COST.


少し眺めて、消した。


代わりに、


十セントのビットコインを掘るために、十二セントの電気を買わない。


ギャリックが戸口から読んだ。


「そっちのほうがいい」


ピークは三時間も続かなかった。


ナディーンから再び電話。


単価が戻った。


一時間前には止めるべきだった機械が、今は回すべき機械に戻った。


オールデンが再起動する。


「金、また点けるのか」


「ああ」


「今度は情が移る前にやれよ」


ラックを段階的に戻す。


ファン音が戻る。

ハッシュレートも戻る。


オールデンは各マイナーの横へ、二列を追加した。


RUN PRICE.

STOP PRICE.


いつからか、目標は“稼働率”ではなくなっていた。


利益の出る時間だけ、動かす。


そのほうが正しかった。

お読みいただき、ありがとうございます。


本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


――東川鬼面斎

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