第三十七章 無料の冷却
モロウ・クリークに最初の本格的な凍結が来るころには、数週間が過ぎていた。
オールデンは機嫌がよかった。
ギャリックはすぐ気づいた。
「不吉だな」
増設した採掘エリアで、オールデンは温度プローブを持っていた。
外気は氷点下。
第二ロットの修理も進み、稼働機はおよそ百二十台。
本来なら冷却が厄介になる台数だ。
ところが、アラスカの冬が勝手に仕事をしてくれている。
「データセンターが、この熱を捨てるのにいくら払ってると思う?」
「知らん」
「かなりだ」
ギャリックはオイルの箱を棚へ運ぶ。
「うちは冬がある」
「だから言ってる」
「違う。俺も冬の話をしてる」
修理場へついていく。
ここ数週間、第二ロットも第一ロットと同じだった。
検査。
清掃。
修理。
バーンイン。
信用できない個体は除外。
見た目は相変わらず統一感がない。
だが台数が増えれば、熱も増える。
九月は送風設備で外へ捨てていた熱を、今は冷たい外気を取り込むだけで処理できる。
その一方、修理棚には別の物が増えていた。
フィルター。
ベルト。
ホース。
コネクター。
バッテリー二個。
冷却液。
燃料系部品。
「何だ、これ」
「冬」
「それはさっき聞いた」
「まだ冬だ」
オールデンは在庫表を見る。
「スターターバッテリーの予備、二個?」
「ああ」
「対応する車は一台」
「ああ」
「予備一個なら冗長化だ」
ギャリックは見る。
「もう一個は?」
「それも冗長化」
「言葉の使い方がおかしい」
「一月には合ってる」
さらにリスト。
燃料フィルター。
発電機整備。
ブロックヒーター用コード。
タイヤチェーン。
スコップ。
融雪剤。
食料。
水。
「食料?」
「人間用」
「家があるだろ」
「道路が、帰れると言えばな」
「水も?」
「同じ」
「遠征隊じゃない」
「そうだ」
「フェアバンクスから一時間の工業施設だ」
「道路が良ければな」
「州道だぞ」
「雪も知ってる」
オールデンは額を押さえた。
「つまり、全員ここに閉じ込められる前提?」
「違う。“閉じ込められても退屈”にする前提だ」
「高い退屈だな」
「面白い事故より安い」
オールデンは画面を向けた。
「冷却負荷は下がった。吸気温度も安定。九月より機械温度は低い。しかも補助設備は減ってる」
「よかったな」
「それだけ?」
「風船でも欲しいのか」
聞き覚えのある言い方だった。
「取っておけばよかった」
ギャリックが温度グラフを見る。
「要するに、冷気が使える」
「ああ」
「アラスカで」
「ああ」
「冬のほとんどを外気冷却で回せるなら、構造的な優位性になる」
「寒すぎるまではな」
オールデンは手を止める。
「冷却に寒すぎる?」
「車に寒すぎる。燃料に寒すぎる。バッテリーに寒すぎる。予備を買わなかった部品を外で交換する人間にも寒すぎる」
「建物はマイナーの熱で暖かい」
「止まらなければな」
「全部止まることはない」
ギャリックが見る。
「……全部止まる可能性は低い」
「そのほうがいい」
オールデンは冬季モデルに二項目を追加した。
WINTER OPERATING RESERVE.
CRITICAL SPARES.
冷却で浮いた利益は、少し減った。
そのとき、天気警報。
内陸部に冬の嵐注意報。
大雪。
吹雪。
急激な気温低下。
移動困難の可能性。
ギャリックがコートを着始めた。
「どこへ?」
「燃料」
「あるだろ」
「もっと買う」
「この警報、見たのか?」
「昨日」
「発表されたの十分前だぞ」
「天気は昨日見た」
外を見る。
空は灰色。
道路はまだきれいだった。
「本当に、そんなに悪くなると思う?」
ギャリックはファスナーを上げた。
「いや」
オールデンは待つ。
「満タンにして外れるほうを選ぶ」
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本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
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――東川鬼面斎




