第三十六章 まだ終わっていない
夜十時を過ぎてから、オールデンは工場へ戻った。
四十八台のマイナーは正常。
監視画面にも問題なし。
ノートパソコンを閉じた。
小さな作業台は、昼間のまま残っていた。
誰かが横に工場用スツールを置いていたが、高すぎる。
棚の下から古い木箱を見つけて座る。
そのほうが、昔に近かった。
それでも今の身体では、膝が天板より高い。
両腕を傷だらけの木へ置く。
かつては、この台が大きく見えた。
三つ向こうに父。
周りにギャリックたち。
大人には大人の工具があって、自分にはこの場所だけがあった。
半分までしか開かない引き出しを開ける。
古い鉛筆が転がる。
折れた定規が引っかかった。
手に取る。
先端が欠け、黒いマーカーの線が残っている。
ふと、昔の記憶が戻った。
ブラケット。
穴の位置を間違えた。
父がそれを見て言った。
「その穴、動かないぞ」
「わかってる」
「動く位置にないと困るだろ」
「わかってる」
十三歳のオールデンは、すでに腹を立てていた。
「だって、手伝ってくれなかった」
父は自分のベンチへ戻った。
「ドリル刃の場所なら教えた」
「それ、手伝ったって言わない」
「穴を開けるなら十分だろ」
当時、ああいう答えが大嫌いだった。
十六になるころには、工場そのものが嫌いだと口にすることが増えた。
十七では、大学まであと何か月か数えていた。
二十二歳。
卒業しても戻らないと父へ告げた。
オーソンは反対しなかった。
カリフォルニアでは失敗する、とも。
この会社はお前の責任だ、とも言わなかった。
ただ、
「そうか」
とだけ言った。
折れた定規を引き出しへ戻す。
――まだ終わってない。
自分が去って何年も経ったあと、父はこの台についてそう言ったという。
何が終わっていなかったのか。
オールデンにはわからない。
もしかすると、父自身にもわかっていなかったのかもしれない。
引き出しは、相変わらず半分開いたままだ。
今夜もそのままにした。
ギャリックの作業台から布とクリーナーを借りる。
一拭き目で布が真っ黒になった。
もう一度。
汚れの下から、昔の傷が出てくる。
ドリル跡。
焼け跡。
長年何かを置いていた白い円。
全部残したまま、汚れだけ落とした。
磨き直さない。
削らない。
鉄脚と引き出しの前だけ拭く。
終わっても、台は古いままだった。
それでよかった。
採掘機は背後で回り続けている。
修理場の灯りを落とし、父の事務所へ向かう。
途中で止まった。
暗がりに、小さな台。
半分開いた引き出し。
オールデンは戻り、最後の照明も消した。
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本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
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――東川鬼面斎




