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アラスカでビットコインを掘ることになった  作者: 東川鬼面斎 - Easton Ghostmask


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32/70

第三十二章 6.25 BTC

「六・二五?」


ギャリックが画面へ顔を近づける。


「それに取引手数料」

「ドルだと?」


オールデンは価格表示を開いた。


数字を見たギャリックは、立ったまま覗き込むのをやめ、隣の椅子を引いた。


「……一ブロックで?」

「ああ」

「一回で?」

「ああ」


窓の向こうでは、四十八台の機械が相変わらず鳴っていた。


半分は毎日、小さなプール報酬を積み上げてきた。

もう半分は何日もゼロだった。


その“ゼロだった二十四台”が、たった一度で状況をひっくり返した。


「じゃあ、勝ったんだな」

「一回だけ」

「さっきから、そればっかりだな」

「そこが一番重要だからだ」


ギャリックは報酬欄を指した。


「これ、もう使える?」

「まだ。新規採掘分は成熟するまで待つ必要がある」

「どれくらい」

「あと百ブロック前後」

「金は当たった。でも受け取り待ちか」

「ネットワークには認められてる。あとは待つだけ」

「ビットコインって、紙のない事務手続きみたいだな」

「完全な間違いではない」


五時半。


二人とも寝直す気はなくなっていた。


オールデンが淹れたコーヒーは濃すぎて、ギャリックは水を足した。


マグを持って採掘エリアへ行く。


「どれだ?」


worker ID を確認し、オールデンは一台を指した。


傷だらけの筐体。

交換済みのファン。

在庫番号を書いたテープ。


見た目は他と変わらない。


「これ?」

「ああ」

「そのファン、俺が替えた」

「ファンがブロックを見つけたわけじゃない」

「焼け死ななかったのはファンのおかげだ」

「……それはそうだな」


ギャリックは満足そうに頷いた。


「印つけよう」

「いらない」

「小さいのでいい」

「いらない」

「金色の星」

「絶対にやめろ」


六時十二分。


オールデンはマレンへメッセージを送った。


《宝くじ、当たった》


すぐ返事。


《は?》


《ブロックを見つけた》


直後に電話が鳴った。


「うるさいやつ?」

「全部うるさい」

「馬鹿みたいな半分のほう?」

「ああ」

「いくら?」

「六・二五BTC。それに手数料」


少し沈黙。


「普通のお金で言って」


現在価値を伝える。


また沈黙。


「……それ、普通に大金じゃない」

「概算ではな」

「工場にいる?」

「ああ」

「だと思った」


四十分後。


マレンは三人分のコーヒーと、白い菓子箱を抱えて現れた。


箱を見たギャリックが言う。


「これでやっと会社らしくなった」


「朝七時前に、わざわざ菓子を?」

「あなたたち、建物が宝くじ当てたのに祝う方法知らなそうだから」

「宝くじじゃない」

「あなたは実験って呼んだ。ギャリックは宝くじ。私は“世界一うるさい宝くじ”。六BTC以上出たんだから、今日は私が正しい」

「六・二五」


マレンがギャリックを見る。


「四分の一まで訂正した」

「さっきは“四時間”を“三時間五十二分”に直された」

「なら正常だね」


勝った機械を見せると、マレンは一言。


「ひどい見た目」

「清算品だからな」

「じゃあ、汚いコンピューターが勝ったんだ」

「正確には――」

「勝利を退屈にする前に止まって」


オールデンは口を閉じた。


「で、これから?」

「八時にソロ組を全部プールへ戻す」


マレンが振り向く。


「本当に?」

「ああ」

「数時間前に当てたのに?」

「ああ」


ギャリックがシナモンロールをかじりながら言う。


「ほらな」


「これまで聞いた宝くじ話の中で、一番すっきりしない」

「宝くじ話じゃない」

「朝からずっとこうだ」


その後一時間、三人は機械音でまともに会話できない場所で菓子を食べた。


ギャリックが“当たり機”の前で写真を撮られた。

オールデンは拒否した。


代わりにギャリックが、気づかないうちにオールデンとマレンを撮った。


「消せ」

「嫌だ」

「ギャリック」

「聞こえない」


七時五十四分。


オールデンは事務所に戻る。


変更票はそのままだ。


08:00

ソロ組をプールへ移行。

試験を再開しない。


二十四台。


昨日までゼロだった機械。

今朝、一度だけプール側の数か月分を超える結果を出した機械。


カーソルをプール設定に合わせた。


「あと六分」とギャリック。

「わかってる」

「何台か残す手もある」


オールデンは彼を見る。


「いや、ほら。実際、当たったし」

「一回だけだ」

「またそれか」


マレンは何も言わなかった。


Accepted.

Real.

Extraordinary.


どれも、再現可能という意味ではない。


八時ちょうど。


設定を適用した。


ソロ側の worker が一台ずつ消え、プール画面へ現れる。

全二十四台の accepted share を確認。


四十八台、全部プール。


監視ラベルも SOLO TEST から POOL へ書き換えた。


変更票へ署名。


「終わり?」とギャリック。

「終わり」

「サイレンなし?」

「なし」

「式典も?」

「シナモンロール二個食べただろ」

「あれは朝飯だ」


マレンはオールデンを見ていた。


「本当にやったね」

「やると言った」

「うん。そこが面白い」

「何が?」

「当たる前に“やめる”って決めてたでしょう」


彼女は空のコーヒートレイを持ち上げた。


「当たっても守ったんだね」


マレンが去ったあと、二つの画面が残った。


片方には、採掘史上最大の結果。


もう片方には、四十八台の退屈なプール稼働。


ギャリックは珍しく冗談を言わなかった。


記録票を見て、一度頷く。


「親父さんなら、わかっただろうな」

「ビットコインを?」

「違う」


ギャリックは首を振った。


「決めたところで、ちゃんとやめることを」


オールデンは父の机に残った。


一方の画面には奇跡。

もう一方には再現可能な収入。


彼は運転モデルを開いた。


お読みいただき、ありがとうございます。


本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


――東川鬼面斎

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