第三十章 明日から、全部プールへ
朝のコーヒーを飲み終える前に、ギャリックが運転記録の一行を見つけた。
――明日でソロ試験終了。全ハッシュレートをプールへ移行。
二度読み返してから、彼は言った。
「期限、早めたのか」
「違う。ここで終わりにするだけだ」
「ソロが負けたから?」
「知りたかったことは、もうわかった」
ギャリックは向かいの椅子を引いた。
「先週はずいぶん楽しそうだったのにな」
「試す価値があると思ってただけだ。商売にする価値があるかは別の話だ」
事務所の窓の向こうでは、二十四台ずつに分けた機械が、同じ音を立てて回っている。
「今夜、その二十四台が何か当てたら?」
「運が良かった、で終わる」
「明日は?」
「プールに戻す」
「でかいのを当てても?」
「戻す」
ギャリックは背もたれに体を預けた。
「勝ったあとでやめるほうが、負けてやめるより難しそうだな」
オールデンは表計算を閉じた。
「それは明日の問題だ」
実際、切り替え作業そのものは拍子抜けするほど簡単だった。
機械を動かす必要はない。
配線も触らない。
プール側の設定はすでに検証済み。
翌朝八時、ソロ組の接続先を変え、accepted share を確認し、監視ラベルを書き換えるだけだ。
数分で終わる。
ここ数日、二十四台は「当たれば一か月の収支を変える」ほど大きな結果にぶら下がっていた。
それを終わらせる作業は、ファンを一つ交換するより短い。
オールデンは変更票を印刷し、運転記録の横に留めた。
昼ごろ、マレンからメッセージが来た。
《宝くじ、どう?》
《明日で終わり》
《外れたの?》
《いや》
《じゃあ、なんでやめるの?》
少し考えてから返した。
《当たらないと勝てない商売にしたくないから》
しばらくして、
《ずいぶん高い授業料を払って大人になったね》
オールデンはスマートフォンを伏せた。
夕方、帰り際にギャリックが事務所の扉から顔を出した。
「明日?」
「朝一番」
「本当にやったら褒めてやる」
「褒めなくていい」
ギャリックが帰ったあと、オールデンは翌日の作業予定に追記した。
08:00
ソロ組をプールへ移行。
accepted work を確認。
試験を再開しない。
最後の一文を一度だけ読み返す。
それから帰宅した。
二十四台のソロ機は、その夜も変わらず回り続けていた。
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本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
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――東川鬼面斎




