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アラスカでビットコインを掘ることになった  作者: 東川鬼面斎 - Easton Ghostmask


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第二十八章 世界でいちばんうるさい宝くじ

マレンは、事務所の窓越しにSOLO側のラックを見続けていた。


ガラスの向こうで二十四台のマイナーが空気を押し出し、計算を続けている。


そして、稼いだ金額は――ゼロ。


マレンがアルデンを見る。


「で、当たる確率は?」


「悪い」


「今日いちばん役に立つ答えね」


「計算はできる」


「計算しても悪い?」


「ああ」


マレンは窓の向こうを指した。


「じゃあ、世界でいちばんうるさい宝くじね」


書類棚の前にいたギャリックが、無言でマーカーを取った。


マスキングテープに書く。


LOTTERY.


アルデンが振り向く。


「やめろ」


ギャリックはSOLOの札の下に、そのテープを貼った。


「いいだろ」


「運用ラベルには意味がある」


「これにもある」


マレンが笑った。


アルデンはテープを剥がし、机の上に置いた。


「だから終了条件を決めてる」


「それは偉い」


「まだ馬鹿げてると思ってるだろ」


「実験はいいと思う。でも、奇跡が起きないと成立しない商売は駄目」


ギャリックがマレンを指さした。


「それだ」


アルデンは二人を見る。


「委員会を招集した覚えはない」


マレンが言う。


「一円も稼いでない機械が二十四台ある部屋に私を入れた時点で、発言権は発生したと思うけど」


工場の電話が鳴った。


ギャリックが修理区画で受話器を取り、一分も聞かないうちに上着へ手を伸ばす。


「クリーク・ロードのポンプ」


アルデンが聞く。


「前と同じ建物?」


「別のポンプ」


「故障?」


「まだだ」


ギャリックは出口へ向かった。


アルデンが時計を見る。


「手伝おうか?」


「その前に、俺がいない間に工場をカジノにするな」


扉が閉まった。


マレンがアルデンを見る。


「あなたのこと、好きよね」


「かなり独特な解釈だな」


「嫌いなら、黙って出ていくだけでしょ」


アルデンはダッシュボードへ目を戻した。


POOL側には、小さな入金が少しずつ積み上がっている。


SOLOは、ゼロのまま。


マレンが机の反対側へ回り、開いている別の画面を覗いた。


「それは?」


「故障記録」


「どれくらい?」


「稼働開始からなら、ファン二つ、電源一台、コネクタ一件。それと細かい停止」


「それ、モデルに入ってた?」


「一部は」


「一部」


「試験ロットだからな」


「質問の答えになってない」


アルデンは運用シートを開いた。


「修理予備費は取ってある」


マレンが項目を読む。


「予備費が機械を直したの?」


「直したのはギャリックだ」


「じゃあ、ギャリックを記録したら?」


「給与にはもう入ってる」


「二重に給料を払えって言ってるんじゃない」


アルデンがマレンを見る。


彼女は修理区画を指した。


「この商売が、あの人をどれだけ使ってるか知ったほうがいいって言ってるの」


アルデンは故障記録を見直した。


ファンを一つ交換するのに必要なのは、部品だけではない。


ギャリックの時間も使う。


アルデンはキーボードへ手を伸ばした。


マレンが笑う。


「出た。その顔」


「どの顔だ」


「誰かが数字を間違った列に入れたときの顔」


「間違った列じゃない」


「じゃあ、なんで不機嫌なの?」


「どの列に入れるべきか分からないからだ」


「よかった。これで仕事ができたわね」


マレンは携帯を見る。


「戻らないと」


「十一分しかいなかったぞ」


「あなたのお母さんが何を文句言ってるのか見に来ただけ」


「母さんはこの音、聞いたこともない」


「友達がいるもの」


「最近、よく分かってきた」


マレンはコートを取った。


だが、事務所の出口で止まる。


「ご飯、食べた?」


「食べた」


「いつ?」


アルデンは考えた。


マレンがため息をつく。


「夕飯、頼むから」


「食べたって言っただろ」


「追加質問で失格」


「仕事がある」


「私にもある」


それでも彼女は電話をかけた。


四十分後。


ギャリックが戻ってきた。


片方の袖には油汚れ。


トラックの荷台には修理を終えたポンプ。


事務所へ入ってきて、まだマレンがいることに気づく。


それから、オーソンの机の上に並んだ紙袋を見る。


「会議か?」


「介入」


マレンが答えた。


「こいつに?」


「もちろん」


アルデンは袋を一つ開けた。


「その表現には異議がある」


ギャリックは書類棚の横の椅子へ座った。


「飯が来てる。採決終了」


休憩室のテーブルはマイナーの部品で埋まっていた。


だから三人は、オーソンの事務所で食べた。


しばらく話したのは、どの容器が誰のものか。


それから、ギャリックがアルデンのフライドポテトを盗んだかどうか。


やがてマレンが部屋を見回した。


「お父さんも、ここで食べてた?」


「どこでも食ってた」


ギャリックが答える。


「だいたい立ったまま」


マレンがアルデンを見る。


「なるほどね」


「俺は座る」


「昨日、電源ユニットの上で昼ごはん食べてたってギャリックが言ってたけど」


「試験してたんだ」


「スープ食べながら?」


「それは別件だ」


ギャリックは食べ続けたまま言う。


「こいつはオーソンよりましだ」


アルデンが見る。


「今の、ほとんど褒め言葉だったな」


「お前の親父は、一度チリを部品洗浄機に落とした」


マレンのフォークが途中で止まる。


「わざと?」


「違う」


「次にそれ聞こうと思ってた」


アルデンは、こらえきれずに笑った。


三人いるだけで、事務所の感じが少し違っていた。


新しくなったわけではない。


古びたものが減ったわけでもない。


ただ――


使われている部屋になっていた。


食べ終わると、マレンが空の容器をまとめた。


アルデンも手を伸ばしたが、ギャリックが二人分の袋をまとめて持ち、そのまま出ていった。


マレンはコートを着る。


「本当のコストを記録して」


「する」


彼女は倉庫のほうへ顎を向けた。


「それから、宝くじに商売を食わせないこと」


マレンが帰ったあと、アルデンはもう一度ガラス越しにラックを見た。


POOLは稼ぎ続けている。


SOLOは、ただ消費し続けている。


それから、ギャリックの作業台へ目を移した。


初めて。


そこで使われている時間もまた、マイニング設備の一部に見えた。

お読みいただき、ありがとうございます。


本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


――東川鬼面斎

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