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アラスカでビットコインを掘ることになった  作者: 東川鬼面斎 - Easton Ghostmask


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第二十七章 半分ずつ

ギャリックがソロマイニングの実験に反対したのは、きっかり十一分間だった。


彼がビットコインの採掘に詳しいからではない。


金が入ってくる、ということの意味を知っていたからだ。


「ちゃんと動く機械が四十八台ある」


「ある」


「プールにつないでおけば、金になる」


「なる」


「なのに、その半分をわざわざ“定期的に金が入らない側”へ回したい、と」


「正確には、ハッシュレートをだいたい半分ずつに分ける」


ギャリックは事務所の窓越しに、倉庫のラックを指した。


「それ、電気代で宝くじを買うのと何が違うんだ」


オールデンはフリート管理表を開いた。


当初は二十四台ずつに分けるつもりだった。だが機体ごとに実効ハッシュレートが微妙に違う。そこで何台かを入れ替え、二つのグループの総出力がなるべく近くなるよう調整してある。


POOL。


SOLO。


それぞれ、およそ二ペタハッシュ。


施設全体の消費電力はほとんど変わらない。


変わるのは、報酬の受け取り方だけだ。


オールデンは予算表の一列を指で叩いた。


「事業として成立するかどうかは、プール側の収益だけで判断する」


「だったら、なんでソロをやる」


「期間限定の実験だ」


「何をもって“限定”なんだ」


オールデンは、そのために作っておいた欄を見せた。


試験期間は固定。


終了日も明記。


そして事業計画上、ソロ側の収益は最初からゼロとして扱う。


ギャリックは画面をじっと読んだ。


「この半分が、一ドルも稼がなかったら?」


「想定どおりだ」


「当たりを引いたら?」


「一時的な特別収益として扱う」


「まだ当たってもいないのに?」


「当たる前だからこそ、そう決めておく」


ギャリックはしばらくオールデンの顔を見ていた。


「もう決めてるんだな」


「ああ」


「じゃあ、なんで俺に聞く」


「俺が見落としている理由があるなら、聞いておきたい」


その答えに、ギャリックの表情がほんの少し変わった。


もう一度、試験終了日の欄を見る。


「熱くなったからって、ここを後ろにずらすなよ」


「ずらさない」


「それも書いとけ」


オールデンは一行追加した。


終了日は延長しない。


ギャリックは、それでようやく頷いた。


昼前には、四十八台の切り替えを終えた。


まずはプール側。


安定。


続いてソロ側。


温度にも、電力負荷にも、目立った変化はない。


音が変わるわけでもない。


倉庫そのものは、並んだ機械の半分がたった今まったく別の経済原理の中へ放り込まれたことなど、知る由もなかった。


午後半ば。


プール側では、有効シェアが積み上がり、それに応じて小さな報酬も少しずつ増えていた。


ソロ側にも、仕事量は積み上がっている。


報酬だけが、ゼロだった。


予算どおりだった。


ギャリックが画面を覗き込む。


「どうだ」


「プールなら入ってる」


「もう半分は?」


「ゼロ」


一時間後、またやって来た。


「どうだ」


「ゼロ」


「本当にあいつら、働いてるのか?」


オールデンは送信済みのシェアを表示して見せた。


「動いてる」


「でも金にはなってない」


「そういうことだ」


ギャリックは窓の向こうに並ぶソロ側のラックを眺めた。


「馬鹿げてるな」


「確率の問題だ」


「確率ってやつも、たまには真面目に働いたほうがいい」


オールデンは吹き出した。


五時前になって、ポケットのスマートフォンが震えた。


マレンだった。


――お母さんから聞いたんだけど。

 近所迷惑になりそうなくらいうるさい何かを作ったって?


オールデンは返した。


――母さんは一度もここに来てない。


すぐに返信が来た。


――そんなことで、あなたのお母さんの情報収集力が落ちたことある?


さらにもう一通。


――まだ工場にいる?


――いる。


――あと十分で着く。


オールデンは画面を見つめた。


ちょうどそのとき、ギャリックが机の横に現れた。


「何が壊れた?」


「何も。マレンが来る」


「ここに?」


「ああ」


ギャリックは倉庫のほうを見て、それからオールデンを見た。


「扉を開ける前に、耳当てを渡せ」


十一分後、一台の車が砂利の駐車場へ入ってきた。


オールデンは防音用のイヤーマフを手に、脇の入口でマレンを迎えた。


彼女は差し出されたそれを見下ろした。


「そんなに?」


「つけて」


オールデンが倉庫の扉を開ける。


イヤーマフ越しでも、音は身体にぶつかってきた。


マレンの足が止まった。


視線が、ずらりと並んだラックの奥へ滑っていく。


機械が吐き出す温い風が室内を押し流し、床のコンクリートからは、稼働初日にオールデン自身も驚いたあの細かな震動が絶えず伝わってくる。


マレンが振り返った。


「これ、あなたが作ったの?」


「最初の稼働区画だ」


「何台あるの?」


「四十八」


彼女は数秒、何も言わずに機械を眺めていた。


やがて事務所へ戻ると、モニター上で設備が二つのグループに分けられていることに気づいた。


扉が閉まり、轟音が一枚向こうへ遠ざかる。


マレンはイヤーマフを外した。


「どうして二つに分かれてるの?」


オールデンはモニターを彼女のほうへ向けた。


「こっちはマイニングプール。報酬は小さいが、そのぶん安定してビットコインが入る」


「もう半分は?」


「ソロ」


「そっちは、いくら入るの?」


「ブロックを引き当てれば、大きい」


「引き当てるまでは?」


「ゼロ」


マレンは窓越しに、休むことなく唸り続ける機械を見た。


「今まで、その半分はいくら稼いだの?」


オールデンはソロ側の画面を確認した。


「ゼロ」


マレンは椅子を引き寄せ、机の前に腰を下ろした。


「よし」


そして腕を組む。


「これが狂気じゃない理由を、私にもわかるように説明して」


通りすがりのギャリックが、無言で彼女を指差した。


「それだ」


オールデンはマレンを見て、それからソロマイニングのダッシュボードへ視線を戻した。


表示されている数字は――


相変わらず、ゼロだった。

お読みいただき、ありがとうございます。


本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


――東川鬼面斎

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