第二十六章 最初のコイン
最初に入ったビットコインの報酬は、祝杯を上げるにはあまりにも小さかった。
それでもオールデンは、プールのダッシュボードを更新した。
表示された小さな端数は、消えない。
オーソンの事務所へ、壊れたファンを手にしたギャリックが入ってきた。
「十分くらい、その画面見てないか?」
「七分だ」
「何かあったのか?」
「金が入った」
「いくら?」
オールデンはモニターを彼のほうへ向けた。
ギャリックが身をかがめ、数字を覗き込む。
「これがビットコイン?」
「その一部」
「小数点の位置を間違えた数字にしか見えんな」
「間違ってない」
ギャリックは身体を起こした。
「じゃあ、なんでそんなに見てる?」
金額そのものには、まだ意味がない。
機械がハッシュを計算した。
プールがその仕事を受け入れた。
そして会計システムが、彼らの取り分を記録した。
輸送費の見積もり。
修理予備費。
電力コストのモデル。
埃まみれで届いた六十台の機械。
それらすべてが、最後に残っていた一線を越えた。
売上。
ギャリックが画面を指した。
「じゃあ、うちの一台がビットコインを掘り当てたのか?」
「違う。プールに参加してる。大勢のマイナーが計算力をまとめて、プールがブロックを見つけたら、貢献した量に応じて報酬が分配される」
「小さい金が、ちょくちょく入る」
「そういうことだ」
ギャリックは一度だけうなずいた。
彼には、それで十分だった。
オールデンはもう一度、画面に残ったわずかな残高を見た。
「これ、クリークから来た金なんだな」
ギャリックが彼を見る。
「コンピューターは、父さんの水力で動いてる」
「大部分はな」
「父さんが土地を買った。取水設備を造って、水圧管を引いて、発電機を置いた。系統連系も切らさず維持した」
「一人でやったわけじゃない」
「わかってる」
何十年も、水はオーソンの土地を流れてきた。
オーソンは何年もかけ、その流れを、工場を生かしておけるほど安い電気へ変えてきた。
そして今。
同じ設備が、モロー・クリークのことなど何も知らないネットワークのために作られた機械へ電力を送っている。
そのネットワークは、オーソン・ヴォスを知らない。
ギャリックの修理台も知らない。
オールデンのスプレッドシートも知らない。
それでも。
仕事そのものは、受け取った。
ギャリックが壊れたファンを机に置いた。
「額に入れて飾るか?」
「飾らない」
「よし。三十一番、こいつの交換が必要だ」
その一言で、オールデンは象徴だとか感慨だとかでは処理できない、商売の現実へ引き戻された。
三十一番機は、二人がラックへ着いた時点ですでに停止していた。
ギャリックが故障したファンユニットを外す。
オールデンはログを確認した。
ボードエラーなし。
異常温度なし。
ただ、ベアリングが一つ死にかけている。
倉庫いっぱいの騒音の中で、ギャリックはその音を聞き分けていた。
「この中で、ベアリング一個の音が聞こえたのか?」
「違う音だった」
試験済みのDONORファンを取り付ける。
三十一番機は運転へ復帰した。
停止時間――二十三分。
オールデンは記録する。
それを見ていたギャリックが訊いた。
「それも書くのか?」
「ああ。停止時間を無視した売上なんて、作り話と同じだ」
ギャリックはうなずいた。
「それでいい」
午後も遅くなるころには、最初の入金はもう特別なものではなくなっていた。
プールから、次の報酬が入る。
また次も。
一つ一つは、相変わらず小さい。
だが、小さいことよりも重要なのは、繰り返していることだった。
オールデンはプールに受理された仕事量と、フリート全体のハッシュレートを照らし合わせ、数字のずれを追った。
一回の入金なら、経路がつながった証明にしかならない。
だが、それが繰り返されるなら。
これは商売になるかもしれない。
オールデンはエヴェレットに電話した。
出るなり、エヴェレットが言った。
『頼むから、俺の忠告を全部無視した結果、倉庫が燃えたって電話であってくれ』
「動いてる」
『そっちのほうがつまらないな』
「四十八台」
『六十台のうち?』
「ああ」
『思ってたよりいい』
「売ったのはお前だろ」
『現状渡しでな。希望は別料金だ』
オールデンは事務所の窓から、ラックを見た。
「最初のプール報酬が入った」
電話の向こうが、ほんの一拍だけ静かになった。
それから。
『おめでとう』
冗談が消えていることに、オールデンは気づいた。
「ほんのわずかだ」
『最初は、だいたいそんなもんだ』
オールデンは再びフリートのダッシュボードを見る。
四十八台。
すべてを同じプールへ向ければ、約四・〇八ペタハッシュ。
プールは、一つの問いに答えてくれた。
機械は、電気を、繰り返し得られるビットコイン収益へ変えられる。
『それで、次は?』
エヴェレットが訊いた。
その次の問いなら、オールデンは機械を買う前から何度もモデル化していた。
だが、その数字から一ドルでも利益として数えることだけは、ずっと拒んできた。
フリート管理表を開く。
「次は、二つに分ける」
エヴェレットが一度だけ笑った。
『出たな』
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本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
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――東川鬼面斎




