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アラスカでビットコインを掘ることになった  作者: 東川鬼面斎 - Easton Ghostmask


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第二十四章 四十八台

 四十八台目は、三時間で落ちた。


 ハッシュレートが沈む。

 戻る。

 また沈む。


 オールデンは画面を見たまま言った。


「だめだ」


 隣の作業台から、ギャリックが振り向く。


「何が?」


「『ほぼ動く』に合格点はやらない」


「動いてるじゃないか」


「六分おきにな」


「後ろのやつよりは動いてる」


「後ろのはDONORだ」


「ほら。じゃあ上出来だ」


 オールデンはテストを止め、札をREPAIRへ戻した。


 PASSは四十七のまま。


 その手元を見ながら、ギャリックが言った。


「四十八にしたかったんだろ」


「欲しいのは、放っておいても動き続ける機械だ」


「そいつも動くぞ」


 オールデンが見る。


 ギャリックは少し間を置いて付け足した。


「動き方がひどいだけで」


 ここ数日で、ホワイトボードの景色は変わっていた。


 UNTOUCHEDは消えた。

 CLEANEDも消えた。


 六十台すべてに、行き先が決まっている。


 DONOR棚を見るたびに感じていた抵抗感も、いつの間にか薄くなっていた。


 あの荷が届いた日、死んでいるマイナーは一台残らず、八万ドルの購入代金に対する「損失」にしか見えなかった。


 いまは違う。


 分解した個体からはすでに、ファン、電源ユニット、ケーブル、ネジ、コントローラー、筐体部品が供給されている。


 DONORになった一台一台にも札がつき、何がまだ使えるのかが記録されていた。


 もう、ただ「SCRAP」とだけ書かれたものは一つもない。


 ギャリックが棚の前まで来た。


「死んだコンピューターまでアルファベット順に並べる気か?」


「在庫管理だ」


「昔はそれを『ため込み』って呼んでたな」


「俺が間違ってた」


 ギャリックがオールデンを見る。


 オールデンも待った。


「それだけか?」


「何が?」


「その言葉、口にすると痛むのかと思ってた」


「痛いぞ。静かにな」


 ギャリックが笑った。


 昼を過ぎたころ、四十八台目の候補が重修理の作業台から戻ってきた。


 最初の点検では、廃棄寄りに判定しかけた個体だった。


 元の電源は死んでいる。

 ファンが一つ固着している。

 さらにコネクターが損傷していて、実際以上にひどい機械に見えていた。


 ギャリックが、DONORから回した試験済みPSUを取り付ける。

 オールデンはファンユニットを交換した。


 マイナーが起動した。


 すべてのボードを認識。


 温度は安定。


 ハッシュレートが上がっていく。


 それでもオールデンは札を動かさなかった。


 ギャリックが気づく。


「見張られてるって、あいつもわかってるぞ」


「待ってる」


「何を?」


「俺を失望させるのを」


「健全な関係だな」


 二人は負荷をかけたまま放置した。


 一時間。


 二時間。


 三時間。


 機械は回り続けた。


 六時間後。

 オールデンはもう一度、温度とエラー数を確認した。


 それからようやく、札を移した。


 PASS:48。


 隣の作業台では、ギャリックが客から預かったポンプを組み直している。


「四十八」


「ついに数を声に出すようになったか?」


「通った」


「よかったな」


「それだけ?」


 ギャリックはドライバーを置いた。


「風船でも飛ばしてほしいのか?」


「いらない」


「なら、それだけだ」


 オールデンは列の端から端まで見渡した。


 四十八台。


 同じ姿ではない。

 きれいでもない。


 交換されたファン。

 DONORから来た電源。

 中古として売るなら査定を下げられそうな修理痕のある個体も何台かある。


 だが、そんなことはどうでもよかった。


 全機が、同じ受入工程を通った。

 同じバーンイン基準を越えた。


 オールデンはフリート管理のシートを開く。


 生き残った個体は平均で、およそ毎秒八十五テラハッシュ。

 消費電力は、一台あたり約三キロワット。


 四十八台なら、およそ四・〇八ペタハッシュ。


 マイナーだけで約百四十四キロワット。

 工場側のほかの負荷まで含めれば、最初の運転ブロックはおよそ百五十キロワットになる。


 ギャリックが画面を覗き込んだ。


「そいつらが勝ち残りか?」


「候補だ」


「PASSしたんだろ」


「一群としてはまだ動かしてない」


「だから?」


「四十八台を一台ずつ動かすのと、四十八台を同時に動かすのは、同じじゃない」


 ギャリックは顎で電気設備のほうを示した。


「やっと出てきたな」


「誰が?」


「コンピューターを買ったあとで、電気が要ることを思い出した男」


「忘れてない」


「一週間、ファンと喧嘩してたじゃないか」


「悪いファンだった」


「電気はそんな事情、気にしてくれないぞ」


 オールデンはもう一度、四十八台の列を見た。


 これまでは一台ずつ、あるいは少数のまとまりで試験してきた。


 四十八台分の連続負荷は、話が違う。


 ホワイトボードの空白を出し、大きく書いた。


 STARTUP。


 その下に項目を並べる。


 ELECTRICAL。

 PROTECTION。

 NETWORK。

 VENTILATION。

 FIRE / CLEARANCE。


 そこで手を止めた。


 音を出す前に、確かめるべきことがある。


 ギャリックが一覧を読む。


「四十八台がゴールだと思ってた」


「次の問題を抱える価値が出てくる、最初の数字だ」


「親父さんみたいなことを言う」


 オールデンが振り向いた。


「父さんがそう言ってたのか?」


「いや」


「じゃあ、どこが似てる?」


「あの人はいつも、『抱える価値のある問題』を次から次へ作ってた」


 ギャリックは作業台へ戻った。


 オールデンもフリート管理表へ戻る。


 修理予備費として取っていたのは、およそ一万五千ドル。


 交換部品。

 電気工事用の材料。

 清掃用品。

 ケーブル。

 そして、実際に機械を開けてみるまで存在すらわからなかった細々としたもの。


 積み上げてみると、一万五千ドルはもう決して多すぎる額には見えなかった。


 その事実に、思ったほど腹は立たなかった。


 予備費とは、こういうときのために取っておくものだ。


 ギャリックがDONOR機から外したファンを一つ持って戻ってきた。


「残すか?」


 オールデンは手で一度回してみてから返した。


「試験を通るなら在庫」


 ギャリックはうなずき、テスト用の箱に入れた。


 オールデンは棚に並ぶ、骨だけになった筐体を見た。


 夏の初め。

 彼は、死にかけた工場を売るためにアラスカへ戻ってきた。


 そのために、すべてを分類しようとしていた。


 SELL。

 SCRAP。

 REMOVE。


 そして今。


 誰かがもう要らないと判断した六十台の機械を、彼は一台ずつ分け、調べ、ばらし、組み直した。


 その結果、使える四十八台が残った。


 失敗した十二台が消えたわけではない。


 部品になったのだ。


 オールデンはフリート管理表を開き、一つの列を削除した。


 SCRAP VALUE。


 それを見ていたギャリックが言う。


「スクラップはどうした?」


「分類が違った」


「じゃあ、正しくは?」


 オールデンは棚の試験済み部品を見た。


「在庫だ」


 今度は、ギャリックも冗談を言わなかった。


 閉業時刻が近づいたころ。

 二人は四十八台目のマイナーを、残りの機械と同じ列へ押し込んだ。


 倉庫は静かだった。


 いまのところは。


 試験どおりに全機が動けば、四十八台でおよそ四・〇八ペタハッシュ。


 だが同時に、それだけの連続負荷は、オールデンがこの建物について抱えている間違った前提を、一つ残らず暴き出すだけの電力でもある。


 ギャリックが修理台の作業灯を消した。


「明日は?」


 オールデンは暗がりに並ぶ四十八台を見た。


「明日は、こいつらを全部つけても親父の工場が燃えないことを確認する」


 ギャリックがうなずく。


「そっちのほうがいい」


 レノラはもう何週間も前に歩行器を卒業し、自分で車を運転していた。


 オールデンをアラスカへ連れ戻した理由は、とうに消えている。


 それでも四十八台の機械は、黙ったままそこに残っていた。


 もう「壊れた在庫」ではない。


 けれど、まだ「鉱山」でもなかった。

お読みいただき、ありがとうございます。


本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


――東川鬼面斎

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