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アラスカでビットコインを掘ることになった  作者: 東川鬼面斎 - Easton Ghostmask


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第二十二章 ギャリック

最初の一台は、起動を終える前に止まった。


アルデンはテスト画面の更新が途切れるのを見た。


「もう一回」


作業台の向こうで、ギャリックが腕を組んでいる。


「さっきから三回聞いた」


「初期化するはずなんだ」


「しなかった」


アルデンは電源を入れ直した。


ファンが一気に回り、やがて落ち着く。


一瞬だけ、正常に見えた。


その直後、一つのファンが止まった。


警告が出る。


アルデンは電源を落とした。


「ファンだ」


「よかったな」


アルデンが顔を上げる。


「よかった?」


「見えるところが壊れてる」


ギャリックは機械を自分のほうへ引いた。


アルデンは朝から試験手順を組んでいた。


外観確認。


清掃。


コネクタ確認。


電源確認。


起動。


ログ確認。


そこまで通って初めて負荷試験。


筋のいい手順だった。


機械のほうは、その手順をできるだけ遅くすることに全力だった。


最初に触った数台だけでも、ファン不良。


怪しい電源ユニット。


起動はするが正常にハッシュしない個体。


アルデンは予備部品の注文画面を開いた。


「交換用ファンは買ってある」


「いつ来る」


「配送会社の“三日”が本当に三日なら、三日後」


ギャリックが古い部品棚を見る。


「大きさは?」


アルデンは寸法と電圧を答えた。


ギャリックは歩き出す。


「それ、答えになってない」


「答えてないからな」


アルデンも後を追った。


ギャリックは引き出しを一つ開ける。


次も。


中から産業用ファンを二つ取り出した。


アルデンはラベルを確認する。


「コネクタが違う」


「ああ」


「リード線の長さも違う」


「ああ」


「取付穴は合う」


「ああ」


アルデンはギャリックを見る。


ギャリックはファンを作業台へ置いた。


「ファンが欲しいんだろ」


「九万五千ドルの実験を電気火災に変えないファンが欲しい」


「なら試せ」


二人で試した。


ファンそのものは使える。


コネクタだけが合わない。


アルデンがピン配列を二度確認するまで、ギャリックは何も切らなかった。


確認が終わると、工場にある部品で変換用のリードを組み始める。


アルデンは端子を圧着する手元を見た。


「こんなの、普通に持ってたのか?」


「引き出しにある」


「引き出し、四十個くらいあるだろ」


「じゃあ当たる確率は高い」


取り付ける。


アルデンがマイナーの電源を入れた。


交換したファンが回る。


機械が起動する。


今度は警告が消えたままだ。


ステータス画面に項目が埋まっていく。


ボード認識。


温度正常。


ハッシュレート上昇。


完璧ではない。


だが、十分だった。


アルデンはさらに一分待ってから口を開いた。


ギャリックが画面を見る。


「動いたか?」


「今のところ」


「Bitcoinは?」


「まだプールにつないでない」


「じゃあ金を稼がずに動くことには成功したわけだ」


「試験だ」


「カリフォルニア語か?」


「工学用語だ」


ギャリックは機械をPASS側へ移した。


最初の一台だった。


次の機械は電源系だった。


アルデンはPSUを疑い、型番を検索し始める。


ギャリックが電源を抜いた。


「何?」


「新しいの探してるだろ」


「仕様を調べてる」


「買い物に手順を足しただけだ」


アルデンは画面を見せた。


「出力が安定してない」


「なら理由を調べろ」


「密閉型のスイッチング電源だぞ」


「だから?」


「倉庫用ヒーターじゃない」


ギャリックがアルデンを見る。


「そうだな。ヒーターのほうが大きい」


アルデンは黙って見返した。


ギャリックはPSUを電子作業台へ持っていく。


ヴォス・アークティックは、Bitcoinマイナーを直したことなど一度もない。


だが、制御基板は直してきた。


パワーエレクトロニクスも。


モーター。


リレー。


産業用ヒーター。


そして――


全部買い替えたくないような遠い場所で壊れる機械を、何十年も直してきた。


ギャリックは、まず当たり前のところから見る。


入力。


接続部。


熱損傷。


ファン。


そして手が止まった。


「ここ」


アルデンが覗く。


コネクタの一端だけ、わずかに色が濃い。


焼け落ちてはいない。


だが正常でもない。


テスターを当てる。


抵抗値がおかしい。


「接触不良」


「そう見える」


「これなら電圧降下が出る」


「かもな」


ギャリックは「出る」とは言わなかった。


その言い方を、アルデンは気に入った。


接触部を修理する。


清掃。


マイナーから外した状態で試験。


安定。


負荷をかける。


まだ安定。


アルデンはPSUを戻した。


起動する。


PASS側、二台目。


三台目は、もっと悪かった。


ファンは全部回る。


PSUも持つ。


コントローラも立ち上がる。


だが、ハッシュボードが一枚だけ認識しない。


アルデンはログを二度読んだ。


「これはコネクタじゃない」


ギャリックが丸椅子を寄せる。


「その板は何をする」


「ハッシュする」


「何も分からん」


「Bitcoinの計算をする」


「それなら分かる」


アルデンはボードを外し、作業灯の下へ置いた。


ギャリックは触らない。


「何で壊れる?」


「熱。電源異常。チップ故障。半田不良。腐食。まだある」


「見て分かるか?」


「見ただけじゃ無理」


「なら見るな」


アルデンが振り向く。


ギャリックはテスターを滑らせた。


「測れ」


その瞬間だった。


アルデンが、ギャリックを「コンピュータを分からない男」として見るのをやめたのは。


ギャリックはBitcoinを知らない。


だが、壊れた機械を知っている。


その違いは、大きかった。


二人は順番にボードを追っていった。


奇跡は起きない。


隠された裏技もない。


ASICそのものについては、ギャリックの経験外の部分も多い。


分からない質問には、分からないと言う。


だが――


電源ラインは電源ラインだ。


コネクタはコネクタ。


ファンは壊れる。


接点は焼ける。


埃は熱を閉じ込める。


間違った思い込みは、どんな業界でも時間を浪費する。


夕方には、PASSの列に六台並んでいた。


六十台中、六台。


鉱山とは呼べない。


良いサンプルですらない。


それでも朝には、そこに一台もなかった。


アルデンは一覧を更新した。


TESTED: 11

試験済み:11


PASS: 6

合格:6


REPAIRABLE: 3

修理可能:3


PARTS / DEEP REPAIR: 2

部品取り/重修理:2


ギャリックが肩越しに見る。


「まだスクラップを買ったと思ってるか?」


「残り四十九台を見てから聞いてくれ」


「ほとんど前向きだな」


「算数だ」


ギャリックは次の一台を持ち上げた。


ファンガードから埃が袖に落ちる。


それを見る。


「その算数、ほうきが要るな」


アルデンも反対側を持ち、作業台へ運んだ。


これもファンが死んでいる。


危うく部品注文画面を見るところだった。


そこで、ギャリックの引き出しに目を向けた。


「もう一個、あるか?」


ギャリックが棚を顎で示した。


「ようやく正しい質問になったな」


古い制御盤用ユニットから、使えそうなファンモーターが見つかった。


ただしケースは合わない。


ギャリックが寸法を取る。


機械加工側へ歩いていく。


アルデンが聞いた。


「何する気だ?」


「合うようにする」


「全部を一台ずつ手加工するわけにはいかない」


「ああ」


「それじゃスケールしない」


ギャリックが足を止めた。


「今日、スケールする話だったか?」


アルデンは、まだ待っているマイナーの列を見る。


ギャリックは作業場へ向かいながら言った。


「今やってるのは、助けられるかどうか確かめることだ」


それは、アルデン自身がエヴェレットに頼んだことだった。


本物の試験。


きれいな機械だけを集めることでもない。


スプレッドシートでもない。


PASS側の六台を見る。


それから、父親が何十年もかけて工具を揃えた修理台。


マイナーは相変わらず汚い。


まだ大半は未試験。


二度と動かないものもあるだろう。


だが最初の六台は、もうスクラップではない。


ギャリックが工作機械のスイッチを入れた。


古いヴォス・アークティックの工場が、その音でまた目を覚ました。


アルデンは、次の壊れたマイナーを見る。


初めて、問いが変わっていた。


この機械は壊れているのか。


ではない。


この工場なら――


何台、戻せるのか。


お読みいただき、ありがとうございます。


本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


――東川鬼面斎

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