↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラスカでビットコインを掘ることになった  作者: 東川鬼面斎 - Easton Ghostmask


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/70

第十八章 タダではない

「二十年近く?」


ギャリックはもう作業道へ戻り始めていた。


アルデンも後を追う。


「四百五十キロワットの設備に?」


「その数字を言うたびに、オーソンがカタログから発電所を注文したみたいに聞こえるな」


「何に二十年かかった?」


「水車一台を二十年かけて作ったわけじゃない」


「それくらい分かってる」


ギャリックが振り返る。


「本当に?」


工場へ戻るころには、アルデンも一言で答えを引き出そうとするのを諦めていた。


オーソンの事務所で、水力発電のシナリオを開く。


コスト欄はまだ空白だ。


さっきより、その空白が気になった。


ギャリックがポンプ用シールの箱を抱えて入ってくる。


アルデンはモニターを向けた。


「いい。ここに何を入れればいい?」


「どの欄だ」


「お前が正しいと証明する欄」


「候補が多すぎるな」


「水力発電のコスト」


ギャリックは箱を机に置いた。


「保険。グリース。フィルター。ベアリング。シール。制御機器。取水口の清掃。道路の補修」


アルデンは入力を始めた。


「検査。電気試験。除雪。水圧鉄管の点検。塗装。支持架。排水。発電機。水車。開閉設備。保護装置」


アルデンの指が止まる。


「急に増えたな」


「機械はそういうものだ」


「毎年?」


「毎年のもある」


「残りは?」


「いつか来る」


アルデンは椅子にもたれた。


「つまり、目先の現金支出と、長期で見た経済コストは別か」


「最初から別だ」


ギャリックは箱を持ち上げた。


「それと冬」


アルデンが見る。


「冬が何だ?」


「氷」


「入れた」


「雪」


「入れた」


「木」


アルデンは眉を寄せた。


「木?」


「一本、流木止めに突っ込んでくれば、専用の行を作る気になる」


ギャリックは出ていった。


アルデンは古い会計資料を開いた。


“安い電気”という名前のフォルダは、どこにもなかった。


水力設備の費用は、土地の購入、測量、掘削、コンクリート工事、電気工事、交換部品、保険、許認可、機械加工、溶接――ばらばらの項目に埋もれている。


仕入先で検索する。


区画で検索する。


勘定科目で検索する。


計画は何十年にも散らばっていた。


正午、ネイディーンへ電話した。


「モロー・クリーク電力、技術部です」


「アルデンです」


「そろそろ来ると思ってました」


「何があるか知ってたんですね」


「保管資料に顧客所有発電設備があるのは知っていました」


「それで今は?」


「父の名前が付いた四百五十キロワットを見つけました」


「銘板値?」


「そうです」


「よろしい。その言葉は忘れないでください」


アルデンは、まだ空白のコスト欄を見た。


「そちらの系統と並列運転するには、何が必要です?」


「現時点の設備検査、保護装置の確認、計量設備の見直し、それから現在適用される運用条件の確認です。昔の契約書だけで今の条件までは決まりません」


「つまり勝手に動かさない」


「少なくとも、系統へ並列には入れないでください」


「過去の発電記録は残ってますか?」


「一部は。連続したものではありません」


「あるだけ送ってください」


「保管資料の追加依頼に入れておきます」


それで十分だった。


午後二時には、「タダの電気」という言葉を考えたこと自体が恥ずかしくなっていた。


発電機の巻線修理の請求書。


制御装置の更新。


冬に取水口が凍結したあとの修理。


毎年の保険。


次々に出てくる。


金額はばらつきが大きく、事情も違う。


無理に平均を出せば、むしろ嘘になる。


だが傾向だけは明白だった。


この発電所は燃料を食わない。


代わりに、人の手を食う。


三時過ぎ、ギャリックが戻ってきた。


片膝に泥がつき、トラックには修理を終えた循環ポンプが積まれている。


アルデンはファイルを抱えて修理区画へ出た。


「最初から聞かせてくれ」


ギャリックはポンプを台車へ載せた。


「何の最初だ」


「二十年」


ギャリックは台車を作業台へ押していく。


「最初は土地だ。それから水量を測った。すると“もっとちゃんと測れ”と言う人間が出てきた。次に許可。次に金。次に工事。次に、予定より高くつく何かが出てきた。そのころには工場のほうで別の金が必要になる」


アルデンは横を歩いた。


ギャリックは続けた。


「お前の父親は、払えるときに少しずつ作った。うまくいかないものは変えた。壊れたら直した。制御を更新した。土地を足した。道を直した。電力会社と話をつけた」


作業台の前で止まる。


「それから、ここに何を作るのにどれだけ手間がかかったか、みんなが忘れたあとも、ずっと面倒を見続けた」


アルデンはオーソンの事務所を見た。


「工場の利益で作ったんだと思ってた」


「工場が全部払った」


「そういう意味じゃない」


「分かってる」


ギャリックは摩耗したシールを作業台へ置いた。


「オーソンは、金持ちになった朝に目を覚まして、“よし、安い電気を作ろう”と思ったわけじゃない」


アルデンは黙っている。


「高い電気を、何年もかけて安い電気に変えたんだ」


事務所へ戻る。


アルデンはASICモデルを開き直した。


水力発電のシナリオに、二つの行を追加する。


CASH OPERATING COST

――現金運転費用。


LONG-RUN RESERVE

――長期修繕引当。


どちらにも、ゼロは入れなかった。


次に工場売却用のワークブックを開く。


水力発電所は載っていない。


水圧鉄管も。


取水設備も。


アルデンは三つともOPERATING ASSETS――事業資産の欄に追加した。


そして手を止めた。


ここ数日、彼が考えていたのは、この土地をいくらで売れるかだった。


今考えているのは――


同じものを、もう一度つくるならいくらかかるか。


携帯が震えた。


エヴェレット。


まだ「絶対にやらない」?


アルデンは水力発電のモデルを見た。


まだ買わない。


すぐに返信が来る。


それ、前と同じ答えじゃないな。


アルデンは携帯を伏せた。


ギャリックの言う「二十年近く」が本当なら、直近数年の会計資料だけ見ても何も分からない。


オーソンの書類棚のいちばん下を開ける。


HYDRO — PERMITS

水力――許認可。


WATER / SITE

水・用地。


INTERCONNECTION

系統連系。


その奥から、背表紙が裂けるほど分厚い四冊目が出てきた。


ORSON — PROJECT COSTS


オーソン――プロジェクト費用。


ギャリックは、二十年近くと言った。


アルデンはバインダーを机に置いた。


そして開いた。


お読みいただき、ありがとうございます。


本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


――東川鬼面斎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。