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アラスカでビットコインを掘ることになった  作者: 東川鬼面斎 - Easton Ghostmask


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第十四章 二つ目のスプレッドシート

翌朝、アルデンは何より先に、昨日却下したASICの試算表を開いた。


そして複製した。


ASIC TEST CASE — 2


心変わりではない。


検算だ。


最初のスプレッドシートが答えた問いは一つだった。


安い機械さえ手に入れば、商売になるのか。


ならない。


では二枚目で確かめるべきことは別だ。


――何が成立すれば、この話は「馬鹿げた取引」ではなくなるのか。


アルデンは昨日の数字をいじるのではなく、モデルそのものを組み直した。


機種ごとに分ける。


ハッシュレート。


消費電力。


申告されている状態。


想定される修理リスク。


Bitcoinについて講義を受けたいわけではない。


知りたいのは、どの箱なら、食わせる電気に見合うだけの仕事をするかだった。


見た目がほとんど同じ二台でも、一方が同じ仕事をするのに余計な電気を食うなら、事業としてはまるで別物になる。


アルデンはエヴェレットに電話した。


「戻ってきたな」


「却下した判断を検算してるだけだ」


「健康的だね」


「お前なら、どの機械から捨てる?」


「電気が安くないなら、古くて効率の悪いやつ。修理工賃が安くないなら、見た目からしてひどいやつ。自分の時間が安くないなら、履歴不明のやつ」


「答えが三つある」


「コストも三つあるからな」


アルデンは書き留めた。


「ロットは分けられるか?」


「多少なら」


「機種ごとに?」


「できる」


「状態ごとには?」


「そこまできれいには分けられない」


「つまり売り手は、悪い機械を良い機械と一緒に運ばせたいわけだ」


「売り手なら“効率的な在庫移動”と呼ぶだろうな」


「俺なら呼ばない」


「だからお前は売り手じゃない」


アルデンは、もっと小さな試験ロットにした場合の運賃を出すよう頼んだ。


エヴェレットの声が変わった。


「どれくらい小さく?」


「買うとは言ってない」


「もちろん」


「値段を出してるだけだ」


「もちろん」


「エヴェレット」


「分かった。数字を取る」


通話を切る。


次にアルデンが見続けたのは、電力だった。


ヴォス・アークティックの電気ではない。


まだ、そこまでは行かない。


まずは機械そのものだ。


一台およそ三キロワット。


数字だけなら大したことには見えない。


だが、それが二十四時間、一日も休まず流れ続ける。


一台なら常時負荷。


十台になれば、もう配電の判断が要る。


数十台なら設備になる。


八百台なら、ばかげている。


八百台を買うつもりなどない。


それでもアルデンはスプレッドシートに打ち込んだ。


800台をモデル化するな。


数秒後、消した。


スプレッドシートに励ましの言葉はいらない。


ギャリックが事務所の前を通り過ぎ、二歩戻って顔を出した。


「“やらない”って言ってなかったか」


「言った」


「列を増やした“やる”に見えるが」


「感度分析だ」


ギャリックは少し考えた。


「それで機械の壊れ方はましになるのか?」


「ならない」


「運賃は安く?」


「ならない」


「電気も食わなくなる?」


「ならない」


「立派な分析だ」


そのまま歩いていった。


アルデンは無視した。


やがてエヴェレットから運賃の見積もりが届いた。


予告どおり、ひどい数字だった。


ロットを小さくしすぎれば、一台あたりの輸送費が跳ね上がる。


大きくしすぎれば、触ったこともない機械に現金を縛りつけることになる。


その中間に、一つだけ帯域があった。


実験に失敗しても、生き残れる範囲。


魅力的なのではない。


死なずに済む。


そこは大きな違いだった。


アルデンに無限の資金はない。


一度、悪い実験をする余裕はある。


悪い実験を習慣にする余裕はない。


だから倉庫いっぱいの八百台は、モデルから外した。


考えるのは、小さな試験ロットだけ。


それでも、普通の商用電力を買って動かす前提では、採算は薄かった。


一キロワット時あたり数セント違うだけで、機械の購入価格をかなり動かすよりも早く、答えが変わる。


アルデンは数式を二度確認した。


ハードウェア代は、目に見える。


電気代は、繰り返しやって来る。


新しいタブを開いた。


POWER COST


昨日は一般的な産業用電力単価を入れていた。


今日は、ヴォス・アークティックが実際にいくら払っているのかが必要だった。


まず事務所の書類を漁った。


仕入先の請求書。


保険。


固定資産税。


燃料。


古い給与台帳。


電気料金の履歴だけが、まとまっていない。


レノラに電話した。


「父さんの昔の電気代、どこにある?」


少し間があった。


「おはよう、くらい言ったらどう?」


「おはよう。電気代はどこ?」


「何年分?」


「何年か。傾向が見えるくらい」


「何をしてるの?」


「コスト前提の確認」


「危険な響きね」


「電気の話だよ」


「あなたの場合、それじゃ何も絞れないわね」


向こうで紙の動く音がした。


「裏の廊下の物置。青いラベル。電気、燃料、保険。年度を混ぜないで」


「混ぜない」


「十四歳のときもそう言ったわ」


「整理し直してただけだ」


「税務書類をアルファベット順に並べたでしょう」


「あれは一度だけだ」


「一度で十分よ」


電話は切れた。


青い箱は、言われたとおりの場所にあった。


一枚目の請求書は普通だった。


二枚目も。


五枚目まで来たところで、アルデンは数字を入力する手を止めた。


代わりに、そもそも正しい契約口座を見ているのかを確かめ始めた。


ヴォス・アークティックが忙しかった年から、一か月分を抜き出す。


同じ時期の生産記録。


給与台帳。


工場はかなり動いている。


それなのに、電力会社から買った電気が少なすぎた。


メーター番号を確認する。


合っている。


供給先住所。


合っている。


支払額。


元帳と一致。


別の月を引っ張り出した。


同じだ。


まったく同じではない。


毎月でもない。


だが、偶然で片づけるには十分すぎる。


アルデンは三枚の請求書を、オーソンの机いっぱいに広げた。


工場は、買ったことになっている電気より多くの電気を使っていた。


これは単価の問題ではない。


帳簿の上に、説明できない事実がある。


お読みいただき、ありがとうございます。


本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


――東川鬼面斎

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