第十三章 絶対にやらない
エヴェレットの提示額を表に入れてから四十分、アルデンはこの取引がいかに馬鹿げているかを証明することに費やした。
最初の問題は、機械そのものだった。
エヴェレットから届いた状態メモは、マニフェストよりは詳しい。だが、安心材料と呼ぶにはほど遠い。
「撤去時稼働」と記された個体もある。
ファン交換歴あり。
電源ユニットに要注意。
履歴不明。
写真を見るだけで、何年も埃を吸い続けてきたと分かるものもあった。
アルデンは、売り手側の最良ケースを使わなかった。
到着時点で何台かは死んでいる、と仮定した。
動き始めてから、さらに何台か壊れる、と仮定した。
交換用ファン、電源、ケーブル、予備部品。それに修理予備費を積んだ。
次は輸送だ。
この機械が安いのは、そもそも「いる場所」が悪いからでもある。
海外の倉庫にある重い金属箱を、アラスカ内陸部まで持ってくる。
それは付帯費用ではない。
購入価格の一部だ。
海上輸送。
内陸輸送。
荷役。
通関。
そして、もう一行。
エヴェレットがまだ「ひどい」と言っていない費用。
スマートフォンが震えた。
追加の検査メモが届いている。
アルデンは返信した。
――未検査のままなら、このロットを自分で何台買う?
返事はすぐ来た。
――お前の金で? 俺の金で?
――お前の。
――もっと少なく。
アルデンは稼働可能台数の想定を、さらに下げた。
次は収益。
エヴェレットから聞いたおおよそのハッシュレートを入れる。
ビットコイン価格が上がる、という前提は置かなかった。
それだけで、この話から大半の楽しさが消えた。
そして「電力」の欄に来た。
機械は、自分が安く買われたことなど知らない。
小売価格で買おうが、清算品で拾おうが、道端で見つけようが、三キロワット食う機械は三キロワット食う。
アルデンは一般的な産業用電力の単価を入れた。
表が変わった。
機械は、まだ安い。
事業は、安くない。
購入台数を減らした。
一台あたりの輸送費が悪化した。
台数を増やした。
今度は抱えるリスクの総額が膨らんだ。
稼働率を高めに置いた。
利益は改善した。
だがそれは、「壊れるものは少ない」と自分で表に言い聞かせたからにすぎない。
保守的な数字へ戻す。
利益はまた消えた。
請求書を一枚持って、ギャリックが事務所へ入ってきた。
「例のコンピュータ、まだ買わないんだな?」
「買わない」
ギャリックは請求書を机の脇へ置いた。
アルデンは画面から目を離さない。
「何だ?」
「返事が早かった」
「簡単な質問だからな」
「たいてい、そういうもんだ」
ギャリックは出ていった。
アルデンはもう一度モデルを見た。
問題は、購入価格ではなかった。
むしろ、それが腹立たしい。
安い機械は、安い機械としての仕事を完璧に果たしていた。
こちらの注意を引いた。
厄介なのは、その後だ。
輸送。
故障。
修理。
停止時間。
電力。
そして、自分では支配できない市場に結びついた収益。
もう一ケースだけ回した。
楽観でもない。
破滅でもない。
ただ、ありふれた不運。
到着時に数台が故障。
さらに数台が修理待ち。
輸送費が少し超過。
稼働率が少し低い。
ビットコイン収益も少し弱い。
結果の数字が赤に変わった。
真っ赤ではない。
だからこそ、悪かった。
派手な損失なら簡単に捨てられる。
これは、三つくらいの小さな問題が同じ月に重なるまでは、ずっと「悪くなさそう」に見える種類の事業だった。
そうやって死ぬ会社を、アルデンは見たことがある。
ファイルを保存する。
ASIC テストケース
それから名前を変えた。
ASIC テストケース――却下
Excelを閉じた。
エヴェレットからメッセージが来た。
――どうだった?
アルデンは打った。
――絶対にやらない。
すぐ返ってきた。
――そんなに早く?
閉じたばかりの表を見る。
四十分は、早くない。
――故障率不明。輸送条件が悪い。採算が電力単価に敏感。収益は変動。運用経験なし。こちらがそのリスクを持つ理由もない。
入力中を示す点が三つ、画面に現れた。
やがて返事が来る。
――「ビットコインは馬鹿げてる」より、ずっといい答えだ。
――ビットコインが馬鹿げてるなんて言ってない。
――そうだな。お前が言ったのは、この取引が馬鹿げてる、だ。
――そのとおり。
最後に、エヴェレットから一通だけ届いた。
――マニフェストは残しておけ。
アルデンは返事をしなかった。
ヴォス・アークティックの売却ファイルへ戻る。
土地。
倉庫。
修理設備。
産業用電気設備。
そもそも、そのためにアラスカへ帰ってきたのだ。
正午までには、ASICの件はもう終わったのだと、ほとんど自分を納得させていた。
十二時七分。
アルデンはもう一度Excelを開いた。
売却ファイルではない。
ASIC テストケース――却下。
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本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。
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――東川鬼面斎




