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アラスカでビットコインを掘ることになった  作者: 東川鬼面斎 - Easton Ghostmask


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第十二章 どれほど安い?

価格表が間違っている。


アルデンはまずファイル名を確認し、次に通貨を確認し、最後に数量を確認した。


何度見ても数字は変わらなかった。


エヴェレットへ電話する。


「またおはよう」


「この値段、ロット全体だよな?」


「そう」


「一台あたりじゃない」


「違う」


「手付金でもない」


「違う」


「故障品だけの値段でも」


「ない」


アルデンはもう一度価格表を見た。


「安すぎる」


「だから普通は“清算”って言葉を使う」


「どれくらい安ければ安すぎる?」


「お前が電話してくるくらい」


アルデンはマニフェストを二枚目のモニターへ移した。


昨日の写真に写っていた八百台のうち、今回のロットはほんの一部にすぎない。それでも、気軽に扱える量ではなかった。


撤去時稼働。


未検査。


ファン不良。


PSU要確認。


部品取り。


状態欄は在庫表というより、金を失う方法の一覧に見えた。


「故障率の分からない機械を売ってるんだな」


「書類に書いてあるものを、そのまま売ってる」


「確率分布を売ってる」


「ようやく興味が出てきたみたいだな」


「文字が読めるだけだ」


エヴェレットが笑った。


アルデンは価格欄まで戻った。


「どうしてここまで安い?」


「売り手が持ってる機械の数に対して、忍耐が足りない。置いておけば保管料が出る。動かせば輸送費が出る。検査すれば検査費が出る」


アルデンは窓の向こう、古い電気設備のある一角を見た。


電力の問題は、何ひとつ消えていない。


視線をマニフェストへ戻す。


「分かった。一台で実際いくら稼ぐ?」


「場合による」


「それは数字じゃない」


「機種、ビットコイン価格、ネットワーク難易度、稼働率、プール手数料、電気代。前提を好きなだけ選んでいいなら、お前の欲しい数字をいくらでも作れる」


「自分に都合のいい数字はいらない」


「それはいい。そういう数字は高くつく」


アルデンはメモ帳を出した。


「裏を取れる数字だけくれ」


エヴェレットは、ロットに含まれる各機種の基本仕様を読み上げた。おおよそのハッシュレート、定格消費電力。それだけでも、見た目がほとんど同じ二台が、採算ではまるで別物になり得る理由は分かった。


アルデンは黙って書き留めた。


「輸送は?」


「ひどい」


「どれくらい?」


「ロットを決めろ。そこから痛みを数字にしてやる」


「ロット、経路、検査の深さ、それに海を渡ったあと何台死んでいても受け入れるか。そこまで決めて初めて数字になる、と」


「そういうこと」


「つまり、この取引で一番きれいな数字が購入価格か」


「だから魅力的に見えるんだよ」


アルデンは価格表を見つめた。


昨日まで彼は、古い修理設備を一つずつ売った方が得かどうかを考えていた。


今日は逆に、古い計算機を「ゼロが一つ抜けているのでは」と疑うほどの値段で差し出されている。


買う気はない。


ただ、なぜゼロが抜けているように見えるのか、その理由は知りたかった。


「このロットの状態メモ、持ってる分を全部送ってくれ」


「もう送った」


「一覧じゃなくて、現場の検査メモ」


一拍置いて、エヴェレットが言った。


「お前、本当に修理屋で育ったんだな」


「“正常稼働”って札を、火を噴いてる機械につける人間に囲まれて育った」


「役に立ちそうな教育だ」


「勉強にはなった」


エヴェレットは検査メモを送ると約束して電話を切った。


アルデンは価格表を閉じなかった。


一分近く、何もしなかった。


それからExcelを開いた。


真っ白なブックが現れる。


最上段に打ち込んだ。


ASIC テストケース


その下に六つの項目を並べる。


購入価格。


輸送。


修理。


電力。


稼働率。


収益。


手が止まった。


下のセルの半分は、まだ空欄のままだった。


それでいい。


事業計画を作っているわけではない。


この安さに、測れる理由があるかどうかを確認しているだけだ。


紙袋を持ったギャリックが、いつの間にか戸口に立っていた。


「今度は何を売るんだ?」


「何も」


ギャリックがモニターを見る。


「“購入価格”って書いてあるぞ」


アルデンは画面を少し向こうへ回した。


「覗き見だ」


「親父さんがカレンダーを置いてた場所に、三十二インチの画面を置いといて何を言う」


「今回はサイズが当たってる」


ギャリックはシナモンロールを一つ、机に置いた。


「カルがヒーター代を払っていった」


「食べ物まで?」


「昔はよくあった」


「会計処理として最悪だな」


「オルソンの頃は、それで回ってた」


立ち去りかけたギャリックが、もう一度画面を見た。


「ASICって何だ?」


「一つの仕事だけを、すごく効率よくやるためのコンピュータ」


「何をする?」


「ビットコインを掘る」


ギャリックは少し考えた。


「それ、うちで直せるのか?」


「買わないぞ」


「そんなこと聞いてない」


アルデンは、まだ空白の多い表を見た。


「いや。直せない」


ギャリックは頷き、修理区画へ戻っていった。


アルデンはシナモンロールを手に取った。


そして、また置いた。


「購入価格」の下にある最初の空白セルをクリックする。


そこへ初めて、エヴェレットの提示額を入力した。


お読みいただき、ありがとうございます。


本作は、作者本人が海外の小説投稿サイトで発表しているオリジナル作品の日本語版です。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


――東川鬼面斎

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