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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第5章 王都編

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第93話 雪女

 ゆらりと宙を滑るように動いているのに、信じられないほど速い。

 この感覚。

 まるで、レベックで戦ったスパルトイの時みたいだ。


〈ウォーター・バレット〉


 俺は走りながら、振り向きざまに杖を振るう。

 しかし、放たれた水弾はスノウファントムに着弾する手前で、弾けるように凍りつき、粉々に砕け散った。


(よりによって氷属性かよ!)


 水魔法じゃ、足止めにすらならない。


「アントン! 急げ!」

「ああ! わかってる!」


 大盾と重装備のせいか、アントンの足がどうしても遅れる。

 スノウファントムが、ふっと息を吸い込むような動作を見せる。

 次の瞬間。

 口から猛烈な吹雪を吐き出した。


(マズい!)


〈ウォーター・シェル〉


 俺は咄嗟にアントンを水の膜で包み込む。

 しかし、吹雪は竜巻のように荒れ狂い、通路の一面を真っ白に凍り付かせていく。


(ダメだ、簡単に貫通される!)


 パキィッ! と嫌な音が響いた。


「しまっ! あ、足が凍って……」


 アントンが顔を歪め、動きを止めてしまう。

 彼のブーツから膝にかけて、分厚い氷がこびりついていた。


(ここで火魔法を使えば、相反する二つの属性(デュアル)を持っていることがバレる……)


 バレたら魔法協会の追及を受けるかもしれない。

 そのリスクが頭をよぎる。


 しかし、敵はゆったりと、確実に迫ってくる。

 鈴を転がすような女の笑い声が、氷の通路に反響していた。


(そんなこと――)


「――考えてる場合か!」


〈インパクト・フレア〉


 俺が力強く杖を突き出すと、先端から火球が放たれた。

 火球はスノウファントムの胸元に直撃し、轟音と共に爆発が連鎖する。


 悲鳴のような、ガラスを引っ掻くような甲高い声が響いた。

 熱波が氷を溶かし、通路に大量の水蒸気が立ち込める。


(やっぱり火は通る!)

 

「なっ!」

「火!?」


 走っていたカーティスとイーライから、驚愕の声が上がった。


「あとで説明します! 今は逃げることに集中して下さい!」

「お、おう!」


 アントンは凍った足元を大盾の角で叩き割ると、再びドスドスと重い足音を立てて走り出した。


 ◇ ◇ ◇


「広場を抜ける! そこを右だ!」


 カーティスが先頭で指示を飛ばす。

 広場に飛び込んだ瞬間だった。


「誰か! 助けてくれ!」


 広場の奥から、悲痛な叫び声が聞こえた。

 別のパーティだ。

 俺たちが道中で情報交換したパーティとは違う。

 見たこともない装備の人達だった。


(1人がうずくまってる!)


「あれは!?」

「あっちにも湧いてやがるぞ」


 カーティスの視線の先。

 広場の奥で、2体目のスノウファントムが彼らを追い詰めていた。


(……マジかよ)


「聞け! カーティス、奴らを囮にすれば我々は逃げ切れるぞ」


 イーライが走りながら、酷薄なほど冷静な声で提案した。


「ダメだ! 全員無事に帰るんだ!」


 カーティスは血走った目で即座に却下する。


「知っているだろう。私の回復魔法には詠唱の時間がかかると」


(そうなのか?)


 イーライの回復は即効性がないらしい。


(なら!)


「俺が応急処置をしてきます。少しだけ注意を引いてください!」

「わかった。頼んだぞ、タケル! イーライ! 左に寄せる! 何でもいい、魔法をぶつけろ!」


 カーティスが大剣を構え、スノウファントムに向かって駆け出す。


「……危険な距離には近づかんぞ」


 イーライは忌々しげに舌打ちをしながらも、妖精を向かわせて光の粒を連射し始めた。


「それでいい、誰も死なせねえぞ!」


 カーティスの怒号を背に受けながら、俺は急いで負傷者の元へと駆け寄った。


「怪我人はこの人だけですか!?」

「あ、ああ。歩けないのはこいつだけだ!」


 仲間を庇うように立っていた剣士が、必死の形相で答える。


(頭から血が出ている……この人も負傷してるのか)


 倒れている男は、太ももに鋭い氷柱つららが深々と突き刺さっていた。


「先に出口の方向へ走って! 回復させたら俺が抱えて運びます!」

「すまない! 頼んだぞ!」


 剣士が足を引きずりながら走り出すのを確認し、俺は杖を傷口に向ける。


〈ヒール〉


 温かな緑色の光が傷口を包み込む。

 突き刺さっていた氷の欠片が、肉が再生する力に押し出されるようにポロリと抜け落ちた。


「ありが……とう」

「たぶん、まだ痛みが残ってます。運ぶのでしっかり掴まって下さい!」


 俺は彼の腕を首に回し、背中に背負い上げる。


(おっも! 大人の男のフル装備ってこんなに重いのか!)


〈フィジカル・ブースト〉


 身体強化のスキルを発動させ、強引に立ち上がる。

 広場の反対側では、カーティスとイーライが必死で囮になってくれていた。


「カーティスさん! 確保しました!」

「よくやった! 逃げるぞ!」


(ヤバい! スキルを使っても脚が重い。しんどい)


 なんとか広場を抜ける。

 通路に飛び込んだところで、アントンや別パーティの人たちと合流する。

 周囲を見渡すと、どこも同じような無機質なコンクリートの壁だ。

 それでも、俺には見覚えがあった。


(……ここは)


「タケル、よくやった。あとは俺が担ぐ」


 アントンが息を切らせながら、俺の背中から負傷者を下ろそうと手を伸ばす。


「出口まで、まだ距離がある。急ぐぞ」

「待って! アレに乗せましょう。仲間の人と同時に乗せれば、2人で逃げられますか?」


 俺は、床にチョークで丸く囲まれた印を指差した。


「テレポートのトラップか!」


 アントンが目を丸くする。


「2人は無理だ。この罠は1人しか飛ばさねえ仕様だ」

「すまん。俺が罠を踏んで先に行く」


 負傷した男が、痛みをこらえながら進み出た。


「ああ、そうしてくれ」

「あんた……本当に助かった。ありがとな」

「いえ、リーダーの指示ですから」


 俺が首を振ると、男はチョークの円を踏み抜いた。

 一瞬で空間が歪む。

 彼の姿が瞬時に消え去る。

 同時に、床の罠も魔法陣のような光を失って完全に消滅した。


「よし、俺たちも急いで逃げるぞ!」


 カーティスの合図で、残された俺たちは再び駆け出した。


 ◇ ◇ ◇


 ブーツが床を叩く音と、荒い呼吸音だけが通路に響く。


「くっそ。こっちは体力がヤバいのに、奴らのスピードは全然変わらねえ」


 最後尾を走るアントンが、恨めしそうに背後を振り返る。


「愚痴ってねえで、走るしかねえぞ! イーライ! 根性見せろ!」


 カーティスが檄を飛ばすが、イーライは無言のままだ。

 元々色白なエルフの顔が、さらに青ざめていた。


(次は、一本道の長い通路だ)


 俺も肺が焼けるように苦しい。

 出口までの距離、このまま走って体力が持つか微妙なところだ。


(賭けに出るなら、ここしかない!)


 俺は走りながら、杖を握る手に力を込めた。

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