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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第4章 ヘグム編

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第79話 陸を泳ぐ都市

 目の前に広がる光景に、俺たちは言葉を失っていた。


 地平線を埋め尽くすテントと家畜の群れ。

 そして、何より目を引くのは、ゆっくりと、しかし確実に大地を進む巨大な家々だ。


「帆が……風を受けてる」


 俺は思わず呟いた。

 家屋の屋根にはマストが立てられ、白い布がパンパンに膨らんでいる。

 風をはらんで進むその姿は、まるで草原という海を行く船団のようだった。


(風魔法か……)


 自然の風だけじゃない。

 ところどころで魔法使いと思わしき人物が杖を振っている。

 意図的に風を起こして推進力を生んでいるのが見える。


「すごい……。本当に、街が動いてる」


 ユラがぽかんと口を開けて見上げている。

 その足元で、ラクンが俺のマントをギュッと掴んだ。


「家が、歩いてる……。外の世界は、すごいな」


 洞窟で暮らしていた彼女にとって、家が移動するなど天地がひっくり返るような衝撃だろう。


(というか、誰でもビックリするよな。こんなの見たらさ)


 その時、巨大な影が俺たちの目の前を横切った。


「うおっ!  なんじゃこいつは?」


 家の土台を引っ張っていたのは、巨大な生き物だった。

 茶色い毛皮に覆われた丸い体。

 平たく大きな尻尾。

 前歯が突き出た愛嬌のある顔。


 ビーバーだ。

 ただし、サイズがおかしい。


「でっか!  モンスターか?」


 背の高さは前かがみの状態でも俺より大きい。

 横幅は俺たちが3人並んでもまだ余りそうだ。

 それが何十頭も連なり、太い綱で家を引いている。


 俺がたじろいでいると、横から黄色い声が上がった。


「すごい!  カワイイ~!」


 ユラだ。

 彼女は目を輝かせる。

 興奮した様子で巨大ビーバーに手を振っている。

 尻尾がこれでもかというほど左右に振られていた。


(ユラにはこういうのが可愛いのか?  俺はデカすぎてちょっと怖いぞ……)


「おや、旅人さんかい? ロコイビーバーは初めて?」


 声をかけられ振り向くと、作業着姿の獣人が荷台から顔を出していた。

 白と黒の縞模様の肌。

 シマウマの獣人だ。


「水に強いから川も渡れるし、走るのが大好きだし、カワイイだろ?」


 どうやら運搬屋のようだ。

 彼の顔には、自慢の相棒を見せびらかすような誇らしげな笑みが浮かんでいる。


 俺はそっと〈鑑定〉してみる。


〈ロコイビーバー/木属性/レベル5〉


「おっかない顔してるけど、草食でおとなしいよ。まあ、本気で怒らせたらその前歯で大木もへし折るけどな」

「へ、へえ……」


 ユラは「撫でてもいいですか?」とシマウマの獣人に聞き、許可をもらって鼻先を触っている。

 ロコイビーバーも満更でもなさそうに目を細めていた。


「うう……。噛まない、か?」


 ラクンがユラの後ろからおそるおそる顔を出す。


「大丈夫よラクン。とっても大人しいわ」

「……大きいのは、怖いぞ」


 そう言いながらも、ラクンも興味深そうにビーバーの平たい尻尾を見つめている。


(意外と人懐っこいのか?)


 ふと、ビーバーたちが引いている台座の車輪に目が留まった。

 ゴロゴロと重い音を立てて回っているけれど、その形状には違和感がある。


(なんだあれ?)


 木製の車輪の周りに、青白く光る何かが巻き付いている?

 いや、流動しているのか?


「この車輪が気になるのか?  これは水属性の魔法、〈ウォーター・シェル〉さ」


 俺の視線に気づいた獣人が教えてくれた。


「水の中級魔法の?」

「そうだよ。水流の膜を張って、凸凹道の衝撃を吸収してるんだ。これがないと、家の中の食器が全部割れちまうからな」


(こんなことができるのか!)


〈ウォーター・シェル〉

 効果:攻撃を軽減するシールドを生成。


 この魔法なら俺も使える。

 オークの集落で、シナジーボーナスを発生させるために取得した水魔法の一つだ。

 防御魔法をクッション代わりに使うなんて発想、俺にはなかった。


「戦い以外にも、魔法って使えるのね」


 ユラが感心したように車輪を見つめる。


「あなたが魔法を?」

「まさか! 俺にゃ魔法は使えんよ。そういう商売をしてる魔法使い(ソーサラー)がいるのさ。毎日決まった時間にかけ直しに来るんだ」


(魔法使いが、インフラ整備業をやってるのか)


 スキルの開花。

 戦闘だけじゃない、生活に根差した"開花"の形がここにはあった。


「さあ、あんたらも中に入んな! ヘグムは来るものを拒まないよ」


 シマウマの獣人はそう言うと、ビーバーたちに合図を送って去っていった。


 俺たちは言われるまま、移動都市の側面、入り口と思わしき場所へと近づく。

 そこには門などなく、ただ家々の隊列の間が開いているだけだった。


「……マナ認証、ないの?」


 ユラが拍子抜けしたように呟く。

 レベックの厳重なチェックや、オークの集落での警戒ぶりを知っているだけに、この開放感は異常にすら思える。


「我も、入って、いいのか?」

「いいみたいだぞ。誰でもウェルカムだってさ」


 俺たちは顔を見合わせ、一歩を踏み出した。

 移動都市ヘグム。

 そこは風と土と、獣の匂いが混じり合う、自由の都だった。

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